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随筆紹介  寒すずめ   文科系

2020年02月28日 18時43分48秒 | 文芸作品

  寒すずめ   K・Kさんの作品です

 老人ホームにお世話になっている九十六歳の母と昼食に出掛けた。郊外にあるショッピングセンターは、駐車場の周りに店が並んでいる。フードコートは家族連れも多く母は興味深そうに眺める。お気に入りの席は窓際、外はくもり空、「寒すずめがあんなに沢山止まっている」屋根の上を指差している。
 少しして隣のテーブルに一~二歳位の女の子が、幼児用の椅子に座った。きょろきょろと周りを見て母と目が合った。「可愛いね」目を細めて話しかけた。じーと遠慮なく見つめていたが、ニコッと白い小さな歯を見せて笑った。「年寄りを見ると、泣く子もいるから」言いながらも目を離さない。母は好物の親子丼を美味しそうに食べながら「可愛い、可愛い、で育っていくんだよね」独り言のように言う。二人とも頷いている。
 帰る時にバイバイと手を振ると、小さな手を振って返してくれた。母が思わず幼子の頭を撫でた。一瞬ドキッとした。初対面で急に触って気を悪くしなかっただろうか。迷惑かもしれない。でも両親は笑顔で見守っている。母はそんなことは気にもしないで、機嫌よくカートを押し、背を丸めゆっくりと歩いて行く。
 ホームに戻ると、担当の若い男性が「どんな美味しい物を食べてきたの?」優しく聞く。「えーと、美味しかったよ」元気な声で返す母。忘れたとは言わずの切り返しに「それは良かった」彼と私と母で大笑い。小さな事は気にしない。持ち前の明るさが母らしい。

コメント
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