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掌編小説 パナマ文書   文科系

2020年03月07日 08時02分24秒 | 文芸作品

  掌編小説 パナマ文書   文科系

  四月中旬、ある日曜日の夕暮れ。ランニングの装備を整えて戸口を出ると、お向かいの若主人さんにばったりと出くわした。最近エレベーター付きの三階建て三世代住宅に建て換えたばかり、一階のシャッター付き車庫には白い最新型ポルシェが納まっているという非常に裕福なお方だ。まだ五十歳前とお見受けできるが、これら全てが彼の収入によるものなのである。新興のコンピューター・ソフト会社の経営者のような方と聞いていた。そんな彼を冷やかすような冗談が、今日も僕の口をついて出てしまった。十年やってきたブログのためにお勉強したての知識なのだが、こんな軽口をよく叩きあう仲なのである。
「おはようございます。『パナマ文書』対策で大変って顔してません?」
「えっ、どうして! ………パナマ文書にお詳しいんですか?」
 いかにもという彼の真顔をともなった予期せぬ反応に僕も口調が換わって、
「……長年やってるブログのためによく勉強してみたんですが……やっぱりご関係が?」
「実は大ありなんですよ。我が社も大もめです」

「パナマ文書」とは、この四月になってから世界中を大騒ぎさせているもの。中米パナマのある法律事務所から、世界の大金持ち個人やペーパー会社などのこの四十年近くの金融取引・脱税関連情報とも言える膨大な文書類が世界に公表され始めた事件である。これらは匿名の提供者からドイツのある新聞社に提供されて、この新聞社とワシントンにある「国際調査報道ジャーナリスト連合」とが分析中で、四月初めの世界初公開部分は、記者四百人近くが参加してまとめたもの。日本大企業四百社なども含めて「関係者」とおぼしき人々がしきりに「合法でしょう?」と煙幕を張り始めているという大事件なのである。
 さて、軽い冗談が急に真剣み、興味津々に入れ替わって来て、僕は答える。
「大もめって、そんな心配はまったく要らないと思います。だって、政府が二十年ほど前だったかに合法としたものを今さら非合法にはできませんから。ましてや法的に脱税でもない税金を取り直すって、出来る訳もないことだ」
「でも、会社の名前が出てくるとかの心配があるでしょう」
「それも心配無用。官房長官が、政府としては調査などしないと言ってたから。思うにあれってもともとは、アメリカのリークだと僕は観てます。ケイマンとかじゃなくってパナマってのが怪しいし、米大富豪上位五百人のわずか二九人だけが関係してるとも発表された。アメリカが中ロとかの敵を傷つけるためにやった政治的なリークじゃないですかね」
「パナマと同じことをやっているケイマンに波及するってことはないですか?」
「ケイマンの日本企業関連の投資残高すべてが税金逃れとしたらその脱税金額は十四兆円ほどになるらしいですが、パナマでさえも調査する気がないと語った政府です。ケイマンに触れる気などゼロ以下というもの、こちらはさらに心配ないと思いますね」 
「どうしてそんなにお詳しいんですか? お宅も何か関係がおありで?」
 一瞬こんなこと全てが頭をかすめる。
〈そう、ブログの勉強目的として大いに。ケイマンの脱税十四兆円とは、消費税を一%とした場合の年額が二兆円だから、消費税を七%とした場合の年額に当たる。消費税上げるなという立場から、かなり詳しく勉強してみたことなんです〉。
 が、僕は、さりげなくこう応えた。 
「いやー、利害関係には無関係ですが、ちょっと世界経済のお勉強が好きなんですよ」
「世界経済のお勉強って、それでアメリカのリークだなんて……どうしてまた?」
「プーチンとか中国首脳とか、シリアのアサドとか、パナマ文書ではアメリカの敵ばかりに焦点が当たって来た。そのくせ、こういう仕組みの元祖であるアメリカのことはほとんど出て来てないし、アメリカ関係の大富豪が二十九人なんて、可笑しいと思いません?」
「イギリスのキャメロンも名前があがってませんでした?」
「あれはイギリスをユーロから引き離す、ユーロ瓦解工作と見てます」
 ここで僕は論理的に次に来るべき質疑応答を予期して、瞬間的に頭を巡らしていた。
〈「じゃあお宅は、こういう仕組みそのものには賛成なんですか?」。「いやいや、賛否よりも、こう考えるだけです。さっきも言ったように政府がこれを合法にしたのだ。合法ならみんなやれる単なる節税対策です。でも、消費税の十四兆円分と言えば、今度上げる予定の倍を優に超える税額分であって、庶民から見たら一大事ですよね。合法にした今の政府が大変な悪者になります。各国がやってるから自分だけやらぬとは難しいと答えたとしても、国連で相談し合って止めようという道だってあったはずだし、この一部が政治献金になったとも言える最近の日本なら、政党交付金と二重取りの悪とも言える〉
  と、僕は身構えていたが、今朝のお相手からは次の質問はなく、ちょっと間を置いて軽い会釈。同じく笑顔を向けた僕も、麗らかな春の中へと走り出して行ったのだった。

 

(2017年3月発行の同人誌に初出作品です)

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金融世界支配の歴史、現状④  文科系

2020年03月07日 06時52分08秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 連載再掲の第4回目です。この次の第5回で終わりです。

【 金融世界支配の歴史、現状④  文科系 2017年10月05日 | 国際政治・時事問題(国連・紛争など)

