OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

レイ・ブライアントと旅に出よう

2008-11-20 11:55:37 | Jazz

Gotta Travel On / Ray Bryant (Cadet)

人間、何かのきっかけで真っ当な評価をされる事は間々あることですが、レイ・ブライアントの場合は、あのモントルーでのライブ盤の大ヒットでしょう。

そのアルバムは1972年7月に行われたモントルージャズ祭でのステージを収めたものですが、なんとオスカー・ピーターソンの代打として堂々のソロピアノを披露! 大ウケしたことからその音源が「Alone At Montreux (Atlantic)」というLPになったのです。

そして実際、これは我が国でもジャズ喫茶の人気盤となり、折からのソロピアノブームもあって売れ行きも良く、私もリアルタイムで入手して聴きまくったほどです。その内容については、以前にもご紹介しておりますが、ブルース&ゴスペルを基調にした真っ黒で小粋なムードは、たまらない魅力がいっぱい♪ 中でも私は、その冒頭に置かれた「Gotta Travel On」という曲が大好きになり、なんとかそのオリジナルバージョンを探し求めて辿り着いたのが、本日の1枚というわけです。

録音は1966年2月17&18日、メンバーはレイ・ブライアント(p)、ウォルター・ブッカー(b)、フレディ・ウェイツ(ds) というトリオに、17日のセッションではスヌーキー・ヤング(tp) とクラーク・テリー(flh) の2人がアンサンブルで加わっています――

A-1 Gotta Travel On (1966年2月18日録音)
 ほとんどキャノンボール・アダレイあたりが出てきそうなゴスペルにブギウギのイントロから、ウキウキするようなソウルフルなテーマにグッと惹きつけられます♪ 歯切れの良いフレディ・ウェイツのリムショットも楽しく、またウォルター・ブッカーの重量級ベースもジャストミート!
 もちろんアドリブパートでもレイ・ブライアントは、その雰囲気を崩すことなく分かり易くて楽しい、そしてブルース&ソウルなフレーズを連発しますから、あたりはすっかりグルーヴィ♪

A-2 Erewhon (1966年2月17日録音)
 意味不明な曲タイトルも、業界では当たり前という「逆さ読み」で解消するというレイ・ブライアントのオリジナル曲で、仄かに暗いゴスペルメロディとホーンのアンサンブルが実に良いムードです。しかも、ちょっと昭和歌謡曲なんですねぇ~、これが♪
 アドリブらしいパートが無いのも高得点です。

A-3 Smack Dab In The Middle (1966年2月18日録音)
 おぉ、これまた初っ端からキメのフレーズがテーマになっているという素敵なメロディ♪ ダンスやストリップのステージショウでは定番として用いられる曲ですが、ウォルター・ブッカーの強靭なピチカートも冴えた名演だと思います。なにしろアドリブよりは、キメのフレーズだけが強調された潔さなんですよっ♪

A-4 Monkey Business (1966年2月18日録音)
 レイ・ブライアントのオリジナルブルースとなっていますが、ほとんどアドリブフレーズから美味しい部分を抽出して組み立て直したような思惑が素敵です。
 ミディアムテンポのグルーヴを見事に作りだすトリオの一体感、そしてレイ・ブライアントの楽しいピアノタッチとメロディ作りの上手さは流石だと思います。

A-5 All Things Are Possible (1966年2月17日録音)
 ラテンビートが冴えた楽しい曲調、そしてホーンアンサンブルが絶妙という素敵なトラックです。レイ・ブライアントの強力なピアノタッチが上手く活かされたアレンジ、さらにスイングしまくったアドリブはゴッタ煮の美味しさでしょうか。
 なんとなくナベサダの元ネタという気も致しますね♪

B-1 It Was A Very Good Year (1966年2月17日録音)
 同時期のフランク・シナトラがヒットさせていた名曲のカバーだと思いますが、ホーンアンサンブルがなんとなくバカラック調で楽しいかぎり♪ レイ・ブライアントも原曲の哀愁を増幅させるピアノタッチと装飾フレーズがニクイほどです。もちろん明確なアドリブなんてありません。
 しかしフレディ・ウェイツのブラシ&リムショットも強靭なビートを敲き出していますから、演奏はグイグイと盛り上がって快感です。

B-2 Bag's Groove (1966年2月18日録音)
 モダンジャズでは大定番のブルースを、このトリオは豪快にスイングさせています。やっぱりレイ・ブライアントには、こういう正統派ハードバップも必要ですねっ♪ とにかく素晴らしすぎます。
 フレディ・ウェイツのハードなドラミング、ウォルター・ブッカーのペースソロもエグイ魅力がいっぱいですから、数多い同曲のモダンジャズバージョンでも、私はこれが上位に選ばれると信じるほどです。
 とかにくカッコイイですよっ!

B-3 Midnight Stalkin' (1966年2月18日録音)
 なんだか意味深な曲タイトルですが、ちょいとマイナーなゴスペル風味のジャズロック♪ このヘヴィで緩いグルーヴが如何にもサイケおやじ好みです。
 レイ・ブライアントのアドリブも、全くその路線で「泣き」のフレーズ、あるいは執拗な粘っこさ、分かり易い音の選び方が最高の極みつき!
 もちろん昭和歌謡曲の味わいが潜んでいるのは、言わずもがなです。

B-4 Little Soul Sister (1966年2月17日録音)
 オーラスは曲名からして、これもレイ・ブライアントの人気オリジナル曲「Little Susie」の続篇という趣向だと思われます。
 快適なテンポと快楽的なコード進行が、とにかく素敵ですが、随所にモードっぽい味付けも新鮮ですし、妥協しないベースとドラムスの意気地も見事だと思います。特にフレディ・ウェイツはビリー・ヒギンズと同類のビシバシ系が、完全に私の好みですし、ウォルター・ブッカーも凄いアドリブと強靭なウォーキングで目からウロコの大活躍です。

ということで、どちらかというとジュークボックス系のA面、グッとジャズ寄りのB面という構成になっています。このあたりはアナログ盤の特性が活かされてるわけですが、ブッ通して聴いてもだんだんジャズっぽく盛り上がっていきますから、CD鑑賞もさらにOKだと思います。

だだし内容の問題からでしょうか、このアルバムをジャズ喫茶で聞いた記憶が私にはありません。まあ、そうでしょねぇ~、と納得出来る事実ではありますが、こんな楽しくて充実した作品は、もっと名盤扱いされても良いはずなんですが……。

個人的にはフレディ・ウェイツの実力と魅力に目覚めた1枚ですし、もちろんレイ・ブライアントは安定した魅力を発揮していますが、この人のドラミングだけを中心に聴いても全く飽きないんですねぇ♪

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マクリーンの未完の青春

2008-11-19 11:48:43 | Jazz

Lights Out! / Jackie McLean (Prestige)

すっかり長寿社会になった現代では妙に老成した若者も散見されますが、そういう私も若い頃から古い物にしか興味を示さない若年寄指向でした。

しかし反面、何時までたっても青春の情熱を失わない人も確かに存在しているわけで、例えばジャズ界ではジャッキー・マクリーンは、その代表選手かもしれません。もちろん既に故人ですが、今でもどこかで、あの激情のアルトサックスを吹きまくっている気さえするのです。

さて、このアルバムは多分、2作目のリーダーアルバムだと思います。

録音は1956年1月27日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、エルモ・ホープ(p)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) という、今では夢のクインテット――

A-1 Lights Out
 ハードエッジなダグ・ワトキンスのウォーキングベース、釘打ちのリムショットと強靭なシンバルの響きが至芸のアート・テイラーが、じっくりとした4ビートを刻んで場面の設定♪ まずこれが実にハードバップの雰囲気にどっぷりです。
 そしてエルモ・ホープのジンワリしたピアノから、ジャッキー・マクリーンのギスギスしたアルトサックスが鳴り響けば、もう気分は狂おしいブルース&モダンジャズの世界なんですねぇ~~♪ もちろん王道の「マクリーン節」が惜しげもなく溢れる展開ですが、その随所には、かなり思い切ったフレーズや感情激白の音使いが強烈な印象で、当時23歳だったジャッキー・マクリーンの若気の至りとは決して言えない熱さが、もう最高です。
 続くドナルド・バードは、ミュートをあえて使ったような挑発的な姿勢が潔く、それはディジー・ガレスピーやマイルス・デイビスという元祖モダンジャズの先輩へ果敢に挑んだところでしょうか。実際、内に秘めた闘志が良い感じですし、何もかも飲み込んだリズム隊のグルーヴも素晴らしいですねぇ。
 その要となるエルモ・ホープも地味な印象ながら、ツボを外さないキメのフレーズと穏やかなピアノタッチは、リアルなモダンジャズのエッセンスを抽出した無駄の無いものと感じます。そして時折使う、けっこうエキセントリックな音もイヤミがないんですねぇ。
 演奏はこの後、トランペットとアルトサックスの掛け合いが絶妙の絡みになって大団円へ突入し、もちろんリズム隊のグルーヴィなサポートも強引なところが良い方向へ作用した熱演となっていくのでした。

A-2 Up
 タイトルどおりにアップテンポのハードバップで、2管の無伴奏ユニゾンからジャッキー・マクリーンの熱血ブレイク、そして豪快なアート・テイラーのドラミングに導かれたテーマ部分だけで、もうワクワクさせられます。
 そしてアドリブパートではドナルド・バードが曲想を活かした滑らかなフレーズを連発♪ ジャッキー・マクリーンも激しいツッコミで続きますが、ともに危なっかしいところが逆にスリルになっているという魅力が、まさにハードバップ上昇期の勢いというところでしょうか。
 またエルモ・ホープのピアノスタイルが、ジャッキー・マクリーンとドナルド・バードを一緒に雇っていたジョージ・ウォーリントンのように聞こえるのも、なかなか意味深です。
 しかしそんな思いも一瞬、豪放無頼なアート・テイラーのドラムソロにブッ飛ばされるのですが♪

A-3 Lorraine
 ドナルド・バードが自身のメロディ指向を全開させたオリジナル曲で、どこまでがテーマかアドリブが判別しかねるほど素晴らしい歌心のトランペットは至福のひととき♪ 適度な「泣き」とホロ苦い青春の思い出が滲み出た隠れ名曲、そして名演だと思います。
 もちろんジャッキー・マクリーンも、こういったムードは俺にまかせろっ! 琴線を直撃するような音色と激情のキメ、さらに泣きじゃくりのフレーズを嬉々として使う、実に憎めない奴を演じています。
 またリズム隊が、ここでも絶妙のサポートで、特にダグ・ワトキンスの強靭なビートは、こうした曲が甘さに流れない秘密かもしれませんし、エルモ・ホープの弾力のあるピアノ伴奏も秀逸だと思います。
 
B-1 A Foggy Day
 ジャッキー・マクリーンの代名詞ともなった有名スタンダード曲のハードバップ的解釈♪ その決定版のひとつが、この演奏です。とにかくギスギスした特有の音色で鳴りまくるアルトサックスは、ジャッキー・マクリーンの大きな武器でしょうねぇ~。メリハリの効いたキメを多用するリズム隊もカッコイイとしか言えません。
 ドナルド・バードもミュートで好演ですし、続くエルモ・ホープが、これぞっ! という快演でスカッとします。
 ちなみにジャッキー・マクリーンは、このセッションの直後、チャールズ・ミンガスのバンドで、この曲のもうひとつの傑作バージョンを吹きこんで、それは「直立猿人 (Atlantic)」という名盤に入っていますので、聴き比べも楽しいところですね。

B-2 Kerplunk
 ドナルド・バードのオリジナル曲で、なかなかビバップの味わいが上手く残されていますから、初っ端からエルモ・ホープがパド・パウエルに捧げたような素敵なピアノで絶好調のアドリブを披露♪ いゃ~、実に良い雰囲気ですねぇ~♪ これがモダンジャズという香りが爽快に広がっていきます。
 そしてドナルド・バードのアドリブが、これまた歌心と熱気の努力賞! 続くジャッキー・マクリーンもチャーリー・パーカー直伝の「のけぞりフレーズ」をイヤミ無く多用した熱演が、リアルな若さの証明でしょうねっ♪
 終盤で繰り広げられるバード対マクリーンのアドリブ合戦は、これもハードバップの醍醐味です。

B-3 Inding
 オーラスは、これも激しいアップテンポのハードバップで、導入部からの熱気に満ちたリズム隊の快演が強い印象を残しますから、ドナルド・バードもいきなりのブッ飛ばし! アート・テイラーのドラミングも怖さを増していきます。
 ジョージ・ウォーリントンとは似て非なるエルモ・ホープのビバップなピアノも好調ながら、ジャッキー・マクリーンのハッスルぶりは微笑ましいかぎりで、ついつい音量を上げてしまいますねぇ~~♪ 聴きながら、思わず「イイねぇ~」と言葉を発してしまうほどですよっ♪
 エキセントリックなラストテーマのアンサンブルは、ご愛敬!?

ということで、これがハードバップだっ! という快演盤です。

もちろん随所に荒っぽいところは散見されますが、力強いペースとドラムスのコンビネーションは唯一無二ですし、エルモ・ホープの硬軟巧みなピアノというリズム隊の充実度は素晴らしいと思います。

そしてジャッキー・マクリーンとドナルド・バードは、この後も数多い傑作を残す名コンビですが、その最も初期のこの時期から既に阿吽の呼吸が出来上がっています。しかしそれは、決して老成したものではなく、どこかしら未完成の魅力があって、それは彼等が現役で演奏を続けた最後まで完結しなかったものでしょう。

それが特にジャッキー・マクリーンには顕著だったように、私は思います。

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ギル・エバンスの個人主義は魔法?

2008-11-18 13:40:12 | Jazz

The Individualism Of Gil Evans (Verve)

マイルス・デイビスとのコラボレーションが成功したことでジャズの歴史に名を刻んだアレンジャーのギル・エバンスは、その幽玄で幅広い音楽性を感じさせる編曲がソフトロックやフュージョンの源流にも繋がり、「音の魔術師」とまで形容されました。

もちろんリーダー盤も寡作ながら幾枚か出しており、しかし個人的には、なかなか自発的には聴けない作品群ばかりです。それは独特のモヤモヤしたサウンドが煮え切らず、また参加ミュージシャンの存在感があまり感じられず、スカッとしたリズム的な興奮もイマイチという思い込みです。

ただし、それでも一端、何かの機会に聴いてしまうと、やはりグッと惹き込まれるのが本音でもあります。例えばマイルス・デイビスの「Porgy And Bess (Columbia)」とか、ヘレン・メリルの歌伴物とか♪ ケニー・バレルの「Guitar Forms (Verve)」も良かったですね。

さて、このアルバムは1962~1964年に何度か行われたセッション音源で作られた代表作! この異例ともいえる長期間のレコーディングが実現したのも、当時のプロデューサーだったクリード・テイラーの尽力があったと言われています。

しかも参加メンバーは超豪華! ジョニー・コールズ(tp)、ジミー・クリーヴランド(tb)、スティーヴ・レイシー(ss)、エリック・ドルフィー(as,fl)、ウェイン・ショーター(ts)、ケニー・バレル(g)、ボール・チェンバース(b)、ロン・カーター(b)、ゲイリー・ピーコック(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) なんていうのは氷山の一角です。もちろん、あのモヤモヤしたサウンドを具象化するためにフレンチホルンやオーボェ、フルートといった通常のジャズではあまり使われない楽器が大胆に導入されています――

A-1 The Barbara Song (1964年7月9日録音)
 ツンツンツンツンというベースの響きはマイルス・デイビスの「いつか王子様」というイントロから、ギル・エバンスが特有のモヤモヤして厳かなテーマメロディ、それを膨らみのあるハーモニーで彩るという十八番のアレンジが聞かれます。
 ちなみにここでのペースはゲイリー・ピーコックと言われていますし、これでいいのかというほどに訥弁スタイルのピアノは、もちろんギル・エバンス本人が弾いているのですが……。
 この勿体ぶった雰囲気を切り裂くように、突如として入ってくる衝撃的なブラスのキメとか、静謐で如何にもというウェイン・ショーターのテナーサックスが妙な説得力です。
 そして次は何かなぁ~、と期待させられるんですねぇ~、この演奏の展開には! こんな煮え切らない曲だというのに!!

A-2 Las Vegas Tango (1964年4月6日録音)
 おそらくギル・エバンスのオリジナルでは最も知られた曲じゃないでしょうか? 確かキース・ジャレットやゲイリー・バートンもカバーしているはずです。う~ん、スパニッシュな変形マイナーブルースのテーマ、豊かな音色のアレンジと内側からこみあげてくるような複合リズム♪ 聞かず嫌いだった私も、これには完全KOされます。
 アドリブパートではジミー・クリーヴランドのトロンボーンが温もりと秘めた情熱の好演♪ さらに中盤からの過激なパートではケニー・バレルの熱血ギター! 土台を揺るぎないものにするポール・チェンバースと粘っこい馬力で盛り上げるエルビン・ジョーンズにも、グッと惹きつけられます。

B-1 Flute Song ~ Hotel Me (1963年秋&1964年4月6日録音)
 前半はタイトルどおり、フルートをメインに使った導入部ですが、それに続く「Hotel Me」のパートはエルビン・ジョーンズのヘヴィなドラミングと地殻の変動を思わせるグイノリスローなグルーヴに身体が揺れます。これは確か、後年の「Jelly Rolls」と同じ曲でしょうか?
 ギル・エバンス自身の楽団では定番の演目になっていますが、ここでのバージョンは、実は何回かの演奏を編集したものという説もあるほど、様々な楽器が複合的に重ねられた混濁の色模様♪ 黒人音楽としてのブルース&ソウル、ゴスペルに西洋音階の極北的ハーモニーを強引に交配させんとした目論見が見事に成功していると思います。
 明確なアドリブパートはありませんが、各人が好き放題に演じることも出来ているようですし、ギル・エバンスのヘタウマなピアノも良い感じ♪ けっこう過激なんですよ、これがっ!

B-2 El Toreador (1963年9月録音)
 ギル・エバンスのセッションでは常連のトランペッターというジョニー・コールズが主役ですから、この疑似マイルスな演奏はサービスというところでしょうか。しかしそれにしても良く出来た、出来すぎといって過言ではない名演だと思います。
 3分ちょっとの短い演奏ですが、このアルバムの中では一番親しみやすいトラックかもしれません。

ということで、一応はビックバンドの演奏なんですが、決してスカっと派手な作品ではありません。ジワジワと効いてくるというか、内側からこみあげてくるような感動が、まさに情念の名演集でしょう。LP片面を聴くと、裏を返さずにもう一度、同じ面に針を落としたくなるんですねぇ。これぞ不思議なギル・エバンスの魔法かもしれません。

ちなみにこのアルバムセッションは長期間に行われため、当然ながらアウトテイクも多数残され、1970年代初め頃に「Gil Evans, Kenny Burrell & Phil Woods (Verve 8838)」という発掘盤も出たほどですが、もちろんそれはラフスケッチやリハーサルセッションのような音源も入ったマニア向けの内容でした。

それがCD時代に入って、このアルバムと抱き合わせに再編集されたそうですが、残念ながら未聴です。しかし私のような者は、このアナログ盤だけで満足していますし、前述の未発表曲集も、それなりに聴いて楽しんでいます。

そしてギル・エバンスのアルバムを自主的に集めはじめたのは、このLPを聴いてからですが、個人的には一番好きなのが「Plays Jim Hendrix (RCA)」、という本音を吐露しておきます。

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今日と明日のマッコイ・タイナー

2008-11-17 12:48:58 | Jazz

Today And Tomorrow / McCoy Tyner (impulis!)

いくら言い訳をしたって、やはり自分のような者はジョン・コルトレーンがやっていたジャズを否定出来ません。ですから、マッコイ・タイナーやエルビン・ジョーンズの演奏も、たまらなく愛おしいわけで、このアルバムもそうした1枚です。

内容は3管編成のセクステットとトリオだけによる演奏という2種類のセッションが楽しめます。

まずトリオでのセッションはマッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、アルバート・ヒース(ds) という、なかなか魅力的なメンバー♪ 録音は1963年6月4日とされています。

一方、セクステットはサド・ジョーンズ(tp)、フランク・ストロジャー(as)、ジョン・ギルモア(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、これまた妥協の無い面々が集結! こちらの録音は1964年2月4日とされています――

A-1 Contemporary Focus (1964年2月4日録音:セクステット)
 マッコイ・タイナーのオリジナルで、アフリカの大自然が目に浮かんでくるような十八番のメロディとビートが実にジャズ喫茶の雰囲気です。強靭なエルビン・ジョーンズのドラミングなんて、もう、完全にモロですよねっ♪
 アドリブパートに入っても、それはますます沸騰して、グイノリの4ビートに煽られて熱演するサド・ジョーンズの奥深さ! この人は例えばカウント・ベイシー楽団での活躍があったりしますから、モダンスイング派と思われがちですが、そのどこにも属さない進化中の汎用スタイルは流石だと思います。
 もちろん当時の進歩派だったジョン・ギルモアやフランク・ストロジャーも期待どおりのアドリブを聞かせてくれますが、こういう演奏パターンだと、どうしても神様コルトレーンが登場しそうな雰囲気を打ち消せないわけですから、やや苦しいところも……。
 その意味で、マッコイ・タイナーのアドリブパートには大いなる安心感がありますねぇ~。それが良いのか、悪いのかは判断出来かねますが、私は素直にノッてしまうのでした。
 クライマックスでのエルビン・ジョーンズの大爆発は、やっぱり最高♪

A-2 A Night In Tunaisia / チュニジアの夜 (1963年6月4日録音:トリオ)
 一転してトリオによるリラックスした演奏です。曲がお馴染み、モダンジャズの聖典というのも嬉しいですね♪ もちろんマッコイ・タイナーは重量級の解釈を心がけ、アルバート・ヒースがエルビン・ジョーンズに劣らないハッスルぶりで、ビシッと重たいブラシには好感が持てます。
 う~ん、それにしても指が動いて止まらないマッコイ・タイナー! これって、モードなんですかねぇ~。とにかく私のような者は、完全なるパブロフの犬ですよ。

A-3 T'na Blues (1964年2月4日録音:セクステット)
 サド・ジョーンズが書いたグルーヴィなブルースのモード的な展開! 重量感あふれるテーマの合奏には、思わず体が揺れてきます。
 しかしジョン・ギルモアは、狙いすぎて逆にハズシたようなアドリブが賛否両論でしょう。素直にコルトレーンを演じてくれたほうが、私の好みなんですが……。それを補うはずのマッコイ・タイナーにしても、イマイチ調子が出てない雰囲気で、実に勿体ないです。

B-1 Autumn Leaves / 枯葉 (1963年6月4日録音:トリオ)
 こういう曲が入っていると、丸っきり日本制作みたいな感じですが、これをリアルタイムでマジにやってしまうことろが、マッコイ・タイナーの資質というか、実に憎めませんねっ♪
 もちろん演奏はモード系のイントロから、あのお馴染みのメロディがアップテンポで素直に弾かれるのですから、たまりません♪ 饒舌な「マッコイ節」が実に心地良く、同時に歌心も大切にしたアドリブはジャズ者が最も好む展開じゃないでしょうか。
 基本に忠実なジミー・ギャリソンのベースと重くてシャープなブラシで健闘するアルバート・ヒースという共演者も、リーダーの意図をしっかりと把握した好演ですから、これも数多のある同曲の名演バージョンのひとつだと思います。

B-2 Three Flowers (1964年2月4日録音:セクステット)
 マッコイ・タイナーが書いた魅惑的なメロディのワルツ曲ですが、当然ながら時代の要請というか、ヘヴィなエルビン・ジョーンズのポリリズムを得て、なかなか重厚な演奏になっています。
 しかしマッコイ・タイナーのピアノとアドリブには絶妙の軽さがあり、もちろんジョン・コルトレーンのバンドでは定番曲の「My Favorite Things」を彷彿とさせる思惑は言わずもがなです。いゃ~、実際、モロですよねっ♪
 共演者では温故知新のサド・ジョーンズ、ジコチュウなフランク・ストロジャー、些か迷い道のジョン・ギルモアと、明らかにジョン・コルトレーンの暴風にような情熱には敵わないわけですが、そこは全篇で大暴れのエルビン・ジョーンズが背後から猛烈に煽りまくっていますから、カチッと纏まった演奏になっています。
 極限すれば、個人的にはエルビン・ジョーンズを聴くトラックなのでした。

