昨日の(8)を要約すればこうなろう。
①サイドからのクロスによる得点においても、敵ディフェンダーを引っ張り出したり、剥がしたりしておくと成功しやすい。
②関連して、サイドに数的優位を作ると、敵DFを剥がしやすい。前回の例では、右サイドに松井、玉田、今野、長谷部がいて、結局それぞれが敵1人づつを剥がしているから、時計回りに大きく左に回りこんだ玉田がドフリーになれたというわけである。敵DFを多く剥がせばはがすほど、敵ゴール前に多くの良いスペースができて、シューターの自由度が高くなる。
③もちろんクロスに対しては走り込む人数が多いほど得点の確率は高まる。昨日の例ではニアに走りこんだ大久保が潰れて、ファーの玉田の点になった。
さて、グランパスは上記のような攻撃が非常に得意である。それも最近はひんぱんに右サイドで数的優位を作って崩していく。右サイドMFの小川と、右サイドDFの竹内やバヤリッツァが組んで攻め上がるのだ。増川がセンターバックに入るときには、バヤリッツァが右サイドDFに入る。そして右DFに誰が入っても、右DFが小川を追い越してどんどん前へいくことが約束事になっている。Jリーグ個人クロス数ベスト10に現在竹内が4位、小川が9位に入っているのは、その結果である。
ところで、4月26日に東京Vに0得点で負けたのは、敵がボランチを3人にしてここを潰すという対策を立ててきたからだと言っても過言ではない。そういう場合にはどうするか。右に敵を引き寄せておいて左へサイドチェンジをしたり、中央突破を図ったりする。選手自身の言葉を拾ってみよう。
「自分としては、センタリングからシュートという形は確率的に難しいと思うんです。だから、スルーパスで背後を狙う、ポストプレーから中で崩す場面が増えれば、相手にとってより脅威になると思います。自分が引いてボールを持ったら、ボールを下げずにヨンセンに当てて押し上げることができる。彼は潰れ役になれるし、キープ力もとても高いですから、みんなも安心してボールを預けていると思います」(玉田の言葉)
「サイドからのクロスからではなく、しっかり崩してからのゴールで、チームとしての幅の広さを見せることができたシーンだと思いますよ」(4月12日の清水戦の1得点を振り返った小川の言葉)
以上によっても分かるように、点取りのバリエーションが豊富でないと、今のJリーグで勝ち残ることはできない。先述した東京Vのグランパス対策を見ても分かるように、敵の点取り技を研究し尽くして、すぐに潰しに来るからだ。グランパスは左サイドからも左MFマギヌンと左DF阿部が組んで攻めあがるから、「右で詰まったら左へサイドチェンジ」も可能である。マギヌンと小川が頻繁にポジションチェンジ、「左右入れ替わり」をしたりもする。
こうして今後は、ヨンセンをクサビにした玉田、マギヌン、小川らによる中央突破や、サイドチェンジなどの、質や量を高め、上げていくことは間違いないと思う。終盤の「俊足・杉本の走りこみに合わせるアーリークロス得点」という得意技もますます磨きをかけていくと思う。
なお、グランパスは非常に多くの攻撃チャンスを持っており、その自由度も極めて高いと言えると思う。前々回の(7)でまとめた「リーグ1のボール奪取数」があるからだ。これがある内は大崩れはしないだろうが、それだけに「全員防御・全員攻撃」のハードワークから、全体的に疲労がたまったとき、中村か吉村が故障したときなどが心配になる。この点では、ストイコビッチが選手層を厚くするよう、いつも非常な努力を払っていると僕は見ているが。