 第3章 金融グローバリゼーションの改革

 第1節 国際機関などの対応

 金融グローバリゼーションの主は『アメリカ型の市場経済至上主義に基づく政策体系』で、これが主導する世界的合意がワシントンコンセンサスと呼ばれてきたもの。これにめぐって「100年に1度の危機」直後にはこんな状況があった。
『2009年のロンドンG20で、当時の英首相ブラウンは、「旧来のワシントン・コンセンサスは終わった」と演説しました。多くの論者は、ワシントン・コンセンサスは、1970年代にケインズ主義の退場に代わって登場し、1980年代に広がり、1990年代に最盛期を迎え、2000年代に入って終焉を迎えた、あるいは2008~09年のグローバル金融危機まで生き延びた、と主張しています。IMFの漸進主義と個別対応への舵切りをみると、そうした主張に根拠があるようにもみえます。
 しかし、ことがらはそれほど単純ではありません。1980年代から急速に進行した金融グローバル化の歯車は、リーマンショックによってもその向きを反転させることはありませんでした。脱規制から再規制への転換が実現したとしても、市場経済の世界的浸透と拡大は止まることはないでしょう』(伊藤正直・東京大学大学院経済学研究科教授著「金融危機は再びやってくる」)
 ここで言うロンドンG20の後2010年11月のG20ソウル会議では、こんな改革論議があった。①銀行規制。②金融派生商品契約を市場登録すること。③格付け会社の公共性。④新技術、商品の社会的有用性。これらの論議内容を、前掲書「金融が乗っ取る世界経済」から要約してみよう。
 ①の銀行規制に、最も激しい抵抗があったと語られる。国家の「大きすぎて潰せない」とか「外貨を稼いでくれる」、よって「パナマやケイマンの脱税も見逃してくれるだろう」とかの態度を見越しているから、その力がまた絶大なのだとも。この期に及んでもなお、「規制のない自由競争こそ合理的である」という理論を、従来同様に押し通していると語られてあった。
 ②の「金融派生商品登録」問題についてもまた、難航している。債権の持ち主以外もその債権に保険を掛けられるようになっている証券化の登録とか、それが特に為替が絡んでくると、世界の大銀行などがこぞって反対すると述べてあった。ここでも英米などの大国国家が金融に関わる国際競争力強化を望むから、規制を拒むのだ。
 ③格付け会社の公準化がまた至難だ。アメリカ1国の格付け3私企業ランクに過ぎないものが、世界諸国家の経済・財政法制などの中に組み込まれているという問題がある。破綻直前までリーマンをAAAに格付けていたなどという実績が多い私企業に過ぎないのに。この点について、「金融が乗っ取る世界経済」に紹介されたこんなニュースは、日本人には興味深いものだろう。
『大企業の社債、ギリシャの国債など、格下げされると「崖から落ちる」ほどの効果がありうるのだ。いつかトヨタが、人員整理をせず、利益見込みを下方修正した時、当時の奥田碩会長は、格付けを下げたムーディーズに対してひどく怒ったことは理解できる』(P189) 関連してここで、16年10月15日の新聞にこんな文章が紹介されていた。見出しは、『国際秩序の多極化強調BRICS首脳「ゴア宣言」』。その「ポイント」解説にこんな文章があった。
『独自のBRICS格付け機関を設けることを検討する』
 15日からブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ5カ国の会議がインドのゴアで開かれていて、そこでの出来事なのである。
 ④「金融の新技術、商品の社会的有用性」とは、金融商品、新技術の世界展開を巡る正当性の議論なのである。「イノベーションとして、人類の進歩なのである」と推進派が強調するが、国家の命運を左右する為替(関連金融派生商品)だけでも1日4兆ドル(2010年)などという途方もない取引のほとんどが、世界的(投資)銀行のギャンブル場に供されているというような現状が、どうして「進歩」と言えるのか。これが著者の抑えた立場である。逆に、この現状を正当化するこういう論議も紹介されてあった。
『「金作り=悪、物作り=善」というような考え方が、そもそも誤っているのだ』

 伊藤正直氏が「金融グローバル化の歯車は、リーマンショックによってもその向きを反転させることはありませんでした」と語るように、国際機関の対応の鈍さを観る時、こう思わずには居られない。米英など大国国家が金融に関わって「国際競争力強化」を望むから、規制を拒むのだと。さらには、この「国際競争力強化」願望に関わって、以下のような方向さえ観られるようになった。
 初めは現物輸出入の赤字分を金融収支の黒字分で補ってきたという程度から、この「国際競争力強化」願望はいまや金融でもって世界政治経済を制覇できるのではないか、と。世界の主要企業、穀物・食肉・石油・医療・流通など主要産業分野を金融が独占的に握りたいというだけではない。諸国家(の独立性)を浸食できるという野望さえ今やうかがわれるのである。通貨戦争に破れて破産した国家には通常ではIMF(国際通貨基金)が出動して、その国家財政方針を、つまり税金の使い方を決めてきた。これを国連(経済正規部隊)が破産国家救援に出動したと観て国連正規軍派遣になぞらえるとしたら、経済版の「紛争国家への有志国軍出動」の道もあるという理屈だ。現に、破産国ギリシャがゴールドマンを指南に入れたという、そんなやり方のことである。国家財政やその税金も世界金融に狙われるだけではなく、国家主権そのものが狙われているのだと言いたい。税金がなくなった国家は未来の税金も自由には支出できなくなる。つまり、施政の自由もなくなる。苦し紛れの窮余の一策にせよ税の使い方を金融に任せた国はもはや自立国家ではあり得ないということだ。ちなみに、中東、アフリカから膨大な難民が発生、流出したのは、これと同じ背景があるはずだ。NICSと呼ばれたことがあるタイや韓国の経済・国家規模でもアジア通貨危機で金融戦争に敗れているのだから、これに比べれば中東や北アフリカの中小国家から税金を奪うことなどは、国際金融にとっては朝飯前だろう。
 浜矩子が「国家がなくなる」と語るのは、こういう議論である。あまりにも目に余る紛争国家などには有志国軍出動ではなく国連軍の正規介入をと、またそれに相応しい民主的国連の建設をと、経済戦争についても主張していくしかない。

 

(あと1回で終わります。全体の目次は以下の通り)

