OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

パット・マルティーノの初リーダー盤

2008-11-10 15:29:13 | Jazz

El Hombre / Mat Martino (Prestige)

一時、私はいろんなミュージャンの初リーダー物を集めた前科があります。というのも、誰が言ったか、「作家は処女作に収斂する」という事実に影響を受けたからで、これがなかなかに面白い収集でした。

当然、中には後年の巨匠がトホホを演じていたり、あるいはハッとするほど鮮烈なデビューだった新人が末路を誤っていたり……。人生の機微とは大袈裟かもしれませんが、ホロ苦くて喜びに満ちた生き様からは共感を覚えることが多いという意義もありました。

さて、本日の1枚は、超絶のテクニックと飽くなき自己探求というスーパーギタリストのパット・マルティーノが、1968年頃に出した初リーダーアルバムです。

録音は1967年5月1日、メンバーはパット・マルティーノ(g)、トゥルーディ・ピッツ(org)、ミッチ・ファイン(ds)、アブドゥー・ジョンソン(per)、ヴァンス・アンダーソン(per)、ダニー・ターナー(fl) いう些かシブイ面々です――

A-1 Waltz For Geri
 タイトルどおり、ワルツビートで演じられたパット・マルティーノのオリジナル曲で、まずはテンションの高い6/8を敲くミッチ・ファインのタイトなドラムスがたまりません。
 もちろんパット・マルティーノはミステリアスな味わいも深いテーマメロディから無限の広がりを描くアドリブソロが、単にジャズばかりではなくロック系のフレーズやソウルグルーヴまで感じさせる音使いで最高♪ 正統派ジャズギターの音色を大切にするピッキングの上手さも驚異的ですし、的確な運指のコンビネーションも鉄壁ですから、呆気にとられているうちに演奏は終わってしまうのですねぇ~。
 もちろんアドリブフレーズには同時期のジョージ・ペンソンと共通するところも確かにありますが、これは時代の要請と流れというものかと思います。

A-2 Once I Loved
 カルロス・ジョビン作曲の有名なメロディをボサロックに仕立てた、如何にもサイケおやじ好みの演奏で、甘さを含んだパット・マルティーノのギターの音色、そしてラウンジ色が強いトゥルーディ・ピッツのオルガンに和んでしまいます。
 もちろんパット・マルティーノのアドリブフレーズは歌心を増幅させる早弾きフレーズが心地良く、オクターブ奏法の使い方も琴線に触れまくり♪
 このあたりは当然ながらウェス・モンゴメリーの二番煎じではありますが、パット・マルティーノ本人はウェス・モンゴメリーを敬愛してやまず、またウェス・モンゴメリーもパット・マルティーノを可愛がっていたそうですから、さもありなんの帰結でしょうね。ですから実にハートウォームな演奏も納得出来ると思います。
 最後の最後で十八番の早弾きフレーズを出してしまうところには、思わずニンマリですよっ♪

A-3 El Hombre
 アルバムタイトル曲は、これもパット・マルティーノのオリジナルで、極めてロック色が強いワルツビートが印象的! そして演奏が進むにつれ、そこに4&8ビートまでもがゴッタ煮状態となって、凄すぎるギターのアドリブを強烈に煽りますから、激ヤバです。
 ミッチ・ファインとトゥルーディ・ピッツが作りだすグルーヴは本当に強烈ですねぇ~。ベースの不在がちっとも気になりませんから、これは本物でしょうねっ♪ ダニー・タナーのフルートソロが短いのは残念ですが。

A-4 Cisco
 一応は4ビートの演奏ですが、なんとなく疑似ジャズロックっぽいビートが好ましく、パット・マルティーノが書いたオリジナルのテーマメロディからアドリブの雰囲気は、何となく日活ニューアクションの劇伴サントラの世界が嬉しいところ♪ 、ダニー・ターナーのフルートも効果的です。 
 そしてパット・マルティーノのギターが激しくストレッチアウトすれば、ミッチ・ファインのドラムスが重いビートで応戦、トゥルーディ・ピッツのオルガンも刺激的な伴奏に終始しているのでした。

B-1 One For Rose
 これは正統派&新主流派というモダンジャズ演奏の決定版! 早い4ビートで演じられるテーマ合奏はフルートとギターのユニゾンも鮮やかで、そのまま突入するアドリブパートではダニー・ターナーのフルートが本領発揮♪ この人はあまり有名ではありませんが、カウント・ベイシー楽団のレギュラーも務めた実績があり、パット・マルティーノとはジャック・マクダフ(org) のバンドで共演もしている実力派です。
 そしてパット・マルティーノのギターが物凄いです! これでもかの早弾きフレーズとテンションの高いキメ、さらに鉄壁のリズム感から放出される嵐のようなアドリブは天下無敵といって過言ではありません。
 絶句して実に爽快! 

B-2 A Blues For Mickey-O
 パーカッションのチャカポコなビートが楽しいグルーヴに支えられ、バンドはジャズ&ブルースの世界を求めて彷徨いますが、これが実にインストを聴く喜びです、パット・マルティーノが黒っぽさよりはノリの良さを追求したフレーズで勝負すれば、ここで初めて本格的なアドリブソロを披露するトゥルーディ・ピッツは、当たりまえだのクラッカーのようなオルガンスイングのお手本を聞かせてくれます。
 ちなみにこの人は黒人女性オルガン奏者として、決してガイド本に登場するような名手ではありませんが、クールビューティなお姉さん系のルックスとは逆に、相当にエグイ音使いが得意♪ ですから隠れファンも多いんじゃないでしょうか? 私は大好きです。気になるルックスは賀川雪絵が黒人になった感じと思ってくださいませ♪
 
B-3 Just Friends
 オーラスはお馴染みのスタンダード曲がアップテンポで演じられるという「お約束」の中で、パット・マルティーノが持ち前のテクニックと歌心を存分に発揮した名演です。ただしギターのマシンガンフレーズは安らぎが無いと思う皆様もいらっしゃるでしょうねぇ。まあ、それほど息をもつかせぬアドリブソロだということなんですが……。
 トゥルーディ・ピッツも些か危なっかしいところをスリルに転換させる裏ワザがニクイほどですし、きちんとした4ビートをスマートに演じるバンドの潔さも大切と感じさせられます。

ということで、パット・マルティーノはこの初リーダー盤より以前にセッションメンバーとしてソウルジャズ系のレコーディングを行っていましたから、ここまでモダンジャズの正統に拘ったスタイルは本人の意向が強かったと思われます。

そして既に十八番のフレーズは完成されていますし、アドリブだけでなく、バックキングもなかなか上手く、またギターそのものの音色を大切するあたりは、相当なテクニシャンの証明でしょう。

もちろんパット・マルティーノには、これよりも凄いアルバムや演奏がどっさりありますから、何も「初リーダー作」に拘泥する必要もないのですが、やはり捨て難い魅力があると思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アート・ペッパーの当たり前の奇跡

2008-11-09 12:32:16 | Jazz

The Marty Paich Quartet featuring Art Pepper (Tampa)

説明不要、ジャズ史に厳然と屹立する大名盤ですねっ、これは!

ですから、我が国でもアナログ時代から再発盤が出ていましたので、私も入手した瞬間から、毎日のように聴いていた1枚です。そしてCD時代になっても早い時期から店頭に並んでいたはずですが、もちろん残念ながら、オリジナルに比べると「音」的に物足りなかったのは言わずもがなです。

しかし当然、オリジナル盤は入手が非常に困難ですから、私はじっと我慢の子でした……。それが昨夜、フラフラと入ったCD屋で紙ジャケ仕様のリマスター再発盤を発見し、結局は買ってしまったのですが、これがまあまあの仕上がりでした。

録音は1956年というアート・ペッパー(as) の全盛期♪ 他にマーティ・ペイチ(p)、バディ・クラーク(b)、フランク・キャップ(ds) という素晴らしいリズム隊が参加しています。しかし実はこれ、マーティ・ペイチのリーダー盤なんですよね。なんか申し訳ないような気分ですが、ついついニンマリです――

01 (A-1) What's Right For You
 一応は職業作家が書いたスタンダード曲みたいですが、なかなかグルーヴィなリズム隊とアート・ペッパーのハードボイルドなアルトサックスがズバリと急所を刺激してくる名演です。気の利いたヘッドアレンジはマーティ・ペイチによるものでしょうか、なかなか良い感じですねぇ~♪
 ただひとつ贅沢を言わせてもらえば、ペッパーのひとり舞台に終始して、フェードアウトして終わることでしょうか……。しかし名作アルバム全体の導入部としては、結果オーライかもしれません。 

02 (A-2) You And Night And The Music / あなたと夜と音楽と
 そして始まる名曲名演の決定版! もう、これしかないのアレンジが素敵なイントロからアート・ペッパーでしかありえないという、絶妙に歌いまわされたテーマメロディの快感は唯一無二ですねぇ~~~♪ この浮遊感、このメロディフェイク、そして思わせぶりに泣きじゃくるアドリブ♪ まさに聴かずに死ねるか! ですよ。
 またテキパキとしたマーティ・ペイチのピアノ、タイトなドラムスとベースのコンビネーションも素晴らしく、白人ジャズの典型にして完成形でしょうね。

03 (A-3) Sidewinder
 もちろんリー・モーガンの大ヒットとは同名異曲というスマートなノリとメロディの妙が、まさにアート・ペッパーの世界として存分に楽しめます。アップテンポでタイトにスイングしていくリズム隊と紆余曲折も快感に繋げていく「ペッパー節」は、演奏時間の短さが残念至極です。

04 (A-4) Abstrct
 前曲のムードを継承したようなスピーディで「泣き」の入ったテーマメロディから流麗な「ペッパー節」に繋がるという黄金律の名演が、たまりません♪
 これも短い演奏ですが、充分な説得力は最高ですねっ♪

05 (A-5) Over The Rainbow
 これまたアート・ペッパーの名演として極みつきの演奏です。曲はもちろん、誰もが知っている素敵なメロディですが、アート・ペッパーの思わせぶりなフェイクに酔わされ、ツボを押さえたマーティ・ペイチのアレンジもイヤミではなく、素直な気持ちでジャズを聴く喜びに溢れていると思います。
 ちなみにこのリマスター盤でも、このトラックでは随所にマスターテープの傷みが出ていますが、過去の再発盤の中では上手く処理された方かと思います。これに立腹していたら、バチがあたるんじゃないでしょうか。

06 (B-1) All The Things You Are
 有名スタンダードのビバップ的解釈としてモダンジャズでは定番ですが、このバージョンも名演のひとつでしょう。躍動的なイントロから絶妙の歌いましを聞かせるアート・ペッパー♪ もう心が踊って腰が浮きます。
 思わせぶりの極北ともいうべきブレイクから展開されるアドリブパートも無駄な音やフレーズはひとつもない、まさに宝石箱ですし、揺るぎないスイング感を弾き出すリズム隊の素晴らしさも特筆ものでしょう。
 ちなみにドラマーのフランク・キャップは当時から1970年代まで、スタジオセッションでもトップをとっていた名手ですから、このセッションでの力演も当たり前ですが、それにしても躍動的でメリハリの効いたドラミングは流石だと思います。

07 (B-2) Pitfall
 これも躍動的な白人モダンジャズの真髄ともいうべき名演で、テーマメロディもアドリブも全てが「ペッパー節」の大洪水です♪ 仄かなラテンビートが潜む4ビートのグルーヴも心地良く、ゾクゾクするようなブレイクからトキメキのアドリブを展開するアート・ペッパーには完全降伏するしかありません。
 またここでもフランク・キャップのドラミングが冴えまくり! ワザとらしいファンキーフレーズを用いるマーティ・ペイチにも微笑むしかないでしょうね。

08 (B-3) Melancholy Madeline
 ほとんど有名でないスタンダード曲らしいですが、まるっきりアート・ペッパーのために書かれたようなセンチメンタルなメロディ、それを幾分ネクラな雰囲気でフェイクしていくアート・ペッパーの素晴らしさっ♪♪~♪
 ミディアムテンポで力強いリズム隊のグルーヴも申し分なく、本当に、なんという演奏だと感動する他はありません。全篇、「泣き」と「煌めき」ばかりの、アート・ペッパーの隠れ名演のひとつだと思います。

09 (B-4) Marty's Blues
 オーラスはタイトルどおりに、なんとも白人ジャズのブルース大会ですからファンキー味は期待薄なんですが、アート・ペッパーが吹いてこその素晴らしさが横溢しています。
 マーティ・ペイチも健闘していますが、やはり主役はアート・ペッパーという締め括りに相応しい演奏なのでした。

ということで、内容は全くノー文句の名演集です。気になるリマスターも既に述べたようになかなか秀逸で、日本プレスのアナログ盤のような「音のぼやけ」も解消され、またこれまでのCDよりはマスターテープのヒスノイズや傷みが上手く処理されていると感じます。

このあたりはオリジナル盤を所有していないので、仔細な検証は無理ですから、あくまでも私個人の感想ではありますが、それにしても私は何枚、この再発盤を買えば気が済むのでしょうか……。

まあ、それはそれとして、アート・ペッパー全盛期の演奏には素直に酔わされてしまいますね。ジャズが好きになって良かったと思えるアルバムのひとつだと思います。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

チャーリー・マリアーノのモノクロフィーリング

2008-11-08 13:23:30 | Jazz

Charlie Mariano (Bethlehem)

ジャズメンは本来、カッコイイ人が多いですね。本日の主役たるチャーリー・マリアーノもそのひとりです。とにかくスマートなルックスと音楽性が一体となった存在感は、白人アルトサックス奏者の中でもピカイチじゃないでしょうか。

そのあたりはアート・ペッパーと比較して云々される事も多いわけですが、アート・ペッパーが陰影豊かな感性を人生の美意識にまで高めていたのとは対照的に、チャーリー・マリアーノはスポーツカーでブッ飛ばし、美女とのあれこれ、さらに爽快で甘酸っぱいような青春の熱情というか、所謂「若大将シリーズ」みたいな演奏に思えます。

もちろんチャーリー・マリアーノにしても、後には東洋哲学やロック&モードジャズに染まった、些か思索的な演奏にも手を出していますが、1950年代の純正モダンジャズ期に残した録音は、どれも普遍の素晴らしさに満ちていて、私は大好き♪ 本日の1枚は我が国でも「チャーリー・マリアーノの真髄」という邦題で発売されたほどの人気盤です。

録音は1955年6月、メンバーはチャーリー・マリアーノ(as) 以下、ジョン・ウィリアムス(p)、マックス・ベネット(b)、メル・ルイス(ds) という強力なリズム隊を従えたワンホーンの魅力がいっぱい――

A-1 Johnny One Note
 躍動的なリズム隊に導かれ、如何にも白人らしいノリが痛快なチャーリー・マリアーノのアルトにシビレます。テーマが終わってアドリブに入る瞬間のノケゾリ「パーカーフレーズ」も最高ですねぇ~♪ ここを聴いただけで、このアルバムは間違い無い! と確信するほどです。
 そしてスピードのついたアドリブパートの爽快感! このあたりは同じパーカー派のフィル・ウッズと比べると、より直線的にスポーツライクですし、やはり同曲を演じているジャッキー・マクリーンよりもスマートなムードが、実に良い感じです。
 また私の大好きなピアニストのジョン・ウィリアムスが、ここでの快演をはじめ、全篇で素晴らしく、もちろん弾みの効いた伴奏も聞き逃せません。
 
A-2 The Very Thought Of You
 ドリス・デイのヒット曲として有名なメロディを、ここでのチャーリー・マリアーノは幾分早いテンポで、そして白人らしい軽やかなグルーヴで聞かせてくれます。とにかくテーマメロディの歌い回しからして、スマートな感性がモダンジャズの情熱と見事にリンクしていると思います。
 淡々としていながら力強いリズム隊の存在感も強く、ジョン・ウィリアムスが歌心満点のピアノですから、嬉しくなりますねぇ~。マックス・ベネットのベースも的確です。

A-3 Smoke Get In Your Eyes / 煙が目にしみる
 お馴染みの哀愁のメロディがチャーリー・マリアーノの手になれば、仄かな甘さとせつなさが同居した青春の香りとなるのですから、たまりません。最初からテーマメロディを上手くフェイクしてアドリブしていくジャズそのものの感性も見事だと思います。このブル~ス味の付け方が、本当に何とも言えないんですよねぇ~~♪

A-4 King Of A Day
 あまり有名ではないスタンダードみたいですが、ちょっとマイナー調が入った曲とチャーリー・マリアーノが独自の楽想が見事に一致した名演になっています。
 躍動的なリズム隊は、当時のスタン・ケントン楽団で同期のメル・ルイス&マックス・ベネットが要となり、ジョン・ウィリアムスの飛び跳ねグルーヴも最高潮ですし、まさに息もぴったり! クライマックスのソロチェンジになれば、もうワクワク感がいっぱいですよっ♪
 ですからチャーリー・マリアーノも心おきなくトキメキのパーカーフレーズを連続射出し、自らの気持ちに素直な演奏を作り出しているようです。

B-1 Darn That Dream
 B面とはいえ、ド頭にこんな甘いスローバラードを入れさせてしまったほどの素敵な演奏です。もちろんここでも、最初っから原曲メロディをフェイクしてアドリブに繋げていくチャーリー・マリアーノの得意技が全開♪
 だんだんと力強さを増していくリズム隊も堅実な助演が素晴らしく、決して甘さに流されない心意気が素晴らしいと思います。

B-2 Floormat
 チャーリー・マリアーノの楽しいオリジナル曲で、ミディアムテンポの弾んだスイング感が、まず最高です。このあたりのグルーヴは本当に白人バンドでしか出せないムードでしょうね。ハードバップは必ずしも黒人の演奏だけが優れているのではないという証明かもしれません。明らかに縦のベクトルが強いノリですが、これもまた気持ちが良いジャズ独特のものだと思います。
 う~ん、リズム隊が最高♪ ですからチャーリー・マリアーノが幾分、凝り過ぎのアドリブに走っても、最後まで楽しく聴くことが出来るのでした。