B-3 When Sunny Gets Blue (1963年6月4日録音:トリオ)
 お馴染みのシンミリと胸キュンのメロディが素晴らしいスタンダード曲♪ 重たく混濁した前曲が終了した直後に、すうぅ~、とこれを弾き始めるマッコイ・タイナーのセンスの良さには脱帽ですが、これはアルバム構成の魔法というか、プロデューサーのボブ・シールが上手いところでしょうねぇ~♪
 あぁ、それにしてもマッコイ・タイナーの繊細なフィーリングは、暗くて饒舌なイメージからは対極にある印象ですが、実はこの両刀使いが本質かもしれません。そのあたりはジョン・コルトレーンがスローな歌物バラードと激情怒涛の演奏を使い分けていたライブステージと同様の趣向ですから、さもありなん♪
 とにかく前曲からの連続聴きが、実に快感というお楽しみです。

ということで、マッコイ・タイナーのリーダー作中では忘れられているアルバムかもしれませんが、これもサイケおやじの愛聴盤のひとつです。特にエルビン・ジョーンズの大暴れとアルバート・ヒースの予想外の好演は、リズムとビートがジャズの魅力という本質を再認識させるものでしょう。

それと既に述べたように、異なるセッションを巧みに1枚のアルバムに構成したボブ・シールのプロデュースは流石だと思います。おそらくはCD化もされているでしょうから、トリオ演奏だけを抜き出して聴くこともやぶさかではありませんが、個人的には曲の流れが抜群のアナログ盤B面を偏愛しています。

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アート・ファーマーの秋のメロディ

2008-11-16 12:40:35 | Jazz

Ealy Art / Art Farmer (Prestige / New Jazz)

アート・ファーマーといえばベニー・ゴルソン(ts) と組んだジャズテット、そしてジェリー・マリガン(bs) の相手役を務めたピアノレスのカルテットを経て、ジム・ホール(g) との耽美秀麗なクインテットでの素晴らしい演奏がありますから、今ではソフトパップなトランペッター、あるいはフリューゲルホーンの名手というイメージが強く残っています。

しかし本来はバリバリのハードバッパーであり、もちろん独特の歌心も確立させていた1950年代の活動も、決して劣るものではありません。

このアルバムはハードバップ上昇期の1954年に吹き込まれた2枚の10インチ盤「Art Farmer (Prestige PRLP 177)」と「Art Farmer Quartet (Prestige PRLP 193)」をカップリングした12インチLPで、曲の流れも秀逸な構成が魅力の1枚です――

 A-1 Autumn Nocturne (1954年11月9日録音)
 A-2 Soft Shoe (1954年1月20日録音)
 A-3 Confab In Tempo (1954年1月20日録音)
 A-4 I'll Take Romance (1954年1月20日録音)
 A-5 Wisteria (1954年1月20日録音)
 B-1 I've Never Been In Love Before (1954年11月9日録音)
 B-2 I Walk Alone (1954年11月9日録音)
 B-3 Gone With The Wind (1954年11月9日録音)
 B-4 Alone Together (1954年11月9日録音)
 B-5 Preamp (1954年11月9日録音)

1954年1月20日録音:10インチ盤「Art Farmer (Prestige PRLP 177)」
 メンバーはアート・ファーマー(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、ホレス・シルバー(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds) というハードバップど真ん中のクインテット!
 ウキウキするような「Soft Shoe」は暑苦しいまでに迫力のソニー・ロリンズに対し、軽妙な歌心が素敵なアート・ファーマーというコントラストが最高です。ホレス・シルバーも独特のシンコペーションが冴えまくりで、明らかにビバップからハードバップへと進化する名演じゃないでしょうか。
 またアップテンポで勢いのある「Confab In Tempo」では迫力のグイノリというソニー・ロリンズ、負けじとツッコミで頑張るアート・ファーマーも素晴らしいと思いますが、強力なリズム隊も多いに魅力♪
 そのあたりは有名な歌物スタンダードの「I'll Take Romance」でも顕著で、この曲はチェット・ベイカー(tp) の名演も残されているのですが、のびやかなアート・ファーマーのアドリブは決して劣るものではありませんし、そういう結果も力強いリズム隊のサポートがあればこそだと思います。ホレス・シルバー、最高! ピアノのアドリブからラストテーマでアート・ファーマーが出てくるところ、さらにラストのアンサンブルには、本当にグッときますねぇ~♪
 そしてアート・ファーマーが如何にも「らしい」本領を発揮したのが「Wisteria」です。あぁ、このスローで歌いあげるテーマメロディの素晴らしさ♪ てっきりスタンダード曲かと思ったら、アート・ファーマーのオリジナルだったんですねぇ~~~♪ ホレス・シルバーも弱いと言われがちなバラード演奏では出色のアドリブで、完全に隠れ名演のひとつになっています。

1954年11月9日録音:10インチ盤「Art Farmer Quartet (Prestige PRLP 193)」
 こちらのメンバーはアート・ファーマー(tp) 以下、ウイントン・ケリー(p)、アディソン・ファーマー(b)、ハービー・ラヴェル(ds) という些かシブイ人選ですが、ワンホーン編成ということで、これも充実したセッションになっています。
 まずはアルバムのド頭に置かれた「Autumn Nocturne」が、もう曲タイトルどおりに今の季節にジャストミートという畢生の名演! もちろんクロード・ソーンヒル楽団によるお馴染みの甘美なメロディを、アート・ファーマーがその資質を全開させた感涙の吹奏です♪ LP再編集に、これをトップに置いたのが充分に納得されると思います。
 こうした歌物の上手さは「I've Never Been In Love Before」の爽やかでスマートな表現、あるいは慎み深い「Alone Together」での深淵な歌心にも顕著ですが、これもハードバップのひとつの側面じゃないでしょうか? 黒人ジャズならではの粘っこいグルーヴが根底にあってこそのメロディ優先主義というか、ジャズって本当に良いですねぇ♪ 特に「Alone Together」ではウイントン・ケリーのアドリブにも「歌」がいっぱいで、短いのが本当に残念なほどです。
 そのあたりは完全にシンミリモードの「I Walk Alone」、逆にド迫力な「Gone With The Wind」でも同じで、アート・ファーマーとウイントン・ケリーは常にメロディを大切にしつつも、力強い表現を忘れていません。どちらかと言えば、あまりスイングしないアディソン・ファーマーのペースも、このセッションでは結果オーライというか、重心の低いグルーヴの源になっているようです。
 こうしてオーラスの「Preamp」に至れば、そこはファンキーなハードバップのブルース大会♪ 粘っこくスイングするウイントン・ケリーに導かれ、アート・ファーマーがカッコ良すぎるテーマリフ、そしてツボを押さえたアドリブを披露してくれます。もちろん幾分タテノリのリズム隊もハードな雰囲気で、バタバタしたハービー・ラヴェルのドラムスも良い感じ♪ ウイントン・ケリーも大ハッスルです。

ということで、どちらのセッションでもアート・ファーマーが絶好調! 特に11月のワンホーン演奏は秀逸だと思います。極限すればこのアルバムは、後に確立されるアート・ファーマーの魅力が既に完成されたトラックばかりですから、実は裏の最高傑作かもしれません。

サポートメンバーも全く手抜きの無い好演で、特にウイントン・ケリーは兵役を終えて第一線に復帰した直後とあって、あの飛び跳ねグルーヴを出しまくり♪ またホレス・シルバーも、これしかないの個性的なシンコペーションで、モダンジャズの新しい世界を開かんとしていますから、両ピアニストの熱演には、思わずハッとさせられる瞬間が多々あります。

10インチ盤LPの再収録ということからでしょうか、ほとんど名盤扱いもしてもらえないアルバムですが、なかなかの秀作として私は愛聴しています。

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チェット・ベイカーの地獄の楽園

2008-11-15 12:28:24 | Jazz

You Can't Go Home Again / Chet Baker (Horizon / A & M)

フュージョン全盛期の1977年に発売された、全くそれにどっぷりというチェット・ベイカーのアルバムです。それは人気トランペッターの宿命、あるいは商業主義の表れと、今日では様々に受け取られていますが、少なくともリアルタイムではジャズ喫茶の人気盤になっていました。

録音は1977年2&5月、メンバーはチェット・ベイカー(tp) 以下、マイケル・ブレッカー(ts)、ヒューバート・ロウズ(fl)、ポール・デスモンド(as)、ケニー・バロン(el-p)、リッチー・バイラーク(el-p,key)、ジョン・スコフィールド(g)、ロン・カーター(b)、アル・ジョンソン(el-b)、トニー・ウィリアムス(ds)、ラルフ・マクドナルド(per)、そしてブラス&ストリングスが付くのは「お約束」で、こんな豪華な面々を集めたプロデュースとアレンジはドン・セベスキーが担当しています――

A-1 Love For Sale
 コール・ポーターが書いた有名スタンダードを思いっきりフュージョンさせた演奏です。まず初っ端からグビグビのエレキベースにチャカポコのエレキギター、重たいシンバルがゴッタ煮のビートを提示し、不安なストリングスが入ってくる中でチェット・ベイカーとマイケル・ブレッカーが思わせぶりに原曲メロディを吹奏していきます。
 そしてサビからは一転して快適な4ビートのグルーヴとなり、またまたフュージョンビートに逆戻りしては、マイケル・ブレッカーが当時はこれしかなかった典型的なクロスオーバーのアドリブを出しまくりです。もちろんこれがリアルタイムではカッコ良さの極致であり、途中でちょいとだけ出てくる4ビートのパートには、なにかと批判されていたフュージョン派の溜飲が下がる思いだったのです。
 しかしチェット・ベイカーは周囲の思惑なんか関係ねぇ~、という自己主張で、かなりハードなフレーズを使ったアドリブです。なんかバックでゴチャゴチャやっているリズム隊が哀れになるほどなんですよねぇ……。もちろん4ビートの部分では十八番の歌心♪
 気になるジョン・スコフィールドは適度なアウト感覚と細い音色で、ちょっと英国産プログレみたいなアドリブが賛否両論でしょう。トニー・ウィリアムスもライフタイムっぽいドラミングで応戦していますから、個人的にはこの部分が一番気に入っているんですが……。
 極限すれば、非常に醜悪な演奏だと思います。この様々な思惑が入り混じった重い雰囲気……。終盤にはロン・カーターとアル・ジョンソンの「生」対「エレキ」のペース対決までもが用意されているというサービスの良さが、私にとっては、決して潔いとは言えません!

A-2 Un Poco Loco
 そしてこれが、またまたヘヴィなロック&ハードバップです。いきなり出てくるのが、ドカドカうるさいトニー・ウィリアムスのドラムスですからねぇ~。もちろんこれは、パド・パウエル対マックス・ローチという、モダンジャズ史上に残る名演の今日的な解釈だったんでしょうが……。
 アドリブパートではジョン・スコフィールドがプログレっほいロックジャズの雰囲気で、ここは大好きです♪ しかしキメのリフを挟んでマイケル・ブレッカーが登場してくるあたりから、演奏は混迷して……。トニー・ウィリアムスが必死のドラミングもマイケル・ブレッカーの猛烈なアドリブソロにお手上げ状態……。まあ、このあたりが如何にもジャズの瞬間芸と言えば、それまでなんですが……。
 こうしたお膳立てがあって、いよいよお待ちかねのチェット・ベイカーは、幾分ハスキーな音色で勿体ぶったアドリブを演じてしまいますから、リズム隊も急に新主流派に逆戻り! ロン・カーターのペースが、なかなか良い感じですねぇ。
 ただし続くトニー・ウィリアムスのドラムソロは、賛否両論……。

B-1 You Can't Go Home Again
 という、どーでもいいようなA面を通過して裏返したB面初っ端で、これぞっ、チェット・ベイカーという桃源郷に辿り着きます♪
 曲はドン・セベスキーが書いた、とろけるように甘いスローなメロディが最高♪ しかもそれをポール・デスモンドのクールなアルトサックスと幽玄なストリングが彩るんですから、たまりません。ドン・セベスキーとケニー・バロンが弾く2台のエレピも心地良く、またロン・カーターのペースが実に全体を纏めているという、何度聴いても飽きませんねぇ~~~♪
 アドリブパートも全てが「歌」というチェット・ベイカー、畢生の美メロしか出さないポール・デスモンド! もうこれは奇跡の名曲・名演だと個人的には愛聴してやみません。このトラックがあるからこそ、A面の暴虐も許せるのです。

B-2 El Morro
 そして続くのが、これまたドン・セベスキーが書いたスパニッシュ&メキシコ系モードを使った哀切滲む名曲です。ヒューバート・ローズのフルートがテーマをリードし、またジワッと出てくるチェット・ベイカーが味わい深いところなんですが、その後の演奏はテンポアップして爽快なパートに突入!、当然ながら、ここではマイケル・ブレッカーが大暴れするのです。
 しかしそれは、あくまでもチェット・ベイカーが登場する露払いでしかありません。全盛期に比べれば、明らかに苦しそうな音の出し方、あるいはフレーズに窮して思わせぶりを演じてしまうところさえも、実に味わい深いチェット・ベイカーの存在感は、なんとも言えません。決して名演ではありませんが、何かを超越したクールな雰囲気の醸し出しかたには、グッときます。
 バックの面々も、そのあたりを大切にした熱演での盛り上げが、実に美しいですねぇ~。ただの「お仕事」を演じた気抜けのフュージョンとは大いに違うところだと思います。

ということで、賛否両論のアルバムでしょう。私にしてもA面なんてほとんど自発的に聴くこともありません。逆にB面は、それこそ擦り切れるほど、です! その意味ではCDによる鑑賞が向いているのかもしれません。つまりブッ通して聴くと、地獄から楽園へ一気通貫というわけです。

ちなみに当時のチェット・ベイカーは悪いクスリの常習から逃れられず、稼いだ金もほとんどがそれに溶けていたそうですが、演奏だけは意外としっかりしていたようです。それはこのアルバムジャケットの荒んだ肖像と中身の充実度でも明らか……。

そのあたりは本人も自覚していたらしいのですが、悪いクスリのために演奏をやるというのは、やりきれない思いを禁じえません。その意味で、タイトル曲の素晴らしすぎる出来が、いっそう悲しくなるのでした……。

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セロニアス・モンクの独り言

2008-11-14 12:14:45 | Jazz

Thelonious Himself / Thelonious Monk (Riverside)

ジャズ入門に最も適さないミュージャンがセロニアス・モンクだと言われていますが、私は最初に聞いたのがチャーリー・ラウズ(ts) が入ったバンド演奏、確かニューポートでのライブ盤だったので、それほどの違和感もありませんでした。

というか、これは後で知ったのですが、所謂ニューロックやサイケロックをやっていたロック系のプレイヤーはセロニアス・モンクからの影響が相当にあったそうで、ジャズを本格的に聴き始める前の私は当然ながら、そうした流行りのロックに親しんでいたのですから、実際にセロニアス・モンクを聞いたところでの拒否反応は無かったのでしょう。

ところが本日の1枚には仰天というか、はっきり言えば最初、呆れました。

演奏はセロニアス・モンクのソロピアノが主体ですが、その訥弁スタイルで聞かされるスタンダード曲やオリジナルの連続には、??? 正直に告白すれば、とてもプロのピアニストとは思えなかったのです。ところが、それが妙に心にひっかかるんですねぇ……。

録音は1957年4月5&16日、セロニアス・モンクのソロピアノに加えて1曲だけ、ジョン・コルトレーン(ts)、ウイルバー・ウェア(b) が加わったバンド演奏になっています――

 A-1 April In Paris / バリの四月 (1957年4月16日録音)
 A-2 A Ghost Of A Chance With You (1957年4月5日録音)
 A-3 Functional (1957年4月16日録音)
 A-4 I'm Getting Sentimental Over You (1957年4月16日録音)
 B-1 I Should Care (1957年4月5日録音)
 B-2 'Round Midnight (1957年4月5日録音)
 B-3 All Alone (1957年4月16日録音)
 B-4 Monk's Mood (1957年4月16日録音)

――という演目は有名スタンダード曲に自身不滅のジャズオリジナルですから、耳に馴染みのメロディというのが、まずミソではないでしょうか。

そういう素材を、例えば「パリの四月」なんて原曲のエレガントな味わいよりは孤独の春、みたいな表現です。ピアノの練習といって、誰も疑わない感じまでします。しかし、その間合いの絶妙さが、モダンジャズにどっぷりの既成概念の裏を返した心地良さというか♪

同じく「A Ghost Of A Chance With You」では、拙いとしか言いようのないセロニアス・モンクのピアノタッチが失恋の絶望を、せつせつと綴るのですから、これは確信犯なんでしょうねぇ。いや、そう思うことも出来ないほどに妙な感動が滲みます。

そのあたりの微妙な部分は「I'm Getting Sentimental Over You」でも、超スローなテンポの中でジンワリとした表現と異様な緊張感の同居となっています。この思わせぶりな味わいは、もう絶対ですねっ。

さらに「I Should Care」では、ますますアブナイ雰囲気が横溢! この曲はパド・パウエルの幻想的な大名演が決定版でしょうが、このセロニアス・モンクのソロピアノこそが最高! とする評論家の先生方や愛好者も大勢いるのですから、告白すれば最初は全く賛同出来なかった私にしても、何度か聴くうちに、あぁ、そうだったのか!? と今は納得するしかない極北のジャズピアノだと思います。

そして気になるセロニアス・モンクのオリジナル曲、特に「'Round Midnight」は、あのマイルス・デイビスの有名バージョンをさらに煮詰めたような孤独感とクールな味わいが流石です。原曲メロディが既に良く知られていることを逆手にとったような端折りとか、思わせぶりな「間」の取り方、絶妙のフェイクと装飾フレーズの使い方は、作者だけに許される世界かもしれません。

こうした中には、もちろん不協和音やズレたようなビート感がいっぱいです。しかしそれは、合っていないからこその快感というか、そうした魅力はモダンジャズの奥儀なのでしょうか? 実はそういう部分は、なにもセロニアス・モンクだけではなく、他のジャズメンだって多かれ少なかれ使っている技法なんですが、それはあくまでも「隠し味」なんだと思います。

しかしセロニアス・モンクは、このソロピアノ演奏集で、そのスパイスだけで勝負したというのが真相じゃないでしょうか? もちろんこれは、私の独善的な思い込みです。

実際のライブステージではガンガンにアグレッシブなバンド演奏の合間に、こうしたスタンダード曲のソロピアノを入れるのが定番の構成だったわけですが、当時の観客はそれをタネ明かしと楽しんでいたのでしょうか?

そのあたりはオーラスに置かれたバンド演奏の「Monk's Mood」で逆の証明になっているのかもしれません。その静謐なメロディを真摯に吹奏するジョン・コルトレーンの硬質なテナーサックスからは、後年の「Naima」にも通じるハードボイルドな愛情表現が感じられ、それもセロニアス・モンクという最高のスパイスがあってこその完成度だと思います。

しかしそれにしても1957年の時点で、こんなソロピアノ集を出してしまった会社側の英断は凄いですねぇ。もちろんアート・テイタムとか、所謂超絶テクニック派のピアニストだったら自然に納得してしまうのですが、その対極にあるセロニアス・モンクとあっては!!!?

リアルタイムではどれだけの売上があったかは不明ながら、プロデューサーのオリン・キープニュースは恐るべし! ちなみにセロニアス・モンクには1954年にフランスのレーベル「ヴォーグ」が企画制作したソロピアノ集が既にありましたが、それはアメリカ国内では未発売でしたから、その素晴らしさをもう一度という思惑も当然、あったはずですが……。

これが成功作となったのは、後にもソロピアノ集のアルバムが作られたことでも明らかですし、「モンクはソロピアノが一番」という定説までが残されたのですから、やはり凄いことです。

ちなみにサイケおやじは必ずしもその説には賛同していません。「モンクは伴奏こそが最高」と思いこんでいるほどです。

しかしそれでも、今はこのアルバムは大好きです。聴く度にジャズの奥深さと素晴らしさを大いに痛感するのでした。

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ブッカー・アーヴィンのクドイ料理

2008-11-13 11:49:35 | Jazz

Cookin' / Booker Ervin (Savoy)

例えばラーメンにも、あっさり味からギトギトのコテコテ系があるように、モダンジャズのテナーサックスではブッカー・アーヴィンあたりは、背脂がいっぱい入った太麺の大盛りって感じでしょうか。

ちょうどアルバムタイトルも、それに因んだような人気盤が、これです。

ご存じのように、ブッカー・アーヴィンは所謂テキサステナーの正統を受け継ぎながらも、コルトレーン&ロリンズの両派からの深い影響が感じられる個性的な存在ですから、その特徴的な投げっ放しのバックドロップみたいなスタイルは好き嫌いがあるでしょう。

しかし一度虜になると、中毒症状も覚悟せねばならない魅力があります。そしいてもちろん、そういう個性派ですから、誰かのバンドに雇われるというよりも、自分のリーダーセッションで実力を発揮出来るタイプでしょう。実際、ブッカー・アーヴィンを雇って、きちんと役割を与えていたのは、チャールズ・ミンガスという怖い親分ぐらいでした。

さて、このアルバムはブッカー・アーヴィンのリーダー盤としては、多分2枚目となる人気作♪ 録音は1960年11月26日、メンバーはリチャード・ウィリアムス(tp)、ブッカー・アーヴィン(ts)、ホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、ダニー・リッチモンド(ds) という重量級の面々です――

A-1 Dee Da Do
 ブッカー・アーヴィンのオリジナルながら、この重たいビートはジャズメッセンジャーズの「Blues March」を作り返したようでもあり、ここに参加のピアニストであるホレス・パーランが主導したような、あの世界です♪
 つまりギトギトで真っ黒なハードバップのブルース大会なんですねぇ~♪ もちろんゴスペルムードも濃すぎるほどですから、まずはガンガンに足踏みしたようなリズム隊に気分が高揚してしまいます。
 ブッカー・アーヴィンもグイノリに吹きまくるフレーズはクドイ! その一言が全てですし、リチャード・ウィリアムスはリー・モーガンのパロディみたいなツッコミが多くて、思わずニンマリ♪
 そしてやっぱり、リズム隊の重量感が凄いですねぇ~。闇夜を揺るがすようなジョージ・タッカーのペースはアドリブソロも怖さがいっぱいですし、ホレス・パーランのひねくれたようなゴスペルムード、どっしり構えてグサリとオカズをいれてくるダニー・リッチモンド!
 こんなグドイ世界もモダンジャズに必要だと、嬉しくなってしまう演奏です。

A-2 Mr. Wiggles
 そしてこれがまた強烈に突進しまくった演奏です。
 テーマはシンプルなリフだけなんですが、ダニー・リッチモンドのドラミングに凄い勢いがあり、ジョージ・タッカーも容赦無い煽りのウォーキングを響かせますから、ブッカー・アーヴィンも直線的に全力疾走するしかありません。
 このあたりは同時期に雇われていたチャールズ・ミンガスのバンドでは、連日のようにやっていた展開でしょうが、途中で仕掛けが無い分だけストレートな表現に徹したここでのバンドは、単純な興奮度が高くて潔い感じです。
 もちろんポレス・パーランやリチャード・ウィリアムスも手抜き無し! さらにダニー・リッチモンドがシンバルとハイハットの至芸、そしてゴリ押しドラミングの真髄を聞かせてくれます。

