《社説②・12.15》：障害者の大量解雇 就労守る取り組み強化を

《社説②・12.15》：障害者の大量解雇　就労守る取り組み強化を

　『漂流する日本の羅針盤を目指して』：《社説②・12.15》：障害者の大量解雇　就労守る取り組み強化を

　障害者が働きながら技術や知識を身に付ける就労事業所の閉鎖が相次ぎ、大量の解雇者が出ている。行政は支援を急ぐとともに、雇用を守る仕組みを構築すべきだ。

雑貨作りなどで収益を上げている茨城県つくば市の就労継続支援A型事業所。「こぎん刺し」のグッズなどが人気だ＝2024年9月13日、鈴木美穂撮影

　問題になっているのは「就労継続支援A型」と呼ばれる事業所だ。スキルを身に付けて企業への就職を目指す障害者が利用する。

　全国に約4600カ所あったが、3～7月に160カ所以上減り、約4300人が解雇された。障害者の解雇は年間1000～2000人台で推移しており、今年は突出して多い。

障害者雇用を所管している厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館＝東京・霞が関で2015年10月14日午前9時9分、竹内紀臣撮影

　A型事業所には、雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を払うことが義務付けられている。雇用関係のないB型事業所と比べ、行政からの補助金が手厚い。

　2006年度に要件が緩和され、株式会社なども参入できるようになった。その後、収益事業の実態に乏しく、障害者に仕事をさせないまま補助金でもうける事業所の存在が問題になった。

　障害者の賃金は、事業で得た収入から支払うことが法令で定められている。ルール違反をなくすため、国は今年度から、事業収支が3年連続赤字の場合に補助を減額することにした。その結果、閉鎖が多発した。

　就労支援に値しない事業者が淘汰（とうた）されるのは当然だ。ただ、働く場を失った人を置き去りにしてはならない。

　厚生労働省の調査によると、解雇された人のうち8月末時点で約2割が求職中だった。約半数は、単純作業が中心で収入も少ないB型事業所へ移っていた。

　事業者は閉鎖する際、利用者が働き続けられるよう関係機関と調整することが義務付けられている。ハローワークや社会福祉協議会などと連携し、就労支援に努めなければならない。

　急がれるのは、地道に取り組むA型事業所の経営基盤強化だ。

　国は今年度、利用者のスキルアップを後押しする事業所には補助を増額する制度を導入した。研修などへの新たな助成も検討している。事業所が取引先を広げるための環境整備も求められる。

　障害者が働きがいを持てる職場が必要だ。従業員の力を引き出し、安定した収益を上げられる事業所を増やしたい。

　元稿：毎日新聞社　朝刊　主要ニュース　社説・解説・コラム　【社説】　 ２０２４年１２月１５日 　０２：０３：００ 　これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。