たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

2012年『マウリッツハイス美術館展』_「真珠の耳飾りの少女」(2)

2019年05月03日 23時15分37秒 | 美術館めぐり
「若い娘が肩越しにこちらを見る。このポーズによって少女はまっすぐに我々の目を見据え、そのため我々は絵の中にひきこまれ、彼女を夢想から目覚めさせた役割を割り振られる。小首を傾げ、娘はきらめきを灯す灰青色の両目、心開いた口、濡れた唇のすべてを、包み隠さず我々に見せてくれる。黄と青の長さの異なる布2枚をターバンのように頭に巻きつけ、耳からはかの名高い真珠の耳飾りがたれ下がる。この特大の目立つ装身具こそ、今日親しまれている、この題名の由縁である。

 この作品にはフェルメールの腕の冴えが見事に発揮されている。娘の顔にやわらかな陰影をつけ、ディティールにはこだわらず、すべては緩やかに変化し、個々の筆痕は目に映らない。ごくおおまかに描かれた服に、反射する光をほのめかす小さな絵具の点々が華やぎを添える。フェルメールは素材の特質を明らかに見極めたうえで描写している。たとえば白い襟は分厚く描かれ、高価なウルトラマリンで彩ったターバンとの対照が際立つ。一方で最も目をひく特徴は真珠であるが、それは左上の明るいハイライトと右下に映る白い襟のおぼろげな反映を、わずかな筆致で描くだけである。

 17世紀のオランダの少女はふだんターバンを着けることはなかった。フェルメールはこのアクセサリーを使って少女を異国風の、東洋を感じさせる人物に仕立てた。そうした描写を当時は「トローニー」と呼んだ。「トローニー」は実物に似せて絵を描くことを目的としないため、肖像画とはみなされない。実在する人を描いていると推測されるとしても、「トローニー」は架空の人物あるいは性格のタイプの習作を意図したものなのである。1630年頃にレンブラントがオランダ美術に「トローニー」の流行をもたらした。レンブラントにはしばしば自分自身をモデルに、たとえば風変わりなベレー帽や兜をかぶらせて、数十もの「トローニー」を描いた。

真珠は並はずれて大きい。もし本物であれば非常に珍しく、きわめて高価であったに違いない。少女がつけていたのは、ガラスにニスを塗ってくすんだ光沢をだした模造真珠かもしれない。もうひとつの可能性として、フェルメールが想像力を駆使して描いたとも考えられる。本物であれ模造であれ、1650年から1680年の間、真珠は大いに流行した。

 1881年にハーグで競売にかけられるまで、《真珠の耳飾りの少女》は世間にまだ広く知られてはいなかった。しかし内覧会でこの絵に目をつけた男がいた。文化行政に多大な影響力をもつ官吏フィクトール・デ・スチュールス(1843-1916)である。デ・スチュールスは隣家に住む友人で美術品の収集に熱心なアルノルデュス・デス・トンベ(1818-1902)をともない競売に参加した。いくつかの報告によると、絵は非常に状態が悪かったが、デ・スチュールスはフェルメール作と見抜く。別の話では、絵は汚れがひどくて鑑定もままならず、かなり後になってカンヴァスを洗浄したところ署名が判明し、初めて作者が明らかになったという。真相が何であれ、ふたりが申し合わせて競り合いを避けたのが功を奏して、デス・トンベはわずか2ギルダーに手数料30セントを加算した小額と引き換えに《真珠の耳飾りの少女》を入手することができた。

 古い時代の巨匠たちの絵画ばかりでなく現役画家の作品も含むデス・トンベのコレクションは、ハーグのパルク通り26番地で一般に公開されていた。後のマウリッツハイス美術館の館長アーブラハム・プレディウス(1855-1946)はデス・トンベ・コレクションの《真珠の耳飾りの少女》を他に先駆け1885年に称賛している。「フェルメールの絵の前では、他のあらゆる絵は色あせる。少女の顔の陰影はまさに真に迫り、ついカンヴァスの前にいることを忘れそうになる。実に素晴らしい光を放ちつつ、絵は見る者の視線を独り占めにする。

 デス・トンベは1902年12月16日に世を去るが、その後《真珠の耳飾りの少女》を含む12点の作品を、マウリッツハイス美術館に遺贈する旨を記した遺書を密かに作成していたことが判明する。その間に《真珠の耳飾りの少女》は世界中とは言わないまでも、すでにオランダでは最も人気のある絵となっていた。」

(『オランダ・フランドル絵画の至宝-マウリッツハイス美術館展』公式カタログより)


ターバンのウルトラマリンブルーの光の粒がすごくきれいでした。吸い込まれそうな少女の瞳との出会いは、大混雑のわずかな時間でも忘れがたいひとときでした。わたしはいつも列から外れると後方からなんどもなんどものぞくようにみます。背が低いのでたいしてみえないんですけどね・・・。


家賃負担のプレッシャーを背負い続けながら、アクセル全開で走ってきたので忙しすぎました。田舎生活、これはこれでつらいですがとりあえず家賃から解放されてようやく少しずつこうして振り返りの時間。まだまだ色々と整理しきれず、溢れかえっています。少しずつ、少しずつ・・・。


ハッシュタグをつけることもなく、ささやかにやっています。

訪問、ありがとうございました。