「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

百年前、漱石の時代の東京の医療

2014-01-04 07:05:19 | Weblog
旧制中学時代の旧友の一人である国文学者(江戸文学)から年賀状を頂戴した。その近況をしらせる一文の中で昨夏、夏目漱石の小説を読み直し、作者がいかに胃潰瘍に苦しんでいたのかを理解できたと書いてあった。何故、彼が漱石の作品を読み直す気になったのか解からないが、僕も昨年暮、入院中に漱石の晩年の作品「道草」を読んだ。

「道草」は漱石の(1867-1916年)の亡くなる2年前、48歳の時の作品で私小説である。80歳代の僕が読んでも、これといった感慨は覚えなかったが、大正初めの日本の時代が判り興味深かった。戦前、日本人の寿命は50歳と言われたが、文豪も49歳でこの世を去っている。旧友が漱石の胃潰瘍から、作品が理解できた、と書いているが、確かに晩年の漱石の胃潰瘍は重病で、友人の勧めで伊豆修善寺へ転地したが、喀血して死ぬ一歩手前を体験している。

「道草」は今からおよそ百年前の東京の生活が描かれており興味深った。その一つは漱石夫人の出産のシーンである。お産婆さんが自宅にやってきて、漱石がこれに立ちあっている。今、日本では自宅でお産婆さんの手で出産する女性はどの程度いるだろうか。昭和30年代、わが家の子どもたちは、お産婆さん宅でうまれているが、孫たちは病院である。

漱石は糖尿病でもあったようである。多分、英国留学時代からのストレスから胃潰瘍にになったのであろう。戦前は結核など重病になると、医者は転地を勧めたが、転地で病気が治るとは思えない。多分、今の時代なら医学の進歩で漱石は、もっと長生きし、作品を世に残したに違いない。