【社説①・02.22】:選択的夫婦別姓/政治は「怠慢」に終止符を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.22】:選択的夫婦別姓/政治は「怠慢」に終止符を
選択的夫婦別姓を巡る動きは、政治と世論が著しく乖離(かいり)した一例である。政府や共同通信の世論調査では導入賛成が多数を占めるが、自民党保守派の強硬な反対で事実上の放置が30年近く続いている。
2月に入り、自民党が夫婦別姓の議論を久々に再開した。党内では今も賛否が割れるが、今度こそ政治の怠慢といえる状況を終わらせ、導入に道を開くべきだ。
自民党の作業チームの会合では、賛成派の議員が「生まれ持った姓を変えたくないという人たちの思いに応えるのが出発点」と発言した。1996年に選択的夫婦別姓の導入を答申した法制審議会の案がたたき台になる、との意見も出た。その案には夫婦別姓でも子どもの姓は全員同じにすることや、婚姻届を提出する際に子どもの姓を定めることなどが示されている。
一方、反対派は「家族の一体感が弱まる」「(親と姓が異なれば)子どもがかわいそう」などと個人的な感情に基づく訴えが目立つ。
同じ姓を名乗ることで夫婦や親子の一体感を持つ人もいれば、そうでない人もいる。日本人と外国人が結婚する場合は、夫婦別姓が原則だ。「同姓でなければ」という考えは、一面的で説得力に欠けると言わざるを得ない。
法務省によると、夫婦同姓を義務付ける国は世界で日本だけである。夫婦どちらの姓も選べるが、95%は女性が改姓しているのが現状だ。戦前の「家制度」の影響を指摘する専門家もいる。国連の女性差別撤廃委員会は「女性に対する差別を温存、助長する」と指摘し、改正を勧告してきた。
自民党の反対派の間では、結婚前の旧姓を通称として使える場面を増やす代替案がいくつか浮上している。例えば、パスポートや運転免許証などで希望すれば旧姓を併記できる現行の仕組みを、法律で定めるといった内容である。
しかし、通称使用の拡大は根本解決にはほど遠い。戸籍上の姓と使い分ける負担は変わらず、場合によってはさらに重くなる。旧姓使用が認められるようになったとはいえ、金融機関での口座開設や不動産登記が煩雑になるなど弊害は多い。旧姓併記が海外で理解されず不正を疑われたケースもあり、ビジネス上のリスク防止の観点から経団連は選択的夫婦別姓の早期導入を求めている。
改姓によりアイデンティティーの喪失を感じる人にとっても、小手先の変更は失望感を深めるだけではないか。石破茂首相はかつて、夫婦同姓による不利益を解消する必要があると語っていた。党内議論を前に進める責任を果たすべきだ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月22日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます