【社説②・01.28】:事故の逸失利益 障害者の「減額」変える一歩に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・01.28】:事故の逸失利益 障害者の「減額」変える一歩に
障害があっても、健常者と同じように働けるような社会であるべきだ。司法が投げかけたメッセージを受け止めたい。
聴覚障害のある11歳の女児が、大阪市内で2018年、歩道で重機にはねられて死亡した事故を巡る訴訟で、大阪高裁は、女児が将来働いて得られるはずだった「逸失利益」は、健常者と同額であると判断した。
逸失利益は事故前の収入で算定するが、子供は収入がないため、全労働者の平均賃金がベースとなる。過去の裁判では障害者の労働能力を低くみる傾向があり、1審・大阪地裁も女児の逸失利益を「平均賃金の85%」とした。
しかし高裁は、女児が補聴器をつければ他者と十分な意思疎通が可能で、本人の努力もあって言語力やコミュニケーション能力も備わっていたはずだと認定した。
そのうえで「健常者と同等に働く力があった」として逸失利益を減額せず、重機の運転手らに約4300万円の支払いを命じた。
裁判を通じて、「障害者だからできない、というのは偏見だ」と訴えてきた遺族は、万感の思いで判決を聞いたことだろう。
逸失利益は「命の値段」とも言われる。かつては男女差もあり、女児が死亡した場合、結婚年齢に差しかかった後の収入をゼロとする司法判断もあった。その後、女性の社会進出が進み、全労働者平均を用いる方法が定着した。
今回の判決は、障害者であっても子供について逸失利益を減額する場合は、あくまでも例外的であるべきだとの考え方を示した。
障害者の減額は仕方がないという従来の発想を転換した意義は大きい。障害者への損害賠償のあり方に一石を投じたと言えよう。
ただ、今回の判決が、他の障害を持つ人たちに、どう影響するかは未知数の部分もある。
デジタル技術の進歩で、聴覚障害者らは、会話を文字で表示する「音声認識アプリ」なども使えるようになった。しかし、肢体が不自由な人や知的障害のある人が、どこまで健常者と同じように働けるかは、個人差もあるだろう。
改正障害者差別解消法が昨年施行され、行政機関に限らず民間企業に対しても、障害者への一定の配慮が義務づけられた。
障害者が円滑に働くには、車いすで社内を移動できるようにしたり、書類の文字を大きくしたりといった工夫が求められている。
今後も技術の進歩と社会の意識変化を踏まえ、障害者の障壁を一つ一つ取り除くことが大切だ。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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