OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

闇鍋ハングリー・チャック

2010-03-21 14:19:22 | Rock

Hungry Chuck (Beasville)

ジャズ喫茶がそうであったように、ロック喫茶でも全く知らないレコードに出会う喜びがありました。

本日ご紹介のハングリー・チャックと名乗るグループが1972年に残した、たった1枚のアルバムも、そうした中のトンデモ名盤! 温故知新とイナタイ雰囲気、さらに随所で確信犯的革新が秘められた歌と演奏に、若き日のサイケおやじは仰天悶絶させられたのです。

 A-1 Hats Off, America!
 A-2 Cruising
 A-3 Old Thomas Jefferson
 A-4 Play That Country Music
 A-5 Find The Enemy
 A-6 People Do
 B-1 Watch The Trucks Go By
 B-2 Dixie Highway
 B-3 You Better Watch It Been, Someday You're Gonna Run Out Of Gas
 B-4 Hoona Spoona
 B-5 All Bowed Down
 B-6 South In New Orleans - Doin' The Funky Lunchbox

とにかく冒頭、楽しいピアノと陽気なトランペットに煽られた歌、軽快な中間派ジャズの4ビートと摩訶不思議なギターが彩る「Hats Off, America!」は、とてもロック喫茶に流れる音楽ではありません。しかし、妙にロック的なグルーヴが潜んでいるのも確かなんですねぇ。

う~ん、これ、なに!?!

と思わず店内に飾ってあるジャケットを眺めると、そこには掲載したヘンテコなレコードが鎮座していたのです。

で、演奏メンバーを確認すれば、エイモス・ギャレット(g,vo)、ベン・キース(stg,b,vo)、ジェフリー・ガッチョン(p,key,vo)、ジム・コルグローブ(b,g,vo)、N.D.スマート(ds,per,vo)、ピーター・エックランド(tp,tb,cor) の6人組と知れるのですが、これを私が初めて聴いた昭和49(1974)年の時点で知っていた名前は、有名なセッションプレイヤーでもあったペン・キースとマウンテンの初期ドラマーだったN.D.スマートだけでした。

するとA面2曲目の「Cruising」が丸っきりザ・バンド!?!

しかし、その土着的な哀愁の曲メロと刹那のボーカルに寄り添うギターが、これまたなんとも言えない不思議な感覚なんですねぇ~♪ と思っていると次に出てくる「Old Thomas Jefferson」が、これまたザ・バンドが中間派ジャズをやってしまったような、本当にゴッタ煮の闇鍋ですよっ!

あぁ、混乱せさられながらも、実に心地良い時間が流れていきます。

実は後で店のマスターから教えていただいたのですが、このグループは本来、カナダのフォークソング夫婦だったイアンとシルビアのバックバンドだったそうですし、ジェフリー・ガッチョンとピーター・エックランドは本物のジャズミュージシャン!

それがどういう経緯かひとつのグループを名乗ってレコーディングしたのかは知る由もないわけですが、中でも私が一番に気になったのは、エイモス・ギャレットというギタリストでした。

なんと言うか、とても浮ついた音色とスイングジャズっぽいノリ、そして流れるようなフレーズ展開は、明らかにロックの分野では異質の存在だったと思います。しかしジャズかと言えば、それも違っているような、ほとんど捕らえどころの無い魅力が感じられましたですねぇ。

まあ、あえて言えばライ・クーダーの亜流かもしれず……。

そのあたりは演目の流れの中で突如としてファンキーロックをやってしまう「People Do」での異様にストレッチアウトしたギターソロ&ねちっこいリズムカッティング、早すぎたリトル・フィートの如き「South In New Orleans」で聞かせてくれる燻銀のアコースティックスライドにもグッと惹きつけられる味わいです。

しかしハングリー・チャックの魅力は決してそれだけではなく、ほとんど主流派ジャズが持っていた快楽性とアブナイ雰囲気の折衷をロック的に表現したことも、そのひとつでしょう。もちろんルーツになっているブルースやカリブ海周辺の大衆音楽、カントリー&ウェスタンや白人伝承歌、さらにはエキゾチックな色彩も感じられるのです。

それはほとんどの楽曲を書いたジェフリー・ガッチョンの基本姿勢かもしれません。実際、「Play That Country Music」はセロニアス・モンクが弾くスタンダードメロディのような前半のピアノソロから、後半はアッと驚く哀愁の白人ソウル! もちろんタイトルどおり、カントリーロック味も絶妙ですから、エイモス・ギャレットのギターソロも冴えまくり♪♪~♪

また「Dixie Highway」での流れるようなピアノの伴奏は、キース・ジャレットに弾いて欲しいような曲展開が憎めません。当然ながら中盤にはザ・バンド色が出るという仕掛けもあります。

そして些か無謀なゴッタ煮を上手く纏めているのが、ベン・キースのアメリカンな存在でしょうか。熟達のスティールギターが素晴らしい安心感を提供してくれますから、正統派カントリーロックの「Watch The Trucks Go By」等々、随所でシブイ貫録を誇示していますが、もうひとり、忘れてならないのがドラマーのN.D.スマートでしょう。

とにかくその八面六臂のドラミングは、例えば「People Do」や「You Better Watch It Been, Someday You're Gonna Run Out Of Gas」での強烈なファンキービート、あるいはジャズフィーリング全開の2~4ビート、変則リズムのロックビートに拘った「Hoona Spoona」等々、全篇でハッとするほど素敵な活躍を聞かせているのです。当然ながらハードロック的なストロングフィーリングも!?!

ということで、とても広範な音楽性を身に付けたメンバー達が、まさに一期一会のセッションとして、オリジナル盤はあまり売れなかったかもしれませんが、我国では度々の再発が続いてきた隠れ名盤になっています。

ただし真っ当なロックを期待すると確実にハズレ……。それだけは確かという中にあって、おそらくは一番親しみ易いのが「All Bowed Down」でしょう。これなんかザ・バンドがやっていると言われても、あながち間違いではない雰囲気です。

しかし個人的には、そんな事よりも、珍しいほど古いジャズのロック的な解釈に勤しんだ部分に共感を覚えますから、これも立派なロックジャズ? いえいえ、やっぱりロックなんでしょうねぇ。まあ、そんなジャンル分けなんか、本当は必要ないんですが……。

ちなみにエイモス・ギャレットのギターにシビレた私は以降、この人のプレイをひとつでも多く聴きたくて、またしても奥の細道へと踏み込んだのですが、ハングリー・チャックも含めて、なかなかライ・クーダーと似て非なる個性は最高だと思います。

先日ご紹介したキンクスの「マスウェル・ヒルビリーズ」に近い味わいもありますし、また同じレコード会社で作られた「ボビー・チャールズ」同様、如何にも1970年代前半のロック喫茶を象徴するアルバムのひとつじゃないでしょうか。


ポール・サイモンの自縛の名盤

2010-03-20 13:19:49 | Simon & Garfunkel

There Goes Rhymin' Siomn / Paul Siomn (Columbia)

邦題が「ひとりごと」というポール・サイモンの名盤で、もちろん既にサイモン&ガーファンクル解散後の昭和48(1973)年に発売されたものですが、サイケおやじにとっては、これもまた、様々に音楽業界の秘密を教えられたアルバムでした。

 A-1 Kodachrome / 僕のコダクローム
 A-2 Tenderness / 君のやさしさ
 A-3 Take Me To The Mardi Gras / 夢のマルディ・グラ
 A-4 Something So Right / 何かがうまく
 A-5 One Man's Ceiling Is Another Man's Floor / 君の天井は僕の床
 B-1 American Tune / アメリカの歌
 B-2 Was A Sunny Day / 素晴らしかったその日
 B-3 Learn How To Fall / 落ちることを学びなさい
 B-4 St. Judy's Comet / セント・ジュディーのほうき星
 B-5 Loves Me Like A Rock / 母からの愛のように

