この著作を読むとこんなことが分かります。僕自身の自戒をも込めて以下を訴えるものです。
現在の日本政治に対してこういう批判は常に聞いてきました。
「元々サッチャー、レーガンに端を発する新自由主義経済なのだし、アメリカ格差社会を追いかけてきたのだから、日本は悪いに決まっている」
「グローバリズムの下、小泉の構造改革、規制緩和。さらに悪化は当然でしょう。何をいまさら」
そしてこう語る人もここの読者には存在するかも知れません。
「資本主義ってそんなもの。だから我々は厳しく批判してきたのに、やっと分かったの?」
さて、これらの言葉がどれだけ皮相で、「日本の現実を実は美化している」だけのものであるかを、この本は教えてくれます。何か抽象的な言葉に置き換えて批判した気になるのとこの本のようなやり方とは、万人に対する説得力という点で全く違うということです。
日本が先進国の中で最悪クラスの、最新の大事な数字をふんだんに上げている。抽象的な言葉による批判ならば、その言葉の理解も学識の程度によりぼんやりとするし、それへの反対とか賛成とかに意見も分かれるでしょう。が、重要事項での最新の最悪数字には解釈の余地がない。しかもそれが、予想以上に本当に悪い。
例えば、「公的教育支出の各国GDP比較で、日本はアメリカよりこれだけ悪く、最悪のギリシャに近い」とOECD(経済協力開発機構)調査の各国数字を上げて語る。これは、近代国家の中では「機会の不公平」が最も酷く、貧乏人に最もチャンスが少ない国ということのはずです。
かくて、身近な所でも次のように「貧富の世襲、階層固定」現象が起こる理由が、最も深く分かる。僕の連れ合い(母子家庭、5人兄弟姉妹の長女)の側の甥姪はニート、フリーターも多く、適齢期以上6人全員未婚であり、僕の方(両親とも全国区の最難関大学出。父は明治生まれの大学院卒相当で、兄弟姉妹4人の次男)の甥姪は国公立大学大学院卒とか医者2人とかで、既婚7割。うち、女にも経済力があるから女2人を含めて離婚が3人。なお、僕の父母も僕の連れ合いも、田舎の貧しい境遇から自分で最高学歴まではい上がった人です。こういう人はもう、なかなか出にくくなっているはず。これが「階層固定」、「貧富の世襲」ということ。
同じくOECD国際比較で「税と社会保障による再分配効果ジニ係数(本書に説明がついています)では、日本の倍以上がイタリア、オーストラリア、オランダなど無数にあり、アメリカでさえ日本の1・5倍ほど」とこう語れば、日本の再チャレンジなどのセイフティーネットが全く駄目なのは自明。つまり、貧者が極端に放置されているということです。
また、時間当たり最低賃金がこれほど低く、最低賃金のフルタイマー賃金平均への比率はアメリカはおろか、スペインよりも悪く、最低賃金以下の労働者比率はフランスに次いで最悪(フランスは多分、例の「移民問題」)といえば、「結果の不平等」がこの上なく放置された国ということです。
(陰の声です。ちなみに、なのに昨20日の最低賃金をめぐる毎日新聞のある記事には驚きました。「内閣府規制改革会議の意見書で、最低賃金アップには反対方向」なのだそうです。その「理屈」がふるっている。平たく言えば「最低賃金アップや労働時間上限規制をやると、最も無能な者を経営者が雇いたがらなくなる。無能な者に門戸を開くために最低賃金は上げず、際限なく働ける方がよい」ですって?この理屈って理解できます?だれが言い出すのか、いやはや、なんとも!!小泉が、こんな理屈ばっか真に受けて頑張った成果こそ、この本で表現された実態ということなのでしょうね。)
みなさん、どうかこの本を読んでみてください。700円。多少苦労はしても、読みがいがある本で、理解もできると思います。