A-3 You Don't Know What Love Is
 一転して有名なスタンダード曲のダークな名演♪
 ソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンの決定的な名演が残されているがゆえに、ここでのブッカー・アーヴィンも神妙ですが、決して臆することのない自分なりの表現に徹したテナーサックスは、なかなかに魅力的です。
 ハードな音色の低音域と上滑りしたようなヒステリックなフレーズの混合は、正直いって好き嫌いが十人十色でしょうが、このバラード演奏に関しては、ハードボイルドな雰囲気が高くて、私は好きです。
 濁ったような気だるさを醸し出すリズム隊の助演も見事ですが、思わずエリック・ドルフィーが登場しそうな雰囲気も、それは言わないのが「お約束」でしょうね♪ ゴリゴリしたジョージ・タッカーのペースにも惹かれます。

B-1 Down In The Dumps
 まるっきりキャノンボール・アダレイのバンドが演じそうな、ゴスペルファンキーなムードがたまりません。ゴリ押しのリズム隊が、それに拍車をかけているようです。
 ブッカー・アーヴィンも、そのあたりを察したような熱いアドリブで、ダニー・リッチモンドの煽りにも当然の如く応じて、結果オーライ♪ するとホレス・パーランがボビー・ティモンズを演じてしまうんですねぇ~。これで良いのか!? 良いんでしょうねぇ~♪ リチャード・ウィリアムスが誰かさんに似てしまうのも、許せますよ。 

B-2 Well, Well
 ドロドロにスローなブルースの世界で、ウスターソースの澱のような濃厚で辛味のキツイ演奏です。初っ端から蠢くリズム隊のグルーヴには、本当に胸やけしそう……。しかしこれが、ホレス・パーランの真骨頂! あぁ、思わずイエェェェ~~、と歓喜悶絶です。
 肝心のブッカー・アーヴィンも粘っこいフレーズの積み重ねとヒステリックな泣き叫び、そして未練を残したような表現が秀逸ですし、思わせぶりなドライファンキーというリチャード・ウィリアムスも流石の輝き♪ 要所で鋭いツッコミを入れるジョージ・タッカーにも、グッときます。

B-3 Autumn Leaves / 枯葉
 オーラスは、まるでサービスのような嬉しい名曲の、こってりバージョン♪ 中華メロディみたいなイントロのアンサンブルからガサツなテーマの演奏が、なんとも言えないジャズっぽさです。
 アドリブパート先発のリチャード・ウィリアムスは当然のようにミュートですが、決してマイルス・デイビスみたいな繊細な感覚ではなく、あくまでもハードバップの勢いを大切にした潔さが良い感じ♪
 またブッカー・アーヴィンも歌心よりは、その場の熱気を重んじた直截的な表現に徹し、ガツガツと煽りまくるリズム隊との共犯関係を鮮明にしています。
 う~ん、それにしてもダニー・リッチモンドのガサツな雰囲気のドラミングは、ブッカー・アーヴィンにはジャストミートですねぇ~~♪ アップテンポで、これだけ荒っぽい雰囲気になっているのに、破綻した展開にならないのは流石だと思います。

ということで、思いっきりアクが強い演奏ばかりですから、夏場には敬遠気味でしょうが、寒さに近い涼しい今の季節には美味しいんじゃないでしょうか。哀愁とかセンチメンタルな気分とは程遠い、頑固一徹な雰囲気も濃厚ですが、それも親分のチャールズ・ミンガスから受け継いだ伝統の味かもしれませんね。

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アンドリュー・ヒルの出発点

2008-11-12 12:24:02 | Jazz

Point Of Departure / Andrew Hill (Blue Note)

我が国では誰が名付けたのか、「黒い情念」と呼ばれるアンドリュー・ヒル! それゆえに怖いイメージから聞かず嫌いの代表選手かもしれません。しかし現実的に、とっつきにくいピアニストであることは確かですね……。

そのスタイルはセロニアス・モンクの新主流派的展開というのも感違い気味ではありますが、とにかく一風変わったリズミックな曲作りとピアノの使い方が印象的です。そしてアドリブパートはフリーやモードのゴッタ煮ながら、意外にも聴き易い面があって、これが実に正統派モダンジャズの醍醐味に溢れているのです。

ちなみにアンドリュー・ヒルはハイチ生まれのシカゴ育ちで、1950年代からレコーディングも残していますが、ジャズ界で本格的に注目されたのは1963年にブルーノートと契約し、評論家の先生方が絶賛の「Black Fire」を翌年に発売してからでしょう。

そしてこのアルバムはブルーノートでは4枚目となる、これも強烈な傑作で、録音は1964年3月31日、メンバーはアンドリュー・ヒル(p,arr) 以下、ケニー・ドーハム(tp)、エリック・ドルフィー(as,bcl,fl)、ジョー・ヘンダーソン(ts,fl)、リチャード・デイビス(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という凄すぎる実力者が揃っています。ちなみに演目は全てがアンドリュー・ヒルのオリジナル――

A-1 Refuge
 いきなりトニー・ウィリアムスが十八番の三連ビート、そして幾何学的で混濁したテーマメロディの合奏という衝撃のスタートから、アンドリュー・ヒルの暗中模索のアドリブという、思わず唸るしかない演奏です。
 しかしこれがジャズ喫茶の暗い空間、あるいは「鑑賞音楽としてのジャズ」という観念の中では、一際の輝きを放ってしまうんですねぇ~。
 それは続くエリック・ドルフィーの激情のアルトサックス、ケニー・ドーハムの反イブシ銀なトランペット、強靭なバネで空間を切り裂くリチャード・デイビスのペースソロ、さらに地獄に仏というジョー・ヘンダーソンのテナーサックス! とにかく泥沼の中から自由を求めて飛翔していくようなアドリブが凄い勢いで展開されていきます。
 そして当時まだ18歳だったトニー・ウィリアムスのドラミングは、あのパルスピートのシンバルワークから瞬発力満点のオカズ入れ、そして爆発的なドラムソロと感涙の極みです!
 もちろんメンバー全員の演奏は、これだけ過激なスタイルながら、決して4ビートの芯を外さないものですから、絶妙の安心感がニクイところです。

A-2 New Monastery
 曲タイトル、そしてそのメロディからして、セロニアス・モンクに捧げた演奏なのが納得されます。微妙に縦ノリの4ビートも「らしい」ですねぇ♪
 アドリブパートでは、まずケニー・ドーハムがビバップのアングラ性を蘇らせたような幾何学的なソロを演じれば、エリック・ドルフィは空間時空を自在に行きかう悶絶アルトサックス!
 ですからアンドリュー・ヒルもセロニアス・モンクに対する忌憚のない心情吐露に徹しています。さらに煮詰まったようなジョー・ヘンダーソンの悪あがきも、ここでは結果オーライでしょう。
 演奏はこの後、リチャード・デイビスの独白とトニー・ウィリアムスの短いドラムソロがあって終焉を迎えますが、個人的には、こういう演奏こそLP片面の長さで聴きたいという我儘を覚えます。
 
B-1 Spectrum
 ワルツピートから変拍子、もちろん正統派4ビートまでがゴッタ煮となった変態リズムの演奏ですが、こういう曲展開はトニー・ウィリアムスという天才が参加してこそ可能となったと思わざるをえません。
 実際、ギョッとするようなオカズを入れるアンドリュー・ヒルの暴言に耐えながらバスクラリネットで咆哮するエリック・ドルフィーのヒステリックなところ、あるいはホーン陣が好き勝手に絡み合うところ、またブッ飛びすぎたリチャード・デイビスのペースソロと続くアドリブパートの怖さは異端の様式美です。
 それゆえに大団円で再び登場するエリック・ドルフィーのアルトサックスから放出される妙な安らぎ、虚無的なケニー・ドーハムのミュート、アンサンブルで聞かれるドルフィー&ジョーヘン組のフルートが愛おしくなったりします。
 まあ、このあたりは文章よりは実際に聴いていただくのが一番なんですが、それにしてもトニー・ウィリアムスのドラミングは「天才」としか言えませんねっ♪

B-2 Flight 19
 このアルバムの中では、おそらく、一番聴き易い演奏でしょう。
 早い4ビートで演じられるアンドリュー・ヒルのアドリブソロを中心にホーン陣が手の込んだアンサンブルのリフを入れ、トニー・ウィリアムスが白熱のドラミングを聞かせてくれます。
 ただしリチャード・デイビスのペースワークが一筋縄ではいかない雰囲気ですから、やっはり疲れてしまうという……。

B-3 Dedication
 オーラスは緩いテンポの混濁曲で、一抹の哀愁というか、ちょっと翳ったような和声の使い方は、素人には解釈不能かもしれません。
 その中でエリック・ドルフィーのバスクラリネットが諦観滲む好演ですし、アンドリュー・ヒルのピアノは独善的な美意識に拘り、ジャズの深淵な闇を覗いてしまった感じでしょうか……。
 このあたりは現代ではネクラとか、オタクとか、もう死語に近い表現かもしれませんが、つまりは時代遅れの独り言みたいな演奏です。しかし、それすらもジャズが一番の勢いに満ちていた時代の証明として不滅のような気がするのでした。

ということで、結局は難解な作品のような書き方になってしまいましたが、実際に聴いてみれば実にストレートなジャズの楽しみが、そこにあるのです。このあたりがアンドリュー・ヒルの魅力というか、プロデューサーのアルフレッド・ライオンが見染めた理由かもしれません。

なにしろ契約直後から短期間に連続してレコーディングセッションを敢行し、前述の「Black Fire」から商業主義とは無縁の先進的なアルバムを発売していったのは、これぞブルーノートの底力だと思います。

アンドリュー・ヒルは、その特異な音楽性・芸風からして結局はブレイクしないで終わった感じの人ですが、隠れファンの多さも異常なほどです。また共演者もセッションに参加すると必ずや刺激を受けたと言われ、ここではケニー・ドーハムというベテランが、決して場違いではない熱演を披露しているのを筆頭に、全員が自己のベストバウトじゃないでしょうか。

なかなか購入する勇気が出ないアルバムではありますが、ジャズ喫茶では常備盤ですから、リクエストには絶好かと思います。

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デトロイトから来た凄い奴ら

2008-11-11 12:23:49 | Jazz

Jazzmen Detroit (Savoy)

デトロイトといえば一般的には自動車産業の都市かもしれませんが、今日では音楽の聖地のひとつとなった感もありますね。

例えば1960年代から大ブームとなった所謂モータウンサウンドと呼ばれるR&Bヒットの数々は永遠に不滅でしょう。そしてジャズの世界にも、デトロイトからニューヨークに出てきて大活躍した名手が大勢いるのです。

このアルバムはそうしたブームを逸早くとらえたタイトルどおりの企画セッションで、メンバーはペッパー・アダムス(bs)、ケニー・バレル(g)、トミー・フラナガン(p)、ポール・チェンバース(b)、ケニー・クラーク(ds) という凄い面々! ただしケニー・クラークだけはデトロイト出身ではなく、しかし当時のサボイのジャズ部門では現場監督的な仕事をやっていましたから、ここでの起用となったのでしょう。まあ、これがエルビン・ジョーンズなら完璧だったんですが、それは言わないのが美しい仕来たりということでしょうね。そのあたり事情から、表ジャケットにはケニー・クラークが登場していないのですから。

ちなみに録音は1956年4月30日&5月9日とされていますが、これはトミー・フラナガンやケニー・バレルにすれば、ニューヨークへ出てきて間もない時期のセッションながら、その演奏は既に超一級の輝きに満ちています――

A-1 Afternoon In Paris (1956年5月9日録音)
 ジョン・ルイスが書いたジェントルな名曲ですから、ここでのソフトタッチの演奏もあたりまえかもしれませんが、個人的には参加したメンツからして、ちょっと意表を突かれた感じです。なにせアルバムのド頭ですからねぇ。
 まずケニー・バレルが意外な感じの小技でテーマをリードし、ペッパー・アダムスのバリトンサックスがそれを補足するアレンジが、なんとなくMJQののムードをハードバップに転換したような……。ケニー・クラークのブラシがさもありなんのムードを増幅させています。
 しかしアドリブパートに入っては、トミー・フラナガンが持ち前の粋なセンスとメロディ優先主義のフレーズ作りで好演♪ するとケニー・バレルもソフトな歌心で続きますから、グッと惹きつけられます。
 このあたりは例えばホレス・シルバーやアート・ブレイキーが推進していたファンキー&ハードドライブな路線とは、一味違ったモダンジャズの快感でしょうねぇ~。
 ですから日頃は白人らしからぬゴリゴリ節のペッパー・アダムスも、微妙に抑制の効いたバリトンサックスがなかなかに良い感じ♪ ミディアムテンポのグルーヴを強靭に支えるポール・チェンバースも自然体です。

A-2 You Turned The Table On Me (1956年5月9日録音)
 トミー・フラナガンの軽快なイントロに導かれ、洒落たアレンジの合奏からペッパー・アダムスが気負いの無いアドリブを聞かせれば、ケニー・バレルは十八番の「節」を出し惜しみしない熱演を披露します。
 このあたりはメンツ的な興味からブリブリのハードバップを期待するとハズレますが、トミー・フラナガンの素晴らしいピアノタッチと歌心が完全融合した日常的な奇跡が楽しめますから、結果オーライ♪
 ポール・チェンバースのベースソロも若さに似合わぬ老獪な味わいがニクイほどですし、全体をビシッと締めるケニー・クラークのスティックは言わずもがなでしょう。

A-3 Apothegm (1956年5月9日録音)
 ポール・チェンバースのグイノリウォーキングから如何にもというテーマメロディは、ペッパー・アダムスの白人らしい感性の作曲ですが、アドリブパートに入るとグッとハードな雰囲気になるのが面白い演奏です。
 ただし曲そのものがあまり冴えない所為か、いずれのメンバーもアドリブに腐心しているというか……。

B-1 Your Host (1956年4月30日録音)
 これもペッパー・アダムスのオリジナル曲ですが、憂いの滲む雰囲気がなかなか琴線に触れますし、力強いミディアムスローのグルーヴもあって、ちょっとシブイんですが、なんとも言えないモダンジャズの快感に酔わされてしまいます。
 特にトミー・フラナガンのミステリアスでソフトな情感が溢れ出たアドリブは秀逸! 流石だと思います。

B-2 Cottontail (1956年4月30日録音)
 デューク・エリントンが書いた、ジャムセッションには最適という景気のよい名曲で、このアルバムの中では特に熱気溢れる演奏になっています。初っ端からいきなり咆哮するペッパー・アダムスのバリトンサックスが、まず最高ですねぇ~。
 アドリブパートでもケニー・バレルとペッパー・アダムスの掛け合いにはゾクゾクさせられますし、珠玉の「トミフラ節」しか出さないトミー・フラナガンの名手の証には最敬礼♪ また些か趣味の良くないポール・チェンバースのアルコ弾きのアドリブも、全体の熱気の中では許せるんじゃないでしょうか。
 
B-3 Tom's Thumb (1956年4月30日録音)
 ケニー・バレルが得意技を出しまくったオリジナルのブルースですから、ハード&グルーヴィなテーマとグイノリのビートにはハードバップの魅力がいっぱい♪
 そしてトミー・フラナガンが素晴らしすぎるアドリブでソフトな黒っぽさを全開させれば、ペッパー・アダムスはブリブリゴリゴリの咆哮でバリトンサックスの醍醐味を堪能させてくれますが、このあたりのムードを完全にとらえたヴァン・ゲルダーの録音技術は、シンバルやベースの響きも鮮やかで力強く、やはり「ハードバップの音」は、これだっ! と痛感させられると思います。

ということで、A面はジェントルサイド、B面はハードバップサイドというアナログ盤ならではの構成もニクイですね。決して名盤ではありませんし、ジャズ喫茶の人気盤でもないでしょうが、やはりハードバップ好きには堪えられないアルバムでしょう。そのハードエッジな録音からはセッション全体の雰囲気の良さが溢れ出てくるという、まさに1956年のニューヨーク&デトロイトの「モダンジャズな音」が楽しめるのでした。

そしてやはりモーターシティをイメージしたジャケットのデザインも、賛否両論の楽しさが横溢しています。

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