■Larry Young's Fuel (Arista)
ラリー・ヤングという名前に対し、妙に胸騒ぎを覚えるのは私だけでしょうか。
なにしろこの人は黒人ジャズオルガンの正統を継ぐと思いきや、実は1960年代には「オルガンのコルトレーン」と称される過激盤を作り、マイルス・デイビスに呼ばれて「Bitches Brew (Columbia)」のセッションに参加! さらにはトニー・ウィリアムス&ジョン・マクラフリンと結託してライフタイムというバンドを作り、ロックジャズをやらかした揚句にジミ・ヘンドリックスと伝説のレコーディングまでも残しているのですからっ!
つまり優れたジャズの素養がありながら、決して一筋縄ではいかないというか、普通(?)のジャズプレイヤーとは一味違った演奏に徹していた感じです。ある意味では頑固、それゆえに世渡りもイマイチ、上手くなかった雰囲気も濃厚で、私はそのあたりにも惹かれるのですが……。
さて、このアルバムは、そんなラリー・ヤングが1975年頃に発表した久々のリーダー盤♪ 折からのクロスオーバー&フュージョンブームの中で、全くそのとおりの受け取られ方をした1枚ですが、それまでの活動歴からして、決して流行に便乗したと、私は思っていません。
メンバーはラリー・ヤング(el-p,org,ke,vo) 以下、サンチャゴ・ソラーノ(g)、フェルナンド・ソーンダース(el-b,b)、ロヴ・ゴットフリード(ds,per)、ローラ・ローガン(vo) という布陣です――
A-1 Fuel For The Fire
緩いテンポでビシバシのドラムス、浮遊するエレピ、そして牝猫の鳴き声のようなボーカルスキャットから一転して突進するジャズファンクの世界が始まります。
ラリー・ヤングはグチャグチャのシンセと感覚的なエレピを主体にアドリブを弾きまくり、ブリブリに蠢くエレキベースとタイトな16ビートのドラムス、また宇宙遊泳したようなコーラスとボーカルスキャットが快感を増幅させていきますから、サイケおやじには本当にたまらん世界です。
つまり決してジャズファン万人には許されざる演奏でしょう。それゆえにリアルタイムの我が国では、それほどウケたという話は聞きませんでしたが、ここ最近のクラブDJ達からは必需品とされているのは、さもありなんです。
A-2 I Ching
これまた弾みまくったグルーヴが痛快な演奏で、エレキベースとドラムスのコンビネーションが最高! ラリー・ヤングも各種キーボードでブッ飛びの音を作り出し、ギターも過激な隠し味を聞かせてくれます。
全くこのあたりは、ハービー・ハンコックも顔色無しだと思うのですが、そんな比較をされること自体が、ラリー・ヤングのポジションを象徴している感じです……。
A-3 Turn Off The Light
今や蠢きファンクの聖典となった名演でしょう。すてばちな歌い方が素敵なローラ・ローガンにテンションの高いツッコミを入れるラリー・ヤング♪ ジョー・ザビヌルはこれを聴いていたのでしょうか? ベースやドラムスの雰囲気も含めて、天気予報が聞きたくなります。
まあ、それはそれとして、だんだんとセクシー度を強めていく歌と演奏の一体感は素晴らしく、自然に体が揺れてしまうのでした。
灯りを消して、私に愛を♪♪~♪
B-1 Folating
カントリーロックがファンクしたような、ちょっと妙な心持ちになれる演奏です。もちろんラリー・ヤングは各種キーボードをダビングした音作りをやっていますが、ドラムスとベースのグルーヴは、あくまでも自然体ですから、それほどイヤミではないでしょう。
ただしこういうシンプルなノリはイノセントなジャズファンには我慢ならないでしょうね。フュージョンが忌嫌われる要素がいっぱいです。しかしそれにしてもこれも天気予報の世界で、ついついウェイン・ショーターが出てきそうな錯覚に……。
B-2 H + J = B (Hustle + Jam = Bread)
なかなかにジャズっぽい演奏で、往年のラリー・ヤングに一番近い感じですが、ビシバシの16ビートが強烈ですし、こちらが喜ぶようなフレーズをなかなか弾いてくれないエレピのアドリブにはヤキモキさせられます。
このあたりは意図的なんでしょうね、その分だけリズムとビートを楽しんで欲しいというか……。そしてキメはここでも天気予報になっています。
B-3 People Do Be Funny
前曲に続いてタイトにスタートするのが、この楽しくてユルユルなファンク♪ どこかしらネジがゆるんだような演奏は、曲タイトルどおりに「おかしくなってしまえばE~」という雰囲気がいっぱいなんですぇ~。
これでいいのか? いや、これでいいんです♪
という感じに揺れてしまうのでした。
B-4 New York Electric Street Music
ラリー・ヤング自らが歌いまくるニューヨーク賛歌で、タイトルどおりに元祖ストリートファンクかもしれません。熱いリズムギターとテンションの高いキーボード、手加減しないベースとドラムス!
ラリー・ヤングの歌は決して上手くありませんし、メロディだって面白くないでしょうが、このビートの嵐の中では正解という感じで、サイケおやじにも許容範囲です。ある時期の吉田美奈子とか、こういうスタイルは好きなんですよ、私は♪
ただし普通のクロスオーバー、例えばテーマがあってアドリブがあって、またテーマに戻るとかのジャズ色を求めるとハズレるでしょう……。このあたりがウケ無い理由だと思われます。
ということで、ラリー・ヤングだから許してしまったアルバムかもしれません。他のキーボード奏者がこんなんやったら、雑食性の私にしてもスルーしたのは確実です。
その意味で、この作品中に頻出するキーボードのキメがジョー・ザビヌルと一脈通じた感じなのは要注意かもしれません。
ちなみにアリスタでは次に「Spaceball」というアルバムも残していますが、そちらはラリー・コリエルとかレイ・ゴメスという人気ギタリストもゲスト参加していますから、より正統派フュージョンっぽい仕上がりなのが、個人的に面白くありません。
つまり、あまりにも真っ当に近くなったわけですから、このアルバムの孤立した状況が、なおさらに愛おしいのでした。
“See The Light/Take A Look At Yourself”Eddie Russ
“トゥゲザー・アゲイン”Uncle Funkenstein
……どうも私はソウルとかファンクとかレアグルーブとかいう宣伝文句に弱いらしいです。でも,それがどういう音楽のことなのかはさっぱり分かってません。ダメだなぁ。
全くの同感です。
最初、レアグルーヴって何のことかわからなかったんですよ。ソウルジャズとか言えばいいのにねぇ。
一応、我が国では当時、見向きもされなかったから「レア」なのか?
それと分からないのがフリーソウル、ですよねっ(苦笑)。