【社説①・03.11】:福島原発事故14年 「回帰」政策、被災者軽視だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.11】:福島原発事故14年 「回帰」政策、被災者軽視だ
東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第1原発事故はきょう、発生から14年となる。わが家を離れて暮らさざるを得ない人が今も2万8千人近くいる中で、政府は原発についての政策を転換した。
先ごろ決めた新たなエネルギー基本計画では、事故を踏まえて盛り込んでいた「依存度を可能な限り低減する」との文言を削った。原発回帰へと、かじを切ったのである。
事故を機に高まった原発に対する国民の懸念が消え去ったわけではない。国民、とりわけ辛苦にさいなまれ続けている被災者の思いを受け止めた上での方針転換なのか。疑問が拭えない。
原発を「最大限活用」とする新しいエネ計画は先月、政府が閣議決定した。1割に満たない原発の電源構成の比率を2040年度に2割程度まで上げる目標を掲げている。
実現するには、既存原発の大半に当たる30基程度を15年以内に再稼働させる必要がある。安全を最優先しつつ地元住民の理解を得ながら進めていくには、相当高いハードルだろう。
新増設を容認したが、建設費の高騰で電力会社は及び腰だ。そのため、建設費を電気料金に上乗せして国民に負担させる案も浮上している。
原発で燃やす核物質の後始末も不透明だ。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場は完成時期が27回も延期され、着工から30年余り過ぎた今も稼働の見通しが立っていない。
「核のごみ」、高レベル放射性廃棄物を地中深くに埋める最終処分場も適地探しの段階にとどまっている。
こうした現状を反映しているのか、国民は今も原発に厳しい目を向ける。本紙におととい掲載されていた全国郵送世論調査によると、「今すぐゼロ」と「将来的にはゼロ」は計62%に上った。
反対に「積極的に活用」と「一定数を維持」は計36%だった。「再稼働すれば電気料金が下がる」などの意見もあるが、「核のごみ」処分のコストまで考えると、目先の電気料金引き下げで喜んでいいのか。多額の請求書が後で送られる事態も否定できない。
事故を起こした福島原発の後始末も課題が山積みだ。東電と政府は溶け落ちた推定約880トンもの核燃料(デブリ)を51年までに全て取り出して、廃炉にする計画を示している。ただ、昨年初めて取り出したデブリは約0・7グラム。このままでは100年以上かかるとの試算もあり、51年までの廃炉は不可能に近い。
事故の責任追及でも、被災者の思いは踏みにじられた。民事裁判では東電の責任が認められたが、刑事裁判では先週、最高裁によって当時の経営陣の無罪が確定した。
これほどの大惨事を招き、「明らかに人災」と国会の事故調査委員会に指摘されていたのに、誰一人刑事責任を負わないのはなぜか。違和感を禁じ得ないのは、被災者だけではあるまい。
事故の教訓は何か。いち早く忘れてしまったのは政府ではないか。被災者と改めて向き合うことが求められる。
元稿:中國新聞社社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月11日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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