ご存じのとおり、当時はシンガーソングライーの流行が我国にも波及して、今では夢のフォークが大ブームでしたから、その大御所だったポール・サイモンの人気も圧倒的だったんですが、それもサイモン&ガーファンクルという錦の御旗が無くなってからは前作ソロアルバムがイマイチの評価だったこともあり、この新作にも当初は懐疑的なファンが多かったようです。

しかしサイケおやじはリアルタイムではLPを買えなかったものの、国営FMラジオ放送で丸ごと流されたアルバムの中身をエアチェック! そして連日のように聴きまくっていました。

とにかく全曲が充実の極みというか、ゴキゲンなんですねぇ~~♪

もちろんポール・サイモンが十八番のメロディ展開と歌詞の語呂の気持良さに加え、演奏パートのリズム的快感やジャズっぽさ、さらにこの頃には私がどっぷりと浸り込んでいたオールディズポップスの味わいまでもが見事に感じられたのです。

特にA面トップの「僕のコダクローム」は先行シングルとして我国でも大ヒットした、やったらに調子の良いライトポップスですが、そこで作り出されているリズムとビートの不思議なグルーヴ感は強い印象を残します。

実は当時の我国では一般的ではなかったのですが、そこにはレゲエやスカと称されるリズムが使われており、しかも演じているのが決してジャマイカの現地ミュージャンではなく、アラバマのマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオ専属の白人バンドだったのです。

それがピート・カー(g)、ジミー・ジョンソン(g)、バリー・ベケット(key)、デヴィッド・フッド(b)、ロジャー・ホーキンス(ds) といった名手達で、それまでも多くの黒人R&Bヒットやスワンプ系のレコーディングを裏方で支えていた実績は知る人ぞ知る存在で、天才デュアン・オールマン(g) も下積み時代は彼等の仲間でした。

で、そういう猛者達には、どんな要求も一発即決でやれる実力があり、加えて独自の個性もそれとなく滲ませるという手口が用意周到なのでしょう。前述した「僕のコダクローム」にしても、そのゴキゲンなグルーヴに思わず満足したのでしょうか、終盤でポール・サイモンが思わず「OK~♪」なんて言ってしまってますが、実際、タイトで歯切れ良く、さらに独得のヘヴィな感覚は何度聴いても気持良すぎますし、密やかなジャズっぽいオカズの使い方も良い感じ♪♪~♪ 

そしてこのアルバムは大半が前述のリズム隊によって作られ、ポール・サイモン節が見事に演出されたのですが、そうした裏事情や所謂マッスル・ショールズ・リズムセクションについてのあれやこれやが、当時のラジオの洋楽番組や音楽雑誌で特集され、これがサイケおやじにとっては目からウロコの勉強になりました。もちろん以降、その路標で奥の細道へと踏み込んで行ったのです。

まあ、それはそれとして、このアルバムは本当に素晴らしい歌と演奏の幕の内弁当で、黒人コーラスグループのディキシー・ハミングバーズと共演したジャズっぽいドゥーワップ曲「君のやさしさ」のそこはかとない甘いムード、後年にはボブ・ジェームスのインストバージョンがヒットした「夢のマルディ・グラ」の穏やかな楽しさ、如何にもポール・サイモンが畢生のパラード「何かがうまく」はサイモン&ガーファンクルのバージョンが残れさていないのが悔やまれるほどです。あぁ、この曖昧なメロディを彩る雰囲気の良さは絶品!

さらに珍しくもブルース&ゴスペルのフィーリングが表出された「君の天井は僕の床」は転調が多用され、各コーラスのメロディ展開が全て違うというジャズっぽさ!?! マッスル・ショールズのリズム隊も地味~にエグイことをやらかしていますよ。

しかしこのアルバムはマッスル・ショールズ組ばかりではなく、所謂ニューヨーク派のコーネル・デュプリー(g) やゴードン・エドワーズ(b) のスタッフ組、ポール・グリフィン(key)、リック・マロッタ(ds)、ボブ・ジェームス(key)、グラディ・テイト(ds)、リチャード・デイビス(b) 等々のジャズフュージョン系のメンツも良い仕事を聞かせており、前述した「君のやさしさ」や「何かがうまく」もそうでしたが、特にB面では「アメリカの歌」が圧倒的にサイモン&ガーファンクルの夢よもう一度♪♪~♪

ちなみにアルバム全篇のプロデュースはポール・サイモン本人と盟友のロイ・ハリー、さらに新進気鋭のフィル・ラモーンという都会派が担当していますから、まろやかな仕上がりは「お約束」以上♪♪~♪ と言うよりも、異なるスタジオや共演者達の魅力を薄めることなく纏め上げたのは流石だと思います。

その意味でミシシッピのマラコスタジオで録られた「落ちることを学びなさい」が、イナタイ雰囲気を残しつつ、なかなか都会っぽいS&Gサウンドになっているは興味深いところでしょう。

当然ながら、そこにはポール・サイモン独得のアコースティックギターが存分に使われていて、溜飲が下がるのですが、それゆえにアート・ガーファンクルの不在が悔やまれ……。

なにしろ「セント・ジュディーのほうき星」や「母からの愛のように」というアルバムの大団円が、どのようにアレンジされていても、基本のメロディや曲構成がサイモン&ガーファンクルでしかありえないのですから!?! ただしディキシー・ハミングバーズのコーラスがついた「母からの愛のように」は、それなりに良い感じですよ♪♪~♪ 私は好きです。

ということで、聴くほどに味わい深い思惑が感じられてしまうんですが、それは別に悪いことではないでしょう。むしろそういうプロデュースが良い方向に作用したからこその名作じゃないでしょうか。

その中には凄腕のスタジオミュージシャンとポール・サイモンの対決&協調という軸が確かにありますし、それでも個性を失わないポール・サイモンのギターの素晴らしさ、そして作り出された歌の魅力が全面開花しています。和みのカリプソフォークとでも言う他はない「素晴らしかったその日」では、アイアート(per) とボブ・クランショウ(b) を相手にしながら、面目躍如の存在感を示すポール・サイモンが余裕ですねぇ。

ただし私も含めた世間は、ど~してもサイモン&ガーファンクルを望んでいたのは間違いないところで、ポール・サイモン自身も次作アルバムとなったライプ盤LP「ライブ・ライミン」では、たっぶりとそれをやってしまい、自分で自分の首を絞めてしまったという……。

結局、ポール・サイモンは自縛の罠から逃れられず、いろんな事情もあって、度々のサイモン&ガーファンクル再結成を演じるのですが、だからといってソロ活動で作った諸作が軽く扱われるのは心外でしょう。

例えば、この「ひとりごと」は永遠に楽しめるマストアイテムだと確信しております。


キンクスの居酒屋ロック

2010-03-19 15:11:03 | Rock

Muswell Hillbillies / The Kinks (RCA)

キンクスはカッコ良すぎるビートバンドであり、また皮肉な懐古趣味に奔走する異色のロックグループでもあり、結局はその実態が特に日本の洋楽ファンには誤解と戸惑いを与えていたのがリアルタイムでの事情ではなかったでしょうか?

そこには1960年代後半の一時期、我国でレコードが発売されていなかった異常事態があったことは以前にも書きましたが、それにしてもやっている歌と演奏そのものが、ど~してもストレートに洋楽ファンの気分を刺激していなかったのは事実だったと思います。なにしろ世間はサイケデリックやブルースロック、さらにはアートロックなんて騒いでいる時に、キンクスの燻り加減はズパリ、変でした。

ですから、今日では人気盤となっているらしい本日ご紹介のアルバムにしても、昭和47(1972)年に発売された当時は日陰の身……。

  A-1 20th Century Man / 20世紀の人
  A-2 Acute Schizophrenia Parnoia Blues / 精神分裂偏執病ブルース
  A-3 Holiday
  A-4 Skin And Bone / 骨と皮
  A-5 Alcohol
  A-6 Complicated Life / 複雑な人生
  B-1 Here Come The People In Grey
  B-2 Have A Cuppa Tea
  B-3 Holloway Jail / はかない監獄
  B-4 Oklahomea U.S.A.
  B-5 Uncle Son
  B-6 Muswell Hillbilly

ところが我国の洋楽マスコミは挙って高評価、ラジオでも特集番組があったほどですが、実際にそれを聴いていた若き日のサイケおやじには???

