たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

花組『ハンナのお花屋さん』_やさしい物語でした

2017年10月10日 22時51分49秒 | 宝塚


 10月10日(火)、15時30分開演の花組公演『ハンナのお花屋さん』を観劇してきました。赤坂ACTシアターには矢車草の花束を手にしたやさしい表情の明日海りおさんがいっぱい。演じるのはデンマーク出身のフラワーアーティスト、クリス・ヨハンソン。矢車草、「アンデルセンの人魚姫の瞳と同じ色」(クリスと仙名彩世さん演じる少女ミアのことば)。最近たまたま山室静著『アンデルセンの生涯』という本を読んだし、5月に葉祥明美術館を訪れて『地雷ではなく花をください』という本があるのを知ったし、自死遺族だし、13年間働いた会社で売り上げの数字数字数字に振り回されリスクを背負わされ続けて疲弊した挙句使い捨てにされ、さらには金と権力にモノいわせた会社側の弁護士という猛獣にずたずたにされたところからここまで立ち直ってきて、これからどう生きていけばいいんだろうって模索しているわたしにとってタイムリーな物語でした。

 舞台は開演前の幕も心と目にやさしい色合いで、鳥のさえずりと水のせせらぎの音が流れていました。お姿はみえませんでしたが小劇場なのに生オケという贅沢さ。運よくチケットをとれたことに心から感謝。大変な仕事をしてきてからこそのささやかな有給休暇みたいなお休み時間、また大変な仕事をしようとしているんだし、こういう時間は必要。いいんだよ、わたし。物語はリリカルで、押しつけがましくなくメッセージ性がもりこまれていて秀逸でした。日本人にはわかりにくい多民族が暮らすヨーロッパ大陸の民族間の対立、戦争の傷跡、移民、難民、そこに経営者と労働者の対立を上手く絡ませて、『地雷ではなく花をください』のメッセージもさりげなくとりいれた物語が、ホームページ・ブログ・チャットという現代のツールをうまく使い、映像も利用して展開していきました。相変わらず細すぎて心配ですが黒いパンツに青いジャケットのスーツ姿、パソコンをみるときのメガネ姿、大手デパートに出店すれば一戸建も夢じゃないで登場する高級車の前のサングラス姿、お花屋さんのエプロン姿、ジーパン姿、黒いネクタイに黒いスーツ姿(喪服かな?)、セーター姿、色々な表情とお衣装の可愛くイケメンな明日海さんに会えるし、登場人物ひとりひとりの人生の物語があるしっかりとした脚本。お花屋さんと明日海さん、デンマークからここまでイメージがひろがる植田景子先生の感性・創造力と花組のみなさんの体現ぶりがすばらしいです。

 フィナーレにダンスがあるのでほっとできるのは宝塚ならでは。お衣装の模様がなんていうのかわかりませんが、すごくかわいかったです。大劇場ではやれない、こんな作品を観劇したのは久しぶり。10数年前は時々、日本青年館に行ってました。一路さん、高嶺さん、姿月さん、和央さん、香寿さん主演の舞台、みてましたがすっかりごぶさたでした。ライブビューイングのチケットもゲットして大正解。この世にいる間の楽しみ。

 あんまり書くとネタばれになりますが、芹香斗亜さん演じるクリスの父アベルが、倒産しようとしている会社を立て直すために、この仕事はおれにしかできないんだと自負し誇りをもって仕事をしてきた一人の工場労働者が労働条件をのめないと真っ向から意見すると「会社を立て直すためなら手段を選ばない」と解雇し、解雇された労働者が恨みからアベルが経営する造船所に放火したために、クリスの母であり愛するハンナを死なせてしまったことを悔やみ、「取り返しのつかないことをしてしまった、この罪はずっと背負っていかなければならない」とうずくまって泣き崩れる姿に、弟を地雷によって失くしたというミアの「失われたいのちは二度と戻らない」ということばに、妹が突然逝ってしまったあと己を責め続けた自分の姿が重なりました。クロアチアから居場所を求めてロンドンまでやってきたミアに対する、「都会は居場所のない人間の集まり」というクリスのことばにも、「やさしくされるとこわれてしまいそうだから」というミアことばにも自分の姿がかさなりました。一幕で涙でした。