第1章  金融グローバリゼーションの生成と発展
第1節 その生成
第2節 民間資金の世界席巻と通貨危機
第3節 アジア通貨危機の発端、タイの例

第2章 金融グローバリぜーションの破綻
第1節 金融が世界を乗っ取った
①その一般企業支配
②デリバティブ、金融派生商品
③サブプライムローン組込証券
④CDS
⑤金融は、国家さえ乗っ取る
第2節 「100年に1度の経済危機」
第3節 破綻の構造

第3章 金融グローバリゼーションの改革
第1節 国際機関などの対応
第2節 各国などの対応や議論
第3節 平和に生きて行ける世界を目指して 】

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金融世界支配の歴史、現状③  文科系

2020年03月06日 05時49分57秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 リーマン・ショックに続くような株価下落世界同時安のなか、過去ログ再掲の第3回目です。よろしく。

【 金融世界支配の歴史、現状③  文科系 2017年10月04日 | 国際経済問題

④CDS
 こんなサブプライム・ローン組込証券に格付け会社によって破綻直前までトリプルAの信用が付いていた。それにはこんな保険商品も掛けられていて、これが大宣伝されたことも関わっている。クレディット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれた保険商品である。
『企業ばかりではない。国家もそうである。ギリシャの金融危機が深刻化したのはギリシャ国債の空売りに加えて、新契約の裸のCDSの掛け金がどんどん上がってギリシャ政府が発行する新国債の利子率が急騰したためである。ドイツなどはその裸のCDSの取引を禁じているのだが、そういう取引を歓迎する金融センターが世界中にたくさん残っている』(前掲書「金融が乗っ取る世界経済」)  
『保険法だったら、隣の家に黙ってその家に火災保険をかけることは禁じられている。全く当然だ。放火罪奨励はとんでもないことだからである。しかし社債のCDSの場合、国によっては、そのとんでもないことがまかり通る』(同上書)
 この「裸のCDS」ゆえにこんなことが起こる。A社の社債を持っていない人がこの社債に莫大な保険を掛け、安い掛け金のA社債を無数に買い集め始める。すると、その会社を潰すことになっていくのである。安い掛け率の保険が買い占められたら、新たな社債を発行しようにも利子率が高くないと誰もこれを買ってくれない。よってこの会社はもう、会社存続のための新たな借金もできなくなる理屈だ。CDSを「大量破壊兵器」と語ったのが有名な投資家ジョージ・ソロスだ。
『ゼネラル・モータースなどの倒産を考えよ。その社債の持ち主の多くにとって、GMの再編より、倒産した場合の儲けの方が大きかった。人の生命がかかった保険の持ち主に、同時にその人を打ちのめす免許を持たせるようなものだ』(前掲書)
「(会社再建よりも)打ちのめした方が儲かる」CDSの実際が、投資銀行リーマン・ブラザースの倒産でも示された。倒産時のリーマン社債発行残高は1559億ドル。その社債へのCDS発行銀行の債務総額は4000億ドルだった。

⑤金融は、国家さえ乗っ取る
 以下長く、岩波新書、進藤榮一著「アジア力の世紀」(2013年6月刊)を引用して、国際金融が諸国家、世界政治を動かすその凄まじいまでの大きさを示す。
『金融危機が海を越えて伝播する構造は、07年夏にフランス最大手銀行BNPパリバのローン凍結ショックが、米国サブプライム・ローン危機の発端となって、08年9月のリーマン・ショックにつながったことにも象徴される。
 BNPパリバは、傘下のファンドを通じて、米国金融機関の発行する低所得者向けサブプライム・ローンを大量に購入し、そのローンが支払不能に陥り、解約を凍結した。そのニュースが金融市場を駆け巡って市場は混乱し、08年9月15日、全米4位の投資銀行リーマンプラザーズ社が破綻、金融危機が勃発した。(中略)
 その間、欧州の金融機関が、米国製の証券化商品を大量に買い込んでいることが明らかになり、欧州金融機関の信認が揺らぎ始めたのだった。そして09年10月、ギリシャ政府の債務残高隠しの発覚をきっかけに、ユーロの信認が一挙に失われて、危機は欧州の大手金融機関に及んだ。
 EUは03年、ユーロ加盟の条件として、財政赤字がGDP比3%以内、政府債務残高がGDP比60%以内にあることを定めていた。ギリシャは、ユーロ圏に加盟するために、紛飾決算まがいの手法を使って、財政赤字も累積債務も実態より低く報告していたことが判明した。その報告書に、ゴールドマンサックス社が関与していた。かつて87年夏に始まるアジア通貨危機の陰で、米国のヘッジファンドが暗躍していたように、ギリシャ危機の背後に、米国のファンドと財務省が暗躍していると噂された。米国が金融危機回避のため、欧州に仕掛けた危機だとも、時に位置付けられる。 (中略)  
 米国発金融危機が、リーマン・ショックを経て欧州債務危機へと転形し拡大したのである。危機はギリシャからアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアへ波及した。メディアはそれら諸国の頭文字を取って、豚を連想させる「PIIGS(ビッグス)」と呼び、EUとユーロの脆弱さを侮蔑気味に指摘して、EUの分裂・解体を予測した』
 このギリシャ危機をユーロ瓦解に繋げるべく、ここからさらにドイツマルクの空売りにまで折を見ては度々結びつけてきたゴールドマン、アメリカ財務省などの大仕掛け! その凄まじさには身震いが出る。そして著者は、この100年に1度のリーマンショックが、「1929年世界大恐慌から世界大戦へ」とならなかった今回の事情までをこう説明している。「大欧州」と「新興国市場」がショックアブソーバーとして働いたからだ、と。
 世界の賃金から小金や国家資金までを奪うことによって、世界の有効需要をとことん小さくしてきたのに、その分、物を作る供給の側を金融支配・その巨大化に任せることによって膨大にしたところに、現代世界の諸不幸の源があると言える。金融ギャンブル中心の世界とは、結局そういう暴力的世界なのだと。