う~ん、なんかTレックスがザ・バンドしたような?

うらぶれたボール・マッカートニー?

なぁ~んていう感想が当時のメモに残されています。

実はこの裏側にはキンクスのレコード会社移籍があって、それまでの英国パイレコードからアメリカの大手RCAと新契約が結ばれたことを契機に、それまで様々な問題から生じていたアメリカ本国での活動制限も緩和され、それゆえにアメリカっぽい音に邁進したのかもしれません。

しかし流石は天の邪鬼なキンクスとあって、特に中心人物のレイ・デイビスが作る楽曲は一筋縄ではいきません。とにかく当時は真っ当な「ロックの音」とされていた唸るギター、炸裂するドラムスや重低音のベース、そして熱血のボーカルなんてものが、ここでは聞かれないのです。

また、そうかといって、ウエストコースト風味の爽やかコーラス、あるいはシンガーソングライターに特徴的なナイーヴな心情描写も感じられず……。

で、それでは何を歌い、演奏しているかと言えば、英国流キャバレーモードとでも申しましょうか、古くて懐かしいアメリカのジャズや大衆伝承歌をベースに、安酒場のグタグタした騒ぎや二日酔いの懺悔、そして落ちこぼれたような悔悛の情、そんなこんながゴッタ煮となった、これもロックンロールのひとつの表現じゃないかと思うほどです。

尤も、そんなことはサイケおやじの完全なる後づけであって、リアルタイムではイマイチどころか、ほとんどピンッとこない世界でした。

それが後追いでキンクスを聴く昭和40年代後半の日々の中、某ロック喫茶で再会したのが運のツキ!

まずはアンプラグドなスワンプフォークが何時しか強引なオルガンロックへと変転する「20世紀の人」、懐古調のホーン隊が絶妙に泣きの曲メロを彩る「精神分裂偏執病ブルース」、ビートルズ時代のポール・マッカートニーが聞かせてくれた「Honey Pie」を貧相にした雰囲気の「Holiday」、ラヴィン・スプーンフルの如きジャズバンドスタイルのフォークロックがゴキゲンにグルーヴした「骨と皮」、救世軍が下手なタンゴを演じたような「Alcohol」、そしてザ・バンド直系とも言うべき「複雑な人生」へと続くA面の流れの充実度は、見事にひとつのムードを作り出しています。

それは虚しき人生や諦観が滲む暮らしの日々の中での逃避のようでもあり、ちょうどジャケットに写るイギリスの労働階級が屯する飲み屋、所謂パブの雰囲気かもしれませんが、しかし現実的には圧倒的にアメリカ土着のスワンプロックやザ・バンド系の音作りが、確かに感じられます。

このあたりは同時期のライ・クーダーや他のシンガーソングライターも狙っていたものでしょうし、サイケおやじにしてもライ・クーダーは既に好きでしたから、このアルバムにも共感を覚えて然るべきのはずが、結果的にリアルタイムではイマイチだったのは、キンクスというビートバンドとしての先入観、さらにはここで特に著しくなっているレイ・デイビスの歌いまわしのフヌケ具合だったと思います。

そのあたりがB面には尚更に強く感じられ、これまたシンプルなロックサウンドを追及したと思しき「Here Come The People In Grey」がストーンズの「ベガーズ・バンケット」の無残な焼き直しのようになったり、おそらくは英国大衆歌のフォーク的解釈であろう「Have A Cuppa Tea」や「はかない監獄」のシミジミ度数のアップに繋がるのです。

ただしひとつのバンドとしての演奏の練達度は最高で、バタバタしたドラムスやスライドギターの地味~な使い方、あるいは生ギターやピアノのうらぶれた味わいが逆に強い印象を残すのですから、これは完全に確信犯にやられたっ!?!

ですから和みの曲メロと穏やかなピアノが微妙にズレた「Oklahomea U.S.A.」や讃美歌のようなオルガンのイントロから泥臭いゴスペルロックの本性が剥き出しになる「Uncle Son」、オーラスの楽しいカントリーロック「Muswell Hillbilly」が何の違和感も無く、美しき流れを構成しているのでしょう。

ちなみに当時のキンクスのメンバーはレイ・デイビス(vo,g)、デイヴ・デイビス(vo,g)、ジョン・ゴスリング(key)、ジョン・ダルトン(b)、ミック・エイヴォリー(ds) の5人組ながら、セッションに参加したホーンセクションと女性コーラス隊を丸抱えにしたライプ巡業もやっていたとかで、それは次作アルバム「この世はすべてショービジネス」で更なる充実を披露するのですが……。

肝心レコードセールスは低迷し、キンクスはいよいよ、どん底へ……。

そんな歴史を知っている今となっては、このアルバムのうらぶれた味わいも、さらに深くなるのです。

私は後年、初めてイギリスへ行った時、パブという場所へ行ってみましたが、そこは全くお洒落な雰囲気なんか少しも無い、このジャケ写ような、おっちゃん達の溜り場でした。しかもパブロックなんていう意味不明の流行があったとは到底思えないような、ダサいところでしたよ。

アルバムタイトルにある「マスウェル」という場所はレイとデイヴのデイビス兄弟が育ったロンドンの住宅街らしいんですが、こんな飲み屋があるんでしょうか?

私は体質的に酒に酔わないんですが、安酒飲んで、このアルバムを聴くのも素敵なことでしょうね。


アル・クーパーの全部、持ってけっ!

2010-03-18 16:03:24 | Rock

Easy Does It / Al Kooper (Columbia)

果てしなく進化し続けた1960年代の音楽状況が、その極点に達して多様化した1970年年代、その端境期に、ど~ん、と纏めて面倒をみたのがアル・クーパーでした。

と書いたのも、当時のアル・クーパーは米国コロムビアレコードの雇われプロデューサーとして辣腕を振るいながら、案外と自由気儘に活動していた印象もあって、そういう裏事情を知らなくても、例の「スーパーセッション」や「フィルモアの奇蹟」等々のブルースロック系ジャムセッション作品、またはゾンビーズの「ふたりのシーズン」事件、ストーンズの「レット・イット・ブリード」セッションでの暗躍、ボブ・ディランやジミヘンとの共演レコーディング、さらには好き勝手に作っていたリーダーアルバムの充実度からして、まさに時代の寵児のひとりといって過言ではなかったでしょう。

当然ながら、我国の洋楽マスコミや評論家の先生方も、アル・クーパーは無視出来ないという扱い方でした。

さて、本日ご紹介のアルバムは、そんなアル・クーパーが時代の空気と状況を全く自己流に総括してしまった2枚組の大作LPとして、1970年秋に発表したものです。

 A-1 Brand New Day
 A-2 Piano Solo Introduction
 A-3 I Got A Woman
 A-4 Country Road
 A-5 I Bought You The Shoes
 B-1 Introduction
 B-2 Easy Does It
 B-3 Buckskin Boy
 B-4 Love Theme From The Landlord'
 C-1 Sad, Sad Sunshine
 C-2 Let The Duchess No
 C-3 She Gets Me Where I Live
 C-4 A Rose And A Baby Ruth
 D-1 Baby Pleade Don't Go
 D-2 God Shed His Grace On Thee

上記の演目はそれぞれに独立していながら、LP片面の流れの中では連続性が大切にされ、しかもアル・クーパー流儀のポップスはもちろんのこと、ジャズ、ブルースロック、カントリーロック、R&Bやソウル、さらに流行し始めたシンガーソングライター的な味わいやスワンプロックの先駆けのような歌と演奏がぎっしり♪♪~♪

