今、ロシアのウクライナ侵攻に対して、アメリカが「対ロ世界戦線最高司令官」に躍り出てきた感がある。まずいくつかのその例を上げてみるが、これはとてもおかしなことじゃないかと、気付き始めた人々も多いはずだ。
まず、今日の朝日新聞「天声人語」にこんな下りがあった。
『ウクライナ側は、米国などから渡された武器を使って対抗している。武器供与は今後も続くという。気がかりなのは、オースティン米国防長官による勇ましげな言葉だ。米国の目標について、「ウクライナ侵攻のようなことができない程度に、ロシアが弱体化することを望む」と語ったという。自衛のための支援が、いつからロシアつぶしに変わったのか』
次は、本日の日刊ゲンダイの記事から。
『ブリンケン米国務長官が26日、上院外交委員会の公聴会で、6月下旬にスペイン・マドリードで開催予定のNATO首脳会議に日本が参加すると明言。ロシアによるウクライナ侵攻について「日本が素晴らしい形で立ち向かった」と称賛してみせた。(中略)
ブリンケン発言は、NATO拡大を忌み嫌うプーチン大統領を刺激したに違いない。松野官房長官は会見で「日本の出席については何ら決まっていない」と慎重だったが、内心は大慌てだったようだ。
「ブリンケン発言は、日本側と調整せずに突然飛び出したとみられている。11日にはバイデン大統領が、インドとの首脳会談の場で、日米豪印の4カ国からなるクアッドの首脳会議を『5月24日に日本で行う』と突然公表。まだ水面下で調整中だったのに、『5.24』と日付までブチ上げられ、岸田官邸はてんやわんやでした。この時も松野長官が『具体的な日程は決まっていない』と火消ししていた。米国は先手を打って情報を出し、重要日程の既成事実化を図っているフシがある」(官邸事情通)』
ちなみに、クアッドの一つインドは、米ロ間で中立と言うよりも、国連総会決議などでアメリカを疑惑の目で見始めていることはすでに有名な話である。
さて、アメリカはいつから、対ロ世界戦線の総司令官になったのか。他国がまだ決めていない「軍事外交方向」の決定を予告する「世論操作」にまで打って出たとあっては、その国は米軍支配下の司令官(国)も同じではないか。ただでさえ世界のウクライナ戦争ニュースにニューヨーク発が多くなりすぎて、米の「ウクライナ戦争・世界世論操作」が急なのに(朝日新聞でさえ、そうだ。米の大本営発表をそのままに報知している)、こんな事までしているのである。僕に言わせれば、このウクライナ戦争はもうイラク戦争と同じ性質のアメリカ「ドル=石油世界体制死守」という世界支配の一環と証明されたようなものなのに。
この戦争とアメリカの世界地政学・ドル世界(金融資本主義)体制とを結びつけて考える日本人はごく少ないと思う。が、これが見えなければこの戦争の本質が見えていないに等しいはずだ。それは、イラク戦争についても同じことなのだが、9日の拙ブログにおいて真田幸光 愛知淑徳大学教授が現下の米世界地政学・ドル世界体制死守がこの戦争の片面の本質だとしっかり述べているのを紹介している、それと同じ「ウクライナ戦争はアメリカが関わってこそ起きた」論なのである。
今のドル(で)石油代を支払う世界体制があるからこそ、ドル世界通貨体制が守られ、GDPの4倍もの米国家累積赤字(日本は2倍と言われているが、その倍)や、毎年打ち続いた大きな米貿易赤字やがあってもドルが下がらないという超大国恩恵をアメリカは享受してきた。そのためにこそ、石油(天然ガス含む)=ドル体制を崩そうとする国はすべてアメリカの戦争相手にされてきたのである。フセイン・イラク、カダフィのリビアは滅ぼされ、ベネズエラ、イランも訳の分からん「悪の枢軸国」扱いをされて、有志国を募る戦争さえ呼びかけられてきた国だ。この4国の石油埋蔵量世界順位はそれぞれ、5位、9位、1位、4位で、ロシアが8位なのだ。しかも今回のロシア侵攻は、西欧へのノルトストリーム2を完成させるやいなや起こったもの。つまり今回も、アメリカによってロシアがウクライナに煽り出されたという仕組が存在し、働き続けてきたと、このブログではここまでその証拠などを提示してきたつもりである。もっとも、煽り出されたプーチンが「右翼ポピュリズム独裁体制に固有の弱みを突かれた」戦争犯罪国の極悪指導者であることには変わりはないのだが。
ちなみに、このロシア孤立化・「世界の敵」化の先に、中国を裸にして「トゥキディデスの罠」戦争よろしくこれを引きずり下ろす米世界地政学が存在するというのは、誰にも分かりやすいことだろう。アメリカは今や、物作りがすっかりダメになってバブル株価(とドル世界通貨体制と)だけで持っている国。そして、そのバブル株価が有効な内に世界の物作り企業を買い占めようとしている国。こういうグローバル金融資本主義米国の世界制覇をば、物作り国中国の台頭を打ち破って死守していくためには何でもやる国になっているのである。米金融が世界経済を握り尽くしたら世界の庶民の職業というものがどうなるのか、皆さん是非考えて見て下さい。