 クリスが繰り上げで賞をとると第二の人気フラワーアーティストを育ててがっぽがっぽと儲けようとするMr.エディントンの、大手デパートへの出店の誘いを断り、故郷のデンマークの母ハンナと暮らした森の、父アベルの別荘だった家を買い戻して自然の中で暮らしながら、インターネットを利用しつつ、人の役に立ちたいとフェアトレードというあらたな仕事を展開していくことを決意するクリスと、後押しするお花屋さんのマネジメント担当で親友のジェフ(瀬戸かずやさん)も店員もご近所さんもクリスのおじさん(高翔みず希さん)もやさしい。瀬戸かずやさんのビジネスマンスーツのきこなしのかっこいいこと、かっこいいこと。

 そしていちばん素敵なカップルは父アベルと母ハンナ(舞空瞳さん)かな。物語のキーパーソン。クリスの店の名前は母ハンナの名前。店先の少女の人形はハンナかな。アベルがひとめでハンナに恋してしまったことにものすごく説得力がありました。二人が心を通わせる場面の可愛いこと、可愛いこと。ハンナは現実には存在しないであろう可愛らしさと清らかさをもった永遠の少女(少年時代のクリスは母をハンナと名前で呼んでいました。親子というよりは友だちみたい)、都会で暮らす貴族のアベルとの結婚を拒みクリスを産んだ後もお花を売りながら森で暮らしたという設定。ビジネスのために母ではない女性と結婚した父アベルに反発し、母亡き後引き取られるも大学へ行くため家を出ると疎遠になったクリスが、少年時代の自分、父と母、三人で森の中で過ごした時間と再会しながら自分には何が大切なのかを見つめなおしていくという展開も、先に逝った人と対話しながら生きながらえている自分の姿と重なるところがありました。もう少し納得できるところまで仕事をしたら、読むと書くことをやれたらいいな、絵本屋さんやれたらいいなとか、全く絵空事にしかすぎないけどやっぱり思います。読むことと書くことが好きだから・・・。

 自分に正直に生きる、いちばんむずかして大切なこと。なんでもない日常が、普通の生活が、いちばんむずかしくてとうとくて大切なこと。わたしが闘うこととなった猛獣とか、目先の利権にしか目がいかない人たちにこそみてほしい舞台ですがそういう人たちは別の種類の生き物だから、こういう感性をゆさぶられるようなものとの出会いなんて求めないんでしょうね。チケ〇トキャ〇プとかには定価よりも高いチケットがあふれかえっているみたいだし、ネットの時代になってかつてのダフ屋が転売のために買い占めてこういうことしているかなあ。現実は残念なことが多すぎます。

 まだ公演は始まったばかりだし、ライブビューイングもあるし、きりがないのでこの辺でやめておきます。次の居場所に出会うために金曜日の午後は面接。やさしくエネルギーをもらいました。明日海さんと花組と植田先生に感謝。この公演が終わると宙組へ異動する芹香斗亜さん、足長いし、お顔がますますシャープになってかっこよすぎ、出番が多くないですが明日海さんと親子という役所でよかったんじゃないかな。フィナーレの最後にお二人が手をぎゅっという感じで組む場面、むねあつ。明日海さん涙ぐんでたかな。3年間も支え合ってきた二番手さんの異動はさみしいですよね。明日海さん、なんどか台詞をかみそうになっていたのでお疲れなのかなと心配になったら11時公演もやっていたんですね。千穐楽まで無事につとめられますように・・・。


プログラムの表紙もこんなに素敵。