《社説①・03.11》:東日本大震災14年 命守るつながり深めたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・03.11》:東日本大震災14年 命守るつながり深めたい
災害大国・日本では、いつどこで被災してもおかしくない。一人でも多くの命を救うため、官民が連携し、支援体制を再構築する必要がある。
東日本大震災から14年を迎えた。巨大地震による津波が太平洋沿岸を襲い、2万2000人余りが犠牲になった。福島県では東京電力福島第1原発事故が発生し、多くの人が生活基盤を奪われた。

その後も、各地で災害が続く。昨年1月に起きた能登半島地震では、高齢者など配慮が必要な人への支援の遅れが浮き彫りになった。現在の法制度では見過ごされてきた問題だ。

政府は、災害時の高齢者などへの福祉サービスを公費で実施できるよう、災害関連法の改正案を通常国会に提出した。災害救助法の支援メニューに「福祉サービスの提供」が加わる。新たな項目の追加は66年ぶりだ。
◆福祉盛り込む法改正へ
平時は自宅で介護や医療などのサービスを受けられても、ひとたび災害が起きれば、さまざまな機能が停止する恐れがある。

ただ、現行制度は避難所を中心とした支援を想定しており、持病などがあって移動が難しい人や、自宅にとどまることを望む人への対応には限界があった。
法改正によって、福祉の専門家による災害派遣福祉チーム(DWAT)の活動が拡充され、在宅の高齢者らへのケアが可能になる。
東日本大震災では、配慮が必要な人への見守りや支援が行き届かず、被災による疲労やストレスなどで亡くなる災害関連死が約3800人に上った。仮設住宅に入居後の孤立や自殺も相次いだ。

自宅や職を失い、暮らしを維持できなくなるケースもある。社会保障の視点を取り込み、被災者へのサポートを強化することが求められている。
東日本大震災で注目を集めたのが、被災者ごとの個別の状況に応じて支援を講じる「災害ケースマネジメント」だ。仙台市で実施された。
生活困窮者支援に取り組む同市内のNPOが、市や社会福祉協議会、弁護士などと連携し、被災者の多様な困りごとに対処する体制を作った。見守りや就労支援などを通じ、生活再建を後押しした。
これらを参考に、愛知県岡崎市など一部自治体が災害ケースマネジメントの体制整備に着手しており、同様の取り組みが全国へ広がることが期待される。関連死や孤立死の防止にもつなげてほしい。
そもそも、災害時の対応を被災自治体任せにしている災害関連法制の仕組みに問題がある。
物資の供給や避難所運営、福祉サービスなどを自治体が一手に引き受けることになっている。しかし、これらは通常業務にはなく、災害時に円滑に実施するのは難しいのが実態だ。
◆発災時を想像してみる
菅野拓・大阪公立大准教授(防災・復興政策)は「『餅は餅屋』の発想で、専門性を持つ組織や企業などに協力を求め、自治体の指示がなくても動く体制を検討すべきだ」と話す。
例えば、物資の備蓄・供給については、流通・小売業者や運輸業者が作る協議会に、政府が災害時の対応を委任する。自治体は慣れない仕事に振り回されず、必要な業務に専念できる。
2026年度に設置予定の防災庁の役割も大きい。被災者のニーズを把握し、事前に関係組織との調整を進めることが求められる。
制度の改善だけでなく、一人一人の心構えも重要だ。
昨秋、全国の5中学校をオンラインで結び、「防災小説交流会」が開かれた。防災教育の一環で、自分が災害に遭遇することを想定して小説を書き、被災時の的確な行動につなげることを目指す。
「避難してきた小学1年生の女の子が泣いていた。何かしてあげたいと思い、『大丈夫だよ。一緒に頑張ろうね』と声をかけ、手を握った」
南海トラフ巨大地震による被害が想定される愛媛県内の中学生が書いた一節だ。
21年から交流会を企画する大木聖子(さとこ)・慶応大准教授(地震学)は「一人の力は小さくても、『自分ごと』としてできることを考える。それが、いざというときの『生き抜く力』につながる」と語る。
災害が起きた時、何をすべきか。普段から想像し、臨機応変に対応できる「しなやかな社会」の実現を目指していきたい。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月11日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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