 第2節 「100年に1度の経済危機」

 サブプライムローン組み込み証券問題が、誰の目にも明らかになったのは08年春のベア・スターンズ破綻だろう。ここが、アメリカ5大投資銀行のひとつだからだ。が、ここに至る徴候は既に1年以上前から現れていた。06年12月にはサブプライムローンを手がけていた米中小ローンの経営破綻が相次いでいたのだし、07年3月13日住宅ローン大手のニューセンチュリー・フィナンシャルが上場廃止になった。6月22日には、ベア・スターンズが傘下ヘッジファンド2社の救済に奔走したが果たせないという事件が起こった。
 そして08年9月15日に、5大投資銀行の第3位リーマン・ブラザースが破綻すると、その同じ日に、第4位のメリル・リンチをバンク・オブ・アメリカが買収すると発表された。翌16日には、AIGの倒産があった。アメリカ最大の保険会社であり、CDSなど金融商品の保険だけを扱ってきた会社であって、政府等が即座に8000億ドルの融資枠を設定したものだ。ただしこの額は1ヶ月で使い切ってしまい、以降も追加支援に走らざるを得なくなる。そして、これらの結末。1、2位の投資銀行も9月21日に銀行持ち株会社に転換するにいたった。ゴールドマンとモルガンがそれぞれの銀行に吸収されたのである。

 東洋経済新報社の「現代世界経済をとらえる VER5」では、5大投資銀行の破綻の後をこう書いている。
『リーマン・ブラザース破綻の翌日、保険最大手のAIGがアメリカ政府管理に置かれ救済されたのは、あまりにも膨大なCDSの破壊的影響への危惧からであった。一世を風靡したアメリカ型投資銀行ビジネスモデルの終焉が語られているが、健全に規制された金融モデルへの移行か、巻き返しのための変身なのか、ウォール街の戦略、西欧金融機関との競争を含めて、注視していく必要がある』
 政府に補償してもらって、「巻き返しのための変身」?新自由主義者たちが非難してきた社会主義政策だ!
 こういうものが爆発して、さて世界はどうなったか。前掲書「金融が乗っ取る世界経済」には、こう描かれている。約1000兆円の資産が世界から消え、どこが負債を抱えているかに相互不信に陥って、大不況が続いてきたと。そして、この後遺症は今はどうなっているのか。こんな重大なものが、数学者・藤原正彦氏も述べてきたように必ず大破綻すると証明されたも同様のそれが現実に破綻した時(第1章第2節の最後の引用を参照)、マスコミで世界的追跡調査や反省などが正しくなされたようには到底見えないのである。ネズミ講的自転車操業が途絶えたことによって世界無数のサブプライム家庭を殺した投資銀行幹部たちは、個人資産を速逃げさせたはず。対するに、たった一軒のローンが払えなくなった人々はその人生を殺されたにも等しいのである。


 第3節 破綻の構造 

「100年に1度の危機」という破綻は、10年近く経った今初めて、その性質が一定分かってくるもの。何よりも世界10大銀行の移り変わりにこれが現れる。2010年と今とで、世界の10大銀行国籍がこう入れ替わった。英3米2の合わせて5行から各1の2行へと減った分、中国が0から3・5へと増えた(0・5とは、10大銀行に出たり入ったりしている所の意)。他は、フランス、日本の各2ほどと、ドイツの1行と、ほぼ変わらない。つまり、この数の順番で国に金があるということだ。こういった金がおこなう世界一般企業支配やデリバティブによる世界小金持ちからの搾取も、英米の現状を見れば既に限界と観るべきだろう。没落しつつある大国が金融によって対外収支を強引に改善しようと足掻いて来ただけとも見うるのである。その結末が、世界的な中産階級没落、失業者・不安定労働者の激増というその上に、世界の小金を奪い取って長期デフレを招いたというのでは、世界の人々の幸せを攪乱しただけと言える。現行株価などは、世界的なマイナス金利や公的資金投入で懸命に支え上げているに過ぎず、マネーゲームに費やされる莫大な金融資産に呼応する有効需要など、世界のどこにも見られなくなってしまった。であるならば、今の世界経済体制では、職などは増えようがないということだろう。「資本主義は終わった」というマクロ経済学者が増えているのは、こういう事情からである。

 

(あと2回ほどは続きます。全体の目次は以下の通りです)

第1章  金融グローバリゼーションの生成と発展
第1節 その生成
第2節 民間資金の世界席巻と通貨危機
第3節 アジア通貨危機の発端、タイの例

第2章 金融グローバリぜーションの破綻
第1節 金融が世界を乗っ取った
①その一般企業支配
②デリバティブ、金融派生商品
③サブプライムローン組込証券
④CDS
⑤金融は、国家さえ乗っ取る
第2節 「100年に1度の経済危機」
第3節 破綻の構造

第3章 金融グローバリゼーションの改革
第1節 国際機関などの対応
第2節 各国などの対応や議論
第3節 平和に生きて行ける世界を目指して 】

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随筆紹介 海苔巻   文科系

2020年03月05日 08時38分42秒 | 文芸作品

 海苔巻  K・Kさんの作品です

 

 今年も町内の祭り太鼓が聞こえる。母が元気な頃は祭りの日は、親戚を呼んで賑やかに食事をした。茶碗蒸し、天ぷらなど母は朝早くから張り切っていた。
 太巻き寿司は土産に持たせるのも含めて、二〇本位作る。私も手伝った。其は干瓢、玉子焼き、きゅうり、桜でんぶなど。妹は煮付した油揚げに酢飯を詰める。
 巻き簾の上に板海苔を置き、両手に軽く一杯の酢飯を広げる。初めての時は巻いたのに海苔がつかず開いてしまった。「酢飯を置く時に、手前と向こう側を少し控えるといいよ」母のアドバイス。それからは上手くいった。気を良くした私はせっせと巻いていく。巻き寿司は私の好きな手伝いになった。巻き終わったら両端を軽く押すと、切った時に端の一切れもしっかりするそうだ。
 庭で摘んだ青紫蘇の花を添えるのが母のポイント。紫色の小さな花が巻き寿司に映えた。青紫蘇の傍に秋明菊の白い花が咲いていたのを鮮明に覚えている。腰の高さほどで高く伸びた茎の上に、大柄な五枚の花を付ける。中央に黄色の雄しべがあり、派手さはないがしみじみと見ていたくなる。花好きの母は「貴船菊、秋牡丹ともいうけれど、秋明菊がいいね」と呟いていた。母は私の庭
にも「宿根草だから大丈夫」と株分けして植えていった。

