【産経抄】:「理由もなく謝るのはよくないね」。容疑も知らされずに逮捕され、青年Kは眉に戸惑いの色を浮かべる。
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【産経抄】:「理由もなく謝るのはよくないね」。容疑も知らされずに逮捕され、青年Kは眉に戸惑いの色を浮かべる。
「親父(おやじ)ににらまれ『何をしたか言え』って言われると、何もしていなくても罪の意識を感じたように」
▼カフカの小説をもとにした映画『審判』である。人の中に眠る「原罪」を、監督の オーソン・ウェルズが戯画的に描いたものだという。よくよく考えると怖い心理描写だが、私的な場の潤滑油として「すみません」といった言葉を口にした経験なら、日常的にある。
▼もちろん、罪の意識から出たものではない。時と場合、相手を選ぶなど使用上の注意もある。とりわけ外交の第一線で闘う人には無用の講釈だろう―と思っていたら、そうでもないらしい。いわゆる徴用工問題について、「心が痛む」と述べた岸田文雄首相である。
会談で握手する岸田首相(左)と韓国の尹錫悦大統領=ソウル(共同)
▼訪れた先の韓国で。日韓の未来志向を歴史問題から切り離す、と尹錫悦大統領が明言したのと時を同じくして。対日外交で批判される尹政権への助け舟という見方はできる。「私自身の思い」との前置きもあったが、謝罪と取られかねない発言はやはり余計だった。
▼「シャトル」は定期の往復便を指す。緊張を増す東アジアの情勢を思えば、シャトル外交の再開で前へ進もうとするのは理解できる。さりとて、韓国のこれまでの振る舞いにまで目をつぶることはできまい。政権が代わる度、日本との関係は親疎の間を行き来した。
▼対韓外交は不毛なシャトル、出口のない迷走の繰り返しだった。歴史に学んでいれば、出るはずのない発言だろう。各紙は8日付朝刊(東京版)で、「心が痛む」を見出しに取って報じた。いわれなき「罪の意識」をこうして広げてゆくことに、首相の心は痛まないのだろうか。
元稿:産経新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【産経抄】 2023年05月09日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます