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随筆紹介  母の境遇に涙   文科系

2017年04月26日 14時27分58秒 | 文芸作品
 泣きたい  S・Yさんの作品です

 母が有料老人ホームに入った。母と同居していた兄夫婦の突然の決断に驚かされた。

 母は若いころより農家の大家族のなかで働き通し、身体を酷使してきていたので、腰が海老のように折れているが、九二歳を過ぎた今でも頭の回転、記憶力、手際の良さは私より勝っている。だが歳相応に身体のあちこちは痛んでいるらしくベタベタと湿布を体中に張り付け、ときには胸が苦しくなったり、腹痛がしたりと、体は正直に老化を告げてきている。幾度か入院もしたが、その度に復活する。寝たきりになっても不思議ではない年齢なのにと、病院側が驚くほどに毎回蘇る。要はたいしてどこも悪くないのだ。

 しかし近ごろ、病院側から退院を迫られても兄夫婦が無視するようになった。病院からの電話にも出ないらしく、母を見舞う私にも病院側から苦情を訴えられる始末。

 以前から母に対する嫂の言動には、怒りを通り越して哀しさを感じていた。母の世話はしないので、おかげで母は自分の身の周りのことはなんとかできていた。そんな比較的元気な母は介護認定を受けられない。なのに老人施設に入れられた。「施設で長生きされたら家が一軒建つからね」、と言った嫂。
「私はいつまで生きるのだろうね。もう死にたいのに」
 そう繰り返すようになった母。かつて、嫁・姑間に何があったかは知らないが、苦労して築いた七十年以上住み慣れた家を、うとまれて追われた母の心中はいかばかりか。30キロほど遠く離れて住む私の方も、胸が痛くて堪らない。
コメント (2)
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