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規制の虜復活(15) 書評「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」  文科系

2013年11月16日 12時07分58秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 これは、岩波新書の本で、著者は日野行介・毎日新聞東京社会部記者である。

 さて、14日拙稿の予告編に記したようないくつかの記事を書くのに新聞記者というものがどれほどの労力を費やすことがあるかという、そういう記録の書だと言って良い。労力を費やした対象の全貌があまりにも大きすぎかつ重大すぎる割に、生まれた少ない記事には到底書ききれなかった事実や心などをどこかで吐き出したいと、そういう著作と読んだ。なんせターゲットは、国、県やその医療機関など『我が国の公的機関で唯一の(網羅的な)福島原発事故放射能住民被害調査』である。国が調査をやるのか県がやるのかという内々の発端から、それぞれ当初のいろんな思惑、混乱。そして間もなく被害実態過小化、隠蔽につながる調査へと走っていった様がうかがわれる。
 なんせまず、こういう事実がある。11年3月の事故直後3~4月に国、県でそれぞれ調査への動きが始まってから、翌12年11月まで県民健康調査検討委員会に向けて毎回、秘密の会議、議論が行われていたのである。12年10月3日に毎日新聞が「秘密会で見解をすりあわせ」と報道した直後にこの事前すりあわせ会議がなくなるまで、既に8回の会議(8回の検討委員会自身と、8回の事前すりあわせ会と)が済んでいた。大方の調査方針はもちろん、何を拾い上げどう評価するかという偏った評価観点もほとんど実行を終えていて、調査自身も直後の最も大事な所はあらかた終わってしまった。
 なお、健康調査機関は福島県立医大であって、健康調査検討委員会とは事前に調査方針を決めそれを事後に評価検討する機関である。調査機関とその評価機関が主要メンバーがダブっているというのも、かなりおかしいことらしい。ここでも、調査資料を制限した狭いものにして、それが外に広がることも抑えたと疑われても仕方ないはずだ。さてその間に、事故からここまで約1年半、貴重な「時」が失われ、200万県民被害に向けた「事故後4か月の行動アンケート」も13年3月末現在回答率23.4%、甲状腺にのみ偏って、内部被曝検査も欠けた、薄っぺらな資料しか残せなかったといえるのである。

 さて、これら原発健康被害の過小化工作が初めて関係者以外に知られたのが、上記毎日新聞12年10月3日の記事である。日野記者らがこのターゲットに向けて図らずも接近していくことになった出来事が同年4月、意識して情報公開申請などに動き始めたのは5月。記事にするまで約半年かかっている。なお、最初の資料公開申請への許可は、延び延びになったりして、酷く難航していたものだ。本邦初公開にして貴重すぎるほどの労力の結実であった。本の中には、こんな下りがあったが、この時の著者らが、どれほど嬉しかったことか。
『3日朝、ネット上で記事を検索すると、数万件のヒットがあった。過去の記事では経験したことのない拡散ぶりだ。さらに、テレビの情報番組も記事を大きく取り上げていた。・・・・福島県議会では、前日に引き続き一般質問が行われていた。自民党の県議が記事に基づき、「県民への背信行為だ」と県を追及した。これに対して、村田文雄副知事が答弁に立ち、「準備会」を開催していた事実を認めて陳謝しつつ、こう釈明した。「意見の調整はしていない。誤解を招いて申し訳なかった」・・・・検討委員である福島医師会の星北斗常任理事はテレビ局の取材に応じ、「隠したいという県の意思を感じた」と述べ、問題を率直に認めていた』(67頁)

 事故から1年半以上経過した3日の記事がこれだけ騒がれた事情は、はっきりしている。県の事務方が専門家を事前の秘密会議で一定方向に誘導してきたという事実がこの時まで国民に全く隠されていたからである。どこの何を、どのように誘導したのか? そして、僕は思う。県の事務方の背後には、間違いなく国がいると。再稼働に走りたい国は、この大切な調査のねじ曲げを県に委ねて、騒ぎになった時の責任回避に走っていたのだとも。
「甲状腺がんは普通、100万人に1人」と豪語していたその学者たちは、いまこういう事実をどうも説明できないでいるはずだ。事故当時18歳以下の38万人調査のなかから、それ以降13年2月現在までに3人のがん患者と7人の疑い例が見つかっている。このうち先に見つかった一人目の患者例については「被爆とは因果関係はない。そういうことでよろしく」。秘密会議で事前に誘導されていた結論の一つである。
コメント (1)
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