2024年11月14日ニューズウィーク日本版
中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制度を利用するため彼らはやって来る|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
「<近年、日本の医療保険制度や高額療養費制度を利用する目的で移住する中産階級以上の中国人富裕層が増えている。彼らに日本人の医療財源を食いつぶして申し訳ない、という感覚はもちろんない>
ある40代の上海の女性が10月下旬、20年間耐えてきた全身性エリテマトーデスという難病の治療を諦め、父親と共にスイスに渡り、チューリヒ州の団体「ディグニタス」で安楽死する、と中国語SNS上に投稿した。女性は直前に、自分の人生や安楽死を選んだ理由などについて語った自撮り動画もネットで公開。中国人の伝統的な死生観と相違するだけでなく、女性が外国の大学で学位を取った、収入の高い富裕層であったことから、激しい格差社会の中国で大きな波紋を広げた。
特に女性の「世界40カ国以上へ旅した」「とても良い人生を過ごした」という最後のメッセージに、ネットユーザーは「金持ちは生涯、富を見せびらかす。死ぬ時でさえ安楽死のスイス旅行を見せびらかす」と、憤懣や不快の感情をあらわにした。
近年、日本など外国メディアは中国人の金持ち国外旅行や爆買いをよく報じているが、実は人口14億人の中国で、パスポートを持つのは2億人しかいない。残りの12億人は全く外国とは無縁。農民や低収入者は、外国旅行どころか、大きな病気にかかったら死を待つ以外にできることはない。日本のような医療福祉制度がないため、中産階級でも家族の誰かが大きな病気になったら家庭は財政危機に陥ってしまう。
東京へ移住した40代の中国人男性が、SNS動画で堂々と語ったこと
近年、中産階級以上の中国人富裕層の日本移住が増えているのはそのためだ。彼らの多くは日本政府の発行する経営・管理ビザを取得。建前は会社経営だが、実際は日本の国民健康保険や高額療養費制度を利用するために日本にやって来る。
東京へ移住した40代の中国人男性は、SNSの動画で堂々とこう語った。「500万円ぐらい出して日本で会社をつくったら、経営・管理ビザを取得できる。私は慢性的な病気があって病院に通わないといけない。もし日本に移住していなかったら、とっくに破産して人生のどん底に落ちていただろう」
同じ富裕層だが、誰にも迷惑をかけず外国で安楽死を選んだ上海の女性は非難するのに、日本の医療保険制度を狙って意図的に移住した男性は「賢い」「巧妙だ」と賛美する。自分の物は自分の物、他人の物も自分の物という「共産主義」の彼らに、日本人の医療財源を食いつぶして申し訳ない、という感覚はもちろんない。
ポイント
ディグニタス
スイス・チューリヒ州にある非営利団体。1998年から、耐え難い苦痛や障害を患い、自ら死を望む3700人以上の自殺を幇助してきた。スイスでは利己的な動機を持たない医師が致死薬を処方することが認められている。
高額療養費制度
医療機関や薬局の窓口で支払った額が、1カ月の上限額を超えた場合、超過額を支給する制度。100万円の治療費でも自己負担が8万円台で済むケースもある。」