1 ロシア侵攻前のウクライナ情勢
① 2014年のウクライナ・ロシア抗争終結時のミンスク合意以降最近になって東部ドンパス地域(ミンスク合意でロシア人が多いこの地域を親ロシア地域として尊重すると約束した地域)で自爆ドローンを飛ばす攻撃などほぼ戦争状態と言いうるウクライナによるドンパスのロシア人挑発が続いて来た。ロシアはこれを「合意に反してドンパスをウクライナに組み入れようとするファシストの仕業」と言い続けてきたものである。
② それとともに、やはりこれもミンスク合意に反して、ウクライナがNATO加盟をあからさまに追求してきた。こういうウクライナ政府諸行動について、ゼレンスキーは2月24日のロシア侵攻まで、こう言い続けてきたのも今は特筆すべきことである。
「NATOには加盟するが、それでもロシアは攻めてこない」
この態度をロシアが将来的な安全保障上の危機と捉えて侵攻を起こしたわけだが、「ゼレンスキーのこの『攻めてこない』という状況把握論」が、彼がアメリカに欺されてきた結末だと僕は観ている。
③ ちなみに、以上の間中ずっとアメリカは、まるでロシア侵攻に備えてのように、対戦車ロケット、対空ミサイルをウクライナに大量に供給し続けてきた。これらがウクライナに大量に持ち込まれていたというその後判明した事実と、これらを製造しているアメリカの二社の株が去年からずっと上がり続けてきたことなどがこの証拠になる。
④ 以上について、24日の朝日新聞で元国連難民高等弁務官事務所職員、千田悦子もこういう文章が入った投稿を寄せている。
『14年以降のドンパス地域は、ウクライナ政府の非制御地(NGCA)と制御地(GCA)との境界線を中心に戦闘が常態化し、人々が西へ逃げていた。親ロ派によるロケット弾発射や発砲、それを迎え撃つウクライナ軍の砲撃戦で、家や学校、病院、公共施設などが破壊されたそれらの修復を初めとするプロジェクトの進行調整を私は担当した。日中、砲弾の音を間近に聞きながら仕事をする日もあった』
『ロシアの歴代大統領が恐れてきたNATO拡大についてロシアの言い分を聞きつつ、今後の緊張を緩和する方向性をNATO全体で探る必要があるのではないだろうか』
2 こういうウクライナ戦争は、アメリカの世界覇権死守、特にそのために近い将来の対中国冷戦の勝利に向けた布石の一つとして中国最大の味方・(プーチン)ロシアの実質滅亡狙いで起こしたものであると観ている。これと同じ見方を、元外務省国際情報局長・孫崎享や以下に紹介する真田幸光 愛知淑徳大学教授(BSフジLIVE「プライムニュース」3月28日放送 発言)らも取っているはずだ。つまり、アメリカが親中国国に今まで戦争を仕掛け続けてきた「中国を裸にする政策」の一環であると。シリア、イラン、ベネズエラ、ボリビアなどがその対象とされてきた。
3 以上と同見解を語る人々が増えているその一例として「BSフジLIVE「プライムニュース」3月28日放送」の真田幸光 愛知淑徳大学教授の見解を以下に紹介しておきたい。三菱UFJ銀行出身の国際金融学者である。また、国連における各国のロシアへの立場も、日本、欧米ほどにはロシアに対して厳しくはない。国連人権理事会からのロシア追放総会採決にしても、193カ国中で賛成93国、反対24国、棄権58国であり、賛成が過半数でさえないのである。反対や棄権の理由は、「ウクライナに対する調査委員会の作業が何も済んでいない」ということにあるようだ。それでいて、「ブチャの大量殺人など、一方的な情緒的情報ばかりが流されている」という日本などの現状には、イラク戦争前に作り出された戦争熱狂と逆の作為を感じざるを得ない。
【 英米が真に狙うはロシアの先の中国叩きか。日本は慎重に様子見を
新美有加キャスター:
国際的な信用を落としてまでも各政策を行うプーチン政権。経済的にはどういう利益が出るものですか。
真田幸光 愛知淑徳大学教授:
基本的にはない。むしろ、そこまでロシアが追い込まれ、貶められている。
反町理キャスター:
プーチンがそうするように仕向けていると。その主体は誰ですか?
真田幸光 愛知淑徳大学教授:
英米だと思います。今の覇権争いにおけるアメリカの一番の敵は中国。中国とロシアがくっつくことは極めて怖い。まず、ロシアの力である資源と軍事力を徹底的に落とす。最近の国際金融筋は、ウクライナ問題においてプーチンの力がかなり落ちていると見ている。そろそろ落としどころを探し、金融で中国の首を絞めることが始まるのでは。
反町理キャスター:
なるほど。ロシアに対して英米は、経済制裁や国際世論、武器供与も含めて追い込み、プーチン大統領が愚策を打たざるを得ないようにした。すると、武力をもってウクライナを救うつもりは最初からなく、ロシアを潰して中国を叩くことに向けたステップとしてウクライナ侵略を見ていたと聞こえるが?
真田幸光 愛知淑徳大学教授:
そう申し上げました。ウクライナが、そして大陸ヨーロッパが踊らされた部分が結構あるのでは。
反町理キャスター:
怖い話だ。畔蒜さんは?
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員:
これまでの米露の交渉を見ると、アメリカはロシアがウクライナに侵攻する危険性を相当感じていて、かなり警告をしたと思う。一方、私が知っているロシア人の専門家は皆、ウクライナへの侵攻などあまりにも愚策でやるはずがないと言っていた。今は当惑している。プーチンにはもっと別の手もあった。
反町理キャスター:
英米が本当に睨んでいるのがロシアの先の中国であるとすれば、日本はどのようについていけばよいのか。
真田幸光 愛知淑徳大学教授:
難しい。日本の最大の同盟国はアメリカで、価値観の共有という意味ではきちんと合わせる必要があるが、先んじて対露制裁や中国への何らかの動きをし過ぎると、はしごを外される危険性がある。また場合によっては、世界の中でかなりの実体経済を握る中国の側が勝つ可能性もある。どう転ぶかわからず、とりあえず様子を見るのが生き延びる手だて。
BSフジLIVE「プライムニュース」3月28日放送 】