そしてアル・クーパーは独得の「泣き節」を存分に披露する歌いっぷりに加え、ピアノや各種キーボード、ギター、シタール等々を操ってのワンマンショウながら、サポートメンバーのリック・マロッタ(ds)、スチュ・ウッド(b)、ジョー・オズボーン(b) 等々への全幅の信頼もあって、実に完成度の高い仕上がりだと思います。

まず初っ端に収められた「Brand New Day」は、これぞっ、アル・クーパーならではの熱いポップソングで、ブラスも大胆に使った躍動的な曲展開と熱血のボーカル、さらに泣きのギターとアレンジの妙はニューヨーク派の醍醐味でしょう。

さらにその終了間際から、一瞬の静寂を繋ぐ気分はロンリーのソロピアノ「Piano Solo Introduction」、そしてレイ・チャールズでお馴染みのR&B「I Got A Woman」を、最高にお洒落な雰囲気ジャズに変換した流れの良さは素晴らしい限りですよっ! この甘い雰囲気を聞かされたレイ・チャールズ御大の気持は如何ばかりか!? そんな不遜なことまで思ってしまうんですよねぇ~♪ しかも、そこにはちゃ~んと、アル・クーパー流儀のソウルフルな表現が、本当にたまりません。ちなみにアルトサックスのアドリブソロはBS&Tで同僚だったフレッド・リプシウスなのも、泣けます。

こういう自己流儀の焼き直しの妙は、ジェームス・テイラーの代表曲「Country Road」やジョン・ラウダーミルクが書いた「A Rose And A Baby Rut」でも冴えまくり♪♪~♪ 何れもオリジナルバージョンの味わいを拡大解釈したメロディ優先主義ながら、ゴスペルロックやカントリーロックといった時代の流行を先駆けているのは流石だと思いますし、アル・クーパーがそうした意匠を自ら表現した「I Bought You The Shoes」は、ストライクゾーンのど真ん中♪♪~♪

ということで、A面はアル・クーパーのポップな資質が全開でした。

それがB面に入ると、いきなりブルースロックに強く拘ったアルバムタイトル曲「Easy Does It」が、狂おしいアル・クーパー自身のボーカルとギターソロが圧倒的! 十八番のブラスアレンジも常套手段の連続ですが、こういう全て分かっている楽しみを堂々と演じてしまうあたりが、アル・クーパーの憎めなさかもしれません。個人的にも、ここで披露されるギターフレーズや音の使い方をコピーに勤しんだ過去の悪行から、何時聴いても血が騒ぎますねぇ~♪

さらに自己流ニューロックの「Buckskin Boy」から映画のサントラ音源らしき「Love Theme From The Landlord'」へと続く流れは、明らかにお気に入りだったゾンビーズっぽい溌剌と幻想が巧みにミックスされています。特に後者は幽玄のストリングに彩られた哀しみの曲メロと刹那の歌いまわしが実に良いですねぇ~♪ 歪んだ管楽器のようなシンセかギターで作られるオーケストラサウンドは、ちょいと初期のキングクリムゾンしています。

そうしたサイケデリックな味わいがニクイばかりに開花したのが、C面トップの「Sad, Sad Sunshine」でしょう。生ギターに導かれる思わせぶりなイントロからシタールやインド系打楽器がしなやかにビートを作り出せば、妖しいストリングと浮遊感に満ちた美メロがジワジワと空間に満ちていくんですから、もう最高♪♪~♪ ジョージ・ハリスンとポール・サイモンが共作したような感じとでも申しましょうか、アル・クーパーのひとり多重コーラスもジャストミートの名曲名唱ですよ。

あぁ、これを聴かずして、サイケデリックポップスは語れずと断言したいほどですが、もろちん時代は既に1970年とあって、これもアル・クーパーならではの確信犯的パロディかもしれませんね。

そのあたりは「Let The Duchess No」や「She Gets Me Where I Live」での軽いジャズフィーリング、あるいはゴスペル風味の大衆歌を些か凝り過ぎのアレンジで、さらりと歌うという十八番の披露にも共通しているのかもしれませんが、その細部にまで練り上げられたモザイク的なアレンジと演奏の緻密さは凄いと思います。

こうして迎える最終のD面は、なんとブルースの定番曲を素材に、12分を超えるロックジャズを演じる「Baby Pleade Don't Go」ですが、あくまでも演奏をリードしていくのはアル・クーパーのピアノであり、それを彩るアープシンセやオルガンで作り出される疑似ホーンセクションと本物の合成、さらに躍動的で空間の美学を大切するドラムスとベースの活躍でしょう。実際、アル・クーパーのアドリブには予め考えていたと思われるフレーズもありますし、脱力感さえ感じられるボーカルは、当時としては新しかったと思いますねぇ。

それでも饒舌がイヤミになっていないのは、この長尺演奏が意外にも飽きないからで、見事にポップなオーラスの「God Shed His Grace On Thee」が浮いてしまうほどです。

結論としては、よくもまあ、こんなバラエティに満ちた歌と演奏ばかり、それも極めて完成度の高いトラックだけを集めたもんだっ!?!

そう思うほかはありません。

こういう遣り口は、例えばビートルズの「ホワイトアルバム」に代表されるところですが、それを独りでやってしまったところにアル・クーパーの面目躍如たる存在感があるのでしょう。なにしろジャケ写からして、しっかりとリスナーを見つめているのですから!?!

2枚組ということで、リアルタイムでも後追いでも、ちょいと敷居の高いアルバムかもしれませんが、アル・クーパーを何か聴きたいと思っている皆様には、これがオススメ致します。


バッファロー・スプリングフィールド最期の挨拶

2010-03-17 17:52:09 | Rock

Last Time Around / Buffalo Springfield (Atoc)

CSN&Yやポコ、そしてロギンス&メッシーナが人気絶頂だった1970年代、その通過儀礼として各々のルーツだったバッファロー・スプリングフィールドを聴くことは絶対条件でした。

実際、洋楽マスコミは挙ってバッファロー・スプリングフィールドという、それまで我国では全く無名に近かったバンドを持ち上げていましたし、確かに名盤「アゲイン」を聴けば、それは十分に納得されるのですが、むしろ前述のブレイクに直結したという意味では、本日ご紹介の最終オリジナルアルバムが有効でした。

 A-1 On The Way Home
 A-2 It's So Hard To Wait
 A-3 Pretty Girl Why
 A-4 Four Days Gone
 A-5 Carefree County Day
 A-6 Special Care
 B-1 The Our Of Not Quite Rain
 B-2 Questions
 B-3 I Am A Child
 B-4 Merry-G0-Round
 B-5 Uno Mundo
 B-6 Kind Woman

本国アメリカで発売されたのは1968年夏頃、既にバッファロー・スプリングフィールドは解散した後のことだったと言われています。

それゆえに収録された各曲はメンバー各人のソロプロジェクトのような雰囲気も濃厚ですし、中にはデモテープを強引に仕上げたようなトラックさえあります。またバンド全盛期のアウトテイクまでもが引っ張り出されたのは言わずもがなでしょう。

このあたりは契約履行の苦肉の策だったのかもしれませんが、ここで大きな働きをしたのが、以前から録音エンジニアとしてセッションに参加していたジム・メッシーナでした。

ご存じのとおり、バッファロー・スプリングフィールドは結成時の意気込みとは裏腹に、成功を掴んだ後は人間関係の縺れや悪いクスリ等々、お決まりの迷走を踏襲し、スティーヴン・スティルス(vo,g,key)、ニール・ヤング(vo,g,key)、リッチー・フューレイ(vo,g,key)、ブルース・パーマー(b,vo)、デューイ・マーティン(ds,vo) というオリジナルメンバーの出入りは激しく、ライプステージには助っ人が登場することも度々だったと言われています。

そしてその中のひとりだったジム・メッシーナ(g,b,vo) が正式メンバー(?)となった1968年頃、バッファロー・スプリングフィールドは崩壊したのですが……。

とにかく発売されたラストアルバムは、しかしなかなかポップでお洒落、グルーヴィな歌と演奏が満載♪♪~♪ しかも纏まりもそれなりに良く構成されていると思います。

まず冒頭、「On The Way Home」はニール・ヤングが書き、リッチー・フューレイが歌うという変則仕様ですが、ストリングまでも使ったポップなフィーリングに驚きます。と、書いたのも、ご存じのように、この歌は後にCSN&Yのライプ盤「4ウェイ・ストリート」で作者本人によるアコースティックなバージョンが披露され、サイケおやじにしても当然ながら、そっちを先に聴いていたのですから!?!