B-3 Blues
 そのものズバリの曲タイトル、そしてグルーヴィにジャズとブルースを追求するバンドは些か様式美に陥っています。しかしここでもジョン・ウィリアムスがファンキーな味わいを上手く醸し出していますから、ギリギリで結果オーライでしょう。
 ただしチャーリー・マリアーノの取り組み方は真剣そのものですから、よりストレートな楽しみ方が出来るでしょう。私は、かなり気に入っている演奏です。中盤以降のスピードアップしたパートが素直で良いですねっ♪

B-4 I Heard You Cried Last Night
 軽快なテンポで演じられる楽しいモダンジャズの典型♪ 原曲はスタンダードの歌物だと思われますが、チャーリー・マリアーノはパーカーフレーズを要所でキメに用いながら、ストレートな歌心を披露して好感が持てます。
 そしてここでもジョン・ウィリアムスが本領発揮♪ 本当にゴキゲンですよ。

ということで、白人アルトサックスとしてはアート・ペッパーあたりがお気に入りだと、ここでのチャーリー・マリアーノには物足りなさを感じるかもしれません。しかし独特の甘さとかスマートな感性は、やっぱり魅力があります。

ジャズの歴史の刻まれたアルバムでは決してありませんが、こういう演奏がジャズ喫茶には必需品でしたし、そこで聞かされて一発で気にいり、店を出てからはレコード屋へ足が向いてしまうのは、こうした作品の常でした。

黒地でモノクロ写真を使ったジャケットも、暗いジャズ喫茶では逆に効果的だったのかもしれません。

ちなみにチャーリー・マリアーノは同レーベルにもう1枚、3管編成の名盤「Charlie Mariano Plays」を吹き込んでいますが、これもモノクロのジャケットが演奏共々に素敵でしたねぇ♪

う~ん、チャーリー・マリアーノにはモノクロが良く似合う!? そう、これは良質のモノクロ映画のようなアルバムかもしれません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラリー・ヤングのあの手この手

2008-11-07 12:06:03 | Soul Jazz

Larry Young's Fuel (Arista)

ラリー・ヤングという名前に対し、妙に胸騒ぎを覚えるのは私だけでしょうか。

なにしろこの人は黒人ジャズオルガンの正統を継ぐと思いきや、実は1960年代には「オルガンのコルトレーン」と称される過激盤を作り、マイルス・デイビスに呼ばれて「Bitches Brew (Columbia)」のセッションに参加! さらにはトニー・ウィリアムス&ジョン・マクラフリンと結託してライフタイムというバンドを作り、ロックジャズをやらかした揚句にジミ・ヘンドリックスと伝説のレコーディングまでも残しているのですからっ!

つまり優れたジャズの素養がありながら、決して一筋縄ではいかないというか、普通(?)のジャズプレイヤーとは一味違った演奏に徹していた感じです。ある意味では頑固、それゆえに世渡りもイマイチ、上手くなかった雰囲気も濃厚で、私はそのあたりにも惹かれるのですが……。

さて、このアルバムは、そんなラリー・ヤングが1975年頃に発表した久々のリーダー盤♪ 折からのクロスオーバー&フュージョンブームの中で、全くそのとおりの受け取られ方をした1枚ですが、それまでの活動歴からして、決して流行に便乗したと、私は思っていません。

メンバーはラリー・ヤング(el-p,org,ke,vo) 以下、サンチャゴ・ソラーノ(g)、フェルナンド・ソーンダース(el-b,b)、ロヴ・ゴットフリード(ds,per)、ローラ・ローガン(vo) という布陣です――

A-1 Fuel For The Fire
 緩いテンポでビシバシのドラムス、浮遊するエレピ、そして牝猫の鳴き声のようなボーカルスキャットから一転して突進するジャズファンクの世界が始まります。
 ラリー・ヤングはグチャグチャのシンセと感覚的なエレピを主体にアドリブを弾きまくり、ブリブリに蠢くエレキベースとタイトな16ビートのドラムス、また宇宙遊泳したようなコーラスとボーカルスキャットが快感を増幅させていきますから、サイケおやじには本当にたまらん世界です。
 つまり決してジャズファン万人には許されざる演奏でしょう。それゆえにリアルタイムの我が国では、それほどウケたという話は聞きませんでしたが、ここ最近のクラブDJ達からは必需品とされているのは、さもありなんです。

A-2 I Ching
 これまた弾みまくったグルーヴが痛快な演奏で、エレキベースとドラムスのコンビネーションが最高! ラリー・ヤングも各種キーボードでブッ飛びの音を作り出し、ギターも過激な隠し味を聞かせてくれます。
 全くこのあたりは、ハービー・ハンコックも顔色無しだと思うのですが、そんな比較をされること自体が、ラリー・ヤングのポジションを象徴している感じです……。

A-3 Turn Off The Light
 今や蠢きファンクの聖典となった名演でしょう。すてばちな歌い方が素敵なローラ・ローガンにテンションの高いツッコミを入れるラリー・ヤング♪ ジョー・ザビヌルはこれを聴いていたのでしょうか? ベースやドラムスの雰囲気も含めて、天気予報が聞きたくなります。
 まあ、それはそれとして、だんだんとセクシー度を強めていく歌と演奏の一体感は素晴らしく、自然に体が揺れてしまうのでした。
 灯りを消して、私に愛を♪♪~♪

B-1 Folating
 カントリーロックがファンクしたような、ちょっと妙な心持ちになれる演奏です。もちろんラリー・ヤングは各種キーボードをダビングした音作りをやっていますが、ドラムスとベースのグルーヴは、あくまでも自然体ですから、それほどイヤミではないでしょう。
 ただしこういうシンプルなノリはイノセントなジャズファンには我慢ならないでしょうね。フュージョンが忌嫌われる要素がいっぱいです。しかしそれにしてもこれも天気予報の世界で、ついついウェイン・ショーターが出てきそうな錯覚に……。

B-2 H + J = B (Hustle + Jam = Bread)
 なかなかにジャズっぽい演奏で、往年のラリー・ヤングに一番近い感じですが、ビシバシの16ビートが強烈ですし、こちらが喜ぶようなフレーズをなかなか弾いてくれないエレピのアドリブにはヤキモキさせられます。
 このあたりは意図的なんでしょうね、その分だけリズムとビートを楽しんで欲しいというか……。そしてキメはここでも天気予報になっています。

B-3 People Do Be Funny
 前曲に続いてタイトにスタートするのが、この楽しくてユルユルなファンク♪ どこかしらネジがゆるんだような演奏は、曲タイトルどおりに「おかしくなってしまえばE~」という雰囲気がいっぱいなんですぇ~。
 これでいいのか? いや、これでいいんです♪
 という感じに揺れてしまうのでした。

B-4 New York Electric Street Music
 ラリー・ヤング自らが歌いまくるニューヨーク賛歌で、タイトルどおりに元祖ストリートファンクかもしれません。熱いリズムギターとテンションの高いキーボード、手加減しないベースとドラムス!
 ラリー・ヤングの歌は決して上手くありませんし、メロディだって面白くないでしょうが、このビートの嵐の中では正解という感じで、サイケおやじにも許容範囲です。ある時期の吉田美奈子とか、こういうスタイルは好きなんですよ、私は♪
 ただし普通のクロスオーバー、例えばテーマがあってアドリブがあって、またテーマに戻るとかのジャズ色を求めるとハズレるでしょう……。このあたりがウケ無い理由だと思われます。

ということで、ラリー・ヤングだから許してしまったアルバムかもしれません。他のキーボード奏者がこんなんやったら、雑食性の私にしてもスルーしたのは確実です。

その意味で、この作品中に頻出するキーボードのキメがジョー・ザビヌルと一脈通じた感じなのは要注意かもしれません。

ちなみにアリスタでは次に「Spaceball」というアルバムも残していますが、そちらはラリー・コリエルとかレイ・ゴメスという人気ギタリストもゲスト参加していますから、より正統派フュージョンっぽい仕上がりなのが、個人的に面白くありません。

つまり、あまりにも真っ当に近くなったわけですから、このアルバムの孤立した状況が、なおさらに愛おしいのでした。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フレディの黒い天使

2008-11-06 12:07:55 | Jazz

The Black Angel / Freddie Hubbard (Atlantic)

ウイントン・マルサリス登場より以前、一番アグレッシブに活動していたトランペッターはフレディ・ハバードでしょう。

そのスタイルはハードバップからモードやフリー、もちろんジャズロックからクロスオーバー&フュージョンと何でもござれ! しかも1960年代の公民権運動や反戦活動、あるいはロック革命あたりまでも背景としたアルバム作りは、時として節操が無いとか迎合主義と批判されるほどでした。

しかし発売されたアルバム群は、現在でも聴きごたえたっぷりの力作が多く、もちろん過激でありながらジャズ本来の楽しさや快楽性も大切にした基本姿勢は不変で、本日の1枚は代表作かもしれません。

まず、このブラックスプロイテーションなジャケットが最高ですねっ♪

メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ジェームズ・スポールディング(as,fl)、ケニー・バロン(el-p,p)、レジー・ワークマン(b)、ルイス・ヘイズ(ds)、パタート・バルデス(per) という、これは当時のレギュラーバンドのようです。ちなみに録音データはジャケットに記載がありませんが、発売されたのは1970年である事から、おそらく1968年頃の演奏だと思われます――

A-1 Spacetrack
 いきなり幻想的なケニー・バロンのエレピ、さらにテンションの高いドラムスの切り込み、激しく咆哮するトランペットに呻くアルトサックス、おまけに独善的なベースが好き勝手に自己主張する導入部を聴いていると先が不安になりますが、やがて断片的に出るカッコ良いテーマリフや壮大なアフリカのようなメロディ、さらに猛烈スピードの突進ドライブがやってきますから、後はもう演奏の流れに身をまかせ♪
 渾身の全力疾走で十八番のフレーズを連発するフレディ・ハバード、そこへ執拗に絡んでくるジェームズ・スポールディング、ルイス・ヘイズのシャープなドラミングも最高です。しかも所々に多重録音やエコーマシンのような小賢しい技も使われていますが、それがちっとも気にならないんですねぇ~♪
 それはバンド全員の意思統一とヤル気が物凄いからでしょう。
 ケニー・バロンのエレピも最高に良い感じですし、何時までも独善的な態度を崩さないレジー・ワークマンにも、逆に好感が持てます。
 あぁ、これが1970年の音なんですねよねっ♪
 けっこうスピーカーと真剣に対峙する必要に迫られますが、強制的というよりは自主的に、という雰囲気は、現代でも十分に通用すると思います。

A-2 Eclipse
 幻想的で素敵に和んでしまうフレディ・ハバードのオリジナル曲です。ハートウォームなトランペットを彩るジェームズ・スポールディングのフルートも良いですねぇ~~♪
 またリズム隊も好演で、ギリギリのいやらしさというケニー・バロンのピアノ、自在に蠢きながらもビートの芯を外さないレジー・ワークマンのペース、さらにルイス・ヘイズのブラシはポリリズムの真髄を感じさせてくれます。
 そしてもちろんフレディ・ハバードは新主流派の存在意義を旗幟鮮明にした真摯な吹奏♪ 

B-1 The Black Angel
 ラテンビートを使ったケニー・バロンのオリジナル曲で、モードでも楽しい曲と演奏は出来ますよ、という決意表明です。
 ジェームズ・スポールディングのフルートは些か緊張気味ですが、パタート・バルデスのパーカッションが快楽的ですし、フレディ・ハバードの硬軟バランスのとれた姿勢がありますから、結果オーライでしょう。
 それにしてもケニー・バロンはツボを押さえるのが上手いですねっ♪

B-2 Gittin' Down
 そしてついに出たっ! フレディ・ハバードが十八番の快楽ジャズロック♪ ケニー・バロンのエレピも雰囲気満点です。しかし相当に頑固なレジー・ワークマンのペースが硬派な姿勢ですから、決してぬるま湯ではありません。
 ジェームズ・スポールディングのアルトサックスも意地っぱりなところを聞かせてくれますし、ルイス・ヘイズも凡百なロックビートは敲いておらず、フレディ・ハバードは嬉しくなるほどの熱血を迸らせています。
 またケニー・バロンが、もう最高ですっ! エレピの楽しさを活かしきった伴奏の合の手♪ 白熱のアドリブソロも時間が短すぎて、悔しいほどですねぇ。

B-3 Coral Keys
 これもフレディ・ハバードがライブステージでは定番演目にしていたボサロックの人気曲♪ ですから、ここでの纏まりの良い演奏はジャズの快楽そのものです。あぁ、ハートウォームなフレディ・ハバードを激しく煽るリズム隊とのコンビネーションが、本当にたまりません♪
 またジェームズ・スポールディングがフルートで登場すると、その場は完全に当時のブラックシネマの劇伴サントラの世界です。ケニー・バロンとパタート・バルデスの存在も楽しい限りですし、レジー・ワークマンのペースも強い印象を残します。

ということで、当時最前線のジャズが楽しめます。それは些か先進的で過激なA面と快楽主義のB面という、アナログ盤の特性を活かした構成にも明らかで、こういう部分はCDで通して聴くと些か楽しみが薄れるんじゃないでしょうか。

A面で力いっぱいテンションを上げ、B面で和むという、つまりはレコード盤をひっくり返して針を落とす「儀式」があってこそ、最高に楽しめる作品だと思います。

如何にも当時というジャケットも素敵ですし、アナログ盤でもこのあたりのブツは安いはずですから、ぜひっ!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マルサリスは伝統芸能か!?

2008-11-05 11:59:02 | Jazz

Wynton Marsalis (Columbia)

現代ジャズ界では最高のトランペッターとなったウイントン・マルサリスを私が初めて見たというか、聴いたのは1981年夏に田園コロシアムで開催された「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」というイベントでした。

実はこの日のステージではサンタナがハービー・ハンコックやトニー・ウィリアムスと共演バンドを組んで登場というのが、私のお目当てだったのですが、その宣伝広告にもウイントン・マルサリスの名前があったか、否か……。

つまり全く眼中に無い存在でした。

ところが実際のステージは二部構成で、なんとハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスという黄金のリズム隊をバックにウイントン・マルサリスがワンホーンで爽快に4ビートを吹きまくったのです。しかもそれが物凄い勢いで、怖い3人組と真っ向勝負の熱演でした。

ちなみに当時のジャズマスコミでは、ウイントン・マルサリスを驚異の新人とかクリフォード・ブラウンの再来とか、これまでにも散々使い古された言葉で賞賛していたのですが、もちろん私は信じていませんでしたから、まあ無視も当たり前というか……。それが――!!

そして同年末に出たのが、このアルバムです。もちろん初リーダー盤で、なんと夏に来日した時に敢行されたスタジオセッションも含まれていたのです。

録音は1981年7&8月、メンバーはウイントン・マルサリス(tp)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という疑似VSOPが東京録音、そしてケニー・カークランド(p)、クラレンス・シー(b)、チャールズ・ファンブロウ(b)、ジェフ・ワッツ(ds) というリズム隊がニューヨーク録音で、さらに実兄のブランフォード・マルサリス(ts,ss) が要所で加わっています――

A-1 Father Time (1981年8月、ニューヨークで録音)
 思わせぶりなイントロからドカドカうるさいドラムスが入り、そのまんまミステリアスなテーマが始まるところは、完全に1960年代後半の雰囲気が横溢した新主流派の響きで嬉しくなりますね♪
 演奏メンバーは当時、ウイントン・マルサリスが結成したばかりの自分のバンドで、ジェフ・ワッツのドラミングは小型トニー・ウィリアムスですし、ケニー・カークランドは疑似ハービー・ハンコック、クラレンス・シーは言わずもがなということで、明らかにVSOPを手本にしていることがわかりますが、こういうスタイルこそがモダンジャズの保守本流!
 その真正4ビートの渦の中で緩急自在に自己を表現するウイントン・マルサリスのトランペットは鋭くも温かみのあるモード節♪ またプランファード・マルサリスのテナーサックスは、これもウェイン・ショーターの影響下にある好ましいものですから、この1曲だけでフォージョンに飽きていたジャズファンは納得させれたのではないでしょうか。
 ただしウイントン・マルサリスが書いた曲そのものも含めて、コピーバンドと言われても反論は出来ませんね。それゆえに以降のこうしたスタイルは「新伝承派」と呼称されるのですが……。

A-2 I'll Be There When The Time Is Right (1981年8月、ニューヨークで録音)
 ハービー・ハンコックが書いた静謐なスロー曲で、短い場面転換という雰囲気ですが、良くコントロールされたウイントン・マルサリスのトランペット、そしてバンド全体の響きに緊張感があって感度良好♪

A-3 RJ (1981年7月、東京で録音)
 そして始まるのがロン・カーターの代表的なオリジナル! もちろんマイルス・デイビスが1965年に吹き込んだ名盤「E.S.P. (Columbia)」で演じられていた、あの曲ですから、ここでの痛快な演奏は、もはや義務でしょう。
 実際、ハーピー、ロン&トニーという当時を作った怖い先輩達に煽られ、そしてそれに臆せずにミュートで突進するウイントン・マルサリスには、怖いもの知らずの勢いが感じられます。またそれを強烈にプッシュするトニー・ウィリアムスも実に良いですねぇ。私のような者は血沸き肉踊る世界です♪
 またブランフォード・マルサリスもソプラノサックスで大健闘! もちろんウェイン・ショーターの代役という感は免れませんが、これはこれで結果オーライでしょう。
 それにしても完全な黒子に徹したハービー・ハンコックの物分かりの良さ♪

