【検証】:家系図アピール、秘書官起用…ニッポン世襲政治のリスクとは
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【検証】:家系図アピール、秘書官起用…ニッポン世襲政治のリスクとは
自民党の岸信夫前防衛相の後継に名乗り出た長男信千世氏が政治一家であることを示す「家系図」をホームページで掲載(現在は削除)すると、批判が噴出した。くしくも、岸田文雄首相が長男を秘書官に起用し「世襲の布石」との臆測が飛んだばかり。なぜ政界には「華麗なる一族」が多いのか。米コロンビア大のダニエル・スミス客員准教授に聞くと、世襲の常態化には重大なリスクがあるという。【聞き手・大野友嘉子】
スミスさんは、米ハーバード大助教授、准教授を経て現職。日本政治や選挙政治学などについて研究しています。著書「Dynasties and Democracy(王朝と民主主義)」(スタンフォード大学出版)では、民主主義は世襲の対義であるはずなのに、日本はこの二つの共存が顕著だと指摘し「王朝的な民主国」と呼んでいます。インタビューでは日本の戦後政治や選挙制度の変遷に触れ、世襲の問題点を指摘しています。
――菅義偉前首相が2020年に自民党総裁に選出された際、森喜朗元首相以来、20年ぶりの(国会議員の親族から地盤を継がない)「非世襲」総裁だと騒がれました。裏を返せば、世襲が当たり前ということです。他の民主国家と比べて特異ですか。
◆まず、私が研究対象とした「世襲政治家」の条件について説明します。かつて国会議員を務めていた人物(1人以上)と血縁関係、または婚姻による家族関係にある国会議員の候補者であること。そして、国会議員の家族と同じ政党に所属したり、選挙区から立候補したりする必要はないということです。
これらの条件に沿うと、日本は世界の民主国家の中で、世襲の国会議員の人数が抜きんでていることが分かりました。民主主義国家で、国会議員の親族に関するデータを公表している24カ国・地域の過去20年間(1995~2016年)の世襲議員の割合を調べたところ、日本は25%以上でした。これは、24カ国・地域中、タイ、フィリピン、アイスランドに次いで4番目の高さです。
上位9カ国・地域(上位4カ国のほか、台湾、アイルランド、ギリシャ、ベルギー、インド)を除けば、世襲の国家議員の割合は5~10%程度。最も低かったドイツは約2%でした。
タイやフィリピンといった新興の民主国や、アイスランドのような人口が比較的少ない国で政治の世襲が多く見られるのは、それほど驚くことではありません。しかし、日本はいずれの条件にも当てはまりません。
――日本と似た人口、経済規模の民主国家ではどうなっているのですか。
◆民主主義国における経済の発展は、結果的に世襲議員の割合を減少させる傾向があります。
英国の下院を見てみましょう。19世紀後半、世襲議員が下院に占めた割合は3割を超えていましたが、過去数十年間は10%を下回っています。第二次世界大戦直後のイタリアの下院では13%ほどでしたが、今日では5%以下です。
こうした現象が起きるのは、民主主義の発展が、女性や若年層といった、より多様な市民が政治に参加する資格を得ることにつながっているからです。
また、政権と対立し得る野党が育つことで、アウトサイダー(家族に政治家がいない人たち)が政治の世界に足を踏み入れる機会が増えるからだと考えます。
しかし、驚くべきことに、日本は第二次世界大戦後に民主化してからの数十年間、めざましい経済発展を遂げたにもかかわらず、世襲議員が増え続けるという逆の現象が起きました。
1947年には1割以下だった世襲議員ですが、50年代半ばに10%を超え、60年代には20%を超え、右肩上がりに増え続けました。最も割合が高かった80年代後半から90年代初頭は3割を超えています。
この現象は与党であり続けた自民党に顕著で、80年代初頭には4割以上の自民党議員が世襲でした。さらに、80年代から90年代初頭にかけては、新人候補の半数近くが政治家家系の出身だったのです。
◆世襲議員を生む「需給バランス」
――日本は敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の指令の下で「民主化」に向けた政策が始まりました。20歳以上のすべての男女に選挙権が与えられ、高度経済成長をもって経済大国の仲間入りもしました。それなのに、英国やイタリアのように世襲議員が減らなかったということですか。
◆はい。その理由の一つに、日本の選挙制度があります。
まず、選挙における「需要と供給」から説明します。選挙に立候補する政治家について研究する政治学者は、需要と供給の観点から彼らの動向を観察します。
需要とは、候補者を募ったり引き込んだりする政党、派閥、利益団体などの思惑を指します。供給は、立候補したいという気持ちを持つ候補者やその関係者たちのことです。かつての日本には、この世襲の候補者を巡る需給の組み合わせがバランス良く存在していました。
需要側が世襲の候補者(議員)を求める例として、自民党の世耕弘成参院議員が政界に進出した時のことを振り返ってみましょう。
世耕氏は、元々NTTに勤めていましたね。しかし、98…、」残り2659文字(全文4721文字
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