【社説・11.18】:デブリ初取り出し 「廃炉」計画、抜本的見直しを
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.18】:デブリ初取り出し 「廃炉」計画、抜本的見直しを
国内の原子力施設では史上最悪の事故を起こした東京電力福島第1原発の2号機から溶け落ちた核燃料(デブリ)が初めて取り出された。小石状の約5ミリ大で重さは約0・7グラム。廃炉に向けて一歩前進との評価も、東電などからは聞こえてくる。
しかし、デブリは炉心溶融(メルトダウン)の起きた1~3号機に推計で約880トンもある。採取開始は当初計画より3年遅れ。国や東電が目標とする2051年までの廃炉完了は現実的に不可能ではないのか。計画をこのままにしておくのは無責任だ。抜本的な見直しが求められる。
デブリは放射線量が非常に高いため人は近づけず、取り出しには遠隔操作の機械やロボットを使わざるを得ない。初歩的ミスやカメラの不具合などで作業着手は3回延期された。事故発生から13年半たって、今回初めて取り出せたものの、わずかな量。試験取り出しとの位置付けで、展望が開けたわけでもない。
今回のデブリは、原発運転時の核分裂で生じる放射性物質が検出され、核燃料の一部だと分かった。今後1年程度かけて分析を進め、取り出し工法の検討などに生かすという。本格取り出しは1年以上も後になるのだろうか。
しかも、1~3号機ごとにデブリの状態は異なり、今回の分析結果だけでは、デブリの全体像はつかめない。
計画では、30年代初頭に最もデブリの多い3号機で大規模な取り出しを始める。ただどうやって取り出すか決まっておらず、先は見通せない。
そもそも880トン全て取り出すのに何年かかるのか。取り出したデブリはどこに置くのか。作業に伴い生じる放射性廃棄物も膨大な量になる。福島県や住民は、どちらも県外搬出を望んでいるが、受け入れる所があるだろうか。
深刻な事故を起こした米国のスリーマイルアイランド原発では、10年かけ、ほとんどのデブリを取り出した。しかし今もわずかに残っている。
デブリの量は福島の2割弱しかなかった。制御棒などと均一に溶けて圧力容器内にとどまったが、福島は原子炉のタイプが違うため、デブリは均一ではない。圧力容器の外にある格納容器にまで達してしまった。そんなデブリの取り出しは世界に例がなく、極めて難しい。成功例が当てはまるとは到底思えない。
加えて、スリーマイルでは仮とはいえ、搬出先が決まってから作業に入った。たとえ取り出せたとしても、置き場の決まっていない福島とは前提条件が全く異なっている。
むしろ、旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故対応の方が参考になるかもしれない。デブリは取り出さず原子炉建屋ごとコンクリートで覆う「石棺」で放射性物質の飛散を防いでいる。専門家の中には、この方法を勧める人もいる。
51年までに廃炉を完了する方針は、事故発生から1年もたたないうちに決められた。国や東電は、その後の知見を踏まえつつ、デブリ取り出しが進まない現状に誠実に向き合うべきだ。計画を練り直さなければならない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月18日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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