A-4 Eesitation (1981年7月、東京で録音)
 さらに続くこのアップテンポの快演には嬉しくなります。
 ロン・カーターの的確な4ビートウォーキングと幾分バタバタしたトニー・ウィリアムスのブラシがクールで熱く、それに気持ち良くノセられながらも実は対決姿勢を崩さないマルサリス兄弟のモード節が痛快至極!
 時代の変化というか、モードがさらに進化したような因数分解のフレーズに興じたトランペットとテナーサックス! これは新しいというよりも温故知新で、ジャズは素晴らしい伝統芸能だと認識させられました。

B-1 Sister Cheryl (1981年7月、東京で録音)
 トニー・ウィリアムスの人気オリジナル曲で、躍動的なビートを作り出すリズム隊と大らかなテーマメロディを演奏するマルサリス兄弟の潔さ! これがモダンジャズの懐かしくも普遍の響きとして、当時のジャズ喫茶では大ウケしていましたですね。
 ウイントン・マルサリスのアドリブもフレディ・ハバードやウディ・ショウあたりの偉大な先輩達を彷彿とさせながら、既に独自の味わいも確立させた素晴らしさ♪ またA面では縁の下の力持ちに徹していたハービー・ハンコックが、短いながらも閃きに満ちたピアノを聞かせれば、ブランフォード・マルサリスのソプラノサックスはウェイン・ショーターの世界を再現するという、完全にサイケおやじ好みの展開には、不覚にも涙するばかりです。

B-2 Who Can I Turn To (1981年7月、東京で録音)
 このアルバムでは唯一のスタンダード曲ですから、果たしてウイントン・マルサリスの歌心や如何に!?
 という興味深々なジャズ者の気持ちは、ウイントン・マルサリスの勿体ぶったテーマ吹奏で見事に満たされると思います。もちろんスローな出だしからグイノリのアドリブパート、リズム隊の見事すぎるサポート、特にハービー・ハンコックの上手さは流石でしょうね。
 思えばこのリズム隊が当時までは、こうしたスタンダード曲を演じるというのは滅多にないことでしたから、非常に嬉しいプレゼントでもありました。

B-3 Twilight (1981年8月、ニューヨークで録音)
 アルバムの締め括りは、ド頭と同じ雰囲気を継承したミステリアスな演奏で、当然ながら若手レギュラーバンドならではの意気込みが感じられます。ちなみにベースはチャールズ・ファンブロウに交替していますが、この人とウイントン・マルサリスは当時、ジャズメッセンジャーズのレギュラーメンバーでもありました。
 それは、ご存じのように、ウイントン・マルサリスが最初に注目されたのはアート・ブレイキーの薫陶によるところが大きく、こんな素晴らしいリーダー盤を作っていながらも仕事としてはジャズメッセンジャーズでの比重が大きかったのです。まあ、これは現実の厳しさでしょう。
 しかしこのアルバムの大ヒットによって翌年からはレギュラーバンドでのギグも増え、ついにはジャズ界の最前線に立つというわけです。

ということで、4ビートの救世主とまで崇められたウイントン・マルサリスのデビュー盤は、しかしコピーバンド的な趣も強い仕上がりです。ただし本人のトランペットの技巧、さらにジャズ的な感性は流石に素晴らしく、失礼ながら同時期に活動していた他の面々と比較すれば、ダントツの輝きは認めざるをえません。

ちなみに、このアルバムの東京セッションでは、前述の初来日イベントでのライブ主要演目がスタジオ録音で残され、アナログ盤2枚組LPとして発売されました。

そしてジャズの伝統芸能化は、このあたりから顕著になったのではないでしょうか?

私がジャズを本格的に聴き始めた頃、つまり1970年代初頭でも、往年の名盤を聴くことは古くても素晴らしいものに触れるという喜びがあった反面、例えばハードバップ全盛期の1950年代中頃の演奏については、こんな20年近くも前の演奏を素晴らしいなんて感じることに私は些かの疑問を抱き、面映ゆいものを感じていました。

それが今、このアルバムは既に発売から27年! この温故知新の喜びに浸ったあの日に帰ることも出来ません。ジャズも完全に伝統芸能になるわけですね……。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラウニーのラフファイト!

2008-11-04 13:46:32 | Jazz

Jam Session (EmArcy)

何事も「場」の雰囲気が大切というのは、どこの世界も変わらぬ真実だと思います。実際、最近では「空気読めない」とか、かなりサイケおやじにはキツイ言い方もあるほどです。

で、「場」の雰囲気によっては、日頃は冷静な者が我知らずに熱くなったり、思わぬ失態を演じたり、あるいは寡黙だと思われていた野暮天が熱血を見せたりして、これだから世の中は侮れませんね。

さて、このアルバムは、そんなこんなを痛切に感じさせてくれる1枚でしょう。もちろんタイトルどおり、腕に覚えのツワモノが集まってのアドリブ合戦というジャズの醍醐味が楽しめるのですが……。

録音は1954年8月14日、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、クラーク・テリー(tp)、メイナード・ファーガソン(tp)、ハーブ・ゲラー(as)、ハロルド・ランド(ts)、ジュニア・マンス(p)、リッチー・パウエル(p)、ジョージ・モロウ(b)、キーター・ベッツ(b)、マックス・ローチ(ds)、そしてダイナ・ワシントン(vo) という超豪華!

もちろんその中核は当時、西海岸で旗揚げし、本格的なスタジオレコーディングを始めたばかりのブラウン&ローチ・クインテットですから、たまりません。当然ながらここでのプロデュースも、彼等を担当していたボブ・シャッドであり、同じく契約のあった所属のスタアを参集させ、特別にお客さんも入れたスタジオライブ仕立の熱い演奏になっています――

A-1 What Is This Thing Called Love
 短いメンバー紹介から始まるのが、この有名スタンダード曲の熱血ハードバップ演奏で、もちろんジャムセッションならではの丁々発止が強烈です。ちなみにメンバー中にはベース奏者が2人いることになっていますが、ここではキーター・ベッツだけが参加しているようです。
 そしてマックス・ローチの躍動的なドラムスに導かれた快適な4ビートでの合奏が心地良く、最初に登場するトランペットがクラーク・テリーでしょう。ただしあまり持ち味が出ていないのは残念です。
 しかし続くハロルド・ランドが灰色のトーンでハートウォームな好演♪ バックで煽るマックス・ローチとのコンビネーションも最高ですねぇ~。確かに地味なところもありますが、それも持ち味でしょう。
 こうしていよいよ登場するのがクリフォード・ブラウン! もちろん華麗なフレーズとエキサイティングなノリを聞かせてくれます、と書きたいところなんですが、なんと珍しくも力みが目立ちます。う~ん、はっきり言って日頃は正統派のクリフォード・ブラウンがラフファイトをやってしまったというか……。ハイノートや長いフレーズでは息継ぎに苦しんだり、まあ、こういうところが人間的といえば、それまでなんですが……。
 それに続くハーブ・ゲラーは大ハッスルで、チャーリー・パーカーの白人的解釈としては最高級のアドリブを聞かせてくれます。
 演奏はこの後、ベースソロを経てメイナード・ファーガソンが十八番のハイノートを駆使した強烈なアドリブで存在感を示します。あぁ、あまりの凄さに眩暈がしそうな、いや、頭が痛くなりそうです。おまけにマックス・ローチがビートの芸術ともいうべきポリリズムのドラムソロで盛り上げてしまうんですから、一瞬の緩みもありません。スタジオに集まった観客からも大拍手♪
 さらに続けてリッチー・パウエルとジュニア・マンスのピアノ対決が用意されていて、完全に興奮させられますが、モノラルミックスということもあり、どっちがどっちなのか分からないのが悔しくもあり、そんなの関係ねぇ~! というハードバップ天国でもあるのでした。

A-2 Darn That Dream
 前曲の興奮を一転して心地良い余韻に変える和みの歌と演奏♪
 ここで登場するダイナ・ワシントンはジャズボーカリストというよりは、R&Bやスタンダード、そしてブルースも非常に上手い女性歌手で、当時の黒人大衆音楽の世界ではトップをとっていました。そしてその素晴らしい歌い回しは、後年のエスター・フィリップスやアレサ・フランクリンにも多大な影響を与えているほどです。
 また前半で活躍するハロルド・ランドのテナーサックスも味わい深く、ベースは恐らくキーター・ベッツでしょう。

