《社説①・03.12》:東電旧経営陣が無罪に 原発事故の責任は消えぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・03.12》:東電旧経営陣が無罪に 原発事故の責任は消えぬ
刑事責任が不問に付されたからといって、人々の暮らしと故郷を破壊した社会的責任は免れない。
東京電力福島第1原発事故で、業務上過失致死傷罪に問われた旧経営陣2人の無罪が確定した。最高裁が、検察官役の弁護士の上告を棄却する決定を出した。

検察は不起訴としたが、市民から選ばれた検察審査会の判断で強制起訴された。津波の襲来を予想できたかどうかが争点だった。
これに基づく東電の試算でも、敷地の高さを大幅に上回る津波が想定された。だが、旧経営陣は外部の専門家に改めて確認する方針を決め、対策を先送りした。
最高裁は「長期評価には積極的な裏付けが示されていない」と指摘し、やむを得ない対応だったと判断した。事故に至るほどの津波は予想できなかったとの結論だ。
ただ、裁判では、津波の試算に関わった社員が、対策を進めるべきだと考えて旧経営陣に報告したと証言していた。

原発でひとたび事故が起きれば、放射性物質が広範囲に飛散し、甚大な被害を招く。旧経営陣は本来、安全性を最優先にした措置を取るべきだったにもかかわらず、その責任を果たさなかった。
「疑わしきは被告人の利益に」が原則の刑事裁判では厳格な有罪立証が求められる。多くの人が意思決定の過程に関わる大企業の過失について、経営陣の刑事責任を問うハードルが高いのは確かだ。
しかし、今回の決定は原発特有のリスクを十分に考慮したとは言えず、疑問が残る。
東電株主による民事訴訟では、長期評価の信頼性を認め、元役員4人に13兆円余の賠償を命じる判決が1審で出されている。
事故から14年がたった。7市町村に帰還困難区域が残り、今も2万4000人以上が避難生活を送る。廃炉の見通しは立たず、除染のためにはぎ取った土の最終処分地も決まっていない。
政府は原子力を最大限活用する政策を掲げ、東電も柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を目指す。だが、福島の教訓を忘れて原発回帰に突き進むことがあってはならない。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月12日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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