ここからはサイケおやじの完全なる妄想ですが、もしかしたら最初はニール・ヤングが歌ったバッファロー・スプリングフィールドの未完成バージョンが存在したのかもしれません。ところがニール・ヤング本人がグループを出たり入ったりの状態では完成させることが出来ず、リッチー・フューレイとジム・メッシーナが独断専行でポップに仕上げたのかもしれません。

もちろんそれに伴うスタジオミュージシャンの参加も各トラックに顕著で、そのあたりは後年に発売されたCD4枚組のボックスセットで明らかにされるのですが、その最高の成果がリッチー・フューレイ会心の「Kind Woman」でしょう。このポップでカントリーロックした優しいメロディと歌いまわしは、永遠に不滅だと思いますねぇ~♪ 彩りを添えるスティールギターは後にジム・メッシーナも加わって結成されるポコのオリジナルメンバーだったラスティ・ヤングですから、さもありなん!

一方、ニール・ヤングは全く自分の「節」と個性的なボーカルスタイルを決定づけた「I Am A Child」で存在感を示します。

そして侮れないのが、やはりスティーヴン・スティルスでしょう。

お洒落なボサロックの「Pretty Girl Why」は、なんと1967年2月の録音ということですから、実質的な2nd アルバムとなった「アゲイン」の制作過程、その極初期に出来あがっていたのです!?!

また、そういうジャズっぽさは「Four Days Gone」にも顕著ですが、しかし正調スティルス節が出まくった「Questions」、グルーヴィなラテンビートを使った「Uno Mundo」は、やっぱり最高! 十八番のギターフレーズも痛快至極ですよねぇ~♪

とはいえ、繰り返しになりますが、このアルバムはリッチー・フューレイとジム・メッシーナが主導権を握って作られたことは否定しようもありません。

夢見るようにポップな「Merry-G0-Round」はリッチー・フューレイのジェントルな資質が完全に発揮された傑作トラックでしょうし、「Carefree County Day」に至っては正式メンバーか否か、ちょいと問題があるジム・メッシーナの独り舞台なんですから!?!

そのあたりはニール・ヤングも相当に反発しているようで、このアルバムをバッファロー・スプリングフィールドの公式盤とは認めていないようですし、前述したボックスセットからも、この「Carefree County Day」は外すという措置が!!

しかし、それでもこのアルバムは魅力満点♪♪~♪ 特にLP片面単位の曲の流れの気持良さは最高だと思います。

掲載したジャケ写からもご推察のとおり、例によってニール・ヤングだけが反逆児っぽい自己主張をしているのも、なんとなく分かりますねぇ。

冒頭に書いたとおり、最初は通過儀礼のアルバムでしたが、今は必須の愛聴盤になっているのでした。


酩酊飛行の強烈ライブ

2010-03-16 17:05:04 | Rock

Bless Its Pointed Little Head / Jefferson Airplane (RCA)

サイケデリックロックの全盛期を作った幾多のバンドの中でも、特に最高峰としてファンからも業界からも、常に熱い支持を得たのがジェファーソン・エアプレインだったことは間違いありません。

その先進的な理想を追求する姿勢は高い演奏能力に裏付けられ、それでいてチャートを賑わす大ヒットも放ちながら、決してシャリコマなんて批判を浴びなかったのですから、まさに稀有の存在だったと思います。

それは当然ながら、時には凝り過ぎ? と思えるようなスタジオ録音のアルバムも作っていた賛否両論が今日まで継続してはいるんですが、しかしライプの現場で披露される凄すぎる歌と演奏は、文句のつけようがありません。

本日ご紹介のアルバムは、そうしたジェファーソン・エアプレインの特化した姿を生々しく楽しめる人気盤! 録音は1968年10~11月、ニューヨークとサンフランシスコにあった東西の両フィルモア劇場でのライプセッションですから、まさに当時の流行最先端の現場に渦巻くロック黄金期の熱気が、しっかりと記録されています。

 A-1 Clergy
 A-2 3/5's Of A Mile In 10 Seconds / 恋して行こう
 A-3 Somebody To Love / あなただけを
 A-4 Fat Angel
 A-5 Rock Me Baby
 B-1 The Other Side Of This Life / 人生の裏側
 B-2 It's No Secret
 B-3 Plastic Fantastic Lover
 B-4 Turn Out The Lights
 B-5 Bear Melt

しかし流石はジェファーソン・エアプレインというか、まずA面冒頭の「Clergy」が意味不明のナレーションや観客の笑い声、そしてブーイング!?! 実は後で知ったことですが、なんとライプショウがスタートする前に特撮映画「キングコング」の一場面が映し出され、「おぉ、飛行機だっ!」なんていう台詞が確認出来るところからして、そういうシーンだったのでしょう。う~ん、なんて洒落がキツイ演出でしょう!?!

ところがそんなざわめきの中、スベンサー・ドライデンがヴィヴィッドなビートを叩き始めると、その場は完全にロック天国♪♪~♪ ソリッドなエレキギターが唸り、ベースが奔放に暴れる「恋して行こう」や大ヒット曲「あなただけを」は、何れもスタジオバージョンを遥かに凌駕するド迫力で、マーティ・バリンとグレース・スリックが自己主張満点の掛け合いを演じれば、ヨーマ・コウコネンのギターはエグ味を強め、ジャック・キャサディのペースが激しくウネリます。

そしてバンドではもうひとりの立役者だったボール・カントナーがサイケデリックに耽溺する「Fat Angel」は、なんと同時期の英国からフォークロックでブレイクしたドノバンのカパーなんですが、演奏パートの浮遊感溢れるアドリブ合戦も含めて、これぞっ、流行最先端のライプパフォーマンスを披露しています。

さらにA面ラストが、これまたリアルタイムでトレンドだったブルースロック大会! 演目の「Rock Me Baby」はご存じ、B.B.キングの十八番ですが、ここでは主役のヨーマ・コウコネンとジャック・キャサディが、直後にサイドプロジェクトとして始めるホット・ツナの予行演習というには、あまりにも見事な存在感を示すのです。

というように、メンバー各々が強烈に自己主張しながら、ガッチリ纏まっていたのがジェファーソン・エフプレインの全盛期でした。

その勢いはB面に入ると尚更に加速度を増し、これまたフレッド・ニールのカパー曲ながら完全なジェファーソンズのスタイルに変換された「人生の裏側」の痛快さは、筆舌に尽くし難いです。あぁ、この2本のエレキギターとベースが三位一体となり、ドラムスが鋭く煽るバンドコンビネーション、そして激しく熱いボーカルとコーラスの絡み! 本当に陶酔させられますよっ!

それはデビューアルバムに入っていた「It's No Secret」の激烈エレキバージョン、またセカンドアルバムからの「Plastic Fantastic Lover」という、おそらくは当時のライプでは定番だったと思われる手慣れたというにはあまりに強靭で安定した演奏にも感じられますが、マーティ・バリンとグレース・スリックの時には息苦しいほどに熱いボーカルの圧倒的な威力にも完全降伏です。

そして短い即興演奏のような「Turn Out The Lights」を経て始まるのが、いよいよのクライマックスとなる「Bear Melt」で、これはもう、ドロドロにブルージーでハードなサイケデリックの極致といって過言ではないでしょう。おそらくは毎回、その場の雰囲気で作り上げられていったであろう曲展開は、このライプレコーディングに率直なものが入っているかは知る由もありませんが、とにかくここに記録された10分を超える長尺トラックは、時代を超えてリスナーを悶絶させること必至だと思います。

ということで、何度聴いても熱くさせられる名盤ライプアルバム!

