本日も朝日新聞記事に関わって、ちょっと長い紹介をする。朝刊4面の右下『未完の最長政権』で、本日見出し『異例人事 官僚は姿勢を一変した』とあって、2013年8月、内閣法制局長官人事の歴史的慣行破りを扱っている。これ以来、官僚が姿勢を一変させて、佐川理財局長らの忖度行政などまでに繋がっていったという、その原点なのである。「俺は人事で行政をやる」とは、この時の管官房長官が味を占めた官僚操縦思考なのでもあろうか。改めて、この人事が行われた当時このことを巡って書いた拙稿二つを紹介させていただく。
【 政治が暴力と化した瞬間 文科系 2013年08月10日 17時36分30秒
中日新聞が本日第13面すべてを使って小松一郎・新内閣法制局長官問題を「特報」で扱っている。最大の見出しは『「法の番人」政権追従?』『9条逸脱 歯止め役』。中見出しを見ても『「集団的自衛権容認派 長官に』、『解釈変更「理解苦しむ」』。例によって、全国にこの内容を広める意味で、目について厳しい批判表現を紹介したい。
①歴代の内閣法制局長官とは、内閣が9条逸脱をしないように歯止め役を果たしてきた。典型的国会答弁はこのように。
『集団的自衛権の行使を憲法上認めたい、という考え方を明確にしたいなら、憲法改正という手段を取らない限りできない』(83年答弁)
②だからここの長官は歴代すべて、内部昇格であった。それをはじめて外部から、しかも昇格対象の4省以外の外務省から持ってきたというのが今回の人事である。それも集団的自衛権の容認論者として知られる人物を。
③さて、歴代法制局長官達は当然猛反発することになる。歴代自民党内閣の法解釈慣行、理論をさえ越えようとする荒技だということがよく分かる。
まず、第一次安倍内閣の宮崎長官を登場させて、反論させている。
『自衛隊がどこまでの範囲で活動できるかというのは、周辺事態法などで議論を積み重ねてきた。一貫して行使できないと言ってきた。国民にそう説明してきたのに、解釈次第で行使できるというのは、理解に苦しむ』
次いで、小泉内閣の阪田法制局長官はもっと厳しい反論を展開する。
『長官が交代したからといって、見解が好きに変わるものではないし、もしそうなら法治国家ではあり得ない。法制局は論理の世界で、政治的判断が加わる余地はない』
学者となるともっと厳しい。
『高作正博関西大学教授(憲法学)は「これまでの政府見解では、憲法を変えないと行使できないとされ、国民の判断に委ねられているはずだ。解釈で変更するのは、国民の判断する権利を奪うことになり、クーデターに近い」』
「法事国家ではあり得ない」!「クーデター」! 総理大臣が自らクーデター!
こういうことをすると、その後遺症は甚大である。まず、内閣がクーデター的手法に慣れていくということ。次いで、ヒラメ官僚がそれに従うようになるということ。こうして、国家が全体として対米追随に偏った軍事政権にも似た様相を呈していくことになるはずだ。これはすべての世界の国家の歴史が教えている所である。そして、今のアメリカは、嘘の理由で戦争を起こすという実績を持った国なのである。そういう国に、自衛隊が自由に使われる方向に偏っていく。安倍晋三内閣、恥を知るがよい。】
【 前法制局長官、内閣に反発 文科系 2013年08月24日 00時42分05秒
日刊ゲンダイが、安倍晋三内閣の、内閣法制局長官・集団的自衛権解釈改憲問題に絡んで、非常に面白い記事を載せた。阿修羅掲示板から、紹介したい。
『 憲法解釈で首相に“10倍返し” 最高裁判事が見せたプライド 2013年8月22日 日刊ゲンダイ
思わぬ伏兵に安倍政権がじだんだを踏んでいる。憲法解釈を変更して「集団的自衛権」を行使しようと画策している安倍首相に対して、内閣法制局長官を退き、最高裁判事に就いた山本庸幸氏(63)が、「待った」をかけたからだ。20日の就任会見は明快だった。
〈集団的自衛権の行使は、従来の憲法解釈では容認は難しい〉
政権内からは「もう憲法解釈の変更は不可能だ」という声が上がっている。実際、最高裁の判事に「ノー」と否定されたら強行するのは難しい。よほど頭にきたのか、菅義偉官房長官は「発言に違和感を覚える」と、21日批判している。
「首相周辺は、これは意趣返しだとカンカンになっています。というのも、安倍首相は解釈変更に消極的だった山本庸幸さんを法制局長官から外したばかりだからです。簡単に言ってしまえば更迭した。ただ、世間からは更迭ではなく、出世に見えるように、最高裁判事というポストに就けた。それでも、法制局長官という職にプライドを持っていた山本庸幸さんは、安倍首相のやり方を許せなかった。首相に一泡、吹かせたのでしょう」(霞が関事情通)
たしかに、憲法解釈を最終判断する最高裁判事の発言は重みが違う。首相に「10倍返し」するなら、最高裁判事の就任会見は絶好の舞台だ。
首相の出はなをくじいた山本庸幸氏は、どんな男なのか。
「山本さんは愛知県出身、旭丘高、京大法卒、73年に通産省に入省しています。正直、省内では次官候補ではなかった。でも、法制局には各省から優秀な職員が送られる。山本さんも融通は利かないが、頭脳明晰だったのは確かです。本人は、法制局長官を天職だと思っていたようです」(経産省OB)
最高裁の裁判官は、憲法で「身分の保障」が規定され、70歳の定年までつとめられる。官邸周辺は、「最高裁判事にしてやったのに」と悔しがっているらしいが、法制局長官を代えることで憲法解釈を変更しようという姑息なやり方が、完全に裏目に出た形だ。』
官僚にも、骨のある人はやはり居るものだと、ちょっと意を強くした。フクシマ問題では火中の栗を拾わないと決め込んでサボタージュばかりの官僚体制に見えるので。サボタージュ官僚たち、はて日本を滅ぼしかねないと、そんな気がしてきた昨日今日である。 】