特定秘密保護法はツワネ原則に照らしてどうなのか(朝日新聞・天声人語)
ものを考える場合の出発点が正反対だと、話し合ってもかみ合いにくい。憲法改正論議がそうだろう。憲法とは、国民が権力を縛るものなのか、権力が国民を縛るものなのか。世界の常識は前者だが、後者のように考える人もいて、もみ合いが続く▼特定秘密保護法案をめぐる論議もよく似ている。政府の情報は国民の共有財産なのか、お上の占有物なのか。それによって、基本的にはオープンにするのか、あからさまに言わないまでも隠せるものは隠しておこうとするのかがわかれる▼安全保障にかんする情報と国民の権利の関係について、いま「ツワネ原則」が注目されつつある。国連や70カ国以上の専門家500人が話し合ってまとめ、今年6月に南アフリカの都市ツワネで示された。内容は法案とずいぶん違う▼国会図書館の最近の報告をもとに少し紹介する。公的機関の情報はだれでもが知る権利を持つ。ツワネ原則はまずそう宣言する。権利を制限するなら、それが正当であることを政府が証明しなければならない。はじめに権利ありき、の発想だ▼むろん軍事など必要なものは秘密にできるが、期間を限らなければならない。内部告発をした人の保護も盛り込まれている。政府の秘密保全に幾重にも縛りをかけておく。原則を貫いているのは、権力というものへの健全な疑いだろう▼こうした世界の潮流から、秘密保護法案は遠い。憲法論議も同じだが、そもそもの考え方の違いを確認することからやり直した方がいい。
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番外編Ⅷで、特定秘密保護法は自由権規約に反するという新しい視点の朝日新聞への投書を紹介しましたが、さらにツワネ原則というものに照らしてどうなのかという問題もあります。
8日の朝日新聞・天声人語がそのことを提起していますが、6日に衆議院第一議員会館で行われた超党派の国会議員や市民の秘密保護法についての勉強会で海渡雄一弁護士が「『ツワネ原則』に基づけば、秘密保護法案は白紙に戻すべきだ」と提起しました。(7日朝日新聞)。天声人語はこれを受けたものと思われますが、このツワネ原則は天声人語が紹介しているように世界中の専門家が集まって協議して合意し、宣言したものです。
「公衆は政府の情報にアクセスする権利を有する。それは、公的な機能を果す。或いは公的な資金を受け取る私的機関も含まれる」(原則1)ではじまるこの原則は「政府は防衛計画、兵器開発、諜報機関によって使われる情報源など狭義の分野で合法的に情報を制限することができる(後略)」(原則9)と安全保障面における政府の情報制限を認めながらも、「公衆はまた、安全保障セクターの機関の存在について知る権利を有し、それらの機関を統治するための法律や規則、そしてそれらの機関の予算についての情報も知る権利を有する」(原則6)と情報は国民のものであり、国民は知る権利があるという原則が貫かれています。
その他、情報の秘匿が無期限であってはならず、機密解除要請の明確な手続きがなければならないなどの規定もあります。
国会の審議で国民の知る権利が保障されるのかどうかについて深い討議が行われなければなりませんし、守られないなら否決・廃案にするよう議員の良識に訴えたいと思います。
大西 五郎