演奏展開は、同じサンフランシスコを根城としていたグレイトフル・デッドの遣り口に共通するものを感じますが、ジェファーソン・エアプレインの方が緊張と緩和のバランスにイケイケの姿勢があるというか、グレイトフル・デッドがユルユルな快楽を追及していくとすれば、かなり前向きな勢いがロックの本質に近いように思います。

これが世に出たのは1969年、我国でも「フィルモアのジェファーソン・エアプレイン」という邦題で同時期に発売され、各方面から絶賛されていたと記憶しています。

と書いたのも、当然ながらリアルタイムのサイケおやじは小遣いが乏しくて聴くことが叶わず、しばらく後に友人から借りて楽しむのがやっとでしたが、それでも熱くさせられましたですねぇ~♪ それは次に出る大名盤「ヴォランティアーズ」を迷わず買う原動力となったのは言わずもがな、1970年代に入って国内盤よりも安価で入手出来る輸入盤を今日まで聴きまくってきたという個人史になっています。

どうやら近年のリマスターCDにはボーナストラックも入っているようですし、これ以前の5月のライプ音源を纏めた正規盤CDもあるようですから、食指が動きます。

しかし最も望まれるのは、当時のライプ映像の発掘でしょうねぇ。

このアルバムを聴いているだけでも濃厚に感じられるステージでのライトショウや様々な視覚的演出、またメンバー各人の個性溢れるパフォーマンスは、リアルタイムの音楽雑誌を飾ったグラビア写真でも知っていましたが、やりは映像の強みには及ばないものがあるはずです。

まあ、贅沢を言えば限り無い話ではありますが、凄すぎるライプアルバムには付き物の罪な欲望ということで、今日は自嘲して聴いております。

最後になりましたが、ジャケ写で酔い潰れているのはジャック・キャサディで、「空っぽ頭にご加護を」という原盤アルバムタイトルにジャストミート!

それもまたジェファーソンズらしくて、最高! 


怖さ全開のライフタイム

2010-03-15 14:33:21 | Rock Jazz

(turnitover) / The Tony Williams Lifete (Polydor)

分かってはいるけれど、ど~しても否定しなければならないものとして、ジャズの世界ではトニー・ウィリアムスがやっていたライフタイムというバンドが、そのひとつでしょう。

なにしろ栄光のマイルス・デイビス・クインテットを辞めてまで始めたのが、ギンギンのハードロックとフリージャズを融合させたようなサイケデリックな演奏でしたから、ガチガチの評論家の先生方からは、それがジャズであれ、ロックであれ、どちらからも拒絶され、さらにファンも戸惑うしかなかったのが、デビュー作となった「Emergency!」でした。

しかし好きな人にも、これほど狂熱させられるバンドも他に無く、おそらくは実際のライプステージに接した幸せなファンも日々、増大していたと思います。

そしてそうした前向きにジコチュウな思惑が最大限に発揮された傑作盤が、本日ご紹介のセカンドアルバムでしょう。

録音は1970年、メンバーはトニー・ウィリアムス(ds,vo)、ジョン・マクリフリン(g)、ラリー・ヤング(org)、そして元クリームのジャック・ブルース(b,vo) が部分的に参加したというのが、ロックサイドからの注目でもありました。

A-1 To Whom It May Concern - Them
A-2 To Whom It May Concern - Us
 クレジットにはチック・コリア作とありますが、この録音時期までに作者本人のバージョンがあったかは、勉強不足で確認出来ていません。しかし、ここでは完全なるライフタイムの音楽として、その激しい演奏が成立しています。
 そのミソはもちろん強烈なディストーションに満ちたジョン・マクラフリンのギターであり、ヤケッパチなポリリズムのロックビートを叩きまくるトニー・ウィリアムス、さらにクールに浮遊しつつ、実は相当にエグイ事をやらかしているラリー・ヤングのオルガンが曲者です。
 ちなみにジャック・ブルースは、このパートには参加している形跡が感じられませんし、演奏そのものも、ふたつのパートは双子のような関係ということでしょうか、どこが切れ目か、ほとんど不明という連続したものになっています。
 まあ、このあたりはテープ編集が使われているのかもしれませんが、それにしても特に後半のプチキレは痛快!
 
A-3 This Night Song
 これが全く、当時から散々に悪く言われた演奏で、フヌケたトニー・ウィリアムスの御経のようなボーカルが噴飯物!? どろ~ん、としたインストパートのダレきったムードも、今でこそ意味深に聴けますが、正直に言えば、イライラとモヤモヤが……。
 絶対、ドタマにきますよっ!

A-4 Big Nick
 しかし一転、これが物凄い演奏ですっ!
 曲はご存じ、ジョン・コルトレーンのオリジナルですから、ここでもアップテンポの豪快な4ビートに徹するバンドの勢いは最高潮! なにしろ前曲が酷かったですからねぇ~~。
 アグレッシヴなラリー・ヤングのアドリブから、ジャック・ブルースの4ビートウォーキングを土台にメチャ弾けたトニー・ウィリアムスのドラミングが熱いです。
 う~ん、これを聴いていると、「This Night Song」が実は周到に用意された仕掛けの妙だと勘繰りたくなりますよ。

A-5 Right On
 こうして迎えるA面ラストが、これまた激ヤバのアップテンポ演奏で、歪みまくったジョン・マクラフリンのギターがブッ飛ばせば、トニー・ウィリアムスがドタバタのドラムスで背後から煽るという構図が確立し、好き勝手なラリー・ヤングと必死で正統派ジャズに拘るジャック・ブルースという、なんとも倒錯した展開が!?!
 いゃ~、2分に満たない演奏時間の短いさが惜しいという感じですが、しかし、こんなのを長く聴いていたら、発狂は間違いないところでしょうか……。

B-1 Once I Loved
 有名なカルロス・ジョビンの曲ということになっていますが、その演奏実態は所謂スペーシーなサイケデリックがそんまんま!?! オリジナルの美メロを期待すると、完全に怒りますよ。しかもトニー・ウィリアムスかジャック・ブルースの気抜けのボーカルがトドメのイライラ!?!
 確かにイノセントなジャズファンや評論家の先生方からダメの烙印を押されるのも当然が必然でしょうね。
 しかし、これも深淵な企み……?

B-2 Vuelta Abajo
 前曲で我慢の時間を過ごした後に炸裂するのが、この激しいロックジャズの決定版!
 もうハナからケツまでグイノリと過激なビートが全開ですから、トニー・ウィリアムスのドカドカ煩いドラミングが堪能出来ますし、クリームしまくったジャック・ブルースのベースはもちろんのこと、ジョン・マクラフリンの唯我独尊が痛快至極!
 本当に溜飲が下がりますねぇ~~♪

B-3 A Famous Blues
 これまた意味不明のボーカルパートが不気味な変質者の囁きという感じですし、演奏そのものも煮え切らないスタートですが、中盤から突如としてテンションが高くなり、ラリー・ヤングの暴走オルガンとトニー・ウィリアムスの千変万化のパワフルドラミングが良い感じ♪♪~♪ また終盤のボーカルに重なってくるリムショットやハイハットの使い方が、往年のマイルス・デイビスのバンドで聞かせてくれた名演を強く想起させてくれるのも嬉しいですよ。

B-4 Allah Be Praided
 そしてオーラスが、このアルバムの中では一番にキャッチーというか、浮かれたようにハードロックなリフを使ったテーマからアップテンポの4ビートがメインのアドリブパートへと流れる展開が痛快至極!
 ラリー・ヤングとジョン・マクラフリンのアドリブソロの応酬、如何にもモダンジャズなトニー・ウィリアムスとジャック・ブルースの4ビートグルーヴには安心感さえ表出していますが、いえいえ、そんな生易しい安逸なんて、ここではお呼びじゃないでしょうね。

ということで、あくまでも怖さに徹した演奏がぎっしり収められています。しかも特筆すべきは意図的に置かれたと思しき歌がメインの演奏で、それがあるからこそ、インスト主体の過激なロックジャズが尚更に刺激的!

