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随筆 「退廃極まる政治」   文科系

2013年03月24日 22時36分09秒 | 文芸作品
 退廃極まる政治

 去年の米大統領選挙で、この演説ほど話題になったものはあるまい。こう解説されて大評判になったものだ、「オバマは税を払わない奴のための政治。私は納税者のために働く」。
『九月二六日。ロムニー陣営の幹部らは米キニピアック大などが発表した世論調査に青ざめた。中西部オハイオ州で十ポイント、南部フロリダ州で九ポイントという大差でオバマ氏が支持率の優位をみせたからだ。数ポイント差の接戦とされていた両州でロムニー氏の劣勢が濃厚になった。(中略)
 支持率低下の最大の要因は相次いだ失言だ。
「オバマ氏に投票する四七%の国民は政府に依存し、自分は被害者で政府が面倒を見る必要があると考えている。所得税も払っていない」――。庶民感覚のない大富豪ぶりを指摘されてきたロムニー氏だが、その印象は決定的になった。弱者切り捨てと受け取られかねないだけに、共和党内部からも批判が集中した。(以下略)』(日経新聞)

 さて、選挙演説でこう話す感覚!?それが大統領有力候補の口から出るアメリカって、一体どういう国なのか。この演説のさわり部分は、日本なら明治時代にあった「制限選挙制度」の考え方と親類なのだから。「選挙権を持つのは、○○円以上の納税者男子とする」というあれである。こういう人を大統領候補に選ぶ政党が確か下院では多数党だった。訳が分からないが、こういう傾向がこの三十年ほどかの国に打ち続いた重大な政治変化に起因するのは明らかだろう。

 八一年に始まったレーガン大統領の政治は、なんと「画期的」なものであったか。大減税を行った。それも大金持ちには、特に。また、こう称して、法人税減らし、投資資金控除などにも邁進していった。「一般消費者の側ではなく供給側をこそ、これからは刺激していく。そういう景気対策をとる」。すると、凄まじい格差が生じた。だぶついたこれらの所得、資金でもって今度は、こんな画策が始まる。八〇年代急成長をとげた中南米、アジアなどで汗水垂らして蓄えた金が、九十年代には一夜にしてアメリカに奪われていくことになる。通貨危機という形で世紀の移り目に世界中で起こったマネーゲームがそれだ。全国の大学経済学部のために作られた教科書から、そのアジア通貨危機の発端、九七年のタイ国の一例を抜き出してみよう。
『投機家はタイに自己実現的通貨投機をしかけた。一ドル二五バーツに事実上固定していたタイ・バーツが貿易収支の悪化から下落すると予想し、三ヶ月後に二五バーツでバーツを売りドルを時価で買う先物予約をすると同時に、直物でバーツを売り浴びせた。タイ中央銀行は外貨準備二五〇億ドルのほとんどすべてを動員して通貨防衛を試みたが力尽きた。』(東洋経済「現代世界経済をとらえる VER5」二〇一〇年。一二一頁)
 これは、その五年前にヘッジファンドの雄ジョージ・ソロスがイングランド銀行を、空売りでもって完敗させたのとそっくり同じやり方である。ソロスは、東西ドイツ統一でイギリスからドイツへとマルクが還流していくと見越して、ポンドの空売りとマルク買い攻撃をしかけたのである。なお、空売りとはこういうものだ。間もなく安くなると見込んだ通貨、株などを大量に借り受けそれを売り、最も安くなった時を見計らった安値でこれを買い戻して貸し主に現物を返すことによって、その差額を取得するという手法だ。元金はその借り受け株や通貨などの総額の4%ほどを見せておくだけでよいから、25倍ほどの大ばくちが打てるというやり方でもある。

 このようにしてアメリカには、日本より遙かに激しかった超格差がもっと膨らんでいった。〇五年には、一%の国民が国民所得の二二%を占めるというように。この非人間的社会現象を前にしたら、こんな説でも流布させるしか自己防御術はないのだろう。「大金持ちの金は、サービス業などにも大いに流れていくのだ」と、これをトリクルダウン説という。トゥリクルとは、ぽたぽたと滴り落ちるという意味だ。「下」の人をバカにしていてふざけたような表現と僕は感じるが、確かに幾分かそうなるには違いない。が、何十億円ものボーナスが付く人々も多いこの超格差を打ち消す勢いでこんな喧伝がなされてきたというのが、いかにも今のこの国らしい。
 これらの出来事すべての間にも、アメリカの軍事費はいっこうに減らなかったのである。それまでの軍隊強化の口実、「冷戦」が終わったというのに。こういう「口実創造」、意識して国家の敵を作り出すやり口も含めて、これもお金持ち本位政治の国ということなのだろう。こうして八十年代以降のアメリカは「好景気に沸き続けた」のだそうだ。ただこの好景気も基本的には金融が儲けただけであって、ITバブルを除いてはアメリカの製造業はどんどん衰えていくことになる。貿易収支の大赤字がその証拠と言われ、この赤字を支えてきたのは日本や中国などだ。米国への輸出などで儲けた金をアメリカに還流させ、この金でアメリカがこれらの国の商品をさらに買い増し、アメリカの家計赤字などを増やしてきただけだったと、これも今や通説である。こんなやりかたも、ドルが基軸通貨だったから可能だったこと。次第にこんな手は使えなくなってきたから、ドルはどんどん安くなっていくはずだ。そしてさらに何よりの悲劇はこれ。アメリカのこの金融本位経済がサブプライム住宅バブル爆発で、一兆ドルを超える莫大な国家赤字を積み足したことだ。その分「軍事を削るか、福祉を削るのか」との国論分裂も激化したりしつつ、ドルはさらに安くなっていくのだろう。これではアメリカは、中国が怖いわけである。中国はどうも、作られた「強敵」ではないようだ。アメリカから儲けた金で大量のドルと米国債を所有し、その金で軍事力も強化してきた。嘘の理由でイラクに戦争を仕掛けたなど強面一本でやってきたアメリカ流儀も、中国にはどうも通じそうもない。元安をどうやって崩せるか。さもなくば、覇権の交代がおこるのか。とにかく日本だけは味方に付けておかねばならぬ。そして、あわよくば、アメリカの前衛部隊、楯になっていただけないものか。

 以上の間中、金融によって整理統合・合理化されるだけだったアメリカ現物経済は、失業者、半失業者を、つまり相対的貧困者をどんどん生み出し、国としての購買力をなくしているのだ。これでどうして景気が良くなるのだろうか。アメリカはもちろん、世界の景気も。いや、万一こういうやり方すべてを前提として「アメリカの株価にかぎって景気が良くなった」としても、人類にとってどんな意味があるというのだろう。憎しみの連鎖から、世界が滅びていくのではないか。

 ロムニーの発言は、この三〇年かけてアメリカがたどり着いた「到達点」なのでもあろう。
コメント (6)
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