【筆洗】:<深海魚光に遠く住むものはつひにまなこも失ふとあり>。堀口…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:<深海魚光に遠く住むものはつひにまなこも失ふとあり>。堀口…
<深海魚光に遠く住むものはつひにまなこも失ふとあり>。堀口大学の歌だが、その深海魚の写真を見れば小さいながらも「まなこ」はちゃんと付いている。クサウオ科の「スネイルフィッシュ」である
▼東京海洋大学と西オーストラリア大学などの国際研究チームが伊豆・小笠原海溝の水深八、三三六メートルでこの「スネイルフィッシュ」の撮影に成功し、「最も深い場所で撮影された魚」としてギネス世界記録にこのほど認定された
▼体長約二〇センチでオタマジャクシに似ているが、全身がゼラチンのようなもので覆われている。骨は軟らかく、頭蓋骨を構成する骨には隙間があるという。六〇〇気圧以上という超深海層の水圧に耐えることができる特殊な体なのだろう
▼魚類が生息できる限界の水深は八、四〇〇メートルというから、今回の「スネイルフィッシュ」の記録を破るのは、もはや難しいかもしれない。<光に遠く住むもの>の永久王者と呼びたくなる
▼王座を奪われたマリアナクサウオ(マリアナ海溝・八、一七八メートル)もクサウオ科でこのランクの上位にはクサウオ科の魚が目立つ。クサウオの語源は石川・加賀地方の方言と関係があるらしい。いやなもの、つまらないものという意味で「くさい」というそうだ
▼ばかにされ、うとんじられた魚が深海の暗さと冷たさに耐えて、今、脚光を浴びる。そんな物語を想像したくなる。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】 2023年04月10日 06:38:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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