このあたりは現代のCD鑑賞では、好きなトラックだけ選んで楽しむ実態には当てはまりませんが、アナログ盤LPレコードという片面単位のプログラムでは、必須の美しき流れが楽しめますよ。

しかもそうやって何度も聴いているうちに、バカみたいにフヌケたトニー・ウィリアムスのボーカルが無ければ物足りない雰囲気になってくるのが、これまた怖いです。

極言すれば、特にA面の「This Night Song」から「Big Nick」に続く流れを聴きたくて、じっと我慢を決め込むという、些かM的な自分に呆れるほどなんですが、しかし実際、煮え切らなさが頂点に達した後にスタートする「Big Nick」の最初の一撃だけで、思いっきりスカッとした気分に!!!

もちろん当然というか、ジャズ喫茶全盛期だった1970年代の前半に、このアルバムが店内で鳴らされていたという記憶が私にはありません。むしろトニー・ウィリアムスのライフタイムは禁句であり、忌み嫌われていたといって過言ではないでしょう。

ですから、このあたりを聴くためには、まず危険を冒して買うという行為しかなく、それでハズレと思ってしまえば、リスナーとしての資格が無かったということかもしれません。幸いにしてサイケおやじの感性にはジャストミートだったことに、今は感謝するだけです。

そして裏ジャケットの原盤ライナーには「Play It Loud」、さらに「Play It Very Very Loud」とそ強調して書いてあるのが、全くそのとおり! ガンガン聴けば、気分は爽快♪♪~♪

こんな上から下までミチョウチキリンな事になっている現代でこそ、真価を発揮出来るアルバムかもしれませんね。


スライ・ストーンのライフはロックだぜっ!

2010-03-14 15:04:08 | Soul

Life / Sly & The Family Stones (Epic)

スライ・ストーンの歌と演奏は全てが最高ですから、今日では人気も評価も高く認知されていると思いますが、しかしこのアルバムは、ちょいと影の薄い存在かもしれません。

なにしろ1968年の大ヒット盤「スライと踊ろう」と翌年の超絶ファンク名盤「スタンド」にな挟まれている上に、発売時期がリアルタイムで切迫していたという事情があったからでしょうか。

否、それにしてもここで楽しめる中身の濃さは圧巻というか、ファンクやソウルという以前に極めてロック味も前面に出ていますから、サイケおやじの好みにはジャストミートの1枚です。

 A-1 Dynamite!
 A-2 Chicken
 A-3 Plastic Jim
 A-4 Fun
 A-5 Into My Own Thing
 A-6 Harmony
 B-1 Life
 B-2 Love City
 B-3 I'm An Animal
 B-4 M'lady
 B-5 Jane Is A Groupee

当時のメンバーはスライ・ストーン(vo,key,g,hmc,etc)、フレディ・ストーン(g,vo)、ロージー・ストーン(vo,key)、ラリー・グラハム(b,vo)、グッグ・エリコ(ds)、シンシア・ロビンソン(tp)、ジェリー・マルティーニ(sax) の7人組で、ジャケットからも一目瞭然、黒人と白人の混成グループでした。

しかもスライ・ストーン本人が相当に白人ロック&ポップスに精通しており、このあたりはラジオのDJやプロデューサーとして音楽業界の裏方をやってきた蓄積でしょうし、当時のの流行だったサイケデリックロックを素早く黒人音楽に馴染ませた手腕は、スライ&ファミノーストーンとして正式デビューした1967年から既に顕著でした。

ただし当時のアメリカは黒人公民権運動やベトナム戦争の泥沼という現実的な社会問題がピークに達していた混乱期だったようですから、必然的に流行音楽にも政治的な姿勢が強く求められていた背景を無視出来ないのが、今日までの歴史的な考察になっています。

とはいえ、リアルタイムの我国ではスライ&ファミリーストーンが、どれほど流行っていたのかは記憶にありません。告白すればサイケおやじは、例の映画「ウッドストック」でスライ一味の強烈なパフォーマンスにKOされたのが初シビレだったのです。

そして「スライと踊ろう」というLPを買いましたが、それは他のスライの作品群から比べても、明らかに保守的なR&B色が強くなっていた聴き易さが良かったと思います。だって最初っから「暴動」なんていうアルバムに接してしたら、???の連続だったと思いますよ、当時は。

で、次に買ったのが、この「ライフ」なんですが、聴いた瞬間、うわぁぁぁ~!?! ロックっぽいなぁ~~♪ と思いましたですね。

まずエレギギターが矢鱈前面に出ていますし、そのフレーズやリズムにロック色が濃厚! 加えてホーンの使い方やポップな楽曲構造が、如何にも流行の白人ブラスロックなんですねぇ~。

実は私がこれを初めて聴いたのは1972年でしたから、既にシカゴやBS&Tによってブラスロックの洗礼を受けた後という事情も当然あるでしょう。しかし、この「ライフ」が制作録音されたのは1968年5月という歴史的な事実があって、当時は前述したブラスロックの王者達も未だブレイクする前でしたから、如何にこのアルバムが時代を先駆けていたかが納得出来るんじゃないでしょうか。

個人的には「Plastic Jim」が、なんといってもブラスロックのど真ん中で大好き♪♪~♪ 澄み切った音色でギンギンに弾きまくられるエレキギター、バタバタとロックするドラムスに蠢くベース、そしてカッコ良いブラス! 地味に土台を固めるオルガンも良い感じですし、何よりもロックスタイルのボーカルが黒人音楽としては新しい雰囲気を作り出しているように思います。

しかし流石はスライというか、瞬間的にロック全開のギターイントロからハネたビートを全開させるベースが軸の「Dynamite!」、ファンキー街道驀進の「Chicken」はジェームス・ブラウンのロック的解釈とでも申しましょうか、エレキギターがロックしているのとは逆に重いビートのドラムスが怖いほどですよ。もちろんソウルフルなコール&レスポンスを意識したボーカルリレーにも熱くさせられます。

というように冒頭からの3曲に集約されるファンキーロックな世界は、時には正統派R&Bやモータウンサウンドにも接近しつつ、アルバムの最後まで様々な展開を聞かせてくれますが、それは決して無秩序に収められてはいないと感じます。

ちょっとポール・マッカートニーがやってしまいそうな「Fun」はキャッチーだし、ブラックシネマのサントラの如き「Into My Own Thing」の無機質な熱気、モータウン調の「Harmony」はギターが楽しくて、本当にたまりません。

それはB面にも引き継がれ、グッと前向きの気合いが充実したアルバムタイトル曲「Life」のウキウキした高揚感は、最高です。

ところが続く「Love City」で雰囲気が一変! まさに元祖ニューソウルな、ハードで黒いフィーリングは圧巻ですし、イケイケのドラムスとジャズっぽいフルートの隠し味、さらにエグ味の効いたギターリフ! 全くフェードアウトして終るのが勿体ないほどです。

またファンクなお経節の「I'm An Animal」は好き嫌いがはっきりするかもしれませんが、続く「M'lady」での威勢の良さから、オーラスの「Jane Is A Groupee」で敢然と披露されるサイケデリックロックとソウルミュージックの幸せな結末は、まさに1960年代末の雰囲気がモロ! ほとんどCSN&Yのエレクトリックセットようでもあり、とにかく痛烈にロックぽいエレギギターが重要な鍵を握っているあたりが意味深でしょう。

ということで、こんなに魅力的なアルバムが何故に忘れられたのかと言えば、次に出た「スタンド」が凄すぎましたよっ! この「ライフ」が大好きなサイケおやじにしても、その事実は些かの否定も出来ません。