B-1 Move
 B面最初もビバップの聖典曲を素材にしたハードバップのジャム大会♪ 激しいアップテンポで火花を散らすテーマ部分では、なんとマイルス・デイビスが「クールの誕生」で使っていたアレンジが部分的に流用されていますが、そういえばマックス・ローチはそのマイルス・デイビスのバージョンで敲いていましたからねぇ~。と、ひとりで納得しています。
 肝心のアドリブ合戦は、クラーク・テリーがいきなりの全力駆け足で、あのマーブルチョコレートのフレーズも出しまくった熱演ですが、つんのめったような勢いが微笑ましいというか、ベテランらしかぬ暴走にはニンマリしてしまいます。
 しかしハロルド・ランドは、常日頃からブラウン&ローチのバンドでこうしたテンポには慣れているのでしょうか、見事な纏まりですし、もちろんクリフォード・ブラウンは火の出るようなツッコミです。しかも途中でバランスを崩して失速し、誰かにイェ~、なんて煽られるという失態まで演じてくれるんですから、妙に嬉しくなってしまいますねぇ~♪
 ちなみにここでのペースはジョージ・モロウでしょうか、その熱血のペースソロからハーブ・ゲラーのアドリブに繋げていくところは、マックス・ローチの上手いサポートも流石だと思います。
 そしてメイナード・ファーガソンが猛烈なアップテンポにも臆することのない、ある意味では支離滅裂なトランペットで大奮戦! マックス・ローチの煽りも過激さを増し、ド迫力の爆裂ドラムソロが激ヤバですから、観客からはまたまたの拍手喝采! やっぱりドラマーはカッコイ「嵐を呼ぶ男」なんですねぇ~~~♪
 そしてこの後には、お待ちかねのピアノ対決がありますが、それにしてもリッチ・パウエルとジュニア・マンスはスタイルが酷似していますねぇ~。このあたりは素直に熱くなるのが得策でしょう、と逃げておきます♪

B-2 Medley
      My Funny Valentine
      Don't Warry 'Bout Me
      Bess, You Is My Woman Now
      It Might As Well Be Spring / 春の如く
 これはJATPあたりでもお馴染みのバラードメドレー♪
 「My Funny Valentine」はピアノトリオの演奏で、主役はジュニア・マンスでしょうか、オリジナルのメロディを大切にしながらも、ゴスペル味があったりして粋な感じです。
 続く「Don't Warry 'Bout Me」はクラーク・テリーが歌詞の意味を大切にしながら、笑いも取った名演で、持ち味を存分に発揮しています。クライマックスのハイノートは「お約束」でしょうね。
 そして「Bess, You Is My Woman Now」が、これまた素晴らしく、ハーブ・ゲラーの甘くて情熱的な、本当にカッコ良いアルトサックスにシビレます。歌心も最高ですねっ♪
 しかしさらに輝かしいのはクリフォード・ブラウンが十八番の「It Might As Well Be Spring」です。繊細にして優しさに満ちた歌心、丁寧に心情を綴るアドリブフレーズと音色の素晴らしさ♪ この曲はパリでの隠れセッションバージョンが有名ですが、ここでの演奏も必聴の大名演じゃないでしょうか。

ということで、個人的に一番の聴きどころが、やはりクリフォード・ブラウンの、それも珍しいラフファイトと締め括りの面目躍如です。特に「春の如く」は何時聴いても最高♪ やっぱりブラウニーは最高過ぎますねっ! 観客の口笛ビュービュー、大拍手も至極当然なのでした。

ちなみにこの時のセッションからは、ダイナ・ワシントンを主役にした「Dinah Jams」という、これも楽しく凄い名盤が作られていますから、これとセットで聴きたくなりますよ。うん、私もこれから出しますね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エロル・ガーナーで素直に和む

2008-11-03 11:13:59 | Jazz

Erroll Garner Plays Misty (Mercury)

これがジャズだと知らずに聞いていたメロディのひとつに、エロル・ガーナー作曲の「Misty」があります。おそらく誰もが一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか、この美しき夜のムードの名曲を。

私が初めて「Misty」を聴いたのは、黒人男性歌手のバージョンでしたが、残念ながらそのボーカリストの名前は失念しています。もちろんその時は、アメリカンポップスの大衆ヒットだと思っていたわけですが、しかし後年、作曲者が高名な黒人ジャズピアニストであり、もちろん自らのバージョンもヒットさせていたと知って、かなり驚きました。

何故ならば当時、中学生だった私は、黒人ジャズといえばジャズロックかファンキー、あるいはサイケロックと一脈通じるフリー&モード系の感じと思いこんでいたのですから! これがデイヴ・ブルーベックあたりだったら、さもありなんで済んだでしょう。

さて、このアルバムは、その名曲「Misty」の初演バージョンをウリにした人気盤♪ しかし決してアルバム単位の企画として録音制作されたものではなく、1940年代後半から1950年代中頃までのピアノトリオ演奏を中心に集めたものです。つまり以前にSPやEP、そして数枚のLPに収録されて発売済みの音源を再収録した、ある意味ではベスト盤だと思います。ちなみに発売されたのは1960年代初頭ではないでしょうか――

A-1 Misty (1954年7月27日録音)
 これが前置きで述べた名曲で、現在ではジャズを超えた周知のメロディでしょう。歌詞がついたボーカルバージョンも星の数ほどありますが、これが録音された当時にはメロディだけのトリオ演奏になっています。
 しかしアドリブなんか無いんですねぇ~~♪
 ゆったりとしたムードの中、魅惑のメロディを作者自らの思い入れで弾くピアノの素晴らしさ♪ まさに夜のムード、大人の時間ですね。わずか2分46秒の桃源郷が、たまらない世界です。
 ちなみにこの曲はクリント・イーストウッドが初監督作品で主演もこなした「恐怖のメロデイ(1971年)」のプロットにもなっていますが、私がエロル・ガーナーの自作自演バージョンを聴いたのは、そこが初めてでした。それまでは確かにエロル・ガーナーのピアノバージョンを聞いたこともありましたが、実はオーケストラをバックにした再演シングルバージョンだったのです。

A-2 Exactly Like You (1954年7月27日録音)
 ゆったりとしたテンポで和みのメロディフェイクを聞かせてくれるエロル・ガーナーは、しかし左手に特徴的な所謂「ビハインド・ザ・ビート」が絶妙のスパイスになっています。これはコードを4ビートで刻むという温故知新の得意技で、そのビート感が微妙に遅れているというか、極端なアフタービートというか、とにかくクセがあってヤミツキになりそうな魅力がジャズの面白いところでしょうねぇ。
 そしてエロル・ガーナーが本当に良いのは、アドリブパートさえもメロディを大切にしていることです。この演奏は、そうした良い面がじっくりと楽しめると思います。

A-3 You Are The Sunshine (1954年7月27日録音)
 さらにエロル・ガーナーが凄いのは、強烈なドライブ感を持っていることでしょう。この曲のように良く知られたメロディを強靭にスイングさせていくのは荒業といって過言ではないと思います。その力強いピアノタッチ、歯切れよく転がっては跳ねるフレーズの楽しさ、さらにフックの効いたアドリブフレーズの妙♪ 実に楽しい世界ですねっ♪
 しかしそのあたりの快楽性が、我が国のジャズ者からは軽視される要因でしょうか……。この名人ピアニストの諸作が、あまりジャズ喫茶じゃ鳴らないのは、そこいらの事情?

A-4 What Is Thing Called Love (1949年9月8日録音)
 これも良く知られたスタンダード曲ですから、左手のチョンチョンチョンチョンという4ビート、美メロ製造機ともいうべき右手の妙技が最高のバランスで楽しめます。

A-5 Frantenality (1946年4月9日録音)
 このアルバムの中では最も古い録音ですが、スイングもビバップも超越した楽しいピアノ演奏という本質は変わりません。
 共演のペースとドラムスは、あくまでもビートのキープだけが仕事という役割分担も、エロル・ガーナーには必要十分条件! 時期的にパド・パウエルようりも早くベースとドラムスを従えたピアノトリオを結成していた実績も、研究対象としての価値よりは、楽しさ追及の手段として正解じゃないでしょうか。
 ちなみに曲はエロル・ガーナーのオリジナルで、この哀愁路線も良い感じ♪

B-1 Again (1949年9月8日録音)
 ゆったとした美メロの世界は高級ホテルのカクテルラウンジという雰囲気♪ ここでもほとんどアドリブは出ませんが、メロディフェイクと上手すぎる装飾フレーズの至芸に酔わされます♪ 

B-2 Where Or When (1946年7月14日録音)
 これまたカクテルモードの和みの世界ですが、確かにこれじゃ、ジャズ喫茶ではお呼びじゃない……、ですね。しかしこれを自分だけの楽しみとして聴くには贅沢過ぎると思います。
 まあ、誰にも教えたくない楽しみかもしれませんね。

B-3 Love In Bloom (1955年3月14日録音)
 さらに続くのが、この和んで楽しい名曲名演です。
 完全なエロル・ガーナーのソロピアノですが、強力なピアノタッチと独特のビート感がありますから、ベースとドラムスが居ないことがちっとも気になりません。
 しかし、それを言えば、なんでエロル・ガーナーがピアノトリオを率いているのか、ちょいと分からなくなりますが、それにしても凄いピアニストだと思います。

B-4 Through A Long And Sleepless Night (1949年9月8日録音)
 これも甘くて虫歯になりそうな演奏なんですが、こうした雰囲気はレッド・ガーランドやアーマッド・ジャマルにも確実に受け継がれた世界だと思います。その意味で、エロル・ガーナーはやっぱりジャズピアニストだと思いますが、最も大衆的な路線を大切にした姿勢は最高♪

B-5 That's Old Feeling (1955年3月14日録音)
 これもソロピアノなんですが、強靭なスイング感が素晴らしいですねぇ~♪ タイプは違いますが、このあたりはオスカー・ピーターソンとは似て非なる物凄さかもしれません。

ということで、ピアノトリオの個別のメンバー構成は勉強不足でわかりませんが、とにかく楽しい演奏集です。そして聴き飽きることがないんですねぇ~♪ 曲の流れもLP片面毎に上手く構成されていると思います。

そして何よりもメロディを大切したエロル・ガーナーの素敵な世界♪ その唯一無二の個性という「ビハイド・ザ・ビート」の「ずれた快感」も存分に楽しめますし、同時に凄すぎるドライブ感も!

