【社説・08.03】:障害者ホームの不正 質の確保へ手だて急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・08.03】:障害者ホームの不正 質の確保へ手だて急げ
障害者福祉の制度に乗っかった極めて悪質な不正だ。
障害者向けグループホームの大手運営会社「恵(めぐみ)」が、入居者から食材費計3億円を過大に徴収していた。さらに自治体に対する障害者福祉サービスの報酬請求で、スタッフの人数や勤務時間などを水増しした実態も発覚した。
東海や関東、九州、東北の12都県に104カ所あるグループホームのうち、愛知県と名古屋市が県内5カ所の事業所指定を取り消した。ここで認定された不正が組織ぐるみだとして、厚生労働省が恵の事業所指定の更新を認めない「連座制」を適用した。障害者総合支援法に基づく初めての適用で、全グループホームは順次、運営できなくなる。
許し難いのは経営陣が利益を確保するために、障害者のケアの質を著しく下げたことだ。グループホームは少人数で共同生活をする。払った費用に見合わない粗末な食事で入居者を痩せさせた。これでは経済的な詐取のみならず、身体への虐待といえる。厳しい行政処分は当然である。
現在、約1800人が暮らす。行き場を失わないよう、国と自治体には、別の運営会社に施設ごと事業譲渡するなど徹底した調整を求めたい。
いまだ障害者や家族に十分な説明をせず、会見を開かない経営者の責任は重大だ。その上で、福祉の現場で「金もうけ」優先の運営を横行させた要因を、国と自治体は省みなければならない。多額の税金で支える制度への信頼が揺らぎ、大半のまっとうな事業者にとっては迷惑だ。
恵のグループホームは主に障害が重い人たちを昼間も含めて24時間体制で支える「日中サービス支援型」で、2018年度に創設された。開設の審査は書類が整えば認められ、事業者は福祉の経験や知識を問われない。研修を受ける義務もない。参入基準が緩過ぎるだろう。
自治体による指導監査は、事前に連絡した上で、書類のチェックが中心だ。今回、恵は虚偽の書類を作ってサービス報酬の不正請求をしていた。実態と照らし合わせた調査が不十分なのは明らかだ。
制度設計の甘さは、かねて厚労省の有識者会議や、福祉関係者でつくる各市町村の協議会で繰り返し指摘されてきた。再度、問題点を洗い出し、質を確保できる仕組みづくりを急ぐべきだ。
障害者向けグループホームは約1万3500カ所で、この10年で倍増した。国が進める障害者の「地域移行」が背景にある。暮らす場を大規模な福祉施設や病院から地域に移す考えだ。国際的な人権意識の高まりを受けて06年度に障害者自立支援法のサービスに位置付け、報酬を手厚くして参入を誘導してきた。
理念を反映した制度にできているだろうか。短期間にグループホームが急増し、悪質な民間業者の参入を招いた側面がある。恵だけでなく、他にも不正を指摘される事業者は後を絶たない。障害者の高齢化が進む中、暮らす場所の確保は深刻な課題だ。困った人につけ込む隙を与える制度にしてはならない。
元稿:中国新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年08月03日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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