 あれから実家は甥の家に建て直され、九十六歳の母は老人ホームにお世話になっている。でも、秋の訪れとともに、私の家の秋明菊は忘れずに咲いて四季を感じている。祭り太鼓に、秋明菊が小さく揺れているのを見ると、今でもあの海苔巻を思い出す。

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金融世界支配の歴史、現状 ②  文科系

2020年03月05日 01時16分20秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 所属同人誌に書いた論文の再掲です。17年10月3日に載せたその①を読んでくださった方がいるようなので、②③と載せてみます。よろしく。


金融世界支配の歴史、現状 ②  文科系 2017年10月03日 | 国際経済問題


第3節 アジア通貨危機の発端、タイの例

『「投機家はタイに自己実現的通貨投機をしかけた。1ドル25バーツに事実上固定していたタイ・バーツが貿易収支の悪化から下落すると予想し、3か月後に25バーツでバーツを売りドルを時価で買う先物予約をすると同時に、直物でバーツを売り浴びせた。タイ中央銀行は外貨準備250億ドルのほとんどすべてを動員して通貨防衛を試みたが力尽きた。」(東洋経済「現代世界経済をとらえる VER5」』
 タイのこの問題に詳しい専門家による解説をご紹介しよう。なんせ通貨危機というのは、「1970年から2007年まで世界208カ国で起こり」(前掲書 伊藤正直「金融危機は再びやってくる」)、中小国家などからは「通貨戦争」とも呼ばれて恐れられてきたもの。中でもこのタイ通貨危機は、97年の東アジア通貨危機の発端・震源地になった事件として重要なものだ。毛利良一著「グローバリゼーションとIMF・世界銀行」(大月書店2002年刊)から抜粋する。
『通貨危機の震源地となったタイについて、背景と投機の仕組みを少しみておこう。タイでは、すでに述べたように経常取引と資本取引の自由化、金融市場の開放が進んでいた。主要産業の参入障壁の撤廃は未曾有の設備投資競争をもたらし、石油化学、鉄鋼、自動車などで日米欧間の企業間競争がタイに持ち込まれた。バンコク・オフショアセンターは、46銀行に営業を認可し、国内金融セクターが外貨建て短期資金を取り入れる重要経路となり、邦銀を中心に銀行間の貸し込み競争を激化させて不動産・株式市場への資金流入を促進し、バブルを醸成した。(中略) 投機筋は、まずタイ・バーツに仕掛け、つぎつぎとアセアン諸国の通貨管理を破綻させ、競争的切り下げに追い込み、巨大な利益を上げたのだが、その手口はこうだ。(中略) 1ドル25バーツから30バーツへの下落というバーツ安のシナリオを予想し、3ヶ月や半年後の決済時点に1ドル25バーツ近傍でバーツを売り、ドルを買う先物予約をする。バーツ売りを開始すると市場は投機家の思惑に左右され、その思惑が新たな市場トレンドを形成していく。決算時点で30バーツに下落したバーツを現物市場で調達し、安いバーツとドルを交換すれば、莫大な為替収益が得られる』
分かりやすく説明するとこういうことだ。
 一ドルがタイ通貨25バーツの時点で、三か月後に1ドル25バーツでドルを大量に買う先物予約をしておく。その上で、バーツを一挙に、どんどん売り始める。そこには、予め同業者などから大量に借りる契約がしてあったバーツなども大量に含まれている。自分が所有していない債券、商品などを売る行為を空売りと呼ぶが、これらの結果、三か月後1ドル30バーツになって起こることを、例示してみよう。1億ドルで30億と安くなったバーツを普通に買ってから、先述の先物予約を行使してこのバーツでドルを買えば1億2千万ドルに換えられる。また、普通は不安になるこんな「大商いへの確信」も、世界大金融には比較的容易なものだ。動かせるバーツとタイ政府の「防御体制(金額)」とを比較でき、そこから勝利の目処となる投入金額に目算も立つからだ。
 上記毛利良一氏はこう続けている。
『投機で儲けるグループの対極には、損失を被った多数の投資家や通貨当局が存在する。
 投機を仕掛けたのは、ヘッジファンドのほか、日本の銀行を含む世界の主要な金融機関と、・・・・機関投資家であった。また、1999年2月にスイスのジュネーブで開かれたヘッジファンドの世界大会に出席した投資家は、「世界中を見渡せば、過大評価されている市場がどこかにあります。そこが私たちのおもちゃになるのです」と、インタビューで語っている。』

 