ちなみにエロル・ガーナーは古いタイプのピアニストだと思われがちですが、1940年代後半には最も新しいスタイルだったようで、当時の最先端だったチャーリー・パーカーが全盛期のセッションにも起用されているほどです。

しかし本質はやっぱり楽しさや和み優先の姿勢なんでしょうねぇ。それに素直に惹きこまれてしまうのはジャズ者の冥利かもしれませんが、この色気のあるジャケットも再発盤の美点なのでした♪

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

デクスターのテナーがハードに鳴った

2008-11-02 14:19:47 | Jazz

Dexter Gordon Live At The Amsterdam Paradiso (Catfish)

1963年頃から欧州中心の活動に切り替えたデクスター・ゴードンは、それゆえに自身の公式リーダーセッションは年1回ほどなりましたが、その間を埋めるプライベートなライブ録音が後年になって続々と商品化されたのは、嬉しいことでした。

本日ご紹介のアルバムもそうしたブツで、デクスター・ゴードンが単身オランダに乗り込み、現地のリズム隊と共演した熱い演奏が楽しめます。

録音は1969年2月5日、アムステルダムの「パラディソ」という小屋で、メンバーはデクスター・ゴードン(ts)、シーズ・スリンガー(p)、ジャック・ショールス(b)、ハン・ベニング(ds) というワンホーン編成♪ ちなみにドラムスとベースはエリック・ドルフィーの公式な遺作「Last Date (Fontana)」にも参加していた名コンビですし、ピアノのシーズ・スリンガーも渡欧してきたアメリカ勢のバックを度々務めるなかなかの実力者ですから、デクスター・ゴードンも本領発揮です――

A-1 Introduction by Dexter Gordon
A-2 Fried Bananas
 デクスター・ゴードン本人による短い挨拶はあまりウケていませんが、逆にそこからは、本場アメリカの大物が登場というステージの緊張感が伝わってきます。
 そして初っ端に演じられるのが、有名スタンダード曲「It Could Happen To You」のコード進行を拝借してデクスター・ゴードンが書いた快適なハードバップのオリジナル! 私はこの曲が大好きですから、テーマが一節演奏されただけで、もうワクワクしてしまいます♪ いゃ~、テーマメロディがまるっきりデクスターフレーズの良いとこ取りなんですねぇ~♪♪
 もちろんアドリブパートも剛球勝負のグイノリで、微妙に遅れて吹きながら、ケツは見事に合っているというデクスター・ゴードンだけの妙技が最高です。ハードな音色でギスギスと鳴るテナーサックスの魅力が、ここにあり! ですねぇ~♪ ついつい音量を上げてしまうほどです。
 またリズム隊も大健闘で、トンパチなドラミングが楽しいハン・ベニング、重量級ベースを響かせるジャック・ショールス、また適度なアウト感覚もイヤミの無いシース・スリンガーのピアノという、ちょっと力んだ感じが実に良いです。

A-3 What's New
 有名スタンダード曲を堂々と吹奏するデクスター・ゴードンの貫禄! あまりの素晴らしさに絶句して感涙してしまう演奏です。ハードエッジなサブトーンの魅力、そしてテナーサックス王道の鳴りの凄さは本物の証明ですし、テーマメロディのフェイクからアドリブ全篇の歌心は圧巻ですねぇ~♪
 このあたりはデクスター・ゴードンが主演した、あの名画「ラウンド・ミッドナイト」の中の名台詞「歌詞を忘れたから、もう吹けない」が偽りではないと実感されます。う~ん、「別れても好きな人」という歌詞をハードボイルドに解釈していくデクスター・ゴードンは、流石に粋な大人ですから、こういう人に私はなりたいという、無理を承知の憧れが……。
 とにかくこれは畢生の名演じゃないでしょうか。

B-1 Good Bait
 ジョン・コルトレーンも演じているビバップの王道曲ですから、同じテナーサックスでデクスター・ゴードンがどんな演奏を聞かせてくれるか、もうワクワクで聴き始めると、これが最高の中の極みつき!
 ゆったりとしたグイノリのテンポで威風堂々、そしてだんだんと熱くなっていく男気の満ちたその吹奏の凄味は強烈で、申し訳なくも私はジョン・コルトレーンの演奏よりはずっと好きです。あぁ、何のゴマカシも無い真っ向勝負の潔さ!
 バックのリズム隊も相当に挑戦的な煽りを演じていますが、全く動じないデクスター・ゴードンの存在感には焦り気味という雰囲気が、如何にもジャズです。LP片面を占有した長尺演奏ですが、夢中にさせられてアッという間のハードバップ天国が、ここにあります。

C-1 Rhythm-A-Ning
 セロニアス・モンクが書いた有名オリジナルのひとつで、その幾何学的なテーマメロディには尖鋭的なビートが潜んでいるからでしょうか、もともとフリーやモードが十八番のリズム隊がイキイキとしています。
 しかしそれを全く問題にしないデクスター・ゴードンの勢いは物凄く、アップテンポでゴリゴリと吹きまくる姿は圧巻! テナーサックスのハードエッジな鳴りも強烈です。
 ちなみにこの曲はジョニー・グリフィンやチャーリー・ラウズといった、セロニアス・モンクに雇われていたテナーサックス奏者には必須の演目でしたから、聴き比べも楽しいところですが、個人的にはここでのデクスター・ゴードンに軍配をあげます。

C-2 Willow Weep For Me
 ブルース歌謡の味わいも強いスタンダード曲ですが、デクスター・ゴードンは全く自分流の解釈で「失恋の歌」を聞かせてくれる潔さ♪ もちろんテナーサックスの魅力である適度なサブトーンと硬質な音色のバランスも素晴らしく、幾分ギクシャクしたフレーズの連なりは実に説得力に満ちています。
 また最後の最後で「お約束」のリフを出す楽しみも結果オーライですね♪

D-1 Junior
 デクスター・ゴードンのオリジナルで、これぞっ、ハードバップのブルース大会! ミディアムテンポでメリハリの効いたビートを作りだすリズム隊は、ちょっと場慣れしていないところが逆に新鮮で、つまりは本場の黒人ジャズに圧倒されている感じでしょうか。
 デクスター・ゴードンは、しかしそれを百も承知で手抜き無し! 如何にも1969年という派手なフレーズや音使いも聞かれますが、やっぱり王道を外していません。

D-2 Scrapple From The Apple
 オーラスはビバップの聖典曲を熱血のハードバップに仕立てた猛烈な演奏で、激しいアップテンポで煽るリズム隊を逆に置き去りにするデクスター・ゴードンのノリが強烈です。
 もちろんこれには観客も大喜び! 嬌声と拍手喝采はその場の幸せの証でしょうねぇ。実に羨ましいかぎりです。

D-3 Closing Announcement
 司会者からの短い挨拶で、デクスター・ゴードンが讃えられていますが、当然でしょうねっ♪

ということで、黒人ジャズ&ハードバップを真っ向から演じたデクスター・ゴードンの熱血ライブ盤です。気になる音質もモノラルミックスながらバランスも良好♪ まずテナーサックスのハードな音色がキリリと録音され、リズム隊も重量感のある存在になっています。もちろんプライベート録音ですから、部分的に不安的なところもあるんですが、これだけの演奏が楽しめるのですから、贅沢は敵でしょう。

とにかく本場のジャズジャイアントを迎えて緊張し、同時にハッスルしたリズム隊の必死さが、なおさらに良い方向に働いた感じです。

冒頭で述べたとおり、当時のデクスター・ゴードンは特定のレコーディング契約も無かった時期ですが、実際のライブの場では連日連夜、こんな熱い演奏を繰り広げていたんですねぇ~。アメリカでは仕事が思うようにならなかったのが信じられないというか、それが当時の現実でした……。

しかしデクスター・ゴードンはこのライブの直後に帰米を決意、プレスティッジと契約し、ハードバップリバイバルの火付け役を演じるわけですから、このアルバムの凄さは、さもありなんでしょう。

CD化は未確認ですが、機会があればぜひとも聴いていただきたい傑作盤で、とくに「What's New」は最高ですよっ♪ そしてテナーサックスのハードな鳴り! これこそがハードバップの真髄かもしれません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヤル気満々のガレスピー

2008-11-01 12:24:25 | Jazz

Groovin' High / Dizzy Gillespie (Savoy)

ディジー・ガレスピーはチャーリー・パーカーと共にモダンジャズを創成した偉人ですが、チャーリー・パーカーに比べると神格化された部分は無く、むしろトランペットが上手いエンタメ系の芸能人とさえ認識されるようです。

実際、黒人芸能の本質に基づくステージでの振る舞いと演奏姿勢、またはビックバンドに拘った挙句のシャリコマなレコーディング等々が、イノセントなジャズ者からすれば、マイナス要因なのでしょう。

しかし私はディジー・ガレスピーが、かなり好きです。それは熱血と哀愁を両立して表現出来る優れたトランペッターとしての姿に加え、卓越したリーダーシップと大衆を忘れない音楽家としての守備範囲の広さです。もちろん常に前向きな意欲も流石だと思います。

さて、このアルバムはディジー・ガレスピーがモダンジャズを創成しつつあった時期の歴史的名演を集めたものですが、当然ながら収録された各曲は様々なマイナーレーベルから出されたSP音源ということで、録音年月日や参加メンバーにバラツキと疑問点が残されています――

A-1 Blue‘N’Boogie (1945年2月9日録音 / SP:Guild 1001A)
 メンバーはディジー・ガレスピー(tp)、デクスター・ゴードン(ts)、フランク・パパレィリ(p)、チャック・ウェイン(g)、ムーレイ・シピンスキー(b)、シェリー・マン(ds) という白黒混成バンドです。
 そして曲はお馴染み、後にはマイルス・デイビスの名演も残されることになるビバップのブルースですが、ここではまだまだ時期的にモダンジャズに特徴的なオフビート感覚が徹底されておらず、如何にも過渡期の演奏が味わい深いところでしょう。特にピアノやベースはスイングビートが丸出しです。さらにデクスター・ゴードンのテナーサックスもまた、レスター・ヤング風という興味深いものですから、なかなかに面白く聴けます。
 しかしディジー・ガレスピーは既に完成されたスタイルで過激を貫き、チャック・ウェインのギターが流麗♪

A-2 Goovin' High (1945年2月28日録音 / SP:Guild 1001B)
A-3 Dizzy Atmosphere (1945年2月28日録音 / SP:Musicraft 488A)
A-4 All The Things You Are (1945年2月28日録音 / SP:Musicraft 488B)
 上記3曲は、これぞモダンジャズの原石! ディジー・ガレスピー(tp)、チャーリー・パーカー(as)、クライド・ハート(p)、レモ・パルミエリ(g)、スラム・スチュアート(b)、コージー・コール(ds) という、新旧混合の編成には興味深々でしょう。
 結果から言えば、完全にスイングスタイルのリズム隊にモダンというよりも、当時は最先端のアングラで挑むガレスピー&パーカーの心意気が最高です。
 まずビバップの聖典となった「Goovin' High」では、オンビートのリズム隊と全く合わないのに凄い自己主張のチャーリー・パーカー、しかし続いてスラム・スチュアートのノホホンとしたアルコ弾きというミスマッチが面白いところです。もちろんディジー・ガレスピーも完璧を出来あがっていますね。
 また「Dizzy Atmosphere」は当時の感覚からして、相当に尖鋭的なテーマメロディとアンサンブルだったでしょう。今でも全く古びた感じがしませんし、もちろんガレスピー&パーカー組のアドリブはブッ飛びで、それがスイングビートの中で演じられるのですから、後半のバンドアンサンブルなんか、ホンワカムードの苦笑いです。
 しかし「All The Things You Are」は流石に有名スタンダード曲ですから、バンドの纏まりも中庸を得たものがあり、一番無難な仕上がりでしょう。ディジー・ガレスピーのミュートが良い感じで、なんかホッとしますね。

A-5 Salt Peanuts (1945年5月11日録音 / SP:Guild 1003A)
A-6 Hot House (1945年5月11日録音 / SP:Guild 1003B)
 この2曲も今やビバップクラシックスのオリジナル演奏で、メンバーはディジー・ガレスピー(tp,vo)、チャーリー・パーカー(as)、アル・ヘイグ(p)、カーリー・ラッセル(b)、シド・カトレット(ds) という強力なクインテット! まあドラマーのシド・カトレットにはスイングスタイルがモロなんですが、ベースのカーリー・ラッセルが本物ですからですねぇ、グッとモダンジャズに急接近しています。
 そして何よりもアル・ヘイグがパド・パウエルにクリソツなのが憎めません。バンドアンサンブルもビシッとキマッていますし、ディジー・ガレスピーは遠慮しない突進ぶりが最高です。もちろんチャーリー・パーカーは自在に空間浮遊して激烈なウネリを聞かせていますよ。

B-1 Ooo-Bop-Sh' Bom (1946年5月15日録音)
B-2 That's Earl Brother (1946年5月15日録音)
 以上の2曲は前述のセッションから約1年後の演奏ですが、メンバーはディジー・ガレスピー(tp,vo)、ソニー・スティット(as)、ミルト・シャクソン(vib)、アル・ヘイグ(p)、レイ・ブラウン(b)、ケニー・クラーク(ds) という完全にモダンジャズのバンドになっています。しかも特にギル・フラーがボーカルとアレンジで参加! つまりエキセントリックなビバップに楽しさを加味しようとする試みでしょう。実際「Ooo-Bop-Sh' Bom」での陽気な雰囲気は最高ですし、ついつい一緒に歌ってしまうテーマメロディのバップスキャットが何とも黒人大衆芸能の本質だと思います。
 もちろんバンドメンバー各々のスタイルは完成されたもので、特にミルト・ジャクソンが既にしてグルーヴィ♪ 誰かさんにクリソツなスニー・スティットも、ここでは十分に役割を果たしていると思います。

B-3 Our Delight (1946年6月10日録音)
 これはいよいよ念願だったビックバンドを組織したディジー・ガレスピーの意気込みが伝わる演奏で、そこにはジョン・ルイス(p)、ミルト・ジャクソン(vib)、レイ・ブラウン(b)、そしてケニー・クラーク(ds) という元祖MJQがリズム隊! ただしホーン陣のクレジットは原盤裏ジャケットに記載してありますが、これには諸説があって詳細は藪の中……。それゆえに、あえてここには書きません。初出のSPについても同様の事情です。
 しかしそんな瑣末な事よりも、バンドの勢いとディジー・ガレスピーのヤル気が潔い感じです。

B-4 One Bass Hit Part 2 (1946年7月9日録音 / SP:Musicraft 404B)
B-5 Things To Come (1946年7月9日録音 / SP:Musicraft 447B)
B-6 Ray's Idea (1946年7月9日録音 / SP:Musicraft 487A)
 この3曲はディジー・ガレスピー楽団の絶頂期を記録した歴史的名演とされています。バンドを構成するメンバーは「Our Delight」に近いと思われますが、これまた熱気ムンムンに咆哮するブラス&リード、グイノリのリズム隊というモダンジャズの一番エグイ部分が徹頭徹尾、楽しめます。
 もちろんディジー・ガレスピーは緩急自在、また他にアドリブを演じるサックスもビバップスタイルに近くなっていて、つまりチャーリー・パーカーの影響が既にジャズ界を支配していた証となっているのでした。

B-7 Emanon (1946年11月12日録音 / SP:Musicraft 447A)
 これもビックバンドによる演奏ですが、ちょっとホンワカしたファンキームードが楽しい演奏です。グルーヴィなリズム隊が実に良い感じ♪ ミルト・ジャクソンのアドリブも和みモードですし、シャープなリフと対峙するディジー・ガレスピーだけが力んだところは、逆に狙ったものなんでしょうねぇ。
 ちなみに曲名はジャズ業界では「お約束」の逆さ読みで謎が解けるのでした。

ということで、歴史的価値から名盤扱いとしてガイド本にも掲載されているアルバムでしょう。しかし決して「研究」用のレコードではなく、普通に聴いてジャズの楽しみに浸れる演奏ばかりだと思います。

特にチャーリー・パーカーが入ったA面の5曲は、スイングからビバップに進化するジャズが、やはり楽しいものだったという事実が痛快! もちろんビバップはニューヨークの黒人アングラ音楽という認識が当時の常識だったわけですが、それをあえて記録していた当時の業界人の決断と嗅覚の鋭さは、単に商業主義だけではないと思いたいですね。

もし、こうした演奏が記録されていなければ、スイングからビバップへの進化は、それこそ「ミッシングリンク」になっていたでしょうから!

ちなみにこの時期の演奏は、ここに収録されたものがコンプリートではありません。様々なレーベルから色々な企画で纏められたアルバムが幾種類か出回っていますし、それはCD時代になっても同様です。また、このアルバム自体もジャケットやカタログ番号が同じでありながら、収録曲順が一部異なるブツもあるようです。

しかし、だいたいこの内容の演奏が楽しめれば結果オーライじゃないでしょうか。万人向けとは言い難いアルバムですが、せっかくジャズが好きになったのならば、一度は聴いてもよろしいかと思います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする