Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

天啓の宴

2007-09-07 08:53:07 | 読書
笠井 潔「天啓の宴」創元推理文庫 2007/7

カバー裏の紹介では
「新人賞受賞が内定しながら、担当編集者と選考委員の目にしかふれぬまま失われた幻の小説「天啓の宴」―デビュー二作目が書けずに悩む作家・天童は興味を覚え、その謎を追究し始める。一方『昏い天使』でデビューしつつも、第二作を破棄して失踪した宗像は、出獄してくる親友のため、山荘に篭って回想記を書いていたが…。究極の小説を希求する作家たちの織りなす傑作ミステリ。」

しかしこの文章は一面的な見方しかしていない.この小説は例の「アサッテの人」を徹底させた形式,いわゆるメタ・フィクションである.小説の構成は最後の20章で明らかにされるが,19章まではある人物の手記であって,奇数章はその人物の視点で書かれ,偶数章では視点をもつ人物がふたりとなり,前半と後半で交代する.
しかし始めから読むとそんな構成は分からないから,迷路の中を進むような印象を持つ.

小説の中に小説があり,しかも三島由紀夫だの赤軍だのオウムだのという実際の事件も織り込まれている.解説 (蔓葉信博) によれば,本書は,やはりメタフィクションとミステリーをない交ぜにした,竹本健治の「ウロポロスの偽書」に不満な笠井の応答だそうだ.ここに登場する作家・天童のデビュー作は「尾を喰らう蛇」すなわちウロポロスだから,天童 = 竹本なんだろう.

ウロポロスとの関連抜きにしても,この小説はおもしろい.竹本の小説がどれもどこかおちゃらけているのに対し,笠井のはどこまでもまじめくさっている.随所に展開される文学談義は難解で退屈,もっともこちらが笠井のホントに言いたいことなのかもしれないし,これがなかったらただの B 級ミステリだ.とにかく前半のこれを我慢できれば,後半どんどん先が読みたくなる.

ただし,ここで存在が暗示されている「天啓の宴」というものすごい小説に比べると,このミステリ「天啓の宴」はいかにも水準的なミステリ.もっとも大作「哲学者の密室」よりも密度は濃く,短い「梟の巨なる黄昏」よりずっとまし.初出は1996年らしいが「このミス...」などのベストテンに登場しなかったのはミステリ.
コメント (4)
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