OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

普通に凄い!

2007-02-10 17:49:11 | Weblog

ギターの弦を買いに楽器屋に行ったら、けっこう中年おやじの溜まり場と化していて、嬉しいような恥ずかしいような……。

で、そこでギターの試し弾きをやっている人は、だいたい「天国への階段」とか「ホテル・カリフォルニア」のイントロをやってしまうんですねぇ~♪

なんか、つられて「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を弾いてしまった私は、若いでしょう!? もはや恥ずかしさで地獄行きしそうでした……。

ということで、本日は――

Barry Harris At The Jazz Workshop (Riverside)

これはピアノトリオの名盤とされる1枚ですが、正直に告白すれば、私は最初、それが分かりませんでした。

ジャズ喫茶で聴いてみても、なんか普通っぽいし、バリー・ハリスでは個人的にもっと好きなアルバムがあるし、演目もイマイチ魅力ないしなぁ……。

等々、不遜な気持ちだったのですが、レコードそのものは、昔、某中古店で3枚千円の員数合わせで買っていたというバチアタリでした。もちろん日本盤です。

で、当然、1回聴いただけでレコード棚のお邪魔虫になっていたのですが、ようやく中年真っ只中になったある日、何となく聞いてみて吃驚仰天! やっぱり名盤だったと気がついて、額に汗が滲みました。

録音は1960年5月15&16日、サンフランシスコの有名クラブ「ワークショップ」でのライブ録音で、メンバーはバリー・ハリス(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイ・ヘイズ(ds) という、当時のキャノンボール・アダレイのバンドではレギュラーだった面々です――

A-1 Is You Is Or Is You Ain't My Baby / あなたの心は
 ちょっと聞きは地味な曲&演奏なんですが、まさに「そこはかとない」というバリー・ハリスの魅力が全開した名演です!
 オリジナル原曲はR&B歌手のルイ・ジョーダンがヒットさせた黒人歌謡曲ですから、秘められたペーソスとか、やるせなさみたいな情感を大切したバリー・ハリスの解釈が絶品♪
 当然、それゆえに、アルバム冒頭に置くには地味~な印象なんですが、この聴くほどに滲みてくるジンワリした魅力は絶大なんですねぇ~♪ これがバリー・ハリスの持ち味だと思います。あぁ、この歌心! このピアノタッチ! 柔らかくて、せつなさ満点の名人芸です♪

A-2 Curtain Call
 一転して溌剌としたビバップ系の演奏で、バリー・ハリスのオリジナル曲となっていますが、どっかで聞いたことがあるような……。
 まあ、それはそれとして、ルイ・ヘイズの素晴らしいブラシに煽られて、バリー・ハリスが正統派の実力を披露してくれます。

A-3 Star Eyes
 定石どおり、ラテンリズムを用いた解釈が、この有名スタンダード曲を演奏するお手本のようになっています。もちろんアドリブパートでの快適な4ビートはノリが良く、決して派手なフレーズは弾きませんが、心温まるという表現がたっぷりです。
 ただし、それゆえに物足りないというのが、やっぱり私の本音でしょうか……。

A-4 Moose The Mooche
 ビバップ聖典曲のひとつですから、そのスタイルを原点とするバリー・ハリスには十八番なんでしょう、安心感とスリルが同居した素晴らしい演奏になっています。
 全体は、かなり熱い雰囲気なんですが、バリー・ハリスからは「力み」とか、そういう入れ込んだ部分が感じられず、あくまでも自然体でスイングしていくところが、流石だと思います。
 ルイ・ヘイズも、小型フィリー・ジョーと言っては失礼ですが、ようやく本領発揮のスティックとソロチェンジで明るく好演していますし、サム・ジョーンズのギスギスした軋みのベースも、たまりません♪ つまり現場での録音も秀逸だと思います。

B-1 Lolita
 ラテンビートを上手く使ったバリー・ハリスのオリジナル曲です。もちろんテーマメロディには一抹の哀愁が含まれていますから、グッときます。
 アドリブパートに突入するところでのブレイクも素晴らしく、観客が思わず「ウォ~」「オーライ!」と歓声を上げてしまうあたりが、本当にリアルです! 続く単音弾き主体のアドリブそのものも完璧ですねぇ~♪ お客さんも指パッチンとか手拍子で熱くなっている雰囲気に、こちらも感情移入してしまうほどです。
 あぁ、最高です!

B-2 Morning Coffee
 これがまた、グルーヴィな雰囲気に満ち溢れたブルースの世界!
 まずルイ・ヘイズのシンバルワークが、その録音ともどもに素晴らしく、サム・ジョーンズのベースもグイグイと突っ込むウォーキングで、興奮させられます。
 肝心のバリー・ハリスは、正統派のビバップフレーズを主体としながらも、随所にファンキーフィーリングを織り交ぜて大熱演! 思えば、この人はリー・モーガン(tp) のジャズロック「サイドワインダー(Blue Note)」の大ヒットにも貢献していた、リアルブラックな感性の持ち主ですからねぇ~。ファンクの卸商人と揶揄されていたキャノンボールが惚れこんでいたのも納得の演奏です。
 とはいえ、ここでは下卑たところは全く無く、バド・パウエル(p) 直系のスタイルに、セロニアス・モンク(p) の影響までも見え隠れするモダンジャズに仕立て上げたところが、本当に凄いと思います。
 そしてルイ・ヘイズ! あんたは最高だぜっ!

B-3 Don't Blame Me
 そして演奏はスローなスタンダードの世界へ流れ、甘い感傷が滲み出るバリー・ハリスの独壇場という名演が展開されます。
 あぁ、この朴訥として素直なメロディの解釈は、ひとつ間違えるとイモな雰囲気ギリギリという匠の技♪ エキセントリックな部分を押し隠して綴るビバップ精神に溢れたアドリブメロディは、聴くほどに味があります。
 こういう当たり前の演奏でこそ光るのが、バリー・ハリスの個性ではないでしょうか?

B-4 Woody'n You
 さて、オーラスは熱気溢れるビバップ定番曲です。
 ラテンビートも織り交ぜたテーマ解釈からして、とにかくエキサイティング! 張り切りすぎて外し気味というルイ・ヘイズのドラムスがご愛嬌とはいえ、バリー・ハリスはガチンコ体質を露呈した真摯なピアノを堪能させてくれます。
 う~ん、それにしてもサム・ジョーンズ&ルイ・ヘイズのコンビは、ハードバップ最良の瞬間を何時も生み出してくれますねぇ♪ ここでも、ありがちなプレイとはいえ、聴いていてリピートしたくなる場面が何度も出てきます。

ということで、あまりにも当たり前に凄すぎるのが欠点かもしれないアルバムです。だいたいバリー・ハリスというピアニストは、地方の地酒の名品という感じの人ですし、実際、キャノンボール・アダレイに口説かれてニューヨークへ出るまでは、デトロイト周辺で活動していたローカルミュージシャンの代表格ですから、華やかな雰囲気とは縁遠い存在だと思います。

しかし、その虜になったが最後、いつまでも愛聴してしまうアルバムばかりを吹き込んでいる名手でもあります。

恥ずかしながら、前述の経緯でそれに気がついた私は、遅ればせながらもバリー・ハリスの演奏を楽しむ境涯に至ったことに、感謝しているのでした。

コメント (2)
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