「株屋はヤバイ」という訳ーー国際金融暴力の手口(その1)
この言葉、麻生太郎氏が総理の時代から広言してきたもの。以降ずっと「株屋はヤバイ」と語り続けてきたわけである。現財務相としてもなお言い続けているのは、以下のような理由と見る。アメリカ流経営への口先介入、国内的には警戒警報発言と観るべきだろう。他の全てを置いておいて、ここのところだけは僕も彼に同意する。以下全てのように、ここのところ書いてきた事がまとめられるからだ。経済本や経済誌をここに絞ったように読んできた形になって、ファンドや証券会社、投資銀行の世界最新の遣り口をもっと世に広めるべきと思い立った。米英を中心とした新たな金融暴力は、案外世に隠されてきたとも愚考している。金融は元々秘密裏に行動してこそ儲かるものなのだし、酷い目にあった方はこれを隠すのが常だからだと思う。
1 企業の筆頭株主になって
企業の株を買い占めて筆頭株主になると、こんなことをする。長期的株主としては、人員整理や無駄の削減などリストラに励んで株価を大幅に上げ、これを売り抜いたりする。こういうやり方はどんどん広がっていくから、現代世界に失業者や不安定労働者が増えている最大の原因になった。米英が外国の会社にもこんな進出をどんどんやって来たからだ。こういう人員整理を大いに促進するような、こんな仕組みもある。
『大企業の社債、ギリシャの国債など、格下げされると「崖から落ちる」ほどの効果がありうるのだ。いつかトヨタが、人員整理をせず、利益見込みを下方修正した時、当時の奥田碩会長は、格付けを下げたムーディーズに対してひどく怒ったことは理解できる』(ドナルド・ドーア著「金融が乗っ取る世界経済」)
他方、金融は、短期筆頭株主になってこんなこともやる。土地や建物など資産を多く持っている会社に目を着け、筆頭株主になってその土地を売るなどして株価を大幅に上げ、折を見て全部売り払う。
最近の日本経済論調では、こういうやり方への批判も激烈になった。「米国流『ガバナンス』が企業を弱くする」。これは、高級経済誌「Wedge 3月号」表紙にも大書された二〇ページ大特集の表題。その主旨は、金融中心主義が企業・社会を壊してきたというものだ。週刊東洋経済一一月一二日号も四〇ページ大特集「日米関係の大不安」を大看板にしていて、投資家の自由、国有企業への企業参入問題などが満ち溢れているが、同じような背景があるわけだ。
2 通貨戦争
九七年東アジア通貨危機、〇一年トルコとアルゼンチン、そしてギリシャ危機など近年無数に起こっているものだ。解説が大変難しいこの遣り口の一つを、アジア通貨危機の発信地タイを例にとって説明してみよう。
一ドルがタイ通貨二五バーツのある時点において、三か月後に三〇バーツに下落すると「予測」して、一ドル二五バーツでドルを大量に買う先物予約をしておく。その上で、バーツを一挙に、そしてどんどん売り始める。そこには、同業者などから大量に借りる契約がしてあったバーツなども大量に含まれている。自分が所有していない債券、商品などを売る行為を空売りと呼ぶが、この空売りがバーツで始まったと観た同業者などは当然、これに協調していく。その結果、三か月後一ドル三〇バーツになって起こることを、例示してみよう。一万ドルで三〇万と安くなったバーツを普通に買ってから、先述の先物予約を行使してこのバーツでドルを買えば一万二千ドルに換えられる。二割の儲けだから、この先物予約が一億ドルという商いなら莫大な利益が上がる。バーツを借りた相手にも、その時点で普通に買ったバーツを返せばやはり二割の儲けになり、今時の利息を付けても莫大なお釣りが来ることになる。
その上、先物予約にはレバレッジという仕組みまであって、予め一億ドル分のバーツをそろえてみせる必要はなく、その五%足らずの金額でこの契約が成立する仕組みになっている。よって、この先物予約に確信があれば、持ち金の25倍などという莫大な大勝負が可能になる。また、普通なら不安になるこの「大商いへの確信」も、世界大金融にとっては比較的容易なものだ。他の金融などから借りることができるバーツも含めて、己が動かせるバーツとタイ政府の「防御体制(金額)」とを比較でき、そこから勝利の目処となる投入金額に目算も立つからだ。こういう全てから通貨危機は容易に起こせたもので、IMF資料からこう結論したマクロ経済学者もいる。
『一九七〇年から二〇〇七年までの三八年間に、二〇八か国で通貨危機が、一二四か国で銀行危機が、六三か国で国家債務危機が発生しています。金融危機は、先進国、新興工業国、開発途上国を問わず、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカを問わず起こっていたのです。これに対し、第二次大戦後一九七〇年以前の時期には、国際金融危機や大規模な一国金融危機はほとんど発生していません』(伊藤正直・東京大学大学院経済学研究科教授「金融危機は再びやってくる」)
通貨危機は国家債務危機にも繋がっていくのだし、中小国の大銀行株の空売りからその銀行危機なども容易に起こる理屈である。世界大金融にとっては比較的容易なことだろう。
