OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ちょっと蒸し暑いビーチボーイズ

2010-06-27 16:43:02 | Beach Boys

Summer Days / The Beach Boys (Capitol)

グループのイメージとしても、またアルバムタイトルやジャケ写からしても、全くの夏向きと思われがちな本日の1枚ですが、天の邪鬼なサイケおやじとしては、ちょうど今の時期、梅雨時から夏直前になると聴きたくなる偏愛盤です。

 A-1 The Girl From New York City
 A-2 Amusment Park U.S.A
 A-3 Then I Kissed Her
 A-4 Salt Lake City
 A-5 Girl Don't Tell Me
 A-6 Help Me, Rhonda
(single version)
 B-1 California Girl
 B-2 Let Him Run Wild
 B-3 You're So Good To Me
 B-4 Summer Means New Love
 B-5 I'm Bugged At My Ol' Man
 B-6 And Your Dreams Come True

ご存じのように1965年7月に発売されたこのアルバムは、「トゥデイ!」と「ペットサウンズ」というビーチボーイズ畢生の名盤に挟まれた、些か纏まりのない作品集というのがマニアや評論家の先生方から押された烙印なんですが、同時に様々な思惑や軋轢の中で奮闘していたブライアン・ウィルソンの天才性とビーチボーイズそのものの存在感が多角的に浮き彫りになった問題作かもしれません。

もちろんサイケおやじが初めて聴いたのは以前にも書きましたが、「カール&パッションズ」という徳用2枚組アルバムで、そのオマケ扱いだった「ペットサウンズ」に邂逅した昭和47(1972)年以降、つまり1970年代に入ってのことですから、既にロックの歴史をある程度は知っていた客観的なリスナーとしての感想や考察なわけですが……。

さて、その中で一番に言われているのは、当時のブライアン・ウィルソンが意識しないではいられなかったフィル・スペクターとビートルズに対する複雑な思いが、このアルバムの大きな「柱」でしょう。

まずフィル・スペクターに対しては尊敬の念から、何んとか追いつき追い越せというブライアン・ウィルソンにとっての大きな目標であり、書きあげた楽曲を送ったり、懇意になろうと必死だった現実があったわけですが、フィル・スペクターからは冷たい反応が多かったとか……。

それでも前作アルバム「トゥデイ!」は、演奏パートにハリウッドの超一流スタジオミュージシャンを総動員し、全篇をフィル・スペクター流儀の所謂「音の壁」サウンドで仕上げ、尚且つビーチボーイズならではのコーラスワークとブライアン・ウィルソンが絶頂期の名曲揃いという充実作でしたから、ある部分までの達成感があったのかもしれません。

そして後は、それをビーチボーイズの個性に変換せさることを課題とするるわけですが、ここではなんとフィル・スペクターが自らの最高作のひとつと公言して憚らないクリスタルズの大ヒット「Then He Kissed Me」を翻案し、全くビーチボーイズ風味を強く打ち出した「Then I Kissed Her」としてリメイクするという禁じ的を使っています。

しかしこれが実に素晴らしいんですよねぇ~♪

なによりも基本が当時流行のビートグループ的なバンドサウンドでありながら、ビーチボーイズが十八番のコーラスワークをストリングの代わりに使ったようなサウンドプロダクトの厚み、さらにカスタネットを意図的に使うことでフィル・スペクターやモータウンサウンドの魅力の秘訣をがっちり継承し、さらにリードを歌うアル・ジャーディンの力強いスタイルが、なかなかジャストミートの快感です。

う~ん、こういう可愛くないことをするから、フィル・スペクターにしてもブライアン・ウィルソンの才能は分かっていたはずなのに、生意気な奴と思ったりしたんでしょうねぇ……。

あと、サビのメロディ展開は大滝詠一が常日頃からパクッてしまう極みつき!?

