【社説①】:医師の過労自殺 命を守る働き方改革に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:医師の過労自殺 命を守る働き方改革に
過重労働を強いられた若手医師が昨年自殺し、今年6月に労災と認定された。患者の命を救うはずの医師が自ら命を絶つ過酷な就労環境を放置してはならない。政府や医療界は医師の長時間労働是正に真剣に取り組む責務がある。
神戸市の病院に勤務する26歳の男性医師は、亡くなる前月の時間外労働が200時間を超え、休みも100日間取れなかった。労災認定基準を大きく超えている。
労働基準監督署は男性医師の自殺は長時間労働で精神障害を発症したことが原因と認定。一方、病院側は、労働に当たらない「自己研さん」の時間も含まれており、過重な労働の負荷があったとは認識していないと主張している。
男性医師は専門的な研修を受けながら診療に当たっていた。学会で発表する論文準備にも追われていたという。自身の技能を磨く時期ではあったが、雇用する病院には働く人々の健康や労働時間を管理する責任があるはずだ。
全国医師ユニオンなどが勤務医対象に行った就労状況調査では、昨年4月の休日は4人に1人が3日以下の違法状態。健康状態に不安のある人は約53%を占め、死や自殺について約24%が「時々」、約7%が「頻繁」に考えると答えた。医師らの過剰な献身で医療が支えられている実態が分かる。
医療界でも来年4月から「働き方改革」が始まる。一般勤務医は年960時間、地域医療を担う勤務医や研修医は年1860時間が残業時間の上限となる。一般の残業時間上限は原則年360時間、最大年720時間だ。医療確保のためとはいえ過労死を招きかねない上限設定自体に疑問が残る。
自己研さんも含め医師業務は労働か否かの線引きが難しい。夜間や土、日曜日に待機する宿日直は労働時間とみなされないが、実際は救急診療を担う場合もあり過重労働の温床となっている。「隠れ労働」を解消しなければ医師の健康は確保できず、医療の質の低下も招く。
政府や医療機関は、医師の労働実態を正確に把握することはもちろん、医師以外の人材が診療の一部を担う「タスクシフト」の拡大や、情報通信技術(ICT)活用による効率化など、医師の負担軽減を積極的に進めるべきだ。
医師らの健康と医療の質の確保を両立してこそ「働き方改革」の名に値する。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年10月02日 07:33:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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