 第2章 金融グローバリゼーションの破綻

 第1節 金融が世界を乗っ取った

①その一般企業支配
 新自由主義グローバリゼーションが各国通貨から空売り搾取を行ったやり方を、タイ通貨危機からアジア通貨危機を例にとって、前節で見た。世界的な金融競争こそ経済発展の原動力とする米英など先進国の新たな新自由主義経済の主らとは、投資銀行、銀行、ファンドなどである。彼らによる金融中心経済のやり方を眺めておく。
まず、株の売買については、余剰資産売却・吸い上げ型と、リストラによる収益型とがある。前者は、土地など大きな「余剰」資産を所有する会社の筆頭株主になり、その資産を売り払って株価を大幅に吊り上げてこれを売り抜く。もう一つはやや長期に渡って筆頭株主になり、リストラ・合理化に励んで株価をつり上げて売り抜く。
 こんなやり方で米企業を金融が買い占めていった経過を、ある本から要約してみよう。ロナルド・ドーア著「金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱」(中公新書 2012年6月第5版)
 機関投資家の上場企業株式所有シェアがどんどん増えて、1960年アメリカで12%だったこのシェアが、90年には45%、05年61%と。次いで、企業から「金融市場への支払い」が、その「利益+減価償却」費用とされたキャッシュ・フロー全体に占める割合が急増する。アメリカを例に取ると、1960年代前半がこの平均20%、70年代は30%、1984年以降は特に加速して1990年には75%に至ったとあった。

②デリバティブ、金融派生商品
 次に、種々の金融派生商品の発明、売買というやり方がある。デリバティブという近ごろよく聞く言葉がこれだ。その大元の原理に触れておきたい。
 消費者ローンでも住宅ローンでも、借用証書がある。これは、借りた方が貸した方に出す証明書。これを貸し手が債券として出すのが社債や国債。一定利子が付くのは同じだが、こちらはお金同様の意味を持ち、売買も可能なもの。
 そしてさて、この社債などと同じ考え方で、種々のローンの貸し主が借用証書(債権)を証券化したものが金融派生商品の元である。焦げ付きなどの危険が高い借金から出来た高リスク証券とか、低リスク証券でも元のローン返済が急に怪しげになったりしたら、利子を高くしなければ売れない。そこで最大問題は、このこと。高リスク商品は当然売りにくいが、首尾良く売れるようにできれば、凄い儲けになる。全米抜群の優秀な頭脳を超高級で雇って、高リスク商品を売るために「高リスク高リターン商品」をあれこれと考え出していくことになった。

③サブプライムローン組込証券
 この証券化商品というのはまた、色々に分割して組み合わせることができる。これは、1銘柄の株を売るのではなく、投資信託を売るようなものと言えばよいだろう。とにかく、様々な負債を組み合わせるのだが、そこに高リスク債券を巧みに切り分けてもぐり込ませていく。貯金ゼロの低所得者に売りつけた住宅ローンからできたサブプライム・ローンの債券でも、これに安全な債券を組み合わせれば信用が「保証された」証券ができあがるという理屈だ。「高リスク貸し金を低リスクと混ぜて貸し手を増やし、今まではお金が貸せなかった人にもマイホーム、マイカーを持っていただけるようにした夢の商品!」なのである。リーマンショックの前のサブプライム・バブル期には、これが爆発的に売れた。ネズミ講同様大いに売れている間は自転車操業的資金繰りに困るどころか、大いに儲けも上がったのである。「偽の信用がどんどん膨らんでいった」のだが、その急成長中に偽だとは誰も振る舞っていないから問題なのだ。


(続く  なお、全体の目次は以下の通りです

第1章  金融グローバリゼーションの生成と発展
第1節 その生成
第2節 民間資金の世界席巻と通貨危機
第3節 アジア通貨危機の発端、タイの例

第2章 金融グローバリぜーションの破綻
第1節 金融が世界を乗っ取った
①その一般企業支配
②デリバティブ、金融派生商品
③サブプライムローン組込証券
④CDS
⑤金融は、国家さえ乗っ取る
第2節 「100年に1度の経済危機」
第3節 破綻の構造

第3章 金融グローバリゼーションの改革
第1節 国際機関などの対応
第2節 各国などの対応や議論
第3節 平和に生きて行ける世界を目指して

 

