【社説・11.14】:若者支援/教育や雇用の議論を望む
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.14】:若者支援/教育や雇用の議論を望む
少子化が進む中、若者や子ども向けの政策が選挙で盛んに競われるようになった。兵庫県知事選でも、大半の候補者が教育費の負担軽減や子育て支援などを重点公約に掲げている。現役世代を中心に有権者の関心は高く、実効性や持続可能性と併せて議論を深めてほしい。
前知事が実績として挙げる筆頭格が、県立大学と芸術文化観光専門職大学の授業料無償化である。県民を対象に、学部では2024年度に4年生から実施した。26年度までに全学年に広げる計画だ。事業費は本年度が約5億2千万円で、将来的には年間23億円程度を見込む。
今年行われた県立大の一般入試は、志願者が前年より4・3%増えた。全志願者のうち、県内高校に在籍する生徒の割合も増加した。県の担当者は「単年度の動向で判断するのは難しいが、無償化の効果は一定あったと考えられる」と話す。
一方、批判もある。事前説明が不十分だったため、県議会の反発や現場の混乱を招いた。「受益者が限定的で公平でない」(議会)との意見も目立つ。23年春の県内高校卒業者のうち、県立大へ進学したのは1・8%。そのため、より多くの学生が恩恵を受けられる制度にするべき、との声が上がる。
選挙では、対象者をさらに広げた大学授業料の支援や、大学生向けの奨学金創設、高校の授業料無償化などを他の候補者が訴えている。
教育費の負担のあり方については、これまで社会的な課題として認識されてこなかった。日本は国内総生産(GDP)に占める高等教育への公的支出割合が先進国の中で極めて低く、負担は「家庭の責任」とみなされる傾向が強い。
ところが、大阪府が所得制限のない高校授業料無償化へ踏み切ったことで、兵庫県内市町の危機感が一気に高まった。若者や子育て世帯の「流出」への懸念から、市町長から県に対策を求める声が相次いだ。そうした中で、県立大の授業料無償化が打ち出された。
自治体によって授業料負担に大きな差が生じるのは問題だ。とはいえ、県レベルでの対応には財政面から限界があるだろう。国への働きかけが必要だ。社会で教育をどう支えるか、候補者には長期的な展望も語ってもらいたい。
若者の地域定着には、雇用対策が欠かせない。進学や就職で県外に出る20代は多く、県によると男性は東京都へ、女性は大阪府へ転出するケースが目立つ。若い世代にとって魅力的な雇用の創出が求められる。企業誘致や起業サポート、女性のキャリア支援など、各候補が訴える産業政策にも目を向ける必要がある。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月14日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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