2020年6月9日付THE21ONLINEより
「過剰なほど周囲に気をつかってしまう…「STAY HOME」が招く“恐怖中毒症” 名越康文(精神科医)」
https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/7660?p=1
「『STAY HOME』の目的は、人との接触を避けて感染拡大のリスクを減らすことであって、家にいることはあくまで手段でしかない。ところがいつしか手段が目的化し、『絶対に家にいなければならない』と皆が考えるようになった。そして、買い物などの必要な外出であっても、家から出ることに罪悪感を覚えるようになりました。
「日本人には、無意識レベルでつい周囲に合わせてしまう過剰適応な人が多いと思います。『人に迷惑をかけてはいけない』と教育されてきたので、他人の要求に応えることを優先する。ここまでは世界に誇る美徳だと思うのですが、要求に応えられないことをなんでも自分が悪いと感じ取るようになると、これはまさに過剰適応です」
新型コロナウイルスに対する恐怖心も、心理的負担を増大させている。
「人々は今、『恐怖依存症』とでも呼ぶべき心理状態です。ネガティブな情報が次々に入ってきて、怯えた状態が定常になっている。そして、『まだまだ恐いことが起こっているかもしれないから、もっと新型コロナのことを知らなければ』と思い、ひたすらネガティブな情報を脳に入れ続ける。まさに中毒状態です。
「新型コロナウイルスに関する情報の中には、実はポジティブなものもたくさんあります。
ところが恐怖依存症になった人は、同じ情報を見ても頭に入らない。『いや、そんなはずはない。もっと恐いことが起こるはずだ』と否定し、恐怖を与える情報ばかりを追いかけます。そして新たなネガティブ情報が入ってくると、ちょっと安心する。『やっぱりまだまだ恐いことはあるんだ』と確認できたことで、むしろ心が安定するわけです。
「理屈で考えれば、道理が見えてくる。僕はそう思います。例えば、新型コロナウイルスによる死者の割合について考えてみましょう。
欧州で特に被害が大きいイタリアの死者数は約3万人です(取材は5月中旬に行なった)。イタリアの人口は約6000万人。よって、人口当たりの死亡率は0.05%です。
もし日本での死亡率がイタリアと同じだったら、どうなるか。日本の人口を1億2000万人とすると、死亡率が0.05%なら6万人は亡くなっている計算になります。ところが、この時点での日本の死者数は約700人。つまり、イタリアのほぼ100分の1の水準です。
感染が始まった時期が異なるにせよ、これだけ死者数を抑えられているのは奇跡的ですよ。理屈で考えれば道理が見えると言ったのは、こういう意味です。
恐怖依存症になるかならないかは、学歴や知識の量とはどうやら関係ありません。インテリや知識人と言われる人でも、恐怖の情報しか信頼できず、自分も恐怖の情報しか発信しない人がたくさんいる。勉強ができれば物事を理屈で考えられるわけではないということです」
自分が恐怖に依存していることに気づかなければ、そこから抜け出すこともできない。まずは自分の今の心の状態に気づくことが、変わるための第一歩となる。
「人間なんてもともと無力ですよ。人間は歳を取り、老化して衰え、やがて死ぬ。その運命には誰も逆らえない。今回のような危機のときだけ無力なのではなく、我々はずっと諸行無常の世界で生きているのです。
これからも僕たちの人生には、難局が次々と訪れるでしょう。だからこそ皆さんには『自分の人生の主人になる』という意識を持ち、毎日を大切にして、力強く豊かに過ごしていただきたい。心からそう願っています」」
「過剰なほど周囲に気をつかってしまう…「STAY HOME」が招く“恐怖中毒症” 名越康文(精神科医)」
https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/7660?p=1
「『STAY HOME』の目的は、人との接触を避けて感染拡大のリスクを減らすことであって、家にいることはあくまで手段でしかない。ところがいつしか手段が目的化し、『絶対に家にいなければならない』と皆が考えるようになった。そして、買い物などの必要な外出であっても、家から出ることに罪悪感を覚えるようになりました。
「日本人には、無意識レベルでつい周囲に合わせてしまう過剰適応な人が多いと思います。『人に迷惑をかけてはいけない』と教育されてきたので、他人の要求に応えることを優先する。ここまでは世界に誇る美徳だと思うのですが、要求に応えられないことをなんでも自分が悪いと感じ取るようになると、これはまさに過剰適応です」
新型コロナウイルスに対する恐怖心も、心理的負担を増大させている。
「人々は今、『恐怖依存症』とでも呼ぶべき心理状態です。ネガティブな情報が次々に入ってきて、怯えた状態が定常になっている。そして、『まだまだ恐いことが起こっているかもしれないから、もっと新型コロナのことを知らなければ』と思い、ひたすらネガティブな情報を脳に入れ続ける。まさに中毒状態です。
「新型コロナウイルスに関する情報の中には、実はポジティブなものもたくさんあります。
ところが恐怖依存症になった人は、同じ情報を見ても頭に入らない。『いや、そんなはずはない。もっと恐いことが起こるはずだ』と否定し、恐怖を与える情報ばかりを追いかけます。そして新たなネガティブ情報が入ってくると、ちょっと安心する。『やっぱりまだまだ恐いことはあるんだ』と確認できたことで、むしろ心が安定するわけです。
「理屈で考えれば、道理が見えてくる。僕はそう思います。例えば、新型コロナウイルスによる死者の割合について考えてみましょう。
欧州で特に被害が大きいイタリアの死者数は約3万人です(取材は5月中旬に行なった)。イタリアの人口は約6000万人。よって、人口当たりの死亡率は0.05%です。
もし日本での死亡率がイタリアと同じだったら、どうなるか。日本の人口を1億2000万人とすると、死亡率が0.05%なら6万人は亡くなっている計算になります。ところが、この時点での日本の死者数は約700人。つまり、イタリアのほぼ100分の1の水準です。
感染が始まった時期が異なるにせよ、これだけ死者数を抑えられているのは奇跡的ですよ。理屈で考えれば道理が見えると言ったのは、こういう意味です。
恐怖依存症になるかならないかは、学歴や知識の量とはどうやら関係ありません。インテリや知識人と言われる人でも、恐怖の情報しか信頼できず、自分も恐怖の情報しか発信しない人がたくさんいる。勉強ができれば物事を理屈で考えられるわけではないということです」
自分が恐怖に依存していることに気づかなければ、そこから抜け出すこともできない。まずは自分の今の心の状態に気づくことが、変わるための第一歩となる。
「人間なんてもともと無力ですよ。人間は歳を取り、老化して衰え、やがて死ぬ。その運命には誰も逆らえない。今回のような危機のときだけ無力なのではなく、我々はずっと諸行無常の世界で生きているのです。
これからも僕たちの人生には、難局が次々と訪れるでしょう。だからこそ皆さんには『自分の人生の主人になる』という意識を持ち、毎日を大切にして、力強く豊かに過ごしていただきたい。心からそう願っています」」