まあ、それはそれとして、フィル・スペクターを特徴づけるもうひとつの得意技が、曲メロに付随する覚えやすいキメのリフを演奏パートで終始用いるという部分が、この「Then I Kissed Her」でも、また前作アルバムに収録しながら、わざわざシングル用にバンドサウンドでリメイクした「Help Me, Rhonda」において、実に的確に楽しめます。

そして気になるビートルズへの対抗意識は、特にリアルタイムで流行っていた「涙の乗車券」を意図的にパクッたとされる「Girl Don't Tell Me」が有名でしょう。しかもあえてスタジオミュージシャンを起用せず、ビーチボーイズだけの歌と演奏でバンドサウンドを狙っているんですねぇ。しかし結果はカール・ウィルソンのボーカルを前面に出し、コーラスも封印しながら、ビートルズの持つ強固なビート感も出せず、もうこれはパロディ!?

ちなみに「涙の乗車券」がアメリカで発売されたのは1965年4月14日、そしてビーチボーイズが「Girl Don't Tell Me」を録音したのが同年4月30日とされていますから、同じキャピトルレコードに所属している事で逸早くブライアン・ウィルソンが「涙の乗車券」のプロモ盤を聴いていたにしろ、これは流石の速攻!

今となっては「涙の乗車券」「Help!」「Yesterdat」と続くビートルズのウルトラヒットの三連発、さらにアルバム「ヘルプ」によって、ビーチボーイズは「Help Me, Rhonda」をなんとか大ヒットにはしたものの、肝心のアルバム「Summer Days」や関連音源レコード等々が、その比較においてぺしゃんこにされた印象です……。

しかし収められた楽曲のひとつひとつは決して劣るものではなく、如何にもアメリカの白人がノーテンキにR&Rポップスを演じました的な「The Girl From New York City」や「Amusment Park U.S.A」の楽しさ、普遍的なビーチボーイズの魅力を今に伝える「Salt Lake City」、そしてB面初っ端からの「California Girl」「Let Him Run Wild」「You're So Good To Me」は明らかに「ペットサウンズ」の萌芽が確認出来る、まさに神秘的な完成度は圧巻!

実際、そのB面の3曲はコピーしようと思っても、ギターではなかなかコードが取れないと思いますよ。もちろんコーラスワークや曲の構造に合わせた演奏パートの充実は言わずもがな、メロディと和声のどちらが先にあったのか、完全に鶏と卵の関係のような組み立てが確信犯だとしたら、まさにブライアン・ウィルソンは天才です。

そしてロマンチックで、ちょいとせつないメロディが琴線に触れまくりというギターインストの「Summer Means New Love」が、もう最高に素敵なんですねぇ~~♪ ちょっと余談になりますが、サイケおやじが学生時代に入れてもらっていたバンドでは、演奏のラストテーマにこのメロディを弾くこともありましたですよ。

さらにビーチボーイズのアルバムでは恒例のお遊び的なトラック「I'm Bugged At My Ol' Man」は、ブライアン・ウィルソンがピアノで弾き語る時代遅れのR&B調ながら、その歌詞の内容は無理解な父親をバカにした内容という、当時としては社会的にも非常に反抗的な歌なんですが、そんな歌の内容とビーチボーイズの内幕をサイケおやじが知るのは、このアルバムを最初に聴いた時から相当に後のことゆえに、オトボケ気味のコーラスも含めて、なにやら楽しい息抜きに思えたものです。

なにしろ続くオーラス曲「And Your Dreams Come True」が、もうビーチボーイズならではのアカペラコーラスの真骨頂ですからねぇ~♪ 本当にこのアルバムB面の流れは絶妙です。

しかしそれとは対照的にA面は、とてもバラけた雰囲気です。

当時のブライアン・ウィルソンは巡業には参加せず、曲作りとスタジオワークに没頭しながら、悪いクスリを常用していたことが今日の歴史になっています。

で、ここからはサイケおやじの完全なる妄想ですが、それゆえにブライアン・ウィルソンはアイディアが纏まった楽曲から順次、レコーディング作業に入っていたのでしょう。もちろんレコード会社からは新作の要求が苛烈であり、前述したクスリの作用が良い方向へと働いている時には、例えば「California Girl」や「Let Him Run Wild」、そして「You're So Good To Me」といったインスピレーションが冴えまくりの名曲が作れるんだと思います。

一方、ビートルズへの意識過剰がそうした創作意欲を刺激したかは、ちょいと微妙でしょう。なにしろ「Girl Don't Tell Me」は、ブライアン・ウィルソン&ビーチボーイズが何んと言おうとも、些かのトホホ感は免れませんし、現実的にはビートルズが年末に出した傑作アルバム「ラバーソウル」を聴いたブライアン・ウィルソンは、それまでの自分達の作品を恥じたとまで……。

正直に言わせていただけるのなら、このアルバムは楽曲の流れが良くありません。それは様々にバラエティに富んだ歌と演奏が各々、非常に完成度が高すぎる所為でもあるんですが、流れが絶妙と書いたB面にしても、頭からの3曲の存在感が上手くリンクされていないのが感じられると思います。

ちなみに当時は所謂「トータルアルバム」という観念は非常に希薄で、LPは単にシングル曲とその他のオマケの詰め合わせという作り方が主流でしたが、ビートルズが1964年7月に出した「ハード・デイズ・ナイト」がLPという特性を活かしつつ、それなりの意味合いを強く打ち出したものとすれば、ビーチボーイズだって、それより1年近く前の「サーファー・ガール」、そして「リトル・デュース・クーペ」「シャットダウン」「オール・サマー・ロング」と続くアルバムにおいて、海や車や女の子をトータル的に歌う制作方針にプレは無かったのですから、殊更に自己嫌悪する必要は無いでしょう。

また楽曲の大充実を逆手に活かし、LP片面毎にアップテンポの曲とパラードを特徴的に分けた「トゥデイ!」にしても、今日ではビーチボーイズの最高傑作とするファンもいるほどです。

それがこの「サマー・デイズ」になると一転、冷たい扱いになるんですから、いやはやなんとも……。

まあ、確かにアルバムタイトルに期待する清涼感はイマイチなんですけどねぇ……。

しかしリアルタイムのブライアン・ウィルソンは、やっぱり唯一無二!

聴くほどに分かってくるんですが、このアルバムセッションにはスタジオプレイヤーを多用したトラックとビーチボーイズが主体となった歌と演奏が混在しています。それは既に述べたように、ブライアン・ウィルソンが時代の流れの中で急かされるように表現していった才能の証明だと思いますが、常に巡業を優先させていたバンドとの思惑の乖離も決定的で、なんとジャケットにはアル・ジャーディンが写っていないという4人組のビーチボーイズが!?!

しかも巡業に参加しなくなったブライアン・ウィルソンに代わって、この頃にレギュラーメンバー入りしたブルース・ジョンストンが、きっちりとこのアルバムではコーラスを歌っているそうですから、もはやビーチボーイズそのものが、ブライアン・ウィルソンの才能の一部と化した感もありますよねぇ……。

ですからアルバム全体の纏まりが散漫だと言われても、ブライアン・ウィルソンには平気だったのかもしれません。何故ならば、この天才にとっては、ひとつひとつの楽曲が命だと思われるんですから、なんとか格好をつけた仕上がりも、ビートルズの「ラバーソウル」が出るまでは、それほど気にもしていなかったのかもしれません。

ということで、些かの煮え切らなさと如何にもの爽快感が並立した、ちょいと蒸し暑い名盤だと思います。尤もカリフォルニアの生活者に「梅雨」なんてものが理解出来るか否かは知る由もありませんが……。

CDやベスト盤で、好きな曲だけ楽しむという手も、OKだと思います。

最後になりましたが、掲載した私有盤は疑似ステレオ仕様なんですが、ブライアン・ウィルソンが希望していたのはモノラルミックスという事は、今や常識でしょう。しかし1970年代の我国では、なかなかモノラル盤は入手が難しく、その意味で現在流通している2in1のリマスターCDで鑑賞するのは、正道なのでしょうね。

う~ん、ボーナストラックも入っているし、買おうかなぁ♪♪~♪

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