(以下、その2に続く。二回連載)
この言葉、麻生太郎氏が総理の時代から広言してきたもの。以降ずっと「株屋はヤバイ」と語り続けてきたわけである。現財務相としてもなお言い続けているのは、以下のような理由と見る。アメリカ流経営への口先介入、国内的には警戒警報発言と観るべきだろう。他の全てを置いておいて、ここのところだけは僕も彼に同意する。以下全てのように、ここのところ書いてきた事がまとめられるからだ。経済本や経済誌をここに絞ったように読んできた形になって、ファンドや証券会社、投資銀行の世界最新の遣り口をもっと世に広めるべきと思い立った。米英を中心とした新たな金融暴力は、案外世に隠されてきたとも愚考している。金融は元々秘密裏に行動してこそ儲かるものなのだし、酷い目にあった方はこれを隠すのが常だからだと思う。
1 企業の筆頭株主になって
企業の株を買い占めて筆頭株主になると、こんなことをする。長期的株主としては、人員整理や無駄の削減などリストラに励んで株価を大幅に上げ、これを売り抜いたりする。こういうやり方はどんどん広がっていくから、現代世界に失業者や不安定労働者が増えている最大の原因になった。米英が外国の会社にもこんな進出をどんどんやって来たからだ。こういう人員整理を大いに促進するような、こんな仕組みもある。
『大企業の社債、ギリシャの国債など、格下げされると「崖から落ちる」ほどの効果がありうるのだ。いつかトヨタが、人員整理をせず、利益見込みを下方修正した時、当時の奥田碩会長は、格付けを下げたムーディーズに対してひどく怒ったことは理解できる』(ドナルド・ドーア著「金融が乗っ取る世界経済」)
他方、金融は、短期筆頭株主になってこんなこともやる。土地や建物など資産を多く持っている会社に目を着け、筆頭株主になってその土地を売るなどして株価を大幅に上げ、折を見て全部売り払う。
最近の日本経済論調では、こういうやり方への批判も激烈になった。「米国流『ガバナンス』が企業を弱くする」。これは、高級経済誌「Wedge 3月号」表紙にも大書された二〇ページ大特集の表題。その主旨は、金融中心主義が企業・社会を壊してきたというものだ。週刊東洋経済一一月一二日号も四〇ページ大特集「日米関係の大不安」を大看板にしていて、投資家の自由、国有企業への企業参入問題などが満ち溢れているが、同じような背景があるわけだ。
2 通貨戦争
九七年東アジア通貨危機、〇一年トルコとアルゼンチン、そしてギリシャ危機など近年無数に起こっているものだ。解説が大変難しいこの遣り口の一つを、アジア通貨危機の発信地タイを例にとって説明してみよう。
一ドルがタイ通貨二五バーツのある時点において、三か月後に三〇バーツに下落すると「予測」して、一ドル二五バーツでドルを大量に買う先物予約をしておく。その上で、バーツを一挙に、そしてどんどん売り始める。そこには、同業者などから大量に借りる契約がしてあったバーツなども大量に含まれている。自分が所有していない債券、商品などを売る行為を空売りと呼ぶが、この空売りがバーツで始まったと観た同業者などは当然、これに協調していく。その結果、三か月後一ドル三〇バーツになって起こることを、例示してみよう。一万ドルで三〇万と安くなったバーツを普通に買ってから、先述の先物予約を行使してこのバーツでドルを買えば一万二千ドルに換えられる。二割の儲けだから、この先物予約が一億ドルという商いなら莫大な利益が上がる。バーツを借りた相手にも、その時点で普通に買ったバーツを返せばやはり二割の儲けになり、今時の利息を付けても莫大なお釣りが来ることになる。
その上、先物予約にはレバレッジという仕組みまであって、予め一億ドル分のバーツをそろえてみせる必要はなく、その五%足らずの金額でこの契約が成立する仕組みになっている。よって、この先物予約に確信があれば、持ち金の25倍などという莫大な大勝負が可能になる。また、普通なら不安になるこの「大商いへの確信」も、世界大金融にとっては比較的容易なものだ。他の金融などから借りることができるバーツも含めて、己が動かせるバーツとタイ政府の「防御体制(金額)」とを比較でき、そこから勝利の目処となる投入金額に目算も立つからだ。こういう全てから通貨危機は容易に起こせたもので、IMF資料からこう結論したマクロ経済学者もいる。
『一九七〇年から二〇〇七年までの三八年間に、二〇八か国で通貨危機が、一二四か国で銀行危機が、六三か国で国家債務危機が発生しています。金融危機は、先進国、新興工業国、開発途上国を問わず、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカを問わず起こっていたのです。これに対し、第二次大戦後一九七〇年以前の時期には、国際金融危機や大規模な一国金融危機はほとんど発生していません』(伊藤正直・東京大学大学院経済学研究科教授「金融危機は再びやってくる」)
通貨危機は国家債務危機にも繋がっていくのだし、中小国の大銀行株の空売りからその銀行危機なども容易に起こる理屈である。世界大金融にとっては比較的容易なことだろう。
(以下、その2に続く。二回連載)