《社説①・10.26》:【衆院選2024】:ジェンダー平等 「私らしく」尊重の政治を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・10.26》:【衆院選2024】:ジェンダー平等 「私らしく」尊重の政治を
性別や性的指向にかかわらず、誰もが「自分らしく」生きられる。そうした社会の実現を目指す取り組みが政治に求められている。
衆院選では、選択的夫婦別姓制度の導入や同性婚の法制化などが「ジェンダー平等」の観点から議論されている。
選択的夫婦別姓制度は、夫婦がそれぞれ結婚前の姓を維持することを選べる仕組みだ。現在は同じ姓を名乗らなければならない。
自民党総裁選では、小泉進次郎選対委員長が公約に掲げたことをきっかけにクローズアップされた。石破茂首相も個人的な考えと断った上で賛成の意向を示した。
だが、首相就任後はトーンダウンしている。日本記者クラブが開いた党首討論会でも「結論を出す」としつつ、「党内の反対を押し切ることはしない」と述べた。
党内の保守派には、家族の一体感が損なわれるとして反対論が根強い。選挙公約も、夫婦の姓に関する制度のあり方について「合意形成に努める」との表現にとどまった。
◆別姓と同性婚が試金石
これに対し、与党の公明党のほか、立憲民主党、共産党、国民民主党などは導入に賛成している。
氏名は人格を象徴するものである。姓が変わることで、自分が自分でなくなると喪失感を覚える人がいる。公的な書類の書き換えなど、改姓の手続きも煩雑だ。
選択的夫婦別姓の実現を求めて活動している一般社団法人「あすには」の井田奈穂代表理事(49)は、2度の結婚に伴う改姓で、そうした経験をした。
ネット交流サービス(SNS)で思いを吐露すると、共感する仲間が集まった。各地の地方議会から声を上げてもらおうと、議員への陳情を2018年から始めた。
夫婦の95%が夫の姓を選んでおり、不利益を被っているのは主に女性だ。井田さんは「女性が嫁ぐという家制度の考え方が社会に根深く残っている」と指摘する。
政府は通称としての旧姓使用の拡大に取り組んでいる。運転免許証やパスポート、不動産登記などで併記が認められるようになった。だが、それでは問題は解決しない。旧姓による金融機関の口座開設が難しい状況は続いている。
井田さんは「戸籍上の姓を使う度に苦しい思いをしている人がいる。人権の問題なのに、日本では軽視されてきた」と訴える。
LGBTQなど性的少数者の権利保障も不十分だ。
同性カップルは婚姻届を出しても受理されない。税や社会保障、親権、相続などで、夫婦であれば得られる権利が認められない。
カップルの関係を自治体が証明するパートナーシップ制度は広がったが、法的な効力はない。
結婚できないことで、異性カップルとは違う存在だと見なす社会の偏見を感じ、尊厳を傷つけられている人がいる。
同性婚を認めない民法などの規定は「違憲」「違憲状態」との司法判断が相次ぐ。
立憲や日本維新の会、共産などは同性婚の法制化に賛成している。しかし、慎重な自民は公約で触れていない。
◆多様性反映する国会に
各国の男女平等度を示す「ジェンダーギャップ指数」で、日本は146カ国中118位と今年も低位に沈んだ。
先週、国連の女性差別撤廃委員会による日本政府への対面審査が8年ぶりに実施された。井田さんらはスイス・ジュネーブを訪れ、選択的夫婦別姓の実現を日本に勧告するよう、委員に働きかけた。
他の市民団体も、性的少数者の苦境や、人工妊娠中絶などを巡る「性と生殖に関する健康と権利」への対応の遅れを訴えた。
ジェンダー平等に向け、制度を整えるのは国会の役割だ。多様な人材が参画し、さまざまな視点から議論することが求められる。
衆院選の候補者のうち、女性が占める割合は23・4%で過去最高となった。ただ、有権者の半数が女性であることを考えれば、道半ばだ。自民は16・1%、立憲も22・4%に過ぎない。
こうした現状を改善するには、候補者や議席の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」や、政党交付金の配分に女性比率を反映させる仕組みの導入が必要だ。
多様性のある社会を生み、育むのは「個人の尊重」だ。憲法が定める重要な理念である。候補者や政党がいかに実現しようとしているのか、見極めて1票を投じたい。
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