「本年4月に施行された2024年度(令和6年度)薬価制度改革、7月に創薬エコシステムサミットで提唱された政策目標、来年予定されている官民協議会の計画など、当時の岸田政権は、日本のエコシステムを回復し、ドラッグ・ロスを防止するための重要な第一歩を踏み出しました。私たちは、この前向きな方向転換を歓迎し、政策提案、バイオベンチャー・ファンドその他の投資イニシアチブに着手しました。私たちの会員企業においては、日本での医薬品開発計画を再検討したばかりか、実際に開発を加速させた企業も多くあります。
しかしながら、それからわずか数か月後、石破政権が方針を転換し、2025年度(令和7年度)中間年改定において、革新的医薬品の薬価引下げのルールを拡大したことに、私たちは驚き、深く失望しています。今回の決定により、政府は、特許期間中の新薬のうち43%の製品の薬価を引き下げるとともに、これまでの中間年改定において一度も適用されていない新薬創出等加算の累積額控除といった実勢価格改定と連動しないルールを適用することになります。この予期せぬ決定により、企業の中には、10年以上前から長らく策定してきた綿密な投資回収計画の見直しを迫られ、数百億円もの損失を被る可能性があります。
私たちは、このような事態を招いた透明性の欠如には、非常に落胆しております。私たち医薬品産業界は、2024年度(令和6年度)薬価制度改革がもたらすポジティブな影響について、誠意をもって伝えてまいりましたが、政府は、ステークホルダーとの議論を経ることなく、日本の患者さん、医療制度、経済に悪影響を及ぼすイノベーション阻害の政策を推進してきたとしか思われません。
加えて、厚生労働省は、2026年度(令和8年度)制度改革に向けて、費用対効果評価の拡大の検討を進めることを表明しています。これにより、革新的医薬品の対象品目や価格調整範囲の引下げ幅が拡大する可能性があります。他国での実績が示しているとおり、日本において費用対効果評価を拡大することは、ドラッグ・ロスを悪化させ、研究開発投資を減少させることに繋がります。
さらに、私たちは、最近になって、政府が「創薬支援基金(仮称)」を創設し、新薬創出等加算品目(日本において臨床的に革新的な医薬品として厚生労働省が加算を付与したもの)を有する企業の収益に応じ、課税のような形で強制的に拠出義務を課すことで、開発初期段階のパイプラインを有するスタートアップ企業を支援する意向であることを知りました。私たちは、日本の創薬イノベーション・エコシステムを回復させるために必要な政策改革と組み合わせるのであれば、有望なサイエンスを臨床的に成功する製品に実用化するための任意で自主的な資金調達イニシアチブを常に歓迎してきました。私たちは、市場の魅力を更に低下させることになる当該「創薬支援基金(仮称)」への投資を企業に義務付けることに反対します。活力のある投資環境の創出は、義務・命令によって達成できるものではありません。
今回の決定は、日本が創薬力の低下とドラッグ・ロスを生じさせた道に再び後退させるものです。今年に入り、私たちは、日米欧製薬団体合同調査において、30社中28社が新薬開発や投資意欲を低下させた最も大きな影響を与えた政策として中間年改定を挙げたということをお示ししました。最先端の治療法に対する予見性があり支援的な保険償還の環境がなければ、創薬エコシステムサミットで提案された目標を達成できなくなり、官民協議会の努力も無駄になるでしょう。このため、私たちは、厚生労働省がこの度決定した誤った政策を撤回するまでの間、これらの取組みへの参加を留保することと致しました。」