調べてみたのは、15歳未満の外国人の子どもの数。平成25年からのデータを分析してみると、全国の41%にあたる711の市区町村で、15才未満の外国人の子どもの数が増加していました。横浜市や埼玉県川口市など、都市部を中心に増えているだけでなく、実は地方でも急増していたことがわかりました。
出雲市に行ってみた
同じデータを外国人の子どもが50人以上増えた市区町村で見てみると、最も増加率が高かったのは島根県出雲市。増加率は、なんと3.2倍。なぜ出雲市?とにかく行ってみることにしました。
島根県東部に位置する出雲市は、人口17万5000人余り。そのうちの外国人は、2.6%にあたるおよそ4500人います。大半が日系ブラジル人です。
15歳未満の外国人の子どもの数は、ことし3月末時点で284人と5年間で180人余り増加していました。
外国人児童が増えすぎて、校舎を増築!?
外国人の子どもが増えている背景には、市内の電子部品メーカーの工場で働く日系ブラジル人など外国人労働者の存在があります。母国から家族を呼び寄せるなどする人たちが増えているのだそうです。
外国人が最も多い地域の出雲市立塩冶小学校に行ってみると、なにやら工事をしています。杉谷学校長に何の工事か尋ねてみると、毎月のように外国人の子どもが編入してきて児童数が増えたため、30年ぶりに校舎の増築を進めているそうです。杉谷校長によれば、この5年間で外国人を含む児童の数は80人余り増加しているということでした。
外国人の子どもたちは将来の担い手
出雲市 長岡秀人市長
こうした状況を出雲市はどう受け止めているのか。長岡秀人市長を直撃しました。
「外国人の子どもたちにも日本の子どもたちと同じ暮らしの中で成長してもらいたいので、市としてもできるかぎりの対応をしていきたい。元気な出雲市を作るうえでの源になってもらえると信じている」
在留資格「家族滞在」
そもそもですが、外国人は日本に滞在するために、合わせて36種類ある在留資格の中から1つの資格を得る必要があります。たとえば、出雲市に多く住んでいた日系ブラジル人には「定住者」という在留資格が与えられています。では子どもたちで増えている在留資格は何なのでしょうか。法務省のデータを調べてみると、実は、ある資格が大きく増えていることがわかりました。それは「家族滞在」。外国料理店の調理師として働く外国人や大学で学ぶ留学生など、36種類のうち17の資格を持つ外国人の子どもや配偶者が、日本に住むために必要な在留資格です。
「家族滞在」の子どもたちは1.5倍
どれくらい増えているのかというと、平成29年までの5年間で15歳未満の外国人の子どものうち「家族滞在」の資格を持つ子どもは、1.5倍増えて6万7000人余り。日本にいる外国人の子どものうち、およそ3割を占めています。
なぜ「家族滞在」の子どもたちが増えているのでしょうか。
外国人の子どもの実情に詳しい愛知淑徳大学の小島祥美准教授に聞いてみると意外なことがわかりました。
愛知淑徳大学 小島祥美准教授
「家族での来日を希望する外国人が増えていて、日本で就職した元留学生や元技能実習生など家族で来日できる在留資格を持つ外国人はそうした傾向が高いです。このため『家族滞在』という在留資格の配偶者や子どもたちが急増しているんです」
大都市で新たな“呼び寄せ”
「家族滞在」での家族の呼び寄せ。この新たな動きは、すでに多くの外国人労働者が働く東京など大都市部で広がり始めています。
新宿区で取材を進めてみると、ベトナム人のダオ・バン・トゥアンさん(39)に話を聞くことができました。トゥアンさんは18年前、技能実習生として来日して金型の溶接技術を学んだあとベトナムに帰り、大学で日本語を勉強して、現地の日系企業で通訳の経験を積みました。3年前、再び来日し、通訳として就職。家族離れ離れの生活が続くのはよくないと、半年前に母国から妻と長男を「家族滞在」の資格で呼び寄せました。
ダオ・バン・トゥアンさん
「日本企業の給料は、ベトナムに比べて高いのも魅力の1つです。ベトナム人の考え方では家族は一緒に暮らす、離れ離れになるのはよくないです。働いて帰って奥さんの手料理があると疲れが取れます」
日本語の話せない妻
一方で、心配なこともあるといいます。妻のサーさんは日本語が話せず、日本での生活に困ることが多いのだそうです。それでも物価が高い日本での暮らしを支えようと、サーさんは、週に4日、ホテルで客室清掃のアルバイトをしています。
トゥアンさんの妻のサーさん(左)
「日本は家賃が高いです。いちばんびっくりしたのは野菜の高さです。でも夫の近くで暮らしたいし、日本のよい教育を子どもに受けさせてあげたい。日本の暮らしは大変ですが将来のために頑張りたい」(サーさん)
続々と“呼び寄せ”
トゥアンさんのようなケースは、続々と増えています。
トゥアンさんの職場では、およそ20人の職員のうち、トゥアンさんのほかにフィリピンやインドネシアなど合わせて3か国から5人の外国人が職員として働いています。いずれも日本に留学したあと、そのまま残って就職したり、再び来日したりして働いています。このうち、フィリピン人の男性職員は留学中に日本で結婚し、2人の子どもをもうけていて、次のように話していました。
「フィリピンに帰ろうとは思いません。日本でずっと家族と一緒に暮らしたいです」
留学生などに加え、こうした「家族滞在」での呼び寄せ者も増え、新宿区は、いまやなんと住民の8人に1人が外国人。出身の国や地域もおよそ130にのぼっています。
実は“移民”?
政府は今、深刻な労働力不足から、外国人労働者の受け入れを目指し、新たな在留資格を創設する方針です。実現すれば、さらに外国人の子どもたちは増えることが見込まれます。しかし、日本は増え続ける外国人の子どもや家族たちに対して、十分な仕組みは整っているのでしょうか。小島准教授は、懸念を示しています。
「国は『移民政策』じゃないと言いながらも、外国人は家族と一緒に来日し、定住化が進んでいます。地域社会の中では、確実に『移民』が起きているのですが、全く法整備がされておらず制度が追いついていないのが現状なんです」(小島准教授)
取材はさらに続く
人口減少に悩む地方自治体にとって、外国人労働者が増えて、外国人の子どもたちも増えることは、喜ばしい面があるのは事実だと思います。一方、専門家が指摘するように、外国人の子どもたちをはじめとする家族の急増に対応しきれていない現実もあります。そんな日本社会の今を、外国人の子どもたちに焦点を当てて、今後も取材を続けていこうと思います。(引用ここまで)