新しい靴を買ったら、ちょっと足に合わないのか、珍しくも靴擦れが出来てしまったです。でも今は、それ専用のバンドエイドみたいなものがあるんですねぇ。世の中、日々、進歩しています。
ということで、本日は――
■A.T.'s Delight / Art Taylor (Blue Note)
モダンジャズ全盛期に夥しいセッションで敲きまくったドラマーのアート・テイラーは、しかし反面、自己のリーダー盤が極めて少ないのが不思議なほどです。
他人の縁の下の力持ちを演じているうちに、自己主張する暇が無かったと言えばそれまでですが、現実には Taylor's Wailers と名乗った自身のバンドを率いていたようです。
さて、このアルバムはその数少ないリーダー盤の1枚で、録音は1960年8月6日、メンバーはデイヴ・バーンズ(tp)、スタンリー・タレンタイン(ts)、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) というお馴染みの面々ですが、実はこの組み合わせは非常に珍しいというセッションです。そして曲によってはパタート・ヴァルデス(per) も加わった華やかさ――
A-1 Syeeda's Song Flute
な、な、な、なんと、いきなりジョン・コルトレーンが歴史的名盤「ジャイアント・ステップ(Atlantic)」で演じていたモード曲を取上げていますが、ご存知のように、そのセッションでもドラマーを務めていたのがアート・テイラーでしたから、必然が当然という感じでしょうか。
実際、ジョン・コルトレーンのオリジナル演奏と同じ雰囲気のイントロは、これも同じくセッションに参加していたポール・チェンバースの存在感が欠かせません。
シャープなハイハットに煽られてテーマをリードするスタンリー・タレンタインの野太いテナーサックスも魅力的ですが、アドリブ先発のデイヴ・バーンズがなかなか雰囲気を掴んだクール節を聞かせてくれます。
もちろんスタンリー・タレンタインはハート&ソウルな黒いアドリブでハード・バップの王道を崩していませんし、リズム隊のタイトなグルーヴは最高級品でしょうね♪ トランペットとテナーサックスが交互にアドリブコーラスを埋めていく仕掛けもニクイところですし、ウィントン・ケリーの弾みまくったピアノは、何時聴いてもジャズの楽しさがいっぱいだと思います。
A-2 Epistrophy
セロニアス・モンクが書いた抽象的なビバップ曲ですが、ここではパタート・バルデスの快楽ビート系のコンガが入っていますから、必要以上にエキセントリックになっていません。
というよりも、ちょっと変態っぽい4ビートになっているところに、ドラマーのリーダー盤という趣が感じられます。もちろんグイノリのグルーヴが醸成され、各人のアドリブが、いっそう味わい深い感じです。
終盤はポール・チェンバースのベースソロ、そしてアート・テイラーとパタート・ヴァルデスの打楽器合戦がハイライト! 調子が良くてリズム的な興奮度も高まった瞬間、テンションの高いラストテーマが出てくるという演出に、グッとシビレます♪
A-3 Move
これまたコンガとドラムスが軸となった超アップテンポの演奏ながら、けっしてリズムが流れませんから、まずはデイヴ・バーンズがミュートで熱演! さらにスタンリー・タレンタインが豪快なブローで突進します。
ちなみにデイヴ・バーンズは中間派~ビバップ系のトランペッターかもしれませんが、このセッションではかなりモダンなノリを聞かせてくれますし、ハードバップ丸出しのリズム隊との協調関係も良好だと思います。
そして後半は、またまたドラムス対コンガの白熱の一騎打ち! アート・テイラーもパワー派の面目躍如という爆裂ドラムソロを聞かせてくれますよ♪
B-1 High Seas
B面はケニー・ドーハムが書いた雰囲気満点のファンキー曲でスタート♪ こういう曲調は十八番というリズム隊が躍動的な名演を繰り広げるのは、お約束でしょうねぇ~♪
しかしホーン陣が何故か意図的にファンキーを避けているようなアドリブソロは??? なんかセロニアス・モンクのバンドみたいです……。それがウィントン・ケリーにも伝染している感じで……。
演奏全体は快適にスイングしまくっているのですが、ちょっと煮え切らないと……。
B-2 Cookoo And Fungi
しかしこの演奏はパタート・ヴァルデスのコンガが冴えた楽しい仕上がり♪ スタンリー・タレンタインはソニー・ロリンズっぽい強烈なウネリの快演ですし、アート・テイラーの持続するラテンビートの恐ろしさ!
かなり部分がドラムソロとコンガの絡みなんですが、ちっとも飽きない素晴らしさです。
B-3 Blue Interlude
これもケニー・ドーハムが書いたファンキー丸出しの名曲で、グルーヴィなリズム隊が当たり前に凄く、スタンリー・タレンタインも気持ち良さそうにアドリブを吹いています。
またデイヴ・バーンズが哀愁を滲ませた名演で、全てが歌になっているアドリブは出来すぎ疑惑♪ 続くウィントン・ケリーも粘っこいスイング感が満点です。
ということで、ドラマーのリーダー作は参加メンバーの魅力で評価が決まってしまうという現実もあるのですが、これはメンツの面白さに加えて、演目の妙が素敵です。
またアート・テイラーは、ドラマーとしてはマックス・ローチの攻撃性、アート・ブレイキーの爆発力、あるいはフィリー・ジョー・ジョーンズのようなエモーションという飛びぬけた個性が無いのは事実としても、シャープなシンバルと力感溢れる安定したドラミングは、もっと評価されて良いはずです。
実際、1976年にジョニー・グリフィンと来日したステージを私は体験していますが、そのパワフルなドラミング、シャープなシンバルの響きには圧倒された記憶が今も鮮烈です。
そういう魅力が、実はリアルタイムの全盛期にはレコーディングで録音しきれなかったところなんでしょう。今日の過小評価は、そういう部分も原因していると思います。
ジャズメンとしての実力は最高レベルですし、それは単にリズムキーパーとしてだけではなく、このアルバムに聴かれるような飽きさせないリズム的面白さとか、厭味なく凝った演奏は如何にもモダンジャズとしての魅力に溢れているのでした。