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随筆紹介 「壊れる」   文科系

2020年03月04日 04時41分49秒 | 文芸作品

  「壊れる」  H・Sさんの作品です

 友人がA4紙に印刷した面白い言葉を持ってきた。その言葉を紹介する。
 タイトルは「十八歳と八十一歳の違い」だ。
○道路を暴走するのが十八歳、逆走するのが八十一歳
○心がもろいのが十八歳、骨がもろいのが八十一歳
○偏差値が気になるのが十八歳、血糖値が気になるのが八十一歳
○受験戦争を戦っているのが十八歳、アメリカと戦ったのが八十一歳
○恋に溺れるのが十八歳、風呂で溺れるのが八十一歳
○まだ何も知らないのが十八歳、もう何も覚えていないのが八十一歳
○東京オリンピックに出たいのが十八歳、東京オリンピックまで生きたいのが八十一歳
○自分探しの旅をしているのが十八歳、出かけたまま分からなくなって皆が捜しているのが八十一歳
 この言葉を見て思い切り笑えた人は本当に若い証拠です。皆様なら九十から百歳は間違いないと思います。と、言葉が添えられていた。「九十から百歳は間違いない」この意味は健康ですごせますと言っているようだが、この言葉は誰にでも当てはまるものではないと、私は受け留めた。現在八十二歳になる私はこの言葉をきっかけにして、八十一歳当時の自分を振り返った。
 八十歳のおわり頃から、私は頭と体の崩壊が始まっていた。その第一番目は突然人の名前が出てこなくなったことだ。愕然としたのは、金山のビレッジホールで桂文珍の落語口演を聞きに行った時の事だ。舞台にかけられている緞帳(名古屋城と松の木)のデザイン画を描いた有名な名古屋出身の画伯の名前が出てこない。緞帳の右下に(杉)と言う字が織り込まれているのに〈杉山、杉田、杉本〉と、苗字を手繰り寄せて名前に到達したいと試みるのだがうまくいかない。美浜に鉄道会社から美術館を寄贈された絵描さん。能楽堂の緞帳の若松のデザインもこの人だった。この人の周辺の情報ばかりが浮かんでくるのだが、本人の名前にたどり着けない。口演が終り食事をして地下鉄に乗った。地下鉄の中で「杉本健吉」だ。突然、水が噴き出すような感じで名前が出てきた。緞帳を見た時から五時間あまりがたっていた。これを皮切りに看板広告の有名女優の名前が出てこない。この女優が大河ドラマ「八重の桜」の主役だった等の情報はさっと出て来るのに本人の名前が浮かばない。この様な状況は現在も続いている。二番目は同人誌のグループに所属しているので月一回のペースで提出作品を書いて来たがそれが全く書けないのだ。何とか一つの作品を仕上げようと焦るのだが考えがまとまらない。頭が壊れたとがっくり来た。次には体の壊れが目立ってきた。
 九月半ば、台風の後倒れたコスモスを片付けた。いつもと同じ程度の軽い作業だったはずなのに、右足の付け根に激痛が走り、調子よく動いていた足が前に出ない。よろけて歩けないのだ。いきつけのA整形外科病院へ夫の運転で駆けつけた。
「右股関節の炎症です。働きすぎです。関節を休めてやらないと、骨頭壊死で歩けなくなります」と、こわばった表情のA先生からきつい言葉が返って来た。
[いつもの作業量ですよ。無理したわけではありません。脅かしですか?先生」と、返す私。「昨日やっていたことが今日は出来なくなる。それが年を取ることです。とにかく身体を休めてください。痛みは頓服で止まりますが、炎症が治まったわけではありませんから」。大変だー。最低の家事をやってあとは寝るとするかー。約二週間が過ぎた。痛みは嘘のようにとれて、段差のないところは歩けるようになった。
 十二月初め、父の二十五回忌の法事のため郷里の兵庫県加古川市のお寺に行った。父や母がお世話になった人たちにも会えた。お礼も出来た。この状態なら、体の調子も問題はなさそうという感じで帰路についた。電車に乗ろうとJR加古川駅で電車を待つ。人身事故で電車が動かなくなった。復旧するまで一時間、荒風が吹きさらすホームで待った。
 寒かったー……。どうにか帰宅できたが、寝込んでしまった。起きようと焦るのだが体がだるくて立ち上がれない。その上息苦しい。肩で息をするようになっていた。おかしいと、かかりつけのB医院に駆け込んで診察を受けた。「横隔膜と心臓、肺の間に体液が貯まっている」と、高圧利尿剤を呑んで様子を見ることになった。五ミリぐらいの大きさの錠剤だが、ものすごい勢いで身体の中の水三リットルを追い出した。二日目には息苦しさは消えていた。心臓大動脈弁不全も抱えているので薬物療法は現在も続けている。病気に追いかけられるように八十一歳を何とかやり過ごした。昨日まで出来たことが急にできなくなる。昨日まで元気で活動できた体も今日は壊れている。それが八十一歳と気づいた。

○成人の入り口に立っているのが十八歳、人生のトンネルの出口をよろよろさまよい歩くのが八十一歳。
 私の八十一歳はこんな状況だったと前記の自嘲文を書き留めた。

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慰安婦問題、当時の政府関連2通達紹介

2020年03月04日 04時22分04秒 | 歴史・戦争責任・戦争体験など

 いつもこのブログに定期的に載せてきたものですが、今回も・・。あったものを無かったことにする圧力が強すぎる社会にあって、歴史への反省を込めて・・・。

 

【 慰安婦問題、当時の関連2通達紹介  文科系2014年09月22日

 以下二つは「日本軍の慰安所政策について」(2003年発表)という論文の中に、著者の永井 和(京都大学文学研究科教授)が紹介されていたものです。一つは、1937年12月21日付で在上海日本総領事館警察署から発された「皇軍将兵慰安婦女渡来ニツキ便宜供与方依頼ノ件」。今ひとつは、この文書を受けて1938年3月4日に出された陸軍省副官発で、北支那方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒、陸支密第745号「軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件」です。後者には、前に永井氏の説明をそのまま付けておきました。日付や文書名、誰が誰に出したかも、この説明の中に書いてあるからです。

『 皇軍将兵慰安婦女渡来ニツキ便宜供与方依頼ノ件
 本件ニ関シ前線各地ニ於ケル皇軍ノ進展ニ伴ヒ之カ将兵ノ慰安方ニ付関係諸機関ニ於テ考究中処頃日来当館陸軍武官室憲兵隊合議ノ結果施設ノ一端トシテ前線各地ニ軍慰安所(事実上ノ貸座敷)ヲ左記要領ニ依リ設置スルコトトナレリ
        記
領事館
 (イ)営業願出者ニ対スル許否ノ決定
 (ロ)慰安婦女ノ身許及斯業ニ対スル一般契約手続
 (ハ)渡航上ニ関スル便宜供与
 (ニ)営業主並婦女ノ身元其他ニ関シ関係諸官署間ノ照会並回答
 (ホ)着滬ト同時ニ当地ニ滞在セシメサルヲ原則トシテ許否決定ノ上直チニ憲兵隊ニ引継クモトス
憲兵隊
 (イ)領事館ヨリ引継ヲ受ケタル営業主並婦女ノ就業地輸送手続
 (ロ)営業者並稼業婦女ニ対スル保護取締
武官室
 (イ)就業場所及家屋等ノ準備
 (ロ)一般保険並検黴ニ関スル件
 
右要領ニヨリ施設ヲ急キ居ル処既ニ稼業婦女(酌婦)募集ノ為本邦内地並ニ朝鮮方面ニ旅行中ノモノアリ今後モ同様要務ニテ旅行スルモノアル筈ナルカ之等ノモノニ対シテハ当館発給ノ身分証明書中ニ事由ヲ記入シ本人ニ携帯セシメ居ルニ付乗船其他ニ付便宜供与方御取計相成度尚着滬後直ニ就業地ニ赴ク関係上募集者抱主又ハ其ノ代理者等ニハ夫々斯業ニ必要ナル書類(左記雛形)ヲ交付シ予メ書類ノ完備方指示シ置キタルモ整備ヲ缺クモノ多カルヘキヲ予想サルルト共ニ着滬後煩雑ナル手続ヲ繰返スコトナキ様致度ニ付一応携帯書類御査閲ノ上御援助相煩度此段御依頼ス
(中略)
昭和十二年十二月二十一日
         在上海日本総領事館警察署 』


