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「100年に1度の危機」とは何だったのか(4) 文科系

2016年11月29日 03時16分32秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 第2章 金融グローバリぜーションの破綻

 第1節 金融が世界を乗っ取った

①その一般企業支配
 新自由主義グローバリゼーションが各国通貨から空売り搾取を行ったやり方を、タイ通貨危機からアジア通貨危機を例にとって、前節で見た。世界的な金融競争こそ経済発展の原動力とする米英など先進国の新たな新自由主義経済の主らとは、投資銀行、銀行、ファンドなどである。彼らによる金融中心経済のやり方を眺めておく。
 まず、株の売買については、余剰資産売却・吸い上げ型と、リストラによる収益型とがある。前者は、土地など大きな「余剰」資産を所有する会社の筆頭株主になり、その資産を売り払って株価を大幅に吊り上げてこれを売り抜く。もう一つはやや長期に渡って筆頭株主になり、リストラ・合理化に励んで株価をつり上げて売り抜く。
 こんなやり方で米企業を金融が買い占めていった経過を、ある本から要約してみよう。ドナルド・ドーア著「金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱」(中公新書 2012年6月第5版)
 機関投資家の上場企業株式所有シェアがどんどん増えて、1960年アメリカで12%だったこのシェアが、90年には45%、05年61%と。次いで、企業から「金融市場への支払い」が、その「利益+減価償却」費用とされたキャッシュ・フロー全体に占める割合が急増する。アメリカを例に取ると、1960年代前半がこの平均20%、70年代は30%、1984年以降は特に加速して1990年には75%に至ったとあった。

②デリバティブ、金融派生商品
 次に、種々の金融派生商品の発明、売買というやり方がある。デリバティブという近ごろよく聞く言葉がこれだ。その大元の原理に触れておきたい。
 消費者ローンでも住宅ローンでも、借用証書がある。これは、借りた方が貸した方に出す証明書。これを債券として出すのが社債や国債。一定利子が付くのは同じだが、こちらはお金同様の意味を持ち、売買も可能なもの。
 そしてさて、この社債などと同じ考え方で、種々のローンの貸し主が借用証書(債権)を証券化したものが金融派生商品の元である。焦げ付きなどの危険が高い借金から出来た高リスク証券とか、低リスク証券でも元のローン返済が急に怪しげになったりしたら、利子を高くしなければ売れない。そこで最大問題は、このこと。高リスク商品は当然売りにくいが、首尾良く売れるようにできれば、凄い儲けになる。全米抜群の優秀な頭脳を超高級で雇って、高リスク商品を売るために「高リスク高リターン商品」をあれこれと考え出していくことになった。

③サブプライムローン組込証券
 この証券化商品というのはまた、色々に分割して組み合わせることができる。これは、1銘柄の株を買うのではなく、投資信託を買うようなものと言えばよいだろう。とにかく、様々な負債を組み合わせるのだが、そこに高リスク債券を巧みに切り分けてもぐり込ませていく。貯金ゼロの低所得者に売りつけた住宅ローンからできたサブプライム・ローンの債券でも、これに安全な債券を組み合わせれば信用が「保証された」証券ができあがるという理屈だ。「高リスク貸し金を低リスクと混ぜて貸し手を増やして、お金が貸せなかった貧乏な人にも貸し出せるようにした、夢の商品!」なのである。リーマンショックの前のサブプライム・バブル期には、これが爆発的に売れた。ネズミ講同様大いに売れている間は自転車操業的資金繰りに困るどころか、大いに儲けも上がったのである。「偽の信用がどんどん膨らんでいった」のだが、その急成長中に偽だとは誰も振る舞っていないから問題なのだ。