ご存じのとおりスライ&ファミリーストーンはソウルの中の汎用派であり、デビューアルバムはポップス、セカンドの「スライと踊ろう」はR&B、そして4作目の「スタンド」がファンク! と一言で決めつけるならば、この「ライフ」はロックでしょう。

しかしスライ&ファミリーストーンに過渡期なんて言葉は適用出来るはずもなく、何時だって先端の全盛期だったのでしょう。ですから「暴動」なんていう極北の名盤も作られてしまうんでしょうが、少なくともこの「ライフ」を出していた頃は、煮詰まる前の充実期だったと思います。

そして最後にもうひとつ告白しておくと、これを買ったのは輸入盤のバーゲンセールで、一緒に入手したのが度々タイトル名を出している名盤「スタンド」でしたから、続けて聴けたという贅沢の中に戸惑いも確かにありました。

極言すれば時代性からして、「スタンド」に夢中になった後では、この「ライフ」が物足りないのです……。ところが最近は、「ライフ」の良さがシミジミ分かるといえば不遜かもしれませんねぇ。

とにかく今の気分は「ライフ」であって、そのロックっぽいソウルミュージック、最高!


愛聴40年近くのライ・クーダー

2010-03-12 16:48:58 | Ry Cooder

Into The Purple Valley / Ry Cooder (Reprise)


なんともハリウッドなジャケットデザインでお馴染みでしょう。これはライ・クーダーの2作目のリーダーアルバムで、既にストーンズの繋がりから初リーダー盤の前作を気に入っていた私は、最初っから相当に気合いを入れて愛聴した1枚です。

内容はアメリカの大衆伝承歌やフォーク、ブルース、そしてR&B等々をライ・クーダーならではのハイブリット感覚というか、好きなようにアレンジして歌い、演奏したものですが、そこには天才的なギターの腕前と偉大な先人達への敬意がしっかり記録されているように思います。

ちなみに「紫の峡谷」という、丸っきりディープ・パープル状態の邦題で発売された昭和47(1972)年と言えば、特に我国ではフォークブームの真っ只中! 極めて歌謡曲に接近した連中も登場し、また逆に歌謡曲のスタアがフォークスタイルのヒットを飛ばすという状況でしたが、そんな中でも所謂「四畳半」と称された地味な味わいを追求する、昔ながらのフォーク歌手も頑張っていました。

そしてそうした源流に大きな啓示とヒントを与えていたのが、このアルバムだったんじゃないでしょうか?

結論から言えば、私は初めて聴いた時、当時の我国で流行っていたフォークの元ネタに触れた気がしたものです。

 A-1 How Can You Keep On Moving
 A-2 Billy The Kid
 A-3 Money Honey
 A-4 F.D.R. In Trinidad
 A-5 Teardrops Will Fall
 A-6 Denomination Blues
 B-1 On A Mandy
 B-2 Hey Porter
 B-3 Great Dream From Heaven
 B-4 Taxes On The Farmer Feeds Us All
 B-5 Vigilante Man

セッションメンバーはライ・クーダー(vo,g,mandolin) 以下、クリス・エスリッジ(b)、ジム・ケルトナー(ds)、ジム・ディッキンソン(p)、ミルト・ホランド(per)、ヴァン・ダイク・パークス(key)、グロリア・ジョーンズ(vo)、クラウディア・リニアー(vo)、ジョージ・ボハノン(tb) 等々、前作から引き続いてのシブイ名人揃いゆえに、一筋縄ではいきません。

極言すればフォークでありながら、ロックがど真ん中の力強いビートと音作りは完璧!

それは冒頭「How Can You Keep On Moving」での幾層にも重ねられたギターのラフで緻密な構成、しなやかなドラムスのビートと的確なペース、楽しげなピアノに支えられたフォークソングの黄金律とも言うべきメロディを歌うライ・クーダーのイナタイ雰囲気♪♪~♪ そして何よりも途中から滑り込んでくる生ギターのスライドと間奏のアドリブの素晴らしさっ!

正直、最初に聴いた時から今でも、全くどうやって弾いているのか、コピーすら出来ませんが、その快楽的なノリは最高の極みですよ♪♪~♪

実はライ・クーダーは正確無比なフィンガービッキングと様々な変則チューニングを多用していますから、実際のライプでは何本ものギターをステージ後方にずら~っと並べ、その中から適宜選んで演奏に使っているのですが、そういう幾つものスケールを頭と手の指で自然に覚えているというのは驚異だと思います。

もちろん運指の上手さ、絶妙のリズム感も天才の証明ですから、例えば黒人コーラスグループのドリフターズが1953年に放ったヒット曲のカパー「Money Honey」の粘っこグルーヴを、全く独自のフィーリングで演じてしまった痛快さも素晴らしい! どっしり重いドラムスと歪むエレキスライド、ラテン味のマンドリン、そして間奏のスライドアドリブのスリルとサスペンス! もう絶句して歓喜悶絶の世界です。バンド全員がシンコペイトしまくったノリも異常事態でしょうねぇ~♪

そうした絶妙のR&B味は「Teardrops Will Fall」でも表出されますが、ここでも絶妙な中南米グルーヴが特筆もので、決して派手ではないんですが、そこはかとない仕掛けの妙が胸キュン♪♪~♪

また気になるフォーク王道の響きとしては、生ギターやマンドリンを積極的に使うことによって更に味わい深く、もちろん多重録音が駆使されているんですが、全くイヤミがありません。むしろその用意周到なアレンジと完璧な演奏に圧倒されると思います。

それはハードエッジなマンドリンとエレキスライドが冴えまくりの「Billy The Kid」、上手すぎるフィンガービッキングに耳を奪われる「F.D.R. In Trinidad」、ゴスペルフォークをチェレスタで彩った「Denomination Blues」、シンプルで粗野なスライドが力強いロックへと変転する「On A Mandy」等々、本当に匠の技としか言えませんが、何れも参加したセッションメンバーの堅実な助演を抜きにしては語れません。

中でもジム・ケルトナーのドラムスが凄い存在感で、ローリングしたビートとでも申しましょうか、セカンドラインやラテンのリズムを盛り込みつつ、最高にロックしているのは流石!

ですからライ・クーダーも心置きなく自分の好きな世界を構築出来ているようです。それは特に「Taxes On The Farmer Feeds Us All」におけるゴッタ煮グルーヴに顕著だと思うんですが、とにかくジム・ケルトナーのスネア主体のドラミングは痛快無比! じっくり構えてエグ味全開というライ・クーダーのエレキスライドも最高ですし、アコーディオンの存在も無視出来ず、このあたりは後に更なる進展を披露する布石になったような気がしています。

その意味でシンプルなアンプラグド系の「Hey Porter」やギターソロのインスト「Great Dream From Heaven」、そしてオーラスの「Vigilante Man」はスライドギターで黒人ブルース風にやってくれますから、地味なんてとても言えない自己主張は最後まで押しが強いのです。

もちろん、このアルバムの収録曲は全てが他人の演目ですが、ここまで個性を出しきったライ・クーダーの力量は物凄く、さらに後でオリジナルバージョンの幾つかを聴いて仰天したのは、ライ・クーターが思いっきり原曲の味わいを崩している演奏が多かった!?! ということでした。

ですからこんな、一見すればシンプルな演目集に如何にもハリウッドっぽい「作り物」をデザインしたジャケットはミスマッチどころから、実に意味深じゃないでしょうか。つまりライ・クーダーは昔の楽曲を引っ張り出して聞かせるだけでなく、実に現代的にリメイクしていたのです。

それは録音のロックっぽさ、各楽器やボーカルのミックスが緻密に作り込まれていること等々、このアルバムを聴くほどに感動させられます。もちろん音楽そのものの魅力も最高ですよ。

出会ってから既に40年近く経っていますが、私にとって、おそらくは無人島へ持っていく候補の中の1枚です。