う~ん、いきなり朝から、仕事でバタバタしています。
自分のテンションの高さが恐くなるほどですから、聴くのも、こんなブツを出してしまいました――
■Preach Brother ! / Don Wilkerson (Blue Note)
世の中には、ある日突然、とんでもない事が起こりますが、それまで局地的に偏愛されていたこのアルパムの廃盤価格が、突如として青天井になった事件も、そのひとつでしょう。
その原因は1980年代、ロンドンを中心にジャズで踊るというブームが、きっかけでした。そしてクラブのDJ達にヘヴィユースされたのが、このアルバムだと伝えられたのですから、たまりません。
アッという間に、廃盤価格が五倍ほどになったと言われています。
録音は1962年6月18日、メンバーはドン・ウィルカーソン(ts) 以下、ソニー・クラーク(p)、グラント・グリーン(g)、ブッチ・ウォーレン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という、当時のブルーノートでは常連の面々がパックアップしています。
ちなみにリーダーのドン・ウィルソンという人はR&Bの専門職として、モダンジャズ畑ではイマイチ評価されておらず、しかしソニー・クラークとグラント・グリーンという人気者が参加しているので、2人のファンからは大切にされてきた作品でした。
そういうわけですから、我国のジャズ喫茶で置いている店も、それほど多くなかったと思われますし、ジャズマスコミは長らく無視していた1枚です――
A-1 Jeanie Weenie
いきなり景気の良いバンドアンサンブルのイントロから、強烈なブギウギ調の演奏が始ります。とにかくビリー・ヒギンズのバカノリがたまりませんねぇ♪
ドン・ウィルカーソンのテナーサックスは黒っぽさ満点のR&Bスタイルで、所謂テキサステナーの醍醐味に溢れていますが、この人は1960年頃まではレイ・チャールズのバンドで看板スタアだったのですから、さもありなんです。当時のヒット曲「I Got A Woman」でのテナーサックスソロは、ドン・ウィルカーソンの代表的なプレイでした。
その最高のフィーリングを見事に活かしきった熱血のブローには、心底、心シビレます。
ブギウギピアノのソニー・クラークも珍しいところですが、グラント・グリーンの火傷しそうなギターも凄いです。
A-2 Homesick Blues
レイジーでR&B感覚に満ち溢れたブルースで、ソニー・クラークが粘っこい絡みで、良い味出しまくりです。リズム隊の3連ノリも、本当にたまりません♪
しかしドン・ウィルカーソンが必要以上に下品になっていないのは、名門「ブルーノート」の品格ゆえでしょうか。そのあたりが物足りなくもありますが、これが本来のドン・ウィルカーソンなのかもしれません。
A-3 Dem Tambourines
これこそがロンドンのDJ達を目覚めさせた畢生の名演だと言われています。手拍子とビリー・ヒギンズのズンドコドラミング、さらに誰が叩いたのかビートの効いたリードタンバリン! 摩訶不思議な掛声も良い感じです。
そしてグラント・グリーンがリードするテーマのディープな味わい♪ ドン・ウィルカーソンの黒いテナーサックスが唸ってから後は、もうコアなファンク地獄です!
あぁ、こんなにシンプルで執拗なソウルの呻きがあるのでは、暗くて深刻なジャズ喫茶は、およびじゃない! 本当に踊ってみたくなりますねぇ~。
B-1 Camp Meetin'
おぉ、これまたリードタンバリンが炸裂する烈しいR&B! まるっきりレイ・チャールズのバンドみたいです。叫ぶボーカルと掛声は、誰でせう!
ドン・ウィルカーソンは強烈なリズム隊に煽られながらも、分かり易いブロースタイルに撤していて、実に爽快です。
そしてグラント・グリーンの歪んだギターの響きも素敵です。簡単なフレーズしか弾いていないんですが、グッと惹きつけられるんですねぇ~♪
B-2 The Eldorado Shuffle
これまた正統派R&Bのシャッフルが楽しめる快演です。
もちろんグラント・グリーンの大活躍はお約束ですが、ドン・ウィルカーソンとの相性の良さも聞き逃せないところでしょう。
B-3 Pigeon Peas
ようやくここに来て正調ハードバップという雰囲気になっていますが、やはりR&B感覚が濃厚です。しかし4ビートでの真っ当なノリを聴かされると、やはりドン・ウィルカーソンのジャズ的な実力は流石だと痛感させれます。
またグラント・グリーンが、ちょっと珍しいほど軽妙な味わいのアドリブを披露すれば、ソニー・クラークは本領発揮の粘っこいファンキー節を聞かせてくれるのでした。
ということで、決して正統派のハードバップ作品ではありませんが、こういうジャズもあり! それが当時の黒人音楽界だったと思います。
そのへんをあえてブルーノートが記録したのは、ライバル会社のリバーサイドが、既にドン・ウィルカーソンのリーダー盤を作っていた事と関係あるんでしょうか? そちらはキャノンボール・アダレイがプロデュースしていたはずですが……。
まあ、それはそれとして、ガチガチのモダンジャズに拘らなければ、非常に楽しい作品だと思います。
告白すると私はソニー・クラーク目当てで、1977年頃に入手しましたが、当時でも珍しいとは言われながらも、それほど高値ではありませんでした。それが……。
しかし何であろうとも、人気盤になったことは喜ばしいのです。
ドン・ウィルカーソンは、1960年代中頃から悪いクスリの所為でムショ暮らしとなってリタイアしていますが、残された録音は立派に楽しめるものばかり! このアルバムあたりから、その魅力に触れるのも良いのではないでしょうか。