《社説②・01.29》:イチロー氏の殿堂入り 本場もうならせた走攻守
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・01.29》:イチロー氏の殿堂入り 本場もうならせた走攻守
野球の本場、米国のファンもうならせた希代の名プレーヤーが最高の栄誉を手にした。日米両国で殿堂入りを果たしたイチローさんである。
日米とも記者の投票で決まる。引退から5年がたち、候補者の資格を得たイチローさんは、日本で92・6%、米国では満票にあと1票という99・7%の高い得票率で殿堂入りすることになった。
米国では野茂英雄さんや松井秀喜さんも候補に入ったことはあるが、アジア出身の選手が選ばれるのはイチローさんが初めてだ。
オリックスに在籍した時は、右足を大きく振って間合いを取る独特の「振り子打法」で安打を量産した。阪神大震災が起きた1995年にはリーグ優勝に貢献し、翌年は日本一に輝いて地元神戸の人々を勇気づけた。
2001年に27歳で米国へ渡り、マリナーズなど3球団で19年間活躍した。俊足を生かした走塁や広角に打ち分ける巧みな打撃、「レーザービーム」と呼ばれた外野からの好返球は、今もファンの記憶に残る。
決して大柄な体格ではない。だが、走攻守三拍子そろったプレーで観客を沸かせ、パワー重視だった大リーグの野球観を変えた。
とりわけ日米通算4367安打を記録した打撃技術は一級品だった。本塁打の世界記録を持つ王貞治さんが「ボールとバットの芯を結ぶ天才。人間業ではない」と評するほどだ。
45歳で現役を退いた後は、マリナーズの役職に就きながら、高校球児の指導や女子野球の普及にも尽力している。競技人口の減少が進む中、日本の野球界の行く末を案じているのだろう。
戦術の判断や技量の向上のために、高性能カメラの分析映像から人工知能(AI)の情報まで活用される時代だ。
しかし、データ偏重の傾向を強める現代の野球に対し「データでがんじがらめになって、感性が消えていく」と警鐘を鳴らす。高校生には「自分で考えて動く感性をもっと大事に」と指導している。
人間の能力を限界まで発揮して争うスポーツの本質は変わらない。イチローさんには、これからも野球の素晴らしさを次代に伝えてほしい。
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