【社説①・03.04】:出生数最少 政治の責任にほかならない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.04】:出生数最少 政治の責任にほかならない
2024年に生まれた子どもの数(外国人含む)が72万988人と、これまでで最少になった。厚生労働省が発表した人口動態統計で分かった。少子化に歯止めがかからない現状が改めて示された。
72万人台になるのは39年という将来推計(中位推計)を国立社会保障・人口問題研究所が出していた。その想定より、15年も速いペースで少子化が進んだことになる。
想定を超える減少の背景には、新型コロナウイルス禍がある。出生数と関連深い婚姻数が著しく減った。人の交流が少なくなって1人で過ごす生活が定着したのに加え、家族を持つことへの価値観も変わったと考えられる。
50年前の出生数は、200万人を上回っていた。このまま減り続ければ、今の社会や経済を維持するのは難しい。
政府は30年までを「少子化を反転させるラストチャンス」と位置付けてきたが、その考え方では甘いのではないか。取り組みをいっそう急ぐ必要がある。
当然、結婚や出産は個人の自由である。子どもを望まない人に出産を期待するべきではない。問題なのは、子どもを望む人が産めない社会環境だろう。
同研究所の調査では、結婚したい人が望む子どもの数は男女とも1・8人前後。結婚後の夫婦に聞くと2・25人に増える。望みがかなえば、最新の合計特殊出生率1・20を大きく上回る。少子化の勢いは止められるはずだ。
これまでできなかったのは政治の責任に他ならない。
「次元の異なる少子化対策」を岸田文雄前首相が打ち出し、24年度はその初年度であった。まず児童手当の拡充や大学授業料の減免に1兆3千億円を投じたが、出生数を引き上げる効果は見られなかった。25年度は規模を広げ、育児休業給付の拡充や保育士の処遇改善を進めるという。28年度までに年3兆6千億円の財源を確保する方針だ。
少子化のスピードが想定を上回るなら、既に決めた内容で足りるのか検証が要る。
金額の問題ではないだろう。政策の内容が、子どもができた後の支援に偏り、住宅費の支援や、未婚化や晩婚化への手当てが不十分という指摘がある。未婚で出産しても不利にならない制度の整備も効果があるのではないか。
財源をはっきりさせないまま見切り発車した弊害も表れている。年3兆6千億円の財源確保に向けて、社会保障費の歳出削減を迫られる。政府が示した候補の一つが、高額療養費制度の利用者負担上限引き上げとみられる。そのしわ寄せが一部の患者に集中するのは問題だ。
子どもを持ちたいという希望を阻む要因は、複雑で多様だ。例えば老後の心配が募れば、子どもを諦める人が出てくるかもしれない。子育て世代に向けた支援だけでは十分ではない。長い人生を通じて不安を取り除く政策、社会づくりが求められる。
社会で子育てを温かく見守るムードを醸成し、後押しするメッセージを出し続けることも欠かせないだろう。
元稿:中國新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月04日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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