■Thomas Jaspar Ouintet / Rene Thomas & Bobby Jaspar (RCA Itliana)
最近のオリジナルアナログ盤の価格高騰は、もはや狂乱と思えるほどですが、似たような現象が我が国のバブル期にもありました。そして商うブツに窮したレコード店の陰謀か、どうかは知りませんが、同時期には欧州ジャズの様々なアルバムが市場に流れ込み、真っ当な評価と法外な値段がつけられたのです。
本日ご紹介のアルバムも、そうした中のひとつではありますが、主役のネル・トーマとポビー・ジャスパーは共にベルギー人ながら、本場アメリカでも活躍した名手ですから、それなりの値段があって当たり前の作品かもしれません。
ちなみに私はブームも一段落した頃に入手したのですが、直後に日本盤が出たのには愕然とさせられました……。
メンバーはネル・トーマ(g)、Amedeo Tommasi(p)、Maurizio Majorana(b)、Franco Mondini(ds)、そしてポビー・ジャスパー(ts,fl) となっていますが、リズム隊の3人はイタリアでの録音という事と名前の表記からして、おそらくイタリア人だと思われます。また録音は1962年頃とされています――
A-1 Oleo
ソニー・ロリンズが書いたモダンジャズの定番曲ですが、その紆余曲折的なテーマメロディを余裕のアップテンポで演じるネル・トーマ以下バンドの面々の実力は、その部分だけで充分に納得出来ます。
もちろんアドリブパートでのネル・トーマはジミー・レイニー直系ともいうべき流麗な単音弾きで、現代の聞き方では、ジョン・アバークロンビーやジョン・スコフィールドのようなツッコミ鋭いノリも披露! そういうルーツ的な楽しみも結果オーライです。
また Amedeo Tommasi のピアノが大ハッスルのハードスイング! その硬質のジャズ魂はイタリアのジャズ界が当時、如何にハイレベルであったかの証明だと思います。
A-2 Theme For Freddie
静かにハードボイルドなテーマを吹奏するポビー・ジャスパーのフルート、アルペジオで上手い伴奏をつけるネル・トーマ♪ もう、このテーマ部分は日活か東宝のアクション映画サントラの世界ですよっ♪ 美女と2人っきりの無言のシーンというか♪
そして途中から入ってくるリズム隊では、Amedeo Tommasi がビル・エバンスを演じてくれるんですから、侮れません。
う~ん、まさに澄む秋を彩るような素敵な演奏です。ちなみに作曲はルネ・トーマでした。
A-3 Half Nelson
一転して、これは典型的なハードバップのグルーヴが横溢した快演ですが、ポビー・ジャスパーはズート・シムズがジョン・コルトレーンしたようなミョウチキリンなスタイルで??? しかし Maurizio Majorana のペースを要としたリズム隊のノリがヘヴィなので結果オーライでしょうか。
続くネル・トーマのギターも流麗でクールなスタイルの中に黒っぽさが滲み出ていますし、思えばこのセッションより以前、1960年にアメリカで J.R.Monterose のテナーサックスを相手役に吹き込んだ超幻の名盤「Guitar Groove (Jazzland)」を彷彿とさせてくれます。
個人的には自然体でアドリブを演じる Amedeo Tommasi が印象的♪ 分かり易いアレンジを用いたバンドアンサンブルもジャズの王道を行くものだと思います。
A-4 But Not For Me
数多の名演が残されている有名スタンダード曲とあって、バンドの面々も腕試しという趣でしょうが、これがなかなかのリラックスした好演です。特にネル・トーマは、おそらくはコピーしまくったと思われるジミー・レイニーのスタイルを見事に再現していて、思わずニンマリ♪
またポビー・ジャスパーもハードバップな姿勢を貫きつつ、新しい感覚も聞かせる熱演で、個人的には1950年代のモダンスイングのようなスタイルを望みたいところですが、これはこれで熱くさせられます。
しかしピアノの Amedeo Tommasi はビル・エバンスがハードバップしたような大変に好ましいプレイで、短いながらもカッコ良いアドリブを聞かせてくれるのでした。
B-1 Hannie's Dream
その Amedeo Tommasi が書いたビル・エバンス調のオリジナル曲で、スローで美しいテーマメロディを独り舞台で演じるイントロ部分が印象深く、続いてギターとフルートが入って奏でられるパートも、これまた素敵♪ アンサンブルも実に上手くアレンジしてあると思います。
まさに欧州人プレイヤーの面目躍如というか、ビートが強くなったアドリブパートでは Amedeo Tommasi のピアノが、こちらの望むフレーズ展開を先回りして演じてくれるような物分かりの良さで、最高♪ この人は全くの隠れ名手じゃないでしょうか。
B-2 Bernie's Taste
これまた非常に熱いハードバップのグルーヴが満喫出来る快演で、ビシッとキマったバンドアンサンブルとガサツなビート、如何にもというテーマメロディがたまりません。
ポビー・ジャスパーのフルートも本領発揮ですし、ルネ・トーマの伴奏もエグイ部分と上手さのバランスが秀逸! もちろんアドリブソロも流麗にしてジャズのビート感を大切した素晴らしさです。
B-3 Smoke Gets In Your Eyes / 煙が目にしみる
これは良く知られた素敵なメロディのスタンダード曲ということで、最初っからルネ・トーマがギターの独り舞台を演じても安心感があります。というか、逆にその人の個性や技量があからさまになるわけですから、勇気のいることでしょう。ここでは完全なソロギターで演じられています。
B-4 I Remember Sonny
オーラスはルネ・トーマが書いたグルーヴィなハードバップ! まずはポビー・ジャスパーがハードな音色でモードも使った熱いアドリブを聞かせてくれます。リズム隊の雰囲気が、なんとなく同時期のマイルス・デイビスのバンドのように聞こえるのも意味深ですねぇ♪
もちろんネル・トーマは意外に粘っこいノリを披露して素晴らしく、ブロックコードを駆使した Amedeo Tommasi のクールで熱いピアノにもグッと惹き込まれます。
ということで、なかなかに中身の充実した好盤です。
主役の2人はもちろんのこと、個人的には Amedeo Tommasi のピアノがとても好きになりましたし、ケニー・クラーク系のドラミングを聞かせる Franco Mondini、基本に忠実ながら図太いペースワークを響かせる Maurizio Majorana で構成されたリズム隊は、既に述べたように当時のマイルス・デイビスのリズム隊、つまりケリー、チェンバース&コブのようなクールなグルーヴを追求しているようで、彼等の演奏が残されているのならば、もっと聴きたい気分です。
ところがポビー・ジャスパーは翌年に心臓病で他界……。ルネ・トーマも1970年代中頃に亡くなっていますから、これは何時までも大切に聴きたい1枚です。
ちなみに私有盤は当然ながら傷みもあり、それゆえに音の歪みの顕著な部分があったりしますが、驚いたことに近年、このアルバムが紙ジャケット仕様でCD化され、友人が入手した際に聞かせていただいたところ、これがリマスターも秀逸なモノラルミックス! あわてて店頭に走りましたが、既にソールドアウトでした。
う~ん、ヤフオクでも漁ってみようかなぁ。
気になる皆様は、ぜひとも聴いてみてくださいませ。今時分の秋にはジャストミートのモダンジャズだと思います。