今週は、やっぱり仕事地獄です。明日は日帰り出張、週末にもありそうです……。
正直、やってらんないねぇ、ですよ。
ということで、本日は――
■Miles Davis In Person At The Blackhawk Vol.1 (Columbia)
マイルス・デイビスの公式ライブ盤第1号となったアルバムで、「Friday Night」と副題がついています。
内容はもちろんヒットパレードですから、楽しさは保証付き! しかし決して馴れ合いをやっていない演奏は流石の緊張感に満ちています。
録音は1961年4月21日、メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、ハンク・モブレー(ts)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、ハードバップとモードのゴッタ煮演奏は十八番の面々です。
ただし結論から言うと、マイルス・デイビスがハンク・モブレーの演奏を気に入らず、それゆえにアルバム収録にあたっては幾つかのトラックで編集により、アドリブがカットされたという裏話があります。
そして、それによってハンク・モブレーが時代に乗り遅れた存在として逆にクローズアップされるという因縁が出来たのです。
しかし近年発売されたコンプリートボックスを聴けば、ハンク・モブレーの演奏は決してイモではありません。曲によってはマイルス・デイビス以上にグルーヴィなハードバップを聞かせているトラックもあるほどです。
おそらく最初に出たアナログ盤は、もう1枚、翌日の演奏を纏めた「Vol.2 Saturday Night」もあるのですが、収録時間の関係で編集したと理解するのが素直かと思います。
確かにハンク・モブレーがバンド全体のノリに合っていない演奏もあるのですが、それはジミー・コブのクールなドラミングと相性が悪かった所為だと、私は思います。
また編集云々については、マイルス・デイビスさえたっぷり聞かせれば、リスナーは満足という、レコード会社の方針があったのでは? 大手のコロムビアでは、さもありなんと思うのですが……。
A-1 Walkin'
マイルス・デイビスがハードバップ宣言をした1954年のブレスティッジセッションから、常にステージでは定番となっていた熱いブルースです。
もちろんここではオリジナルバージョンよりもテンポアップした演奏になっており、クールで熱いジミー・コブのドラムスに煽られたマイルス・デイビスが吹きまくり! 十八番のフレーズばっかりというか、これしか出来ない開き直りが最高です!
リズム隊では安定感のあるポール・チェンバースと粘っこく絡んでくるウイントン・ケリーも素晴らしく、ついつい音量を上げてしまうほどです。
そしてハンク・モブレーはグルーヴィに迫ってきますが、徐々に自己のペースを乱していくあたりが、モブレーマニアとしてはヤキモキするところ……。なんとか過激なフレーズを吹こうとしてドツボに落ちていくあたりに、ハンク・モブレーの不幸があると感じます。だいたい6分目あたりを境にして、苦しくなるんですねぇ。
このあたりはコンプリートボックスに収録された別の日の演奏を聴くと、さらに明らかになるところで、ハンク・モブレー的には、もっと凄いアドリブがちゃんと残されているのです。しかもそこではジミー・コブが熱血主体のドラミングに変えた敲き方をしているのですから……。
まあ、それはそれとして、ここでの楽しみはウイントン・ケリーの強烈なスイング感に満ちたハードバップピアノでしょう。時として沈黙し、突然に絡んでくる伴奏から、粘りとグイノリのアドリブは凄いの一言! 全く痛快です。
A-2 Bye, Bye Blackbird
これまたマイルス・デイビスのヒットパレードに欠かせない演目です。愛らしく楽しいテーマメロディを一抹のユーモアに哀愁を混ぜ込んで変奏していくマイルス・デイビスは、もう最高です。
また抜群のイントロを作ってしまうリズム隊も流石で、ブラシとステックで抜群のアクセントをつけるジミー・コブが本領発揮! ウイントン・ケリーの強烈なスイング感と歌心の両立も素晴らしく、ポール・チェンバースのブンブンブンも、本当に気持ち良いです。
演奏全体は徐々にテンポが上がっていく雰囲気なんですが、ハンク・モブレーが和み中心のノリを追求していきますから、このグルーヴィな感覚こそ、素晴らしい宝物だと思います。
もちろんマイルス・デイビスはミュートで勝負しているのでした。
B-1 All Of You
これもマイルス・デイビスのミュートの妙技が冴える歌物スタンダード♪
リズム隊が秀逸なのは言わずもがな、些か抽象的な表現に入り込んでいくマイルス・デイビスを現実世界に?ぎ止める役割も果しています。ウイントン・ケリーが時折入れるファンキーなタッチが、実に良いですねぇ~♪
またハンク・モブレーのアドリブパートが、オリジナル盤ではカットされています。しかし前述のコンプリート盤で聴いてみると、これが素晴らしすぎる快演でした。これぞ、ハンク・モブレー♪ という温か味が存分に楽しめるんですから、罪深い話です。スバリ、ここはマイルス・デイビスよりも、良いです。
B-2 No Blues
如何にもマイルス・デイビス的なクールなハードバップですが、ハンク・モブレーのアドリブが、ここでもカットされています。
そしてマイルス・デイビスが唯我独尊のブルースを存分に聞かせてくれるんですねぇ~♪ ジミー・コブの淡々としたシンバルにズバリと切り込むタムとバスドラのコンビネーションも最高です。
またウイントン・ケリーが、言う事なしの快演! 粘っこいファンキーさと明快なビアノタッチが完全融合し、う~ん、最高! という瞬間が何度も楽しめるのです。寄り添うポール・チェンバースのベースも、ジャズの楽しさを体現していると思います。
さらに終盤は、グルーヴィな雰囲気はそのままに、マイルス・デイビスとジミー・コブの遣り取りがあって、これもまた、たまらない瞬間がっ♪
で、気になるハンク・モブレーのカットされたアドリブパートは、極めてハードバップな楽しさに満ちています。ただしそれゆえに演奏全体が、些か古いフィーリングに逆戻りしているような……。そこではジミー・コブのドラムスが浮いている感じもありますから、これはカットで正解だったのでしょうか……。もしもドラマーがフィリー・ジョーだったら、ここはブルーノート系のノリになっていたんでしょうねぇ。
B-3 Bye, Bye
所謂バンドテーマの短い演奏で、ポール・チェンバースとウイントン・ケリーがアドリブをやっているうちにお終いというのが、勿体無い! ジミー・コブの合の手ドラミングも楽しいかぎりです。
B-4 Love, I've Found You
さて、これは完全にオマケというか、ウイントン・ケリーがソロピアノでスタンダード曲を短く弾いてくれます。まあバンドチェンジの雰囲気をライブ盤特有の編集方針で入れたのでしょうが、ニクイです♪
ということで、観客の拍手や掛声もリアルなライブ盤の傑作です。収録されたのはサンフランシスコの「ブラックホーク」というクラブで、芸能人や芸術家も出入りしていた有名店ですから、レコーディング当夜の雰囲気も良かったのでしょう。
主役のマイルス・デイビスは、これまでも指摘されているように、スタジオレコーディングされた演奏よりも、かなり奔放な雰囲気で自由に吹いている感じです。まあ、アドリブ自体にそれほどバリエーションのある人ではないので、安心感もあるのですが、素晴らしいリズム隊の存在ゆえに輝きが違います。
そのあたりは前述したように、今ではコンプリート盤も出ていますから、そちらでも真相を楽しめますが、巧みに編集されたオリジナルアナログ盤の良さも、捨てがたいと思います。