【フォーカス】:処理水、溝残し放出へ 政府「一定の理解得た」 漁業者「約束果たさず」
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【フォーカス】:処理水、溝残し放出へ 政府「一定の理解得た」 漁業者「約束果たさず」
東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が24日にも開始される見通しとなった。政府は「国際的な安全基準に合致する」とした国際原子力機関(IAEA)の判断と原発廃炉の必要性を訴え、「関係者の一定の理解を得た」とするが、漁業者の反対は根強い。政府は2015年から「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と説明してきており、「約束」をほごにしたとの批判が強まるのは避けられない。
処理水は現在、福島第1原発敷地内の貯蔵タンクで保管されているが、来年前半には満杯になる見通し。政府は汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化した上で、放射性物質トリチウムの濃度が国の基準値の40分の1未満になるよう海水で希釈し、沖合に放出する計画だ。
政府は今年1月、処理水の放出時期の期限を「夏ごろ」とすることを確認。7月にIAEAから放出計画への「お墨付き」を得たことを受け、漁業関係者との協議を本格化させてきた。最大のネックは政府と東電が15年に福島県漁連と交わした「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という約束だった。
このため政府は風評被害対策と漁業の継続支援で計800億円の基金を創設。首相は21日の面会でも必要な予算の確保を表明し理解を求めたが、坂本氏は「約束は破られていないが、果たされてもいない」と記者団に説明。「関係者の一定の理解を得た」(西村康稔経済産業相)とする政府との認識の隔たりは大きい。
また処理水は1日の放出量が限られるため、全ての放出には30年ほどかかる見通し。今回の「見切り発車」の放出が将来にどんな影響をもたらすかは不透明な部分もあり、坂本氏は面会で「最後の一滴の放出を見極めるまでは予断を許さない」と訴えた。
ただ廃炉には処理水の放出が必要で、漁業関係者の中にも放出を容認する意見もある。IAEAは「過剰な安全対策が逆に風評被害を招きかねない」とも指摘しており、漁業関係者らは処理水放出を巡る国内調整が難航すれば、中国などが日本産海産物への輸入規制をさらに強化し、風評被害が拡大しかねないというジレンマも抱える。
坂本氏は「漁業者が子々孫々まで安心して漁業ができるように寄り添い、国の全責任において必要な対策を講じ続けることを強く求める」と首相にくぎを刺した。(村上辰徳、勝間田翔)
元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【フォーカス】 2023年08月21日 23:51:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます