アンダンテのだんだんと日記

ごたごたした生活の中から、ひとつずつ「いいこと」を探して、だんだんと優雅な生活を目指す日記

強制収容所から生還した画家の日記

2018年02月09日 | 生活
今朝、電車の中で読んでいたのは「強制収容所グーゼンの日記 ホロコーストから生還した画家の記録」という、イタリア人画家が書いた本だ。

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図書館でこの本を借りるときは、これまで収容所内での音楽家の様子とかが書かれた本はけっこうあるので、画家の話も読んでみよう、というふうに思ったのだが…

それだけじゃない、ものすごいレアものの本だった。

なにしろ、ここでいう「日記」というのは、ほんとうに収容所内で日々書いていたという意味なのだ(o_o) そんなことって!!

いろんな記録は、奇跡的に生還した人々の記憶から書かれているものだが、それは、収容所内ではほんとうに厳しく「書くこと」「書かれたものを持っていること」が禁じられていて、そんなことが発覚しようものなら(というか紙や筆記具だって入手できないわけだが)それは死に直結するからだった。

ところがこの画家は収容所内で「絵を描く仕事」についていて…表向きは、解剖の記録のための絵を描くということで、だから病理研究室が仕事場だったのだが、実際はそういう絵を描くことは少なくて、SS隊員のリクエストで肖像画を描いたりすることが多かった。

収容所で生き延びた音楽家も、演奏をすることでややましな待遇を得られることがプラスに働いたケースがあるけれど、それと似ている。食糧は常に不足していてその点については他の囚人と同じだが、なにしろ屋外の過酷な労働ではなくて絵を描く仕事なので消耗が少ないし、たまに絵のお礼としてパンや、稀にはサラミとかももらえることがあったためか、砂時計の砂が落ちる勢いで餓死に向かうというほどではなかったようだ。

というか収容所に来てすぐは採石場で働いていたのだが、たったの一週間で立ち上がれないほど具合が悪くなり、医務室にかつぎこまれて外科手術(!)を受け、奇跡の回復をしたのち引き続きポーランド人医師にかくまわれて(つまり解剖記録係という体裁で)医務室勤務になったらしい。

夜な夜な(病理研究室にほかの人がいなくなってから、8時にその部屋を閉めるまで)、妻への手紙の形で書き綴られたその日記は、けっこう分厚い本になるほどの分量でびっくりだ。内容は、家族のことや神のこと(この二つが彼を支えていた)、精神的哲学的な内容が多くて、収容所内の出来事の記録のほうが少ない。そして出来事の描写があるときもかなりぼかして書いている。もし見つかった場合にほかの人に迷惑がおよばないように(といってもやっぱりやばそうな気はするが)。

ただ、ぼかして書いた日記をもとに、後に本人が思い出したことを補足しているのでかなりの様子はわかる。記録がまったくないのとは再現度がまったく違う。そしてその記録のための紙などを入手しやすかったのも画家ならではであって…

まさに芸は身を助けるといったところだけれども、自分の人生をかけて打ち込んでいるもの(絵)の能力をSS隊員の気に入るように発揮するというのもこれはこれでつらいことなので、日記ではその苦悩も綴られている。

また、絵は肖像画ばかりでなくそれ以外の題材で、絵画作品として優れたものを作り続ける必要があったようだが、なにしろ絵のモチーフがたいへん乏しい環境であるのでだんだん作品が作りにくくなってきたらしい。製作のテンポが落ちてきたことについてポーランド人医師が「どうにかしないとまずい」と忠告しているシーンがある。

モチーフ…もちろん、死にゆく人々など鮮烈なシーンがあるのでそれを描いたら題材がないどころではないけれども、当然だが禁じられているしそんなものを描いてしまったらちょっとした日記よりよっぽど隠しにくい。

この本に載っている収容所内の絵の多くはのちに記憶を辿って描かれたものだが、稀に中で描かれたものがある。

施設内の眺望のスケッチには、SS隊員のための「女性」が居住する宿舎、射殺用の黒い壁などが描かれている(こんなの見つかったら即死だ…)。

アメリカ軍到着後は隠れなくても絵が描けたらしく、焼却場の前に放置された死体やら、解放後に(まだあれこれ混乱しているので)死亡したミラノの青年、抑留者たちにより殺された班長など、いくつもの絵が生々しく残っている。

絵は生々しいけれど大部な日記のほうはかなり冷静で理性的というか高度に精神的なもので、生々しい恨み言などは一切見当たらない。彼を支え続けた大きなものが宗教であったことは間違いないが、神様(大虐殺を止めるほどの力はないらしい)が何かしたとしたら、彼を生還させて日記と絵を後の世に伝えたことなのかな…



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