④CDS
 こんなサブプライム・ローン組込証券に格付け会社によって破綻直前までトリプルAの信用が付いていた。それにはこんな保険商品も懸けられていて、これが大宣伝されたことが関わっている。クレディット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれた保険商品である。
『企業ばかりではない。国家もそうである。ギリシャの金融危機が深刻化したのはギリシャ国債の空売りに加えて、新契約の裸のCDSの掛け金がどんどん上がってギリシャ政府が発行する新国債の利子率が急騰したためである。ドイツなどはその裸のCDSの取引を禁じているのだが、そういう取引を歓迎する金融センターが世界中にたくさん残っている』(前掲書「金融が乗っ取る世界経済」)  
『保険法だったら、隣の家に黙ってその家に火災保険をかけることは禁じられている。全く当然だ。放火罪奨励はとんでもないことだからである。しかし社債のCDSの場合、国によっては、そのとんでもないことがまかり通る』(同上書)
 この「裸のCDS」ゆえにこんなことが起こる。A社の社債を持っていない人がこの社債に莫大な保険を掛け、安い掛け金のA社債を無数に買い集め始める。すると、その会社を潰すことになっていくのである。安い掛け率の保険が買い占められたら、新たな社債を発行しようにも利子率が高くないと誰もこれを買ってくれない。よってこの会社はもう、会社存続のための新たな借金もできなくなる理屈だ。CDSを「大量破壊兵器」と語ったのが、有名な投資家ジョージ・ソロスだ。
『ゼネラル・モータースなどの倒産を考えよ。その社債の持ち主の多くにとって、GMの再編より、倒産した場合の儲けの方が大きかった。人の生命がかかった保険の持ち主に、同時にその人を打ちのめす免許を持たせるようなものだ』(前掲書)
「(会社再建よりも)打ちのめした方が儲かる」CDSの実際が、投資銀行リーマン・ブラザースの倒産でも示された。倒産時のリーマン社債発行残高は1559億ドル。その社債へのCDS発行銀行の債務総額は4000億ドルだった。

⑤金融は、国家さえ乗っ取る
 以下長く、岩波新書、進藤榮一著「アジア力の世紀」(2013年6月刊)を引用して、国際金融が諸国家、世界政治を動かすその凄まじいまでの大きさを示す。
『金融危機が海を越えて伝播する構造は、07年夏にフランス最大手銀行BNPパリバのローン凍結ショックが、米国サブプライム・ローン危機の発端となって、08年9月のリーマン・ショックにつながったことにも象徴される。
 BNPパリバは、傘下のファンドを通じて、米国金融機関の発行する低所得者向けサブプライム・ローンを大量に購入し、そのローンが支払不能に陥り、解約を凍結した。そのニュースが金融市場を駆け巡って市場は混乱し、08年9月15日、全米4位の投資銀行リーマンプラザーズ社が破綻、金融危機が勃発した。(中略)
 その間、欧州の金融機関が、米国製の証券化商品を大量に買い込んでいることが明らかになり、欧州金融機関の信認が揺らぎ始めたのだった。そして09年10月、ギリシャ政府の債務残高隠しの発覚をきっかけに、ユーロの信認が一挙に失われて、危機は欧州の大手金融機関に及んだ。
 EUは03年、ユーロ加盟の条件として、財政赤字がGDP比3%以内、政府債務残高がGDP比60%以内にあることを定めていた。ギリシャは、ユーロ圏に加盟するために、紛飾決算まがいの手法を使って、財政赤字も累積債務も実態より低く報告していたことが判明した。その報告書に、ゴールドマンサックス社が関与していた。かつて87年夏に始まるアジア通貨危機の陰で、米国のヘッジファンドが暗躍していたように、ギリシャ危機の背後に、米国のファンドと財務省が暗躍していると噂された。米国が金融危機回避のため、欧州に仕掛けた危機だとも、時に位置付けられる。 (中略)  
 米国発金融危機が、リーマン・ショックを経て欧州債務危機へと転形し拡大したのである。危機はギリシャからアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアへ波及した。メディアはそれら諸国の頭文字を取って、豚を連想させる「PIIGS(ビッグス)」と呼び、EUとユーロの脆弱さを侮蔑気味に指摘して、EUの分裂・解体を予測した』

 このギリシャ危機をユーロ瓦解に繋げるべく、ここからさらにドイツマルクの空売りにまで折を見ては度々結びつけてきたゴールドマン、アメリカ財務省などの大仕掛け! その凄まじさには身震いが出る。そして著者は、この100年に1度のリーマンショックが、「1929年世界大恐慌から世界大戦へ」とならなかった今回の事情までをこう説明している。「大欧州」と「新興国市場」がショックアブソーバーとして働いたからだ、と。
 世界の有効需要創出こそ争いを協調に転化する最大の鍵とは、70年代までの政治経済運営理論であったケインズ経済学の焦点、苦闘したところ。現在世界のマクロ経済問題解決方向を深く考える最大のヒントがここにあると読むのは、この著者や僕だけではないはずだ。世界の賃金から小金や国家資金までを奪うことによって、世界の有効需要をとことん小さくしてきたのに、その分、物を作る供給の側を金融支配・その巨大化に任せることによって膨大にしたところに、現代世界の諸不幸の源があると考える。金融ギャンブル中心の世界とは、結局そういう暴力的世界なのだと。


(あと数回続きます。全体の目次と参考にした文献、と言うよりももっと絞って「ここに引用した文献」が「その1」にありますので、よろしく)
コメント (3)
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