本報告では、1996年末に新たに発掘された警察資料を用いて、この「従軍慰安婦論争」で、その解釈が争点のひとつとなった陸軍の一文書、すなわち陸軍省副官発北支那方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒、陸支密第745号「軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件」(1938年3月4日付-以後副官通牒と略す)の意味を再検討する。
 まず問題の文書全文を以下に引用する(引用にあたっては、原史料に忠実であることを心がけたが、漢字は通行の字体を用いた)。

 支那事変地ニ於ケル慰安所設置ノ為内地ニ於テ之カ従業婦等ヲ募集スルニ当リ、故サラニ軍部諒解等ノ名儀ヲ利用シ為ニ軍ノ威信ヲ傷ツケ且ツ一般民ノ誤解ヲ招ク虞アルモノ或ハ従軍記者、慰問者等ヲ介シテ不統制ニ募集シ社会問題ヲ惹起スル虞アルモノ或ハ募集ニ任スル者ノ人選適切ヲ欠キ為ニ募集ノ方法、誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル等注意ヲ要スルモノ少ナカラサルニ就テハ将来是等ノ募集等ニ当リテハ派遣軍ニ於イテ統制シ之ニ任スル人物ノ選定ヲ周到適切ニシ其実地ニ当リテハ関係地方ノ憲兵及警察当局トノ連携ヲ密ニシ次テ軍ノ威信保持上並ニ社会問題上遺漏ナキ様配慮相成度依命通牒ス』


 さて、これを皆さんはどう読まれるでしょうか。なお、この文書関係の北支関連国内分募集人員については、ある女衒業者の取り調べ資料から16~30歳で3000名とありました。内地ではこうだったという公的資料の一部です。最初に日本各地の警察から、この個々の募集行動(事件)への疑惑が持ち上がって来て、それがこの文書の発端になったという所が、大きな意味を持つように僕は読みました。】

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日本政府関係は、いくら損した?  文科系

2020年03月02日 10時06分52秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 アメリカでバブル株価が弾けて、24日~28日の間に323兆円が吹っ飛んだ! その内、日本からの投資はどれだけ吹っ飛んだのか。一昨年の秋にはGPIFで15兆円の損失、8兆円損をしたというのはちょっと前に出たニュース。その後は一体どうなったのか。

 また、日本官製バブル株価下落でも、一体いくら消えてしまったか?

 安倍日本政府はこれらを明らかにすべきだ。政府資金や、GPIFなどの預かり金を外国株にも回すと決めた以上、その運用状況は国民に知らせる義務があるはずだ。そして、リーマン・ショックに続くこんなとんでもない世界の愚かな制度、搾取を一刻も早く終わらせる議論を国連で始めるべきではないか。リーマンショックの後にはこんな議論が国連などで大いに巻き起こったが、いつの間にかうやむやになっている昨今である。

 現在の世界経済では必ずバブルが形成されていき、そのバブルは必ず弾け、これが弾けるたびに世界各国の金が吹っ飛んだ分だけ、世界から有効需要が消え、超格差が進み、またまた、さらなる不景気に。南欧、アフリカ、中南米などの若者を筆頭とした膨大な失業者群も、先進国としては日米に多い相対的貧困家庭もさらに増えていくだろう。日本では、今でも4人に1人の50歳まで結婚できぬ男性がさらに増えていくのではないか。こうした、世界経済のバブル悪循環がさらに深まる分、世界各地がまた異常な不幸に見舞われていくのである。

 英米日などは、こんなバブル株価形成とその破綻とを、一体いつまで続けていくつもりなのか。

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米で323兆円が消えた  文科系

2020年03月01日 09時23分22秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)

 どの新聞を見ても、アメリカのダウ工業株30種平均値が、24日から28日までの1週間で12%を超える下落だったという。中日新聞ではその様相をわかりやすく、こう説明されていた。
『ダウ工業株30種平均の週間ベースの下落率は12%に達し、2008年のリーマン・ショック以降で最大。米国株は先週だけで3兆ドル(約323兆円)近くの時価総額を失った』
 最近のこのブログでリーマン・ショック破綻の構造などについて過去ログを再三載せてきた立場から見ると、ドイツ1国の年間GDP分が吹っ飛んだということになる。GAFAの株式時価総額がドイツGDPを超えたともここで度々書いてきたが、その分がこの1週間でアメリカから丸々消えたということだ。

 さてここで、問題はこのこと。吹っ飛んだこの323兆円がアメリカの金だけならば自業自得と言うだけだが、問題はこれがむしろ世界の諸国から集めた金だという点にある。日中など世界から投資させたバブルが弾ける時、「アメリカ金融はいち早く逃げて、損をするのは他の国」という仕組が問題なのだ。たとえば、1990年代半ばのタイバブル破裂に端を発したアジア通貨危機では日米金融などが大儲けしたわけだが、バブル弾けも結局仕掛けられるものだということである。

 アメリカのGAFAバブル、日本の官製バブルを「幻の信用」と述べてきたが、そのことがまたしても暴露されたわけだ。ただし、日本の場合はアメリカと違って大きな資産があるので、円の信用は落ちず、こんな時は世界が円買いに走ると言われてきた。

 金融規制に背を向け、国連のこの努力を妨害してきたという意味で懲りずにまたまた、地球、人類の大悲劇だ。以上の引き金となったコロナ・ウイルス伝播にまだ収束の兆しはない。そもそも、こういうアメリカの現首脳部そのものが、金融横暴問題に背を向けてきたどころか、世界の協力の場であるべき国連を無視してきたのだが、それでどうなるというのか? 世界経済もコロナも。 

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