暑い時には、コルトレーン!
なんて、昨日は、つい、ツッパリを書いてしまいましたが……。
やっぱり涼しい方が良いという……。
あぁ、本当に自分は日和見というか……。
そこでジョン・コルトレーンのスタイルにスタン・ゲッツのクールな息吹を持ち込んだ、これを――
■Forest Flower / Charles Lloyd (Atlantic)
チャールス・ロイドは西海岸で活動していた黒人テナーサックス奏者で、時代的にはジョン・コルトレーン(ts) のスタイルに撤して認められた逸材でした。そのキャリアは、1960年代初頭にチコ・ハミルトン(ds) のバンドに入り、さらにキャノンボール・アダレイ(as) のバンドに移ってからは、モロにジョン・コルトレーンに近づいた演奏をしています。
そして1965年に独立してからは、ますます精神性を深めた演奏と音色を探求するようになり、折から西海岸ではサイケデリックブームの真っ只中、ロックファンからも注目される存在になっていたようです。
なにしろ当時のサンフランシスコ周辺のロックバンドは、ジャズの影響下にある長いアドリブを入れた演奏をウリにしていましたから、ならば本物のジャズメンがサイケロックに近づいたサウンドを追求しても、違和感が無かったということでしょうか?
実は、この裏には、マイルス・デイビス(tp) をメジャーにした豪腕プロデューサーのジョージ・アヴァキャンが動いていたと言われています。
まあ、それはそれとして、やはり当時のチャールス・ロイドは上昇志向に燃えていたのでしょう。このアルバムは当時から今に続く大ヒット盤になっています。
録音は1966年9月18日、モタンレー・ジャズ祭でのライブセッションで、メンバーはチャールス・ロイド(ts,fl)、キース・ジャレット(p)、セシル・マクビー(b)、ジャック・ディジョネット(ds) という、これ以降のジャズ界をリードする超強力な面々が揃っています――
A-1 Forest Flower - Sunrise
A-2 Forest Flower - Sunset
ジャケット記載ではA面に上記の2曲が入っていることになっていますが、実際は繋がった、ひとつの演奏になっています。
まず、いきなりテーマを吹き始めるチャールス・ロイドのテナーサックの音色が、とにかく涼やかです。一瞬、スタン・ゲッツ!? と思ってしまいますねぇ~♪ ボサロックと4ビートが交錯するリズムも、非常に良いです。
そしてアドリブパートの先発はキース・ジャレットが、爽快! ジャック・ディジョネットのドラムスも千変万化ですし、野太いセシル・マクビーもグイノリのグルーヴが最高です。このあたりは後の「スタンダーズ」トリオでは聴くことが出来ない、若い情熱が気持ちE~♪
ちなみにキース・ジャレットは、このバンドに入る直前までアート・ブレイキー(ds) のジャズメッセンジャーズに居たわけですが、突然、そこを辞めてチャールス・ロイドのバンドに入ると言われ、アート・ブレイキーは目の前が真っ暗になったそうです。しかも彼等がロックバンドもどきの演奏をしていると知って絶望したとか……。
まあ、それほどにキース・ジャレットは将来を嘱望されていたんですねぇ~。実際、ここでの演奏を聴けば、それも納得でしょう。ジャズばかりでなく、ロックもフリーも貪欲に吸収しているであろうスタイルは、既にして余人の立ち入る隙がありません。
そして親分のチャールス・ロイドが、また素晴らしく、ジョン・コルトレーンの音符過多なアドリブスタイルにスタン・ゲッツの音色とタイム感覚を融合した、当にアイディア賞という魅力があります。この人もキャノンボールのバンドに居た頃は、けっこうギスギスにハードな音色でしたから、思わぬ変身というわけです。
演奏はジャック・ディジョネットの熱血ドラムソロからラストテーマが涼やかに蘇えり、続くパートに入りますが、そこには特に決まったテーマメロディがありません。ただラテンロック風のリズムに乗って、バンドがアドリブに興じているだけです。
しかし、これがまたまた最高の気持ち良さ♪ こういうアプローチはソニー・ロリンズ(ts) もやっていますが、チャールス・ロイドはフワフワの音色とフレーズでアドリブを極めていきますから、たまりません。もちろん演奏が激してくるにしたがって、リズム隊も大暴れ! ジャック・ディジョネットのドラムスには、明らかにエルビン・ジョーンズやトニー・ウィリアムスとは違ったビート感がありますし、きちっと道筋をサポートするセシル・マクビーのベースとキース・ジャレットのピアノは、楽しい限り♪
またこの2曲目の3分10秒目から入っているブゥ~ンという唸りの音は、上空を飛行機が通過した際のハプニングと言われています。そして刺激を受けたキース・ジャレットが凄まじいアドリブで、フリーとロックの間を感動的に彷徨うのでした。
これは絶対に聴いていただきたいところ!
そして少しずつクールダウンしていくバンドの熱気も鮮やかです。
B-1 Sorcery
キース・ジャレットのオリジナルで、なかなか激烈なジャズロックというかロックジャズ!? とにかくバンドはガンガンビシビシに突進しています。ジャック・ディジョネットのドラムスは、もう数年後のマイルス・デイビスのバンドと同じですよっ。
そしてチャールス・ロイドは強力なフルートを披露! 背後から襲い掛かってくるキース・ジャレットと熾烈な闘争に明け暮れます。あぁ、こんなファンクジャズを聞かされたら、当時のサイケロックファンだって、忽ち夢中でしょう。
マイルス・デイビスも密かに愛聴していたんじゃないかっ!?
もちろん私は大好きで、キース・ジャレットのフリーなパートでさえ、夢中になっています。
B-2 Song Of Her
大歓声の中でスタートする静謐な曲は、セシル・マクビーのオリジナルです。それにしても、この当時のバンドメンバーは演奏能力だけでなく、作曲にも秀でていたんですねぇ~♪
そしてチャールス・ロイドはジョン・コルトレーンの様な精神性の高い、所謂スピリッシャルな演奏に挑み、見事に完成させています。もちろんその要は、作者のセシル・マクビーが巧みにメンバーを導いていく成果でしょう。
キース・ジャレットも、現代のファンが一番キースらしいと思っているアドリブを披露しています。
B-3 East Of The Sun
オーラスはスタンダード曲ながら、モダンジャズでも定番ですから、ここでも比較的ストレートな演奏に撤しています。
それはまず、急速なテンポでテーマからアドリブパートに突入するチャールス・ロイドの正統派ブローから始まり、キース・ジャレット以下のリズム隊ががっちりと土台を築いていきますが、このメンバーですから、タダでは済みません。4人がグルになってのフリー突入と自我の目覚めというようなジコチュウの対決で、演奏はスリル満点に混濁していきます。
このあたりも、当時のサイケデリックブームには、ダイレクトに訴えるものがあったんでしょうねぇ……。
最後には予定調和的にモダンジャズの王道に収束していきますが、それでもキース・ジャレットは熱気が冷めやらんとみえて、自分のアドリブハードでは再びの大爆発です! いゃ~、本当に痛快ですねぇ~♪ こういう状況を楽しんでいる様なセシル・マクビー、やけっぱちのジャック・ディジョネットも、実に最高です!
ということで、これもジャズ喫茶の超人気盤! 確かに1980年代に入っても、これが鳴り出すと店内の雰囲気が変わったほどだと、記憶しています。
もちろん自宅で聴いても最高で、A面の快楽性は永遠不滅の輝きでしょう。とにかく気持ち良いんですよっ♪ 逆にB面は気合が入ります!
ちなみに、この最高のバンドは1969年に入って解散……。メンバーはマイルス・デイビスやスタン・ゲッツのバンドに引き抜かれ、独りチャールス・ロイドだけが、ますますロックに接近した活動をしていきますが、やや地盤沈下……。
まあ、それゆえに、ここでの輝きが一層眩しいのだっ!
というわけではありませんが、皆様には、特に今の時期